私のやんごとなき王子様














「潤君……!」


 とてつもなく動揺していた。水原さんが目の前で振られて、一体どうしたらいいのか分からない。


「すみません、せっかくの花火なのに」


 潤君が申し訳なさそうに頭を下げる。


 違う――違うよ。


 そんな事を気にしてるんじゃ無いよ。


「水原さん……どうして? 潤君と水原さんなら、お似合いだと思うのに」


 何を言ってるんだろう。自分でも良く分からない。こんな事、一番言いたくない言葉なのに!

 潤君の顔を見ると、悲しそうな顔で私を見つめていた。


「ごめっ……私、水原さんの事……見てくるね!」

「先輩!」


 駆け出した私に潤君の声が投げられた。

 その声に追いつかれないように全力で大地を蹴りあげる。














 何をしているんだろう。何がしたいんだろう。

 自分で自分の偽善っぷりに吐き気がする。


 それでも――


 それでも私は水原さんが心配だった。

 だってあの水原さんは、未来の私……そのものだと思うから。


「水原さんっ!」


 宿舎へ戻る途中の林道で、水原さんに追いつく事が出来た。声を掛けたものの、次に繋げる言葉が見つからない。

 私の呼びかけに足を止め、こちらを振り返った水原さんの表情はいつも通り勝気な自信に満ちていた。


「何の用ですか?」

「えっ、あのっ……」


 口ごもる私に、水原さんは唇を結び瞳を震わせた。


「笑いに来たんですか? ああ、惨めですねって言いにでも来たんですか?」

「ちが……」

「じゃあ何なんですか? 慰めに来て下さったんですか? お優しい小日向先輩は」

「水原さん……」


 なんて言えばいいんだろう。それは違うのだと、私もあなたと同じ苦しみにいるのだとでも――伝えればいいのだろうか?


「……そういう所が嫌いなんですよ、先輩の」


 俯いた私に水原さんの容赦ない言葉が降り注ぐ。


「…………」


 何も言えなかった。それ以上、何も――


「……失礼しますね、先輩」

「あっ……」


 踵を返しかけた水原さんが私の呻きに、もう一度だけ足を止めた。


「……先輩、私には時間がありますから。私、諦めませんから」


 そう言い残すと、今度こそ水原さんは宿舎の方へと消えて行った。

 水原さんの言葉の一つ一つが深く胸に突き刺さる。

 その場から動けなくなった私は、一人林道で佇んでいると辺りの静けさや暗さに急速に恐怖心が襲ってきた。

 いつの間にやら花火も終わってしまっている。


「小日向先輩!」


 不安に思わず泣きそうになったその瞬間、耳慣れた声が鼓膜を支配した。


「潤……君」


 振り向くとこちらに向って走ってきている潤君が見えた。

 ……追いかけてきてくれたんだ。


「大丈夫ですか? この辺りは暗いですから」

「うん。ごめん」

「部屋まで送ります」


 潤君はあんな事を言った私に向って、相変わらずの優しい言葉と笑顔を向けてくれる。

 私は自分が余りにも情けなくなって、その日はもう潤君の目を見る事が出来なかった。













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