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 この世界から植物は姿を消した。そういっても間違いではない。  地球がそんな異変を見せ始めたのは、まだたったの百年前の話だ。  さて、百年前にいた人たちはどんな未来を想像していたのだろうか……?  空を走る車? 宇宙進出? ……輝しき未来?  残念ながら、現在の様子だと、どれにも当てはまっていない。いや、今後も当てはまることなどないだろう。それどころか文化や科学は百年前とたいそう変わっていないのが現実だ。  皮肉にも、かなり高性能で、いろいろなものに対応した清浄機が大量に生産されたが……。 「いってきまぁす」  部屋の扉から現れた弟の笑顔。  それは先日病気に犯されたものだとは考え難いほどの笑みだった。 「いってらっしゃい」  僕は笑って声を返した。  部屋のドアがゆっくり閉まる。そして数秒後には玄関からのドアの閉まる音が聞こえてきた。 「……さてと、仕事にかかるとしますか」  未だに横たわっていた体をベッドから起こし、大きく伸びをする。今日の学校は休むことにした。理由としてはギコとのトラブルもあるのだが、未だに体の調子がよくない。でも親に言わせると休むほどのものじゃないらしい。でも僕は、勝手なことながら休みたかったので休むことにした。やはり、今度ギコと会ったときは間違いなくやり直すことは出来ないだろう。きっとギコは僕のことを嫌っているにちがいない。ギコと言い合って、気分が悪くなり早退。次の日は体調が悪いので欠席。事情を知っている人なら「ズル休み」と思うだろう。きっとギコもそう思っているんだ。  不思議なほど静かなリビングに僕は立ち尽くした。親は二人とも早朝に出勤していったんだ。毎日、毎日のことだ。まるで僕らを避けてでもいるかのように。  洗濯機を回し、台所に立つ。  いつもは綺麗でピカピカの流しも、今日だけはぐちゃぐちゃでめちゃめちゃだった。  流しに大量に積まれている皿は、僕からやる気だけを吸いとっていった。  これらを全て僕が一人で洗う、ということを考えると、さらにやる気は失せていった。  重くなった腕に鞭を打つ。やらなければいけないのだ。もしやらなかったら部屋に閉じ込められてもおかしくない。というわけで、僕は黙々と皿洗いに取りかかる。 大量の泡で身を包んでいるスポンジがなぜかうらやましく感じた。  とん、とん。後ろの方で何かが落ちるような音がする。 もしかして万一のためにと持ってきた携帯が、落ちたんじゃ……?  僕は反射的に視線をそっちに向けた。でも僕はそれを確認した後すぐに流しの中に視線を戻した。  そいつは足音を立てながら僕の方にやってきた。 「おいおい、せっかく僕が君を虐殺しようと来てやったんだから挨拶ぐらいしてくれたっていいだろう?」 「……昨日今日と、僕は貴方を呼んだ覚えはありませんから。以上」  僕は皿の山に目をもどした。それはぎゃしゃと関わりたくなかったというのもあるが、笑みを隠すためという理由の方が大きかった。僕に話しかけてくれる人が居ることに、つい笑みをうかべてしまう。  ……あれ、待てよ。  こいつ、どこからどうやって、家の中に入ったんだよ……?  僕がこの家居るとしても母は毎日窓を厳重に閉めていた。いや、仮に窓から侵入したとしてもそんな物音は聞こえなかった。玄関もここに来る前に僕がちゃんと閉めた。つまり、今この家には入り口も出口もないということ。じゃあ、どうやって。 「さっきから何きょろきょろしてるの」 「な、なんでもないんだからなっ!」  僕は慌てて視線を戻す。気がつけば全ての皿に泡があった。後はもう濯ぐだけだ。蛇口をひねって水を出す。すると突然ぎゃしゃが声を上げる。その声に驚いて思わず僕はぎゃしゃを見る。ぎゃしゃの顔は何か珍しいものを見たような、きらきらと輝いた目をしていた。気づけばぎゃしゃは僕の隣にいて蛇口をさも珍しそうに見ていた。 「すごい、水が出てる!」  正直僕はドン引きした。こんな当たり前のものを知らないなんて……。 「ちょ、ちょっと……。もしかして、これ知らないの?」 「君が知っているというなら、僕も知っているよ」 「はい?」  いったいぎゃしゃは何を言いたいのだろうか。とりあえずそれは聞き流しておくことにした。水の温度をぬるめにし、皿についた泡を洗い流す。そこから見えた本来の皿の色は水に反射した光によってさらに輝いていた。一つを洗い終え、すぐ右の乾燥棚に皿を置く。そして別の皿を手に取り、同じことを繰り返す。隣のぎゃしゃの輝いた目線がかなり気になった。その目線は間違いなく、僕の手の先に注がれている。いったいぎゃしゃは何者なんだ。全ての皿を洗い終わったころ、ようやく僕の決心がついた。 「ぎゃしゃ。君はいったいなんなんだ」  僕は濡れた手をタオルで拭き、携帯を手に取る。そして携帯の待ちうけ画面を見ながらぎゃしゃの返事をまった。 「……じゃあ、君もいったいなんなんだい」  予想もしていなかった返事に僕は言葉を失った。そんなことを聞かれたってどう答えればいいんだ。 「生き物」  とりあえず頭に浮かんできたことをぎゃしゃに言う。しかしぎゃしゃはふーん、とだけ言ってリビングの散策を始めた。  ああ、今度は僕がスルーされちゃったよ。   [[<<>2.来客]]  [[TOP]]  [[長編TOP>長編]]  >>
 この世界から植物は姿を消した。そういっても間違いではない。  地球がそんな異変を見せ始めたのは、まだたったの百年前の話だ。  さて、百年前にいた人たちはどんな未来を想像していたのだろうか……?  空を走る車? 宇宙進出? ……輝しき未来?  残念ながら、現在の様子だと、どれにも当てはまっていない。いや、今後も当てはまることなどないだろう。それどころか文化や科学は百年前とたいそう変わっていないのが現実だ。  皮肉にも、かなり高性能で、いろいろなものに対応した清浄機が大量に生産されたが……。 「いってきまぁす」  部屋の扉から現れた弟の笑顔。  それは先日病気に犯されたものだとは考え難いほどの笑みだった。 「いってらっしゃい」  僕は笑って声を返した。  部屋のドアがゆっくり閉まる。そして数秒後には玄関からのドアの閉まる音が聞こえてきた。 「……さてと、仕事にかかるとしますか」  未だに横たわっていた体をベッドから起こし、大きく伸びをする。今日の学校は休むことにした。理由としてはギコとのトラブルもあるのだが、未だに体の調子がよくない。でも親に言わせると休むほどのものじゃないらしい。でも僕は、勝手なことながら休みたかったので休むことにした。やはり、今度ギコと会ったときは間違いなくやり直すことは出来ないだろう。きっとギコは僕のことを嫌っているにちがいない。ギコと言い合って、気分が悪くなり早退。次の日は体調が悪いので欠席。事情を知っている人なら「ズル休み」と思うだろう。きっとギコもそう思っているんだ。  不思議なほど静かなリビングに僕は立ち尽くした。親は二人とも早朝に出勤していったんだ。毎日、毎日のことだ。まるで僕らを避けてでもいるかのように。  洗濯機を回し、台所に立つ。  いつもは綺麗でピカピカの流しも、今日だけはぐちゃぐちゃでめちゃめちゃだった。  流しに大量に積まれている皿は、僕からやる気だけを吸いとっていった。  これらを全て僕が一人で洗う、ということを考えると、さらにやる気は失せていった。  重くなった腕に鞭を打つ。やらなければいけないのだ。もしやらなかったら部屋に閉じ込められてもおかしくない。というわけで、僕は黙々と皿洗いに取りかかる。 大量の泡で身を包んでいるスポンジがなぜかうらやましく感じた。  とん、とん。後ろの方で何かが落ちるような音がする。 もしかして万一のためにと持ってきた携帯が、落ちたんじゃ……?  僕は反射的に視線をそっちに向けた。でも僕はそれを確認した後すぐに流しの中に視線を戻した。  そいつは足音を立てながら僕の方にやってきた。 「おいおい、せっかく僕が君を虐殺しようと来てやったんだから挨拶ぐらいしてくれたっていいだろう?」 「……昨日今日と、僕は貴方を呼んだ覚えはありませんから。以上」  僕は皿の山に目をもどした。それはぎゃしゃと関わりたくなかったというのもあるが、笑みを隠すためという理由の方が大きかった。僕に話しかけてくれる人が居ることに、つい笑みをうかべてしまう。  ……あれ、待てよ。  こいつ、どこからどうやって、家の中に入ったんだよ……?  僕がこの家居るとしても母は毎日窓を厳重に閉めていた。いや、仮に窓から侵入したとしてもそんな物音は聞こえなかった。玄関もここに来る前に僕がちゃんと閉めた。つまり、今この家には入り口も出口もないということ。じゃあ、どうやって。 「さっきから何きょろきょろしてるの」 「な、なんでもないんだからなっ!」  僕は慌てて視線を戻す。気がつけば全ての皿に泡があった。後はもう濯ぐだけだ。蛇口をひねって水を出す。すると突然ぎゃしゃが声を上げる。その声に驚いて思わず僕はぎゃしゃを見る。ぎゃしゃの顔は何か珍しいものを見たような、きらきらと輝いた目をしていた。気づけばぎゃしゃは僕の隣にいて蛇口をさも珍しそうに見ていた。 「すごい、水が出てる!」  正直僕はドン引きした。こんな当たり前のものを知らないなんて……。 「ちょ、ちょっと……。もしかして、これ知らないの?」 「君が知っているというなら、僕も知っているよ」 「はい?」  いったいぎゃしゃは何を言いたいのだろうか。とりあえずそれは聞き流しておくことにした。水の温度をぬるめにし、皿についた泡を洗い流す。そこから見えた本来の皿の色は水に反射した光によってさらに輝いていた。一つを洗い終え、すぐ右の乾燥棚に皿を置く。そして別の皿を手に取り、同じことを繰り返す。隣のぎゃしゃの輝いた目線がかなり気になった。その目線は間違いなく、僕の手の先に注がれている。いったいぎゃしゃは何者なんだ。全ての皿を洗い終わったころ、ようやく僕の決心がついた。 「ぎゃしゃ。君はいったいなんなんだ」  僕は濡れた手をタオルで拭き、携帯を手に取る。そして携帯の待ちうけ画面を見ながらぎゃしゃの返事をまった。 「……じゃあ、君もいったいなんなんだい」  予想もしていなかった返事に僕は言葉を失った。そんなことを聞かれたってどう答えればいいんだ。 「生き物」  とりあえず頭に浮かんできたことをぎゃしゃに言う。しかしぎゃしゃはふーん、とだけ言ってリビングの散策を始めた。  ああ、今度は僕がスルーされちゃったよ。  洗濯物を手際良く干して、花壇の植木に水をやる。  空気が悪い所為か木の枝や葉はしおれ、見ていてとても痛々しい。どんなに栄養を与えても水を与えても植物特有の水々さや生命の力強さはいつまでたっても感じられなかった。そう、もう昔のような植物はどこにも存在しない。森や林は枯れはてたのだ。部屋の中に置けば今よりはマシになるだろうが、一日中電力を考えて薄暗い部屋の中、光合成をしてくれるかどうかも怪しい。  後ろで窓が叩かれる。ぎゃしゃが携帯を持って僕を見ていた。僕はすぐに窓を開ける。 「何、どうしたの」 「いきなり音楽が流れたんだ。壊れてると君が困るだろ? だから渡しに来た」  礼を言って携帯を受取る。どうやら壊れているのではなくてメールの着信だったらしい。僕はじょうろをもったまま片手で受信したメールを開く。 「……何赤くなってんの。壊れた携帯がそんなに嬉しいの」  僕を揶揄るように発せられたぎゃしゃの言葉には対して反抗しなかった。どうせ蛇口も知らないぎゃしゃのことだ。携帯と言うものも知っているはずが無い。僕が赤くなっている理由はそんなものではない。  メールに書かれた文字を何度も読み返して、そのつどに口元に浮かぶ笑みが大きくなる。ぎゃしゃはそんな僕を見て呆れたのかどうかよく分からないが小さくため息をついてから部屋の奥へと戻っていった。僕は慌ててその後を追う。もちろん、じょうろは置いてだ。 「な、何で追いかけてくるんだよ!」  追いかけてきた僕をぎゃしゃは強く睨む。でも今の僕はそんなこと気にも留めなかった。 「……友達が……来るんだ、ここに」  友達と呼ぶのにはまだ早すぎる関係かもしれない。でも、僕の家に行きたい、と聞いた時は今までに感じた事のない喜びを感じた。少なくとも向こうは僕の事を認めていてくれているんだ。  口からは笑みがあふれ出る。そんな僕をよそにぎゃしゃはちらりと時計を見て僕をにらんだ。 「今の時間は皆、学校行ってるんじゃないの」 「それがね、わざわざサボってまで来るんだって!」  僕のためにそこまで……、という罪悪感はあったが今は嬉しさのほうが勝っていた。ふいに、ぎゃしゃは恐ろしいと感じてしまうほどの似つかわしい笑みを浮かべる。変に強張った体は、何かに縛られたかのように動かなかった。 「……気をつけて、ね」  ポトリと何かが落ちたような音の後に風のように消えたぎゃしゃの姿。不思議と恐怖心や疑問は沸いてこない。 「……疲れてるのかな・・・」  目を擦って簡単に散らかっているものをまとめて片付ける。もともと家族は皆整理整頓が得意な方なので片付けはほんの数分で終わる。自分の部屋も、若干散らかってはいるがギコに言わせれば綺麗の領域に入るようなので片付けはしなかった。いや、そこまで手が回らなかったというべきなのだろうか。居間を片付け終えた後、玄関でチャイムが鳴ったのだ。 「はーい、今でまーすっ」  今にもスキップを踏み出してしまいそうな足取りで僕は玄関に向かう。一応外にいる人物は誰なのかは分かっていたのだが覗き穴で外を確認してから僕はドアを開けた。   [[<<>2.来客]]  [[TOP]]  [[長編TOP>長編]]  >>

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