誓いの言葉






夜空には星がたくさん輝いていて、若王子はそれを見上げて小さくため息を吐いた。

なんて綺麗なんだろう。

そんな星が、若王子の心を揺さぶる。

目に見えるものの中で、頭上で輝く星のように澄んでいるものなど、一体いくつあるのだろう。

自分が今まで見て来たものはあまりにも汚くて、月や星、太陽の光を浴びることすらおこがましいと思えるものばかりだ。

そして、そんな人間になってしまった己が恨めしいとさえ思う。

ふと一人の女性の顔が浮かんだ。

数年前まで、若王子の側でいつも笑っていた女性。

若王子が担任するクラスの生徒だったその少女は、卒業して若王子の恋人になった。

しかし、お互いの忙しさからいつの間にか二人の間は離れてしまった。


自然消滅。


なんて的確な言葉だろうと若王子は苦笑する。

しかしすぐに眉根を寄せて、苦しくなる胸にもう一度星を見上げた。

ずっと後悔していた。

何故あの時、無理矢理にでも追いかけなかったのか。

何故あの時、どこにも行くなと強く言えなかったのか。


会いたい


その想いばかりが強くなる。

それでも会いに行く勇気など自分にはなくて。

背後に聞こえる喧噪から逃げ出し、若王子はテラスの階段を一段、また一段と降りた。

まるでお城のような建物で開かれているパーティー。

きらびやかな衣装と化粧で着飾った男女。

室内楽団の奏でる美しい旋律と豪華な料理。

そのどれもが虚構に見えて、若王子はたまらず席を外したのだ。


テラスから庭へと進むと、賑やかさが少し遠くなりほっとする。

木々の間を縫うように前へ進む。


「ーーー誰?」


低木の向こうから声がして、若王子は一瞬怯んだ。


「すみません、驚かせるつもりはなかったんです」


そう言いながら低木をかき分けると、そこには一人の女性が座っていた。


「あ……若王子……先生?」

「ーーー海野さん?」


若王子は驚いた。

まさかさきほど思っていた本人が目の前にいるなんて。

夢ではないかと数回瞬きをしてみるが、確かにそこにいるのは彼女だった。


「ーーー先生も、パーティーに出席してたんですね」


そう言って笑う彼女、海野比奈は、少し大人っぽくなっていた。


「海野さん……どうして?」


その場から動けなかった若王子は、それだけ尋ねるのがやっとだった。

それほど衝撃だったのだ。


「私、今、大学の研究チームに入ってるんです。先日の学会で発表された論文の手伝いもしてて、それで……」


今日のパーティーは新しい科学論文で賞を取った学者の功績を讃えるためのパーティーだった。

若王子も新しい論文を発表して賞を取ったため、招待されて来ていた。

それがまさか、こんな所で再会するなんて本当に夢のようだった。


「実はさっき先生の事見かけたんですけど、たくさんの方に囲まれてたから声掛け辛くって」

「……そう、だったんですか」


比奈が大学で研究チームに入っていることなど知らなかった。

離れていた数年の間、比奈は努力し続けていたのだ。

胸が苦しくなる。


「先生はこんな所に抜け出して来て、大丈夫なんですか?」


一歩比奈に近づく。


「ええ、大丈夫です。誰も僕がいないことになんて気付かないですよ……それに、星が綺麗だったので、パーティーどころじゃありません」


若王子の言葉に比奈が空を見上げた。


「ふふ。私も同じ事思って出てきました」


また一歩、比奈に近づく。

比奈はじっと座ったまま動かない。

よく見ると座っている横に、ハイヒールが脱いで置いてある。


「? ああ、履き慣れないのに履いちゃったから、足が痛くって」


若王子がハイヒールを見ていることに気付いた比奈が苦笑する。


「大丈夫ですか?」

「はい。しばらくこうしてたら平気です」


すっとかがみ、若王子は比奈の足を見た。

シンプルなワンピースのドレスのスリットから、白い足が見えている。

別にスリットが深い訳でもないのに、比奈の足が目の前にあるというだけで若王子はドキドキした。


「ーーー少し、腫れていますね」

「そうですか?」

「こんなにかかとが高いヒールじゃ、転んでしまいますよ?」


そう言って顔を上げて笑う。


「もうっ。昔ほどドジじゃないですよ」


若王子に言われて少し口を尖らせる比奈の癖は昔と変わらない。


昔。


たった3年近く会わなかっただけなのに、酷く昔のように感じてしまうのは何故だろう。

じっと比奈の顔を見つめる。

見上げている格好だから、若王子の目には比奈の顔とその先にある無数の星が見えていた。


なんて綺麗なんだろう。


「海野さん……」

「ーーーはい」


じっと自分を見つめる若王子に、比奈は恥ずかしそうに視線をそっと横へ逸らした。


「僕は、ずっと後悔していました……」


独白を始めた若王子の声を、比奈は無言で聞いていた。


「僕たち、やり直す事は出来ないんでしょうか?」


ピクリと比奈が反応する。

だが、何も言わない。

若王子は続ける。


「ーーー僕は、ずっと君の事が好きだった……離れてからも、君の事ばかり考えていた……どうして、離れてしまったのか、いくら考えても答えが見つからなかったーーー」

「若王子先生……」


ほんの少し揺らいだ比奈の瞳に、若王子は今にも泣きそうな顔で言った。


「ーーー君を、愛しています」

「っ……」


比奈は両手で口を覆った。

ポロポロと涙を零し、肩を震わせ、小さな声でそっと呟いた。


「……私も、ずっと先生の事が……好きでしたーーー」

「それは、僕ともう一度やり直してくれるという事ですか?」


穏やかな声で尋ねる。

頷く比奈に、若王子は嗚咽にも似たため息を漏らす。


「もう二度と離れないと、離さないと誓うよ」


そう言って比奈の足をそっと取り、その白い肌に唇を寄せた。


また見つけた。

星の様に輝く澄んだ、愛しい人を。







                               END














=あとがき=

どうも、お読み下さってありがとうございます~!
「若王子に足を舐めさせ隊」っつーことで、頑張りました!!
でも舐めてねーっ!!!ごめんなさい(汗)しかも何か設定が苦しっ・・・・・・ww
こんなんもありですか? ってか、こんなんだけど許してください(泣)
隊員第一号のクリスチーネさんに捧ぐ。。




お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
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