「末者。どういうことなんだ?」
ここは病院の個室。
ベットに横たわっていいる一人を囲んで三人が立っている。



「……。」
末者はひたすら沈黙を守り続けていた。
「末者!!」
「もう兄者よせよ。」
「そうよ。今は休ませてあげるべきでしょう。」
弟者と姉者に注意されるがそれでも兄者は続けた
「だっておかしいだろ!!意図的に溺れようとしたなんて!!」
末者は静かに言った。



「おりぇの力なら十分出来るじょ……。」




一瞬、その場に重い空気が流れる。



すると兄者が向きを変え扉へと向かう……。
「あ、おい。兄者待てよ!」



バタンッ!!



そう大きな音を立てて兄者は個室から出て行った。
「くそっ!!こんなときに何やってんだよ!!おい!兄者!!」
弟者も兄者を追いかけて部屋を出て行く。




個室に姉者と末者の二人だけとなった。



「末者……。」



「……。」



姉者が末者に優しく呼びかけるが末者の反応は無言…。



「明後日には退院出来るそうだから、今日、明日はゆっくり休みなさい。」
そういうと、姉者も二人を追うように部屋を出て行った。





「…おーけーなのりゃ……。」







俺が目が覚めるとすでに朝だった…。
病院の壁が日光に当たりより白く見えていた。



「うう…。いつの間に寝てたんだ…?今日は…?」



すぐ横の机にあるカレンダーを覗いてみる。
「な、…マジかよ…。」



頭がくらくらする…。
「俺としたことが…二日間も寝てたのかよ…。」




【満月まで あと3時間】



現在PM4:30





机の上には兄者が施した豪華な手料理の数々――



「今日は恐ろしい程に機嫌がいいですね、と言ってみるテスト…。」
それを聞いた兄者はポンと弟者の右肩を叩いた。
「当たり前だと思われ。何たって今日は、末者の退院の日だからな。」
それでもやり過ぎだろ、と思いながらもうなずく弟者。
その後ろであの日とは違い超御機嫌な兄者がテーブルに皿を並べる。



「そういえば、姉者は何処へ行ったんだ?」
すると兄者は口に夕飯のおかずを銜えながらもごもごと言った。
「ふ。ふひひゃはらふえひゃほふはえひひっはほほほはへ(ん。姉者なら末者を迎えに行ったと思われ)。」
そうか。そうか。と、うなずく弟者。(分かるのかよ!?



そして、兄者に近づくとこう言った。
「時に兄者よ。何か手伝うことはありますか、と言ってみるテスト。」
「ん。じゃあ、あのナイフを持ってきてくれないか?」
兄者の指差す数メートル先には果物ナイフが置いてあった。
「自分で取ればいいじゃないか。」
弟者がムスっとして言うと兄者は皮肉めいた笑みでこう言った。
「手 伝 う ん だ ろ?」
「……分かったよ。」
今の兄者には勝てない。
そう思いながらもナイフに手を伸ばす――







「あ~にじゃ♪」
弟者の怒った(?)呼びかけにぶるっと体が震えた。
後ろへと体を向ける。
「お、弟者?」
「……。」
しかし、返事は返ってこなかった。
余計に体が震える。
「まぁ、なんだ。そんなことで怒るなんてお前らしk…!!」
気づけば自分の首にあの果物ナイフが向けられていた。――弟の手によって。






「ど、どういうつもりだ…弟者……。」
「……。」
弟者は黙ったままでヒステリックに笑い何も答えようとはしなかった。
今の弟者の目は何かに操られているような、そんな目をしていた。





――操られる?





俺はもしかしてと思い、やつ を目で探す。





そして、見つけた――




やつに言ってやる。





「何が目的だ、 末者。」



「!!」



目の前にいた弟者が ッフと倒れる。




「弟者!大丈夫か!?」



「…う…ん。平気…だ。」
よかった。意識はあるようだ。
安心しかけたそのとき、玄関の方でバタンと大きな音がした。




しまった!!




俺は末者を追うように外に飛び出した。




俺の少ない体力をかき集めて必死に末者を追いかける。




空にはきれいで大きな満月が浮かんでいた。




そんなこと今は関係ない!!
そう自分に言い聞かせる。




けれども、次々と悪魔の囁きが湧いてくる。





追いかけたところでどうなる?
相手はあの末者だぞ。





お前が行動したところで何にもならない!!






うるさい!!




俺はそう心の中で怒鳴りつけた。




気がつくとここは入れば二度と帰って来れないと評判の深い深い森の中だった。



前方には末者がいた。




末者は俺を悲しそうな目で見つめた。
俺は今までにないキツイ目で睨みかえしてやった。




体が動かなかった。
末者の能力ではない。



怖い。



怖い。




気づけば末者の姿はなく、代わりに奇妙な扉があった。




ようやく動くようになった足で近づく。
「なんだこれ…。」
扉に触れようとしたそのとき!
「兄者!!」
家にいるはずの弟者がそこにいた。
「弟者…。」





弟者は真剣な目つきでこう言った。



「兄者も、行くのか。」
と。





勿論と、返事を返す。






行けばもう戻って来れないかもしれない。
生きて帰ることは出来ないかもしれない。







それでも俺の出す答えはただ一つ。







「弟者!行くぞ!!突入だ!!!」
「おう!!」





俺たちは扉を開け中へと飛び込んだ―――


最終更新:2007年08月28日 17:31