会場内はすでにパニック状態だった。
千とエメラルドはどこにいるのかすでにもう分からない。
突然やってきた二人組は逃げようとする観客を見つけては捕まえる。
(ステージと客席の距離はとんでもないほど高いので俺たちは上がろうにも上がれない。
畜生!ただ立っていることだけしか出来ないのか!)
すると一人の男が逃げようとした一人の客にとても鋭いナイフを突きつけた。
会場内がようやく静まり返る。
黒い剣を持った男の目は、動いたらお前らも殺すぞ、とでも言っているようだった。
すると突然、アヒャ族の男のもっているナイフが手から離れた。
男は誰もいないがすかさず気配のした右方向に予備のナイフを投げる。
が、ナイフに突き刺さっていたのは一枚の緑色の羽根しかなかった。
次の瞬間。
男に何かがぶつかり男はそのまま吹っ飛ばされる。
同時に男の体に巻き付いていたのは植物のつるだった。
一方黒い大きな剣を持った男は、仲間のピンチに目もくれずタバコをふかしていた。
一瞬。男の付近に影が走る。
よし。男は気づいていない。
その影は後ろから手に炎をまとい男に襲い掛かった―――。
俺もいい加減のんびりはしていられなくなった。
赤い体の対戦相手、つーが襲い掛かってきたのだ。
雷層刃で防ごうとするが相手のほうが一枚上手。驚くほどのスピード――。
―無理だ。間に合わない。こんなとき能力が使えたなら…。
俺はヘナッと座り込み、目をきつく閉じた―――。
カキイイィィン!!
目をそうと開けてみると目の前には青い足に銀色の腕輪…
「…っ大丈夫か…。」
そこには長刀で攻撃を防ぐ弟者の姿があった。
「ジブンノシンパイシタラドウダヨ!?」
「…んだと…。」
ズズっと弟者の右足が少し後ろに動く。
「弟者…俺は平気だ。お前は平気なのかよ…。」
弟者は鼻でッフと笑うと 安心しろ とだけ言う。
俺が一回瞬きしている間に二人の姿はどこかへと消えていた。
俺は雷層刃を拾い、立ち上がるとっはとした。
もう一人の相手、でぃがいないのだ。
後ろでうっすらと気配がした。
「ワタシタチモタタカウ?」
首にひんやりとした鉄の冷たさが広がった―――。
―エメラルド(?)vs???
「へえ、お前が千とこに入ったっていう、エメラルドか。」
両腕を植物のツルで縛られている男の目の前には四つの羽根をもち異様に尻尾が長いネーノ族の作者AAエメラルドが立っていた。
「お前、自分の立場が分かってるのか?」
エメラルドは男の首あたりに緑龍剣をむける。
誰が見てもピンチ状態のこの男は、なぜか笑っていた。
「お前、何故笑ってる。」
「……。」
しかし男は答えなかった。
そしてさっきとは違い死人のように目を閉じていた。
「おかしい…。」
エメラルドが男に近づこうとしたそのとき、エメラルドの前には自分のものではない影が一つ浮かび上がる…。
エメラルドはすばやく後ろに振り向いく――。
カァアンッ!!
剣とナイフがぶつかった音が響く。
「っぐ…。な、なんで後ろに居るんだ…。」
エメラルドの目の前にはさっき笑っていた男の姿があった。
ただしさっきと違い左目に傷を負っている。
剣とナイフがぶつかり合って動かない今、少しでもエメラルドの力が劣ったりしたらやられてしまう。
「っけ。お前はどうせ死ぬ身だから教えてやろう。俺は幻鬼。そして俺の能力は憑依。さっきの体はさっき俺が捕まえた虫だwつまりは俺の魂の一部がその体に憑依し、後ろからチャンスを狙ってたってワケだww」
すると幻鬼がナイフにさらに力を入れる。
流石のエメラルドも男の力には勝てない。
「っくそ…。」
幻鬼の力に押されて何歩も下がる。
人の命を「虫」扱いだと…
幻鬼の顔に再び笑みが浮かんだ。
自分に忍び寄ってくる毒を知らずに…。
憑依(ひょうい) 相手に取り付くこと。
-千(?)vs ???
後ろから手に炎をまとい襲いかかろうとする千に気づいてないのか、男はいまだにタバコをふかしている。
すると千が動きを止めた。
千の手前には鋭くとがった無数の氷柱が立っていた―
「ほぅ…。少しは利口になったんだな千。」
「お前こそ、判断力が鈍ったんじゃないか?放浪人。」
向き合いお互いににらみ合う。
どうやら二人は知り合いのようだ…。
「周りに怯える生活にはもう慣れたのか?」
放浪人がからかい半分で言う。
いや、からかいではない。
「まさか、お前に心配されるなんてなぁ…。」
「それぐらい当然だろ?俺らヴィラシア団の元メンバーなんだからさ。」
すると千はどこからか銃をとりだし、
「おっと、それは禁句だろ?」
銃口は放浪人に向けられていた…。
それの対し放浪人は、っぷとふいた。
「少しは利口になったと思ったら、前と変わらねえじゃねえかw」
流石の千もこれにはきたようで…
「火弾!!」
バン、バンと二発の銃声音。
放浪人はすかさず自分の剣で防ぐ。
ちらりと見えた放浪人の目つきは真剣そのものだった。
放浪人は剣を天へと突き上げたかと思えば勢いよく振り下ろした!
「空龍破斬!」
千はその攻撃をぎりぎりなんとか避けることが出来たが皮肉なことにその風、カマイタチは、千に狙いをつけUターンしてきた。
「な、なに!!」
ズシャアっと酷い音が響き渡った。
「ぐわああっ!!」
「俺に立ち向かおうなんて、百年はえんだよ、裏切り者が。」
―弟者vsつー
「灼熱波!!」
弟者が繰り出す 熱 は空気を伝わりつーに襲い掛かるが、軽々とかわされてしまった。
二人は今、会場の天井にて戦っている。
「ソンナヘボイノガ、オレサマニアタルトデモオモッタカ!!」
つーは肩にかけていた大きな斧を握り、弟者へと向かって振り落とす。
「切斬!」
「っく。」
ザンッ!! ずさああぁ…。
弟者はつーの攻撃は避けることができたが、つーとは違い余裕が全くない。
つーが斧を引き上げる。
斧が直接あたったその部分は、ただの鉄パイプになって落ちてゆく。
こいつとは力が違いすぎる…。
そう弟者は確信していた。
何故なら、つーの身長よりも大きな斧を持っているにも関わらず、つーのこの恐るべきスピード。
そして何より、
「…コンドハニガサネエ…。」
つーが振り上げていた斧を再び振り下ろす―!
(!! しまった、体が動かねぇ…!!)
ドガアアァァンッ!!
そして何よりこの破壊力+つーの能力。
『金縛り』だ。
「ホウ…。コノジョウタイデウケトメルナンテ、タダモノジャネエナ…。」
「当たる直前に…熱で溶かして…体積を減らしたんだ…。」
確かに、つーの斧には何かが溶けた後があった。
誰もが溶けたと確信するこの斧。
しかし流石は斧の持ち主だ。一瞬で弟者の嘘を見破った。
何故ならこの斧、一万度近くの熱でも溶けることがない。なのに弟者は溶かして体積を減らしたといっている。
決定的なる現状は、斧が一ミリも溶けていないことだ。
が、逆に、弟者の武器のほうがはるかに体積がへっていたのだ。
(俺の攻撃に耐えるために自分の武器をすり減らしただと…。まさかこいつ…。)
この力の押し合いで、一歩も譲れない二人の前に何処からか、一枚の黒い羽根が舞い降りてきた。
「「……。」」
突然現れた黒い羽根に二人はそれぞれ全く違う意味で驚いていた。
すると今度は、つーが突然笑い始めた。
「ア~ヒャヒャヒャヒャ!!ワカッタ!ワカッタゾ!!」
唖然とする弟者をつーはにらみつける―――。
「オマエトハモットアソビタカッタガ、ドウヤラジカンラシイ。」
つーは斧を放り投げ、愛用のナイフを取り出し、今だ、金縛りにより身動きが取れない弟者にそのナイフをむけた。
「ソッコウデ、オワラセル。」
弟者に残ったのは恐怖と絶望感だけだった。
―兄者vsでぃ
今、俺が動けない状態なのは分かってくれていると思う…。
みごと隙を突かれて、首に槍を突きつけられているのだが…
眠られてはこっちが違う意味で困るのだが…な…。
「…zzZZ」
っまとりあえず、こちら的には大チャンスと言うわけだし…。
男として恥ずかしいが、勝負をつけさせてもらおう!!
自然に手が挙がり、不思議な力をまとい、でぃに向かって振り下ろす!!
「瞬雷!」
ドカァアン!
俺は今自分がしたことに唖然する。
だって今……能力が使えたんだから・・・。
後ろでガサっと物音がする。
「やっぱりな…。」
流石は敵だ。
そう簡単には死なない。
「ズルイユルサナイ…。」
そこには攻撃を受ける前よりもぼろぼろのでぃがよろめきながらも立っていた。
あはは…。脅しで来たか…。
と、今の俺は能力が使えることになってしまったがために、有頂天になっていて…。
「コンドコソ、アナタノノウリョクガワカッタイマ、シンデモラウ…。」
こいつの本当の恐ろしさなど、分かっていなかった。
最終更新:2007年08月28日 17:31