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――午後七時。  気がつけば外出していた弟者達が帰ってきていた。俺は勉強机でパソコンをいじりながらも、右手を机の下に忍ばせ指先にある、物の存在を確認していた。一方の弟者は俺の左で昼頃に俺が見ていたアルバムを眺めている。ふと、机の下に忍ばせていた指先が鋭利な部分に触れ、俺は反射的に手を引っ込めた。鋭利な針が触れた部分を見てみるが、たいした外傷は無かったのでもう一度机の下に手を忍ばせ、絶えず物の存在を確認していた。俺の手の先に存在しているのは一本の使い捨ての注射器だ。中には液体は入っておらず、ただの空気が挿入されている。どうやら動物は、血管内に空気が入ると発作を起こして死ぬらしい。ずいぶん前にテレビで知った。気がつけば俺の指は注射器を握っては離す、その作業を繰り返していた。待て待て、待つんだ俺。まだ時間は残っているのだ、そんなに急ぐ事は無いと思われ・・・。絶えず頭の中で囁いている声に負けぬよう、俺は自分に言い聞かせていた。 「・・・なぁ兄者。一つ気になったんだが」 「な、なんだ?」  一瞬手の先の注射器の存在がばれたかと思った。  しばらくの間をおいて、弟者が口を開いた。俺の写真だけがない、と。その言葉を耳にしたとたん俺の体は反射的に弟者を押し倒していた。右手には注射器が握られている。 「・・・やっとその気になったか。十五年間、長かったな」  そういうと弟者・・・もとい死神は不気味で満足げな笑みを浮かべた。俺はこの状態から動く事ができなかった。まるで金縛りにもあったかのようだった。動かない俺に不満を感じたのか死神は眉間を潜めた。 「どうした、早くやれ。そうすればあんたは『肉体』を手に入れられるんだぜ」  そう言ってからも死神は笑みを浮かばせ続けていた。  下手すれば殺されるのに。なのに、どうしてそんな笑みを浮かべることが出来る?  俺は注射器を強く握った。腕の印がまた強くうずきだす。 「……」  弟者を見ていると自分を見ているようで妙な気分になる。  俺たち双子は母親の中にいたころからお互いの存在を知っていた。自分にとって相手は他人であり、自分の分身でもあった。もうこの頃から感情も持っていたし、母を通して外の世界もだいたい分かった。俺たちはもうすでにその頃から互いを尊重し、敬い、憎み、そして恨んでいた。いくつかの感情があってもそこに愛情は無かった。どうしてこんな事を覚えているか。それは俺自身にも分からない。ただ、一つ言えることは生まれる前に片方が力尽きてしまった事。その片方と言うのが、俺だ。 「早くしろ、聞こえないのか?」 「・・・」  俺もこいつのように人と話したいと思ったし、普通に生活していきたいと思った。そして何よりも自分の存在を他人に認めて欲しかった。俺はそんな欲求が抑えられず、弟に泣きついて俺たちの誕生日の日だけ『肉体』を借りていた。  生きて生まれる事ができなかった兄と、無事に生まれた弟。  俺は死神の顔を睨んだ。どうして今日は貸してくれなかったのだろうか。今日は十五歳の誕生日だろう? それとも最終的には俺の手の中に入るとでも考えたのだろうか。 「・・・」 「何黙ってるんだよ」  どうしてか分からないが、そのとき俺は死神の瞳に自然と目がいった。瞳のはるか奥底にうずく恐怖。表面では恐怖を隠すために強がって、本当は死ぬのが怖いのではないか? でも、こいつは自分を殺せといった。どうしてか。 「何だよ、ビビってるのか? 幽霊の癖に。……俺は逃げないぜ」  幽霊、という言葉に耳がピクリと反応する。小さい時から耳にたこが出来るほど言われ続けてきた言葉。俺は幽霊だ。だから今まで人と関わりそうなところは避けてきた。  この強がっている心の内は一体どうなっているのだろう。本当は逃げて、助かりたいのではないか。でも弟者の言葉通り逃げる素振りは全く見せない。まるで自分の運命を受け入れているかのようだった。強情なところが弟者らしい。でも、誰のために?  俺は挙げかけていた右手をゆっくり下ろし、注射器を近くの窓の外に放り投げた。そして何事も無かったかのように椅子にかけなおし、既にスタンバイ状態になっているパソコンを起動させた。 「兄者・・・?」 「……」  後ろからかすかに涙ぐんだ声が聞こえてきたが俺はそれをあえて無視をした。ふと時計に目をやるともう既に時刻は八時を回っており、改めて時の速さを実感した。 「・・・俺には兄者が分からない」 「俺もお前が分からないよ」  元は一つだった俺らだが片割れが何を考えているのかは流石にさっぱりだ。 「どうして俺を殺さない」  弟者がぽつりと言った。弟者は顔をうなだれて、じっと自分の膝を見ていた。俺は弟者の傍まで歩むと、嗚咽で上下運動を繰り返す背中をさすってやった。 「・・・俺は死んでる。そんな俺が生きているお前から命を奪う権利など無いと思われ」  俺の姿は霊感の強い弟者と妹者にしか見えないが、俺自身が誰かを見たりすることはできる。弟達以外、俺に触れる事はできないが俺は誰にでも、何にでも触れる事ができる。しかも俺は弟者と同じように成長してきた。どこかで俺の『肉体』が生きているからだろうか、それとも片割れの『肉体』が生きているからだろうか。どちらにしろそうならば、成長しても物を持つことが出来てもさしつかえはないと思う。でもはっきりとはいえない。明白な理由なんて、俺には分からないのだから。 「・・・でも、でも!」  そういうと弟者は俺の背に腕を回した。俺は弟者の頭を何度も撫でた。 「どちらかが生き残れるとしたら、間違いなくお前が生き残っていると思われ」  霊体だろうが『肉体』があろうが一日中パソコンに漬け込んでいる俺よりは、社会性があって人から頼りにされる弟者を世間は選ぶに違いない。ただの引きこもりの、こんな俺なんて、存在しているだけども迷惑なのだ。いっそのこと、俺のほうが消えてしまえばいい。  その願いも、もうすぐ叶う。期限は十五歳の誕生日、つまり誕生日を迎えるまでだ。ある時刻を過ぎれば弟者は十五歳になる。その瞬間に、初めて俺のゲームオーバーとなる。 「・・・やっぱり納得いかない」  俺はなかなか折れようとしない弟を睨んだ。そして忌まわしく思った。弟者だって、今は嗚咽で背中を揺らしているが内心では俺のことを心底恨んでいるに違いない。  全く、こいつは俺に本音を言わせる気か。 「結論。生きる権利はお前にある。以上」  そう言いきってから弟者をそっと付きはなし、窓の方に足を進めて縁に手をかけて外を覗いた。ここは二階だが、霊体なので痛みも感じることがないだろうしまさか動けなくなる事もないはずだ。 「どこに行くんだよ・・・」 「散歩ですが、何か」  せめて完全に消える前には外の景色を見ておきたいと思った。俺はここを出口とするつもりだ。弟者が引きとめようとしても俺はいく。生きたくないといえば大嘘になるが、俺には印を消すことが出来ないのだ。だから道は一つしかない。 「んじゃ。くれぐれも俺の後を追ってくるなよ」 「……心配するな。それは無いと思われ」  何か微妙な気分だ。 「……そうだ」  弟者の声が聞こえたのは、丁度俺が片足を窓の縁にかけた時だった。俺は反射的に振り返ろうとするが、それは弟者の手によって制された。  また微かに印がうずき始める。 「一つ、いいことを教えてやる……」  弟者の声のトーンが微かに変化していた。  俺の本能が危険を告げている。 「い、いいことって・・・?」  聞いてはならないような気がしたが、聞かずにはいられなかった。俺はわざと笑みを作った。それは自分を勇気付けるためにやっているような感じでみっともないようなそんな気がしたが、そうするしか俺には方法が無かった。“死神”、ふとこの言葉が頭に浮かんだ。 「あんたはな、まだ死んでないんだよ」  弟者の言葉が頭の中を通り過ぎていった。弟者の言っていることが理解できなかった。  こいつは一体何が言いたい? 「どういうことだ」 「そのまんま」  後ろを振り返ろうにも振り返れないもどかしさ。きっと弟者は笑っているに違いない。なぜかそう確信できた。  背を戦慄が駆け抜けた。  助けて。そう言おうにも声が出ない。  トク、トク、と胸の辺りから音が聞こえた。  俺にも存在していた心臓は、今でも脈を打っている。  つまり、それは――。  印がうずく。 「今までありがとよ。すっげぇ楽しかったぜ」  同時に背中の方で何かを押し出すような音がした。  初めて感じる死への恐怖に目をつむる。  死神は楽しげな笑い声だけを響かせていて―― 「皆様ご注目ください。現代の科学の大きな進歩となる日が、一刻一刻と迫っているのです」  傍らからは大きな声が聞こえる。しかもかなりのハイテンション。  丁寧な口調から察すると、ニュースキャスターのたぐいか何かだろう。 「実験に使われた生体は二十年前の事故で家族を失った男性で――」  始めはぼんやり聞こえていた声も時間がたてばはっきりと聞こえてくるようになってきている。  俺は騒がしさに我慢できなくなって抗議しようと目を開ける。が、その瞬間俺は目を瞬いた。 ――どういうことなのだろう・・・眩しい。ああ、光がある。時間がたてば天井があることにも気がついた。 「っ……く・・・いって……」  体中のあまりの痛さに俺は無意識のうちにうめいてしまった。とたんに周囲の騒がしさが沈黙に変わる。  その沈黙を無くそうと一人のキャスターらしき女性が慌てて言葉を発する。 「お、おめでとうございます。たった今、十五年のという長い間行われていた生体凍結は、見事無事成功をはたしました」  [[<<>十五年 -1-]]  [[TOP]]  [[中編TOP>中編]]
――午後七時。  気がつけば外出していた弟者達が帰ってきていた。俺は勉強机でパソコンをいじりながらも、右手を机の下に忍ばせ指先にある、物の存在を確認していた。一方の弟者は俺の左で昼頃に俺が見ていたアルバムを眺めている。ふと、机の下に忍ばせていた指先が鋭利な部分に触れ、俺は反射的に手を引っ込めた。鋭利な針が触れた部分を見てみるが、たいした外傷は無かったのでもう一度机の下に手を忍ばせ、絶えず物の存在を確認していた。俺の手の先に存在しているのは一本の使い捨ての注射器だ。中には液体は入っておらず、ただの空気が挿入されている。どうやら動物は、血管内に空気が入ると発作を起こして死ぬらしい。ずいぶん前にテレビで知った。気がつけば俺の指は注射器を握っては離す、その作業を繰り返していた。待て待て、待つんだ俺。まだ時間は残っているのだ、そんなに急ぐ事は無いと思われ・・・。絶えず頭の中で囁いている声に負けぬよう、俺は自分に言い聞かせていた。 「・・・なぁ兄者。一つ気になったんだが」 「な、なんだ?」  一瞬手の先の注射器の存在がばれたかと思った。  しばらくの間をおいて、弟者が口を開いた。俺の写真だけがない、と。その言葉を耳にしたとたん俺の体は反射的に弟者を押し倒していた。右手には注射器が握られている。 「・・・やっとその気になったか。十五年間、長かったな」  そういうと弟者・・・もとい死神は不気味で満足げな笑みを浮かべた。俺はこの状態から動く事ができなかった。まるで金縛りにもあったかのようだった。動かない俺に不満を感じたのか死神は眉間を潜めた。 「どうした、早くやれ。そうすればあんたは『肉体』を手に入れられるんだぜ」  そう言ってからも死神は笑みを浮かばせ続けていた。  下手すれば殺されるのに。なのに、どうしてそんな笑みを浮かべることが出来る?  俺は注射器を強く握った。腕の印がまた強くうずきだす。 「……」  弟者を見ていると自分を見ているようで妙な気分になる。  俺たち双子は母親の中にいたころからお互いの存在を知っていた。自分にとって相手は他人であり、自分の分身でもあった。もうこの頃から感情も持っていたし、母を通して外の世界もだいたい分かった。俺たちはもうすでにその頃から互いを尊重し、敬い、憎み、そして恨んでいた。いくつかの感情があってもそこに愛情は無かった。どうしてこんな事を覚えているか。それは俺自身にも分からない。ただ、一つ言えることは生まれる前に片方が力尽きてしまった事。その片方と言うのが、俺だ。 「早くしろ、聞こえないのか?」 「・・・」  俺もこいつのように人と話したいと思ったし、普通に生活していきたいと思った。そして何よりも自分の存在を他人に認めて欲しかった。俺はそんな欲求が抑えられず、弟に泣きついて俺たちの誕生日の日だけ『肉体』を借りていた。  生きて生まれる事ができなかった兄と、無事に生まれた弟。  俺は死神の顔を睨んだ。どうして今日は貸してくれなかったのだろうか。今日は十五歳の誕生日だろう? それとも最終的には俺の手の中に入るとでも考えたのだろうか。 「・・・」 「何黙ってるんだよ」  どうしてか分からないが、そのとき俺は死神の瞳に自然と目がいった。瞳のはるか奥底にうずく恐怖。表面では恐怖を隠すために強がって、本当は死ぬのが怖いのではないか? でも、こいつは自分を殺せといった。どうしてか。 「何だよ、ビビってるのか? 幽霊の癖に。……俺は逃げないぜ」  幽霊、という言葉に耳がピクリと反応する。小さい時から耳にたこが出来るほど言われ続けてきた言葉。俺は幽霊だ。だから今まで人と関わりそうなところは避けてきた。  この強がっている心の内は一体どうなっているのだろう。本当は逃げて、助かりたいのではないか。でも弟者の言葉通り逃げる素振りは全く見せない。まるで自分の運命を受け入れているかのようだった。強情なところが弟者らしい。でも、誰のために?  俺は挙げかけていた右手をゆっくり下ろし、注射器を近くの窓の外に放り投げた。そして何事も無かったかのように椅子にかけなおし、既にスタンバイ状態になっているパソコンを起動させた。 「兄者・・・?」 「……」  後ろからかすかに涙ぐんだ声が聞こえてきたが俺はそれをあえて無視をした。ふと時計に目をやるともう既に時刻は八時を回っており、改めて時の速さを実感した。 「・・・俺には兄者が分からない」 「俺もお前が分からないよ」  元は一つだった俺らだが片割れが何を考えているのかは流石にさっぱりだ。 「どうして俺を殺さない」  弟者がぽつりと言った。弟者は顔をうなだれて、じっと自分の膝を見ていた。俺は弟者の傍まで歩むと、嗚咽で上下運動を繰り返す背中をさすってやった。 「・・・俺は死んでる。そんな俺が生きているお前から命を奪う権利など無いと思われ」  俺の姿は霊感の強い弟者と妹者にしか見えないが、俺自身が誰かを見たりすることはできる。弟達以外、俺に触れる事はできないが俺は誰にでも、何にでも触れる事ができる。しかも俺は弟者と同じように成長してきた。どこかで俺の『肉体』が生きているからだろうか、それとも片割れの『肉体』が生きているからだろうか。どちらにしろそうならば、成長しても物を持つことが出来てもさしつかえはないと思う。でもはっきりとはいえない。明白な理由なんて、俺には分からないのだから。 「・・・でも、でも!」  そういうと弟者は俺の背に腕を回した。俺は弟者の頭を何度も撫でた。 「どちらかが生き残れるとしたら、間違いなくお前が生き残っていると思われ」  霊体だろうが『肉体』があろうが一日中パソコンに漬け込んでいる俺よりは、社会性があって人から頼りにされる弟者を世間は選ぶに違いない。ただの引きこもりの、こんな俺なんて、存在しているだけども迷惑なのだ。いっそのこと、俺のほうが消えてしまえばいい。  その願いも、もうすぐ叶う。期限は十五歳の誕生日、つまり誕生日を迎えるまでだ。ある時刻を過ぎれば弟者は十五歳になる。その瞬間に、初めて俺のゲームオーバーとなる。 「・・・やっぱり納得いかない」  俺はなかなか折れようとしない弟を睨んだ。そして忌まわしく思った。弟者だって、今は嗚咽で背中を揺らしているが内心では俺のことを心底恨んでいるに違いない。  全く、こいつは俺に本音を言わせる気か。 「結論。生きる権利はお前にある。以上」  そう言いきってから弟者をそっと付きはなし、窓の方に足を進めて縁に手をかけて外を覗いた。ここは二階だが、霊体なので痛みも感じることがないだろうしまさか動けなくなる事もないはずだ。 「どこに行くんだよ・・・」 「散歩ですが、何か」  せめて完全に消える前には外の景色を見ておきたいと思った。俺はここを出口とするつもりだ。弟者が引きとめようとしても俺はいく。生きたくないといえば大嘘になるが、俺には印を消すことが出来ないのだ。だから道は一つしかない。 「んじゃ。くれぐれも俺の後を追ってくるなよ」 「……心配するな。それは無いと思われ」  何か微妙な気分だ。 「……そうだ」  弟者の声が聞こえたのは、丁度俺が片足を窓の縁にかけた時だった。俺は反射的に振り返ろうとするが、それは弟者の手によって制された。  また微かに印がうずき始める。 「一つ、いいことを教えてやる……」  弟者の声のトーンが微かに変化していた。  俺の本能が危険を告げている。 「い、いいことって・・・?」  聞いてはならないような気がしたが、聞かずにはいられなかった。俺はわざと笑みを作った。それは自分を勇気付けるためにやっているような感じでみっともないようなそんな気がしたが、そうするしか俺には方法が無かった。“死神”、ふとこの言葉が頭に浮かんだ。 「あんたはな、まだ死んでないんだよ」  弟者の言葉が頭の中を通り過ぎていった。弟者の言っていることが理解できなかった。  こいつは一体何が言いたい? 「どういうことだ」 「そのまんま」  後ろを振り返ろうにも振り返れないもどかしさ。きっと弟者は笑っているに違いない。なぜかそう確信できた。  背を戦慄が駆け抜けた。  助けて。そう言おうにも声が出ない。  トク、トク、と胸の辺りから音が聞こえた。  俺にも存在していた心臓は、今でも脈を打っている。  つまり、それは――。  印がうずく。 「今までありがとよ。すっげぇ楽しかったぜ」  同時に背中の方で何かを押し出すような音がした。  初めて感じる死への恐怖に目をつむる。  死神は楽しげな笑い声だけを響かせていて―― 「皆様ご注目ください。現代の科学の大きな進歩となる日が、一刻一刻と迫っているのです」  傍らからは大きな声が聞こえる。しかもかなりのハイテンション。  丁寧な口調から察すると、ニュースキャスターのたぐいか何かだろう。 「実験に使われた生体は二十年前の事故で家族を失った男性で――」  始めはぼんやり聞こえていた声も時間がたてばはっきりと聞こえてくるようになってきている。  俺は騒がしさに我慢できなくなって抗議しようと目を開ける。が、その瞬間俺は目を瞬いた。 ――どういうことなのだろう・・・眩しい。ああ、光がある。時間がたてば天井があることにも気がついた。 「っ……く・・・いって……」  体中のあまりの痛さに俺は無意識のうちにうめいてしまった。とたんに周囲の騒がしさが沈黙に変わる。  その沈黙を無くそうと一人のキャスターらしき女性が慌てて言葉を発する。 「お、おめでとうございます。たった今、十五年のという長い間行われていた生体凍結は、見事無事成功をはたしました」  [[<<>十五年 -1-]]  [[TOP]]  [[中編TOP>中編]] 実を言うと、某サイト様の管理人フォルテ様に曲と交換に贈った作品。 でも普通に公開です。承諾は、得ているはずです(何

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