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 どうやら今日は近所の広場で大きな祭りがあるらしい。
「は? そのくらいテメーが一人で行きやがれ」
「マータマタ、ソンナ事言ッチャッテ。本当ハギコモ行キタイクセニ」
 手に持っていた雑誌で思いっきりアヒャの頭を殴る。
 少しばかり雑誌が折れてしまったが、コイツの物なので別にどうだって良い。
 さっきの殴られた反動で床にうずくまっているアヒャに雑誌を投げつけた。
「おい、聞け」
「……ナンダヨ」
 アヒャは歯を食いしばって俺をじっと睨む。俺は鼻で軽く笑った。

「俺たちの浴衣って、どこにあったっけなぁ」
 そう言った瞬間、アヒャ目が見開かれた。

 ++++++++++


 早速やってきた広場にはまだ明るいという為なのか、屋台はそんなに多くは無かった。しかも大半の店はまだ店支度に負われている。それとは反対に、人の人口はやけに多い。常に前方に注意指定なければ簡単に人と激突してしまうほどだ。そのため俺たちは縦に並んで歩いている。
「あーあ。何が悲しくて俺たち男二人で祭りなんぞに来てるんだろーな」
「エ、俺タチフリーダロ。ツマリ彼女ガイナ――」
 禁句発言を犯そうとしているアヒャを肘打ちで未遂にとどめる。言われてしまえば嫌でも分かってしまうのだ。ただでさえ周りを気にしているというのに、こいつは追い討ちをかけるつもりか。
 ふと、近くの屋台に目が留まる。後ろでうめくアヒャをちらっと見てから屋台に近づいた。
「……串イカ一本」
 屋台で売っている串イカ――つまり串に通したイカげそを塩焼きしたもので、イカ好きにはたまらない一品である――が売られていたので何気に買ってみる。別にイカが好きだと言うわけではないのだがなんとなく口の中が寂しいし、それとアヒャが大のイカ嫌いな為、からかいという意味も込めての購入だ。
 そうこう考えているうちに屋台のおっちゃんはてきぱきと作業を進め、あっという間に一本を焼き上げていた。俺がこっちの世界に戻るのを確認する為か、おっちゃんは俺の目を覗き込んでから手をさしだした。
「一本三百円」
 そう言っている間にもおっちゃんの空いた片手は串イカを焼き続けている。俺はそれに内心唖然としながらも浴衣の内ポケットから財布を出して千円をおっちゃんに差し出した。小銭が無いわけじゃない。何となくめんどくさかったから札を出す。
 おっちゃんはもう一本焼き上げてから自分の財布を取り出して幾つかの小銭を取り出して俺の手の平の上に乗せた。
「七百円。これ、一本おまけね」
 おっちゃんはアヒャがうずくまっている方向をちらりと見てから俺に二本の串イカを差し出す。俺は小さくお辞儀して屋台から離れた。そしてアヒャの元へ行き、足先でつついて無理矢理立たせた。
「ギコ……ナニモ本気デスルコトナイダロ……マジデ痛インデスケド」
「あー、ごめんねぇー。これで良いか?」
「……本当、マジムカツクワ。オ前」
 俺が肘打ちを食らわせたところがまだ痛むのか、アヒャはその患部を押さえながら俺をギロリと睨んだ。どうせ芝居だ。俺は何も言わずにおっちゃんから貰ったおまけの串イカを差し出した。それを見てアヒャは一瞬眉間にしわを寄せる。
「新タナ嫌ガラセカ、ソレハ」
「いくら嫌いな物でも人の好意は素直に受取るべきであろう、アヒャ君」
 アヒャがぜんぜん受取ろうとしないので一度おっちゃんをちら見してから、串イカを押し付けた。アヒャは俺の視線の先が気になるのか、屋台の方をちらちらと見ながらしぶしぶ受け取る。
「さ、場所取られないうちにいくぞ」
 ぼんやりと突っ立っているアヒャを無理やり引っ張り、この祭りのメイン、花火がよく見えると評判のスポットを目指してひたすら歩き続ける。出かける前にアヒャがしつこくその記事が載っている雑誌を何度も見せてきたので場所は自然と覚えていた。この広場は川に近いので会場はそこだ。
 なんとなく串イカに食らいつく。が、少々塩辛い所為か喉が渇いてきた。近くの屋台でペットボトルを二本買ってついでに買った一本をアヒャに渡す。するとアヒャはそのペットボトルと交換するつもりなのかさっき押し付けた串イカを渡してきた。
「ヤッパオレ、コレイラネ。ギコガ食エヨ」
「……ん」
 ここ近辺は不思議と人が少ないので俺らは横に並んで歩いていた。アヒャはアチー、と呟きながら水の飲む。俺は自分の串イカを平らげ、アヒャの串イカに目を落した。少し食べたのか渡した時よりも少し量が減っている。一口も食べずに俺に渡したとしたなら俺は迷わずアヒャの口に突っ込んでいただろうが、食べたのなら文句は言えない。
 ……っち。おもしろくねぇの。
「ア。しぃトでぃジャネー?」
 しぃ、という言葉を聞いて体が勝手に硬直する。口の中にしつこく残っていた串イカの味が一瞬にしてなくなった。とたんに喉も渇きだす。
「ど、どこに……?」
「ホラ、アソコ」
 そう言ってアヒャは俺らが行こうとしていた付近を指差す。浴衣を着て楽しげに話す二人は俺らに気がつく様子も無い。じっとそこを見ていたら突然人が増えて姿は見えなくなった。
「ドースルヨー、エー? 早ク行カナイトネェ」
 アヒャが俺を肘で突っつき始める。俺はアヒャを睨みながらなかなか出ない声を振り絞る。
「ど、どうするって……行くしかないだろ。ほら、花火……もあるし」
「キャー、良イネー。青春男ッ! ホラ愛シノしぃチャンニアピレ、コノ野郎!」
 アヒャの言葉に体の硬直が一気に解かれた。アヒャを人気の無いところに連れ出して早速回し蹴りをかます。がなんなく避けられてしまう。
「二度モ受ケル程ノアホジャナインデネー」
 すかさずもう片方足で回し蹴りするが足をつかまれ身動きが取れなくなる。俺はギリッと歯を食いしばった。
「照レ隠シー? カワイイネー」
 つかまれた足をそのまま勢いよく伸ばし、アヒャの手から足を振りほどくように蹴飛ばした。その衝撃でアヒャは軽くよろめき近くのゴミ袋の山に倒れる。
「コンノ野郎……」
 アヒャはすぐに立ち上がり俺に向かって拳を突き出す。がそれは俺の顔のすぐ傍を掠めただけで、一瞬の隙が出来た。もう片方の手で攻撃する前に俺はアヒャの首根っこを掴み、アヒャの両手を片手で束縛する。
「今度ふざけた真似をしてみろ。相棒だからって手加減はしねぇぞ」
 俺らは特別喧嘩が強いわけじゃない。ただこういう仕事をコイツと二人でしているだけなのだ。もちろんしぃ達は同じ建物で仕事をしているだけで、仕事の内容は違う。
 突然肩に手が置かれる。俺は後ろをふりむかずにアヒャの目を見て、その瞳に写るのが自分じゃない事を知る。カチャ、と重い音がしてからひんやりと冷たい金属が後頭部につきつけれる。一瞬時が止まる。
「……どうか動かないように。できればその手の先の方を放してほしいのですが」
 低いようで高いような中途半端な声に従い、俺は両手から力を抜いてアヒャの束縛を開放した。とたんにアヒャはへなへなと地べたに座り込む。
「ありがとうございます」
 後頭部から金属の感覚が無くなる。俺は振り返り際に腕を振り上げ後ろの人物に肘打ちを食らわせようと試みた。が、腕はなんなくと掴まれてしまった。コイツはただ者じゃねえな、そう思いながら視線を上げる。
「……あ」
「……え」
 思わず声が漏れた。それは相手もそうらしくて、目がすっかり見開かれていた。
「しぃ……どうしてここに……」
「……ギコ君こそ、どうしてアヒャを……?」
 しぃは掴んでいた腕を放し、もう片手に持っていたナイフを浴衣の中にしまった。お互いの顔を見合って苦笑いする俺らをよそに、アヒャはいつの間にかやってきたでぃとくすくす笑っている。俺としぃの視線は二人に注がれていた。
「ドッキリ大成功ー。イエーイ」
 そういいながら誇らしげにブイサインを突きつけるアヒャの口目がけて串イカを押し込んでやる。
「フグッ!」
 が、アヒャはそれをすぐに吐き出し激しく咳き込んだ。味が嫌いなのではなくて体自体が拒否しているようだった。少しの罪悪感に胸の中がうずくが俺は軽く鼻で笑う。アヒャがほぼ死にかけているにもかかわらずしぃはマウントの体制をとっていた。


「さ、皆さん大分日も落ちてきたところですし、そろそろ花火見に行きましょうか」
 でぃの静止の声がかかるまでアヒャを苛めていた俺ら二人は汗だくだった。でぃの言う通り日が落ちているからだろう、世界は夕焼け色に染まっていた。さっき買ったペットボトルを口に含むがもうすでにぬるい。
「ああ、なんだ。もうこんな時間かよ。せっかく早めに来たのに」
 そう呟いてから俺は三人でこの場所を後にする。アヒャはどうせ後から追いついてくるだろう。
 広場の近くの川に着けばもうすでに人だかりができていて遊びすぎたなと後悔するはめになった。俺はその状況に半ば自棄になって場所取りをでぃとしぃ、そして追いついてきたアヒャに押し付け、一人で屋台をまわった。
 屋台を数件回ったところでしぃからメールが入ってきた。携帯を開けばどうやら運よく場所が取れたらしい。俺は手に数本のペットボトルを持って今来た道を引き返した。

 人ごみが出来ている川沿いの道に着けば、すぐさまアヒャが寄って来た。ほんの数十分前までにはいろいろやられていたというのに、どうしてこの男はこうも平気で加害者に近づくのか。まぁ今日に始まった事ではないのでそんなに驚く事はないが。
「オ、気ガ利クナギコ。皆待ッテルゾ。早ク早ク」
 アヒャは俺の抱きかかえていたペットボトルを数本抜き出すと人ごみを掻き分けながら進み始めた。俺は黙ってアヒャの後ろをついて歩く。
「あ、やっと来たかこの超マゾヒスト。あと少しでもつれてくるの遅れてたら川ん中に突き落とすところだったぞ」
 しばらくすすんだところに開けた小さな広場があり、俺らが立っていたすぐ近くの場所でしぃとでぃはシートを敷いて座っていた。しぃはほんのりと頬を赤らめていた。
 俺らはすぐに腰を下ろして二人にペットボトルを分ける。
「チョ、しぃチャン。ココハ公共ノ場ダカラ、ネ。妙ナ発言ハ控エテ……」
「うるせー、だまれーこのドMが。頼んだ例の写真はできてねぇのかぁ? あ゛ぁ?」
「出来テルケド……何、モシカシテ酒入ッテル? コレ」
 アヒャがこちらを向いてきたので俺は苦笑いしながら小さく頷いた。でぃの方に視線を向ければ傍に幾つかのビンが転がっていた。俺の視線に気がついたでぃは苦笑いを浮かべた。
 俺は立ち上がらずにでぃの傍に這い寄った。一方のアヒャはしぃに絡まれて逃げるに逃げられない状態だと言っていいだろう。
「あのー……このビンは」
「全部しぃが飲んだものです。私が油断していたのがいけませんでしたね。彼女が未成年だと言う事すっかり忘れてました」
 俺は小さく笑ってからため息をつく。しぃの酒癖はかなりすごい。俺の酒癖もかなりのものだが、しぃの方が上回っているような気がする。しぃは酒入ると横暴上戸になるんだなぁ、なんて思いながらしぃを見ていると突然浴衣の『えり』を誰かに引っ張られた。
「な、なにす」
「このままでいたい」
 文句を発そうとした口が自然に閉じた。
 今の俺はしぃに抱きしめられている状態にある。多分酔っているからなのだろう。内心酔っていなければ良かった、と思っているがこの状態でも満足している俺がいる。
 アヒャが耳元で俺を揶揄ったので俺はアヒャに拳骨を食らわせ、しぃの腕から抜け出す。俺も男だ。流石に抱きしめられている立場というのはプライドが――
「顔真っ赤」
 しぃにそう言われ、さらに顔に熱が集まるのが分かった。目線を夜空に向ける。
『花火第一発目えぇえぇ!』
 威勢の良い声がどこからか聞こえ、それを合図にするかのように花火が打ち上がった。




















「ナンテ展開にナルカモシレナインダゼ・・・ッテオイ、ギコ!」
 うっとりしていた思考が半ば強制的に現実に引き戻される。なぜか無性にムカムカしてきた気分の所為か、俺は陽気に笑みを浮かべているアヒャをうっとおしいと思った。睨みながら声を低くして言う。
「・・・祭りは」
「ダカラコレカラ行クッテ話ダロウガ!」
 俺は目を瞬き手の甲で強くこする。まだ頭の中は半分霧がかっている状態だ。
 ……どういうことだろう。祭りに出かける前にアヒャと言い合っていた時の俺の部屋だ。そうと分かってハイになっていた気分が一気に急降下する。
 ああ、そうか。つまりこれはよくあるオチの一つというわけで……。
「……やっぱお前が一人で行け」
 妙に現実的な夢だったな、と口を尖らせながら落ちていた雑誌を拾い上げてアヒャに投げつける。俗に言う八つ当たりだ。
「ナ、ナンダヨ。サッキマデハ乗気ダッタクセニ!」
「五月蝿い、さっきはさっき。今は今だ」
 口の隅にたまっていた涎を手で拭ってベッドに倒れこんだ。だんだんと悲しくなってくる。まあそれもそうだろう。あんな夢の後で無理矢理現実にご対面させられたのだから。
 アヒャが部屋から出て行くのを戸が閉まる音で理解する。
「……ジジ臭……ア、しぃチャーン! 頼マレテタ恥ズカシィ写真撮レタヨー! 涎ダヨー!!」
「マジかよ! ちょ、やっぱお前に頼んでおいて正解だったわ」
 部屋中の窓を開けているためか、かすかに外の会話が聞こえてくる。俺はそれを聞かなかった事にして、目を閉じて夢の続きを見ようと試みるのだった。



 案の定、続きが見られたことには見られたのだ。

 が、しぃがあの屋台のおっちゃんに変わっているというとんでもない悪夢で――。



500番キリバンリクエスト小説。ちぐはぐ様に捧げます。
希望ジャンルがギャグだったのですが、全くその色がありませんね(汗
ギャグ頑張ります。リクエスト通りにならなくてすみません。

今回使ったキャラはキャラの指定が無かったのでこちらで自由に組ませていただきました。このキャラ達はのちに投下しようかと思っている小説の脇役達です。はい、脇役です。
この小説は提出二回目でリベンジ(?)させてもらったものです。一回目のものも読んでみたい方はこちらからどうぞ


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