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「ごめん。それはとっくの当に知っている」
 よっぽど驚かせたかったのか、顔がムスッと膨れた。
「ったく、ギコはつまらないんだからな! もう帰る!」
 モララーはそう言うとそそくさと歩いて去っていった。俺は笑いを堪えながらじっと、見つめていた。それから、家と正反対の方向へゆっくりと歩き出す。
 どうせ俺は、つまらない生き物ですよ。

 さっ、とモララーが逃げていった方向に振り返る。むろん、モララーの姿はすでにない。
「……死に神様の呪い、か」
 それを知ったのは中学に入学したての頃だったような気がする。

 それは今から九ヶ月ほど前の話だ。
 俺がまだ、自分の教室がどこにあるのかすら分からなかったころ。
 たしかその時は運悪く、クラスメイトとはぐれて校内をさ迷っていたような気がする。

 突然、大きな脱力感に襲われて近くの空き地の雪の上に寝転ぶ。
 やっぱ、冷たい。
 背中全体に伝わってきた。
 自然とまぶたが重くなる。
 ああ、そういえば最近寝不足だったっけ……。
「少しぐらい、寝ちゃおうか……」
 俺は重くなるまぶたに抵抗しなかった。


 俺は学校の中にいた。
 しかし、すぐにそれは夢だということに気がついた。

「くそ・・・。ここは大きな迷路みたいだな・・・」
 うつむいていた顔を上げる。下ばかり見ていても解決策は出てこないからだ。
 すると前方には、しぃ族の女子がこっちに向かって歩いてきていた。
 あまりにも白すぎる眼に、嫌気がした。

 俺を見つけると、スリッパを鳴らして駆け寄ってきた。
「あ、あの・・・。は、はじめまして」
 彼女につられて俺も声にならない声で挨拶する。
「えっと、私、一年三組の、しぃ、って、言います」
 不自然な間が気になったが、このまま黙っているのも悪いと思い自己紹介する。
「俺は……一年二組のギコ・ハニャーン。ギコって呼んでくれ。よろしくな」
 しぃ歓迎するかのように、手を差し伸べる。
 しぃは満面の笑みを浮かべ、俺の手を握った。

 氷のように冷たい感覚がした。
 やけに体冷たくないか・・・?
 俺は言葉を飲み込んだ。

 気を取り直して、しぃを見つめる。何処からどう見ても、普通のAAだった。足もちゃんとある。疑った自分が馬鹿馬鹿しく思えた。
「いきなりで悪いけど、しぃも迷子?」
 俺の呼びかけを華麗にスルーして、別の話題に呼び込んだ。
 せっかくのイイ話題だと思ったんだがな・・・。
 貴方とは違うのよ、とでも言いたげにしぃは俺に問うた。
「ねぇ。ギコは『死に神様の呪い』って知ってる?」
「……なんだそれ」
 俺はため息を漏らした。
 また怪談話か、そう思ったから。
「へぇ……知らないんだ。なら教えてあげる。確か番号四四だったよね」
 しぃのその言葉に俺は耳を疑った。
 しぃに出席番号まで教えた覚えはない。
 なんで知っているのだ?
「どうして……。どうして俺の出席番号知ってんだ?」
 俺は唖然としてしぃを見つめた。しぃはニッコリと笑っていた。
 気を紛らわしたくて、近くにあった時計を見る。針は『十二時三五分』さしていた。四時間目終了まであと五分だ。俺はひたすら早く時間が過ぎることを願った。
 何故って? とっても嫌な予感がしたからさ。
「なんとなく。そんな感じがしたの」
 なんとなくで相手の出席番号を当てられるものだろうか……。
 未だに唖然とする俺にしぃは腕輪を差し出してきた。腕輪は漆黒色で、俺の恐怖心をふくらませる。俺はおそるおそるそれを受け取った。
「この学校のどこかには深紅色の階段が存在するのよ。普通の人が通っても、普通の階段にしか見えないんだけど、ある一部の人には血に染まった階段に見えるんだって。でね、そこには死に神が住んでるって言われてるの。とくに出席番号が四四の人は注意よ。呪いをかけられるわ」
 時間が止まっているような気がした。
 心臓が高鳴り、冷や汗が背中を伝う。
 しぃは俺の手の上にある腕輪を指差す。
「で、この腕輪はね・・・」


「ゴルァ!」
 怒鳴り声に反射的にまぶたが開く。
 目の前には親父がいた。
「お、親父……?」
「お前、家にも帰らずここで何しているんだ」
 親父から目を逸らして空を見る。空は透き通っている黒がかった青色だった。
「うぇわ! も、もう夜っ、てかさっぶ!」
 本能的に手のひらで体を擦り、体温を上げようとする。がたがた震える歯を止める事が出来なかった。
「ほら、帰るぞ」
 親父に手を取られる。俺はそのまま家まで引っ張られて行った。あたたかい我が家まで。

 家に着くと俺はまっさきに自分の部屋に逃げ込んだ。
 母親が時間に関してはとっても五月蝿いのだ。小遣いをなしにされるだけでは済まされない。幸い、今日は朝から外出していたらしかったので助かった。
 勉強机の上に、帰る途中に買ってもらった握り飯とお茶を出す。そして握り飯を口に突っ込み、お茶で流した。

 明日の用意を簡単に終わらせると、ベッドの中に倒れこむ。
 気がつけば俺は、夢の続きを思い出していた。

「その腕輪はね、死に神除けなの」
「死に神よけ・・・?」
 しぃのあの笑みは今でも繊細に思い出すことが出来る。
 その後すぐにチャイムがなって、俺らは自分たちのクラスに帰っていった。ちなみに一年の教室まではしぃが案内してくれた。

「はぁ・・・」
 さっきまで寝ていたのに睡魔が襲いかかってくる。
 俺は闇に身を任せた。



「なぁギコ、前から気になってたんだが、その腕輪何なんだ?」
 学校にきてすぐに、弟者が話しかけてきた。
「お前には関係ない」
 弟者は簡潔に言うなら不良。授業妨害はもちろん、タバコも普通に吸っているそうだ。
 俺はそっけなく返事を返す。それは関わりたくないからで、俺だけでなく他の人もそんな感じだ。
「ふーん、良い度胸だな」
 弟者はニヤリと笑う。
 俺は思わず身を引くが、弟者は傍を通り過ぎていった。
 その行動に周辺にいた同級生全員が唖然とした。いつもなら殴られるのがオチなのに。


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