りっちゃんと純愛し隊まとめwiki

桜色の卒業

 ――満開の桜の木は、春の到来を明瞭に告げていた。
 咲き誇った木々は、今日という日を演出するのに相応しい装飾と言える。
「……しっかし、まあ」
 屋上から見下ろすと、校門付近に多くの学生が集っている。
 その中には、第二ボタンを後輩に渡したり、花をつけてもらったりしている者も見られた。
「いやー、青春だね。羨ましいね」
 俺はそれを見ながら、ひゅーひゅーと冷やかす。
 そうした後で、一抹の寂しさを覚えた。
「今日でおしまいかあ……」
 実感できない。今日でここともお別れなのだ。
ふと思い立ち、ごろりと寝転がってみる。
「そういえば……」
 思い出すのは初めてあいつと――

 ――ガチャリ

 背後で扉が開く音が聞こえた。
 俺は来るべき人を、目を閉じて待ち構える。
こつこつと近づいてくる足音。
 それが俺の手前でピタリと止まり――

「……よう、サボリ魔」
「うるせえ、じゃじゃ馬」

 『あの時』と全く同じやり取りをしてみせた。

「誰がじゃじゃ馬だっての」
 そう言いながら、田井中は俺の隣に寝転がる。
 ……しかし、ほんとに女らしさを感じさせないよなあ。
 普通の女子だったらこんな時、制服が汚れることを気にしたりするはずだろうに。

「……お前、どこの高校に行くんだっけ?」
「桜ヶ丘」
「へえ、あそこ結構難しいよな」
「へっへー、これが私の実力!」
「秋山も大層苦労しただろうに」
「なっ、いったいどういう意味だ!?」
「お前につきっきりだったんだろ」
「な、なんでばれてんだよ」
 うろたえているのがバレバレだ。
 俺は田井中の反応に満足して、笑う。

 ……いつも通りのやりとり。
 しかし、それも今日で――
「……なあ」
 そんなことを考えていると、田井中が俺に声をかけてきた。
「ん? なんだ」
「なんかさー、実感できねえよな」
「お前もか」
「うん。なんか春からここじゃないところに通うってのが、さ」
「……そうだな」
 俺の実感できない理由はそれだけじゃ、ない。
 田井中は、そこのところどう思ってるのだろうか。
「でもさー、なんで今日私を呼び出したんだ?」
 田井中はふと不思議そうにそう言った。
 前日に打ったメールのことだろう。

『明日、式の後に屋上に』

 そう、俺がこいつを呼び出したのである。
「今日で、最後だからな」
 昼休み、俺達はここで二人して語らっていたのだ。
 それは、ほとんど毎日のことだった。
 流石に、雨の日とかは無理だったが。
「ふーん、まあけっこう楽しかったよな」
「そうだな。こうしているのが幸せだった」
 だから実感できないのだろう、こんな日々が終わりを告げるということが。
「……そうだよな」
 春からは違う学校。だからこそ、俺はここへ彼女を呼び出した。
 これが最後のチャンスだと感じた時に、俺の取るべき行動は決まったのだ。
「なあ、田井中」
 もう心はきまっていた。迷いは、ない。
「ん? なんだ、改まって」
「そうだな――」
 すーっと息を吸って

「俺はお前が好きだよ」

 なんの衒いもなく、そう告げた。

「はっ!?」
 案の定というべきか、田井中の反応はあたふたとしたものだった。
 そう言われることを想定していなかったらしい。
「いや、普通メールの時点で分からないか?」
「だ、だって、そんなことわかるわけねーだろ!」
 なかなかに動揺しているらしい。
 見ると、顔は今にも沸騰しそうなほど赤い。
「……そうか。まあ、いい。返事を聞かせてくれないか?」
 切実に、俺は答えが欲しかった。
 というか、俺もそろそろ限界なのだ。
 冷静に振る舞うのもそろそろ難しくなっている。

「わ、わたしは……」
 しどろもどろになりながらも、一生懸命に言葉を紡ぎだしてくれる田井中。
「お前とはよく話してたし、他の男子よりも距離が近いとは思ってる、けど……」
 ところどころ詰まりながら、言葉を選んでいるのがありありとわかる。
「こ、これが恋だっていうかのはわからない。でも――」
「わからないのは、俺だって同じだったよ」
 田井中の言葉を遮り、俺は言った。
「でも、どうしても我慢できなかった。今日でお前との日々がおわると思うと居てもたってもいられなくなった。
 だから、ここにお前を呼びだしたんだ」
 一息に、告げる。この間も、心臓はばくばくと脈打っている。
「だから、わからないとかいって答えを先延ばしにするのは、できれば避けてほしい。
 はっきりとした答えがほしいんだ。俺も、自分なりに答えを出したんだから、さ」
 自分勝手、なのかもしれない。それでも俺は、それくらいこいつのことが好きなのだ。
 どうしようもなかったのだ。
「……よし、わかった」
 田井中も覚悟を決めてくれたらしく、深呼吸してみせた。
「私は――」
 ゴクリと息を飲んで、次の台詞を待つ。
 はたして答えは――

「お前が好き、だ」

 俺が最も期待する言葉が返ってきた。
 そのことに、俺は喜びを隠せない。

 見ると、田井中は顔をこれでもかと言わんばかりに上気させている。
 ここまで決断して気持ちを告げてくれたのかと思うと、俺もこれ以上ないくらいに嬉しくなった。

「ありがとう、田井中」
「れ、礼は言わなくてもいいよ。だって――」

「これから、だろ?」

 田井中が言ったことは、確かにその通りだ。
 俺達はこれからカップルとしての付き合い方を考えていく。
 それは、ゆっくりと、けれど確実に。

 桜の花びらが降りてきたのを皮切りに、俺は律に声をかけた。

「じゃあ、一緒に帰るか」
「で、でも校門に澪を待たしてるし」
「なんなら、秋山も入れて三人で帰るのもありだな」
「そ、そんな……そんなことしたら私たちの関係が」
「大丈夫だよ。秋山だったら信用がおけるし。そうだろ――」

 そうだ、ここからゆっくりと始めていこう。手をつなぐ? キス? あるいはその先?
 そういったことよりも、もっと確実なことから、だろ?

「――律」

 俺は、大事なパートナーの名前をゆっくりと、噛みしめるように呼んだ。

Fin.

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