夜王の世界




──月の光で喉を潤し、星々の瞬きで命を繋ぐ。儚くも絶対の王者。それこそが“夜王”、氷の美女──

“夜王”カリーナの名を知る者は少ない。都市の貴族でさえも、その名はただの都市である。

その実態は都市の“夜”を司る、秘匿されし存在。故に彼女は表舞台に立つことはこれまで無かった。

だがある事件をきっかけに、彼女は目覚めた。嗚呼、愚かなる者が彼女の眷属を脅かしたのだ。

絶対の恐怖を!絶望を!女王は怒り、悪夢を連れて蹂躙した。そして一欠けらの希望と共に去った。

それで彼女の物語は終わり。再び眠りにつく。おやすみなさい、女王。良き夢を。良き夜を。

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   ここから先は、R-2186である。悪い子だけ見るといい。



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   第0章“始まりの闇都”
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笹食っ…二度寝している場合では無い!我が寝ている間に、ヴァースは面白いことになっているではないか!
 しかし喫茶には行けん。散々、二度寝したいとか次は無いとか言っといて現れたら、流石の我でも恥ずかしい」

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「そして我は気づいたのだよ。エンデ(忍奉)がいないのに起きてしまったので、飯が無いと。カップ麺しか。
 …夜王が…ッ カップ麺…ッ 否、夜王だからカップ麺…!?地球日本単価300円前後のを貪る贅沢…ッ!!
 ──いかん。それはいかん。たとえ居城では常にジャージの自堕落な我としても、三食カップ麺は堪える。
 それに。エンデの飯を食ったあとに、カップ麺を何度も食べるとあれだ、死ねないのに死にたくなる…うむ」

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「かといって闇都の飯も食い飽きた。どこもこいつもオサレオシャンティなものばっかり店に出しおって。
 必ず赤ワインがサービスなのも困る。この都市の悪魔や吸血鬼共は、赤ワインで乾杯するのが大好きだ。
 風習である。そんなに血に見立てて飲むのがお洒落か。我は下戸である。トマトジュースとか所望する」

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「闇都は飯は決して不味くは無いが、特産物的な料理に欠ける。高級店は並ぶのだがな。
 あえて特産物を上げるならブラッドジュース…つまり血なのだが…我、血とか無理だから!
 不味くてほんと…無理…何が哀しくて血とか飲むの…吸血鬼とかほんと名前やめよう…?」

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「そもそも、あまり農耕もせん都市だ。都市に隷属した人間が、都市の周囲の土地で働いている程度の。
 飯の元を作らん都市で、料理の特産物は生まれない。交易も食糧関係は出るより入ってくるほうが圧倒的だ。
 貴族会のもたらす税収で都市運営が成り立ってるという噂は本当やもしれん。まあそれはいい、それより飯だ」

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「む、天恵きたれり。エンデが居ないなら好き勝手できるゾイ。ということで…旅をするのはどうだろう。
 最近の状況の確認と、食欲を満たすために旅をしてみる計画、浮上。食べ歩きの旅!素晴らしいプランである。
 脳内会議は可決大多数。早速準備に取り掛かろう。せっかくだから記録映像も残していくぞ。
 エンデがよくやっていたやつだ。ソロトークたーのしー!…何、イメージ?カリスマ?威厳とな?」

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「“月の光で喉を潤し、星々の瞬きで命を繋ぐ。儚くも絶対の王者。それこそが夜王、氷の美女──”
 やかましい!肉だ、焼肉とか食べにいくぞ!どこだ、肉が美味い都市は。空腹だ。空腹なのだよ。
 だから!我、遊びにいっても許されるから!たくさん食べて、寝る!まさに夜王!目指せ満足の地!」

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「これは100%、我主観で送る食べ歩きの記録……名づけて“夜王の世界”である!」


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   第1章“オクターン”
『海に面した近代都市。南大陸ラピスと交易が行なわれている。
 有名な逸話として、タコが毎日のように襲来するとかなんとか。
 シドリーからヘドロが流れてくることが問題になっている。』 ──地方解説より抜粋

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「“永夜理想郷”…夜にする能力は都市に置いてきた。この先の食べ歩きに、ついてこれそうにないからな」

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「それはそうと…南大陸ラピス!?この大陸以外があったのか!?西すら未開だろうに…。
 頭の隅に留めておくとして、実際に見てみるとこのオクターン、近代都市だ。港がコンクリで固めてある。
 コンテナや大型クレーンがあるのは港の端だ。大部分は、漁港の体裁。戦艦のような漁船がいっぱいだ。
 なんで戦艦なのか我も考えてみたが、この都市は昔からタコに襲われるらしい。と、くれば港の外も。
 恐らくそうした海魔への対抗手段なのだろう。流石に海まで<守護>が及んでいる気配は無いな、危険地帯だ」

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「何?肉を食いたいのに何故オクターンと?…ふふ、ものには順序というものがある。
 それに先に少し寿司を食べたくなってな。急に食べたくなることがあるだろう。寿司。
 魚も肉の一つ。ならばなんの問題も無し。まずは寿司、その後に別都市にて美味い肉探しだ」

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「ところがだ!予想外だったが、寿司屋が…見当たらん!ヤナギ!ふざけるなよヤナギ!!
 タコは食うくせに寿司は無いのか!文化の線引きはどうなっている、許さん、許さんぞー!」

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「仕方なく散策。出店で買ったシュリンプはガーリックが効いてて美味い。が、小腹が満たされるのみ。
 白身魚のフライとポテトが一緒になったものも味見。… これフィッシュアンドチップスというのでは?
 魚肉餃子、串に刺した丸焼きの魚…魚の種類とか詳しくないので不明…など食べつつも、コレジャナイ感。
 というかオクターン出店多いな?何故だろうかと港を見回すと大型客船を見つけた。…オルカ・イルカか。
 空路もあるが、あの観光地に船で行くなら確かにオクターンだ。旅行客目当ての出店だったというわけだ」

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「我はな。寿司が食べたいんだ。SU-SHI。見当たらないものは仕方ないので、適当な店を探す。
 看板にタコやら魚やら描かれた店が多い。そんな中、外からも見える生簀に“赤いヤツ”を発見。
 一度、がっつり頂いてみたかったものでもあるのでチャレンジ。赤いヤツとは…ロブスター!
 …ロブスター!1人ロブスター!1人ロブスター!1人ロブス…いや別に1人でもおかしくないか?」

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「価格的には思ったほどでもない。出てきたのは殻が既に割られており、すぐにありつけるありがたいタイプ。
 だが大きい。大きいと心配なのは、身がパサパサの大味なのでは無いかという心配だ。大きいとありがちよな。
 ──心配無用であった。どこから捕ってきたのか、このロブスターの味は濃厚…いや重厚…それでいて柔らかい矛盾!。
 いわば海老のようにぷりっぷりなのに、その旨みがロブスターサイズで襲い掛かってくる味覚の巨大モンスター!
 ソースはやや酸味のあるものでこれがまたあう。辛味のあるソースもあったが、酢醤油っぽいやつがよい。うむ…」

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「満足のまま店を後にして、隣の店へ。今、我の中に波がきている。オクターンの波が。
 寿司はひとまずおいておき、今度はクラムチャウダー!店の中に巨大貝が飾られているのが印象的。
 出てきたのはパンの器の…ああ、これは絶対美味いやつ…とろけるクラムチャウダーとパンはズッ友…」

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オクターンの波は荒波へと変わり、やがてタコが襲来する。タコを食わねばな!オクターンだから!
 ここで選んだのはオイル煮である。タコのアヒージョ。またもパンが相棒だ。そういえばパン、か。
 オクターンの北方は大規模な農耕地帯。小麦もそこからだろうか。地域の垣根を越えた融合だな!」

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「結構堪能したが、悪くなかった。カニや牡蠣もあった。ただ、やはりというか生は見ないな。
 基本的にロブスターもタコも、茹でた状態から調理しているようだった。まあ文化だ、文化。
 我が捜索範囲も決して広いものではない故、探せば物好き向けのものもあるかもしれんが、…さて、寿司だ」

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「最終的にこじんまりとした寿司屋を発見したのでシメをそこで頂いた。どうやらシーナからやってきた職人のようだ。
 マグ…タマゴだ等と貧乏くさいことはせん。マグロだ!マグロだ!赤身にトロだ!いいぞ、これがSUSHI!」

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「そういえばその職人からシーナ地方について聞くことができた。シーナは、やはりというか日本に近いようだな。
 日本といっても江戸時代前後か。む、我は歴史に詳しいぞ。小●館の歴史漫画は全て読んだぐらいには詳しいからな。
 寿司といっても色々あったはずだ…まあ鮮度を保つ方法に魔法があるからな、気にしないでおこう。美味ければ。
 目的地の一つにシーナのモモヤマを加えておこう。よし。それでは、まず1都目…ごちそうさまでした」


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   第2章“サンガル”
『サンガル地方のど真ん中にある、ギド山脈南部通過ルートの中継地点。
 年中不規則に襲う砂嵐、激しい寒暖の差と厳しい環境の中にある。
 かつての事件で都市の防砂シェルが破壊されたが修復が終わり、今は都市内は埃くさくない。』 ──地方解説より抜粋

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「熱ゥィ!暑ゥゥィ!!砂ァッ!!太ッッッ陽ォッッッ!!!なんで我は此処に来たァッ!!」

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「それはグルメハンター夜王による、美味いもの探しの果てであった。ナレーション、我。
 サンガルだな。サンガル地方のサンガル。サンガル地方にはサンガルしか大都市が無い。
 というのは砂のせいだろうな。部族は多いらしく、各地のオアシスをまわる生活のようだ。
 砂漠は自然とそういった文化を生み出すのだろうか。それにしても熱い…何か飲まねば…む、あれは…」

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「サボテンジュース。…どんな味かと思ったが、果実で割っているようだ。普通にオレンジだった。
 割ってないサボテンジュースを探したが、高級品らしく出店でほいほい出ているようなものではないらしい。
 サボテンは様々な効能はあるが苦いと聞いたが、どうかな…ひとまず渇きは満たされたので次へいく」

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「店の前をメニューを見ながら歩いていると、穀物系がキチンとあるのに気づく。
 交易品かと思ったが、なんと乾燥地帯でも育つらしい。少量の雨で十分なのだとか。
 もっと聞いてみればサンガルも砂オンリーではなく、場所によっては“緑の絨毯”が出現するとか。
 そこを渡り歩く遊牧民もいると。砂漠も奥が深い。しかし魔獣もいるだろうに、危険ではなかろうか」

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「穀物を練り固めたお菓子と、サボテンジュースを手に話を聞く。砂漠の魔獣は、水を嫌うらしい。
 例外として雨季に移動するタイプも居るようだが、基本的には湿気そのものを嫌うとかなんとか…。
 魔獣とて砂漠に住むなら、幻想からは逃れられないわけだ。アクアブレスは砂漠の敵に8倍ダメージだからな。
 そういうわけで“緑の絨毯”は安全地帯の証なのだとか。一度見てみたいものだ。砂漠の中の緑はさぞや綺麗だろう」

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「日が地平線に近づいてきたと思ったら、気温が急激に変化し始めた。砂漠はそういうところだったな。
 適当な店を見つけて、晩飯としゃれ込もう。やはり当初の目的通り、今回は肉がいい。肉を食べるぞ!」

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「──砂漠の肉といえば、我はヒツジとかヤギとかラクダとかそういったものを思い浮かべていた。
 予想が甘かった。オクターンでなまじ、変な飯に遭遇しなかったせいで油断していた。
 我が入った店の文字が読めなかったのも致命的だ。我はヴァースの地方の微妙な方言が読めん。
 『よっ、美しいねアンタ!“いつもの”があるんだがそれにするかい?』などとおだてられたのもいけなかった」

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「サンドワーム…ッ 虫かッ!?我に虫を食えというのか!?何、虫ではない?動物?脱皮するし蛇に近い?
 そもそも名前はサンガルワーム?ワームだろう!重要なのはワームのところだろう!地方強調するでない!
 我!虫とか!嫌だから!しかし注文してしまった。店員がゲラゲラ笑っているのが極めて腹立たしい。
 この夜王に対してよくそんなことができたものだ。わかってて注文させたな!いいだろう、受けて立つ…泣きそう」

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「… あ、牛っぽい。油は少ない。聞けば余計な油分は表皮に集まるそうだ。砂に潜るためだろうか。
 味は思ったより悪くない。砂漠の牛だと思えば。ただ、油が少ないせいか?かたい。どうにも噛み応えがありすぎる。
 聞けば、これは成体サンガルワームのものだとか。幼体ならばもっと柔らかいが、捕獲が難しいと。
 うまくスパイスで誤魔化している感がある。悪くない…ワームでなければ。ワームだと思わなければ、食える」

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「他にもサンガル料理を頂いたが、今回は庶民食というべきか、B級グルメ尽くしとなった。
 普通にヤギも頂いたが、めっちゃ歯に肉が挟まる。落ち着いて食べられる肉は無いのか、この都市は。
 終わってみれば最初のサボテンジュースが救いだった。これだけ見ればゲテモノ都市というところである。
 ちゃんと高級店に入り、まともな料理も頂いてきたが、どうにもまとも過ぎてレビュー要素に欠けるのだ…
 いや、そもそもレビューしに来たのであったか?我(ユー)は何しにサンガルへ?まあいい。ごちそうさまでした」


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   第3章“グランシス”
『象徴である世界樹の下に広がる都市、それが聖都グランシスである。
 陸路はエルーゼの霧に守られ、海路は小島の砦に監視されている上に渦潮が頻発する。
 一種のサンクチュアリであり、低級の魔物は侵入することができない。

 木漏れ日に照らされる、水路が張り巡らされた街並が非常に美しいことでも有名。
 が、世界樹の落ち葉は落ちても頑丈……しかもデカイため軽い爆撃に匹敵する。
 頻繁に起きることではなく、葉の落下率は低いが、町の建造物はこれに耐えうる強度を持つ。

 シドリーから鉄道が出ており、この都市には主に鉄道で訪れることになる』 ──地方解説より抜粋

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「葉の爆撃ぐらい平気だろうとタカをくくり、あえて直撃を受けてみたらガー不だった。死なないけど死ぬ…。
 …その、あの…聖都つらい。体調悪い。なんか常に頭痛とかする。こゎぃ。ぉぅちかぇる…。
 なんなの、ガー不の葉っぱってなんなの。町の建造物はガー不に耐性あるの?もぅマヂ無理…列車に乗る…」

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「──だがタダでは帰らぬ!グランシスでは不調であまり飯も食えなかったが、幸いにも鉄道である!!
 シドリー鉄道はセントラルシティ、グランシスを繋ぐヴァースの経済動脈の一つといえよう。
 今も鉄道路線の拡張は進んでいるし、地下工事もしているとか。確かに地上は危ないからな。
 だがそれはいい。今回はいい。いいか、列車である。列車の旅である。そこで飯ときた。な?…な?」

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「もうわかるであろう?わかるであろう!?鉄道生まれの偉大なる文化、それこそが──駅弁である!!」

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「今回は行きに食べたシドリーの、いかにもどこかにありますといった鯖弁とは違い…グランシス風とやらだ。
 そういえばグランシスなんか坊主…聖職者しか居ないだろうと思ってたが、意外とカップルもいた。
 静かさを好むのか、結婚の下見か。まあそんな色恋沙汰はどうでもよい。飯だ。飯が我の恋人なのだよ」

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「いわゆる精進料理とでも言うものか。一見すると肉、魚が入っているように見える。
 実際には豆腐であったり、煮豆であったりと菜食だ。不殺生主義は<守護>の根幹、信仰も多いもの。
 故にか、一定数ベジタリアンがいる。まあ肉の味を知らん奴は、知らん。知らんが…今回は味わってみよう」

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「時に、この駅弁だが和風だ。都市は明らかに大聖堂などがあり、とても和では無いのだが和風だ。
 車内の旅行地図を見てみると、シーナにぎりぎり含まれない程度の位置にグランシスはある。
 とすれば、食文化はシーナ由来なのだろうか。考えつつ…食べてたが…味が薄い!醤油をもっと寄越せ!」

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「…ん、そういえば肉や魚に見せかけるのは確か和風ではなく、別の…地域だったような…。
 海老のように見えるのは色つきのこんにゃく。ステーキのように見えるのは、まあ案の定豆腐だ。
 ようは見た目で楽しめということだろうか。重要な要素ではあるものの、味が薄い。ううん…美味しいが…。
 結局、味はよかったにせよ我としては好みではない。肉もどきは、肉では無い。肉が食べたい…」

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「偉大なる駅弁に肩透かしを受けた我は、しかし一時停車…中継駅にて新たなる希望を見つけた。牛のマーク。
 牛丼か?違う、あれは…ファーストフード!まだ…発射まで時間はある!急げ、我!肉だ!ジャンク!ジャンク!」

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「ジャンクフード!いいぞ、ビーフパテ!追加オプション!もってけダブルだ!急に歌うとも!
 Meat comes!Meat comes!肉が来るぞ!肉が来るぞ!肉が…来た!列車に駆け込むと、ちょうど動き出す。
 ギリギリであったな…だが、この手には全人類の希望より重いものがある。この際、風情など知らん。
 食べたいときに、食べたいものを食べるのだ!王だもん!夜王だもん!それではいただきます!」

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「……これだ!我が求めていたのは。この味の濃さだ…!コーラもあるぞ、ポテトもあるぞ!
 グランシスという都市も、グランシスの食事も我としては好かんが、健康志向ではある。
 だが、肉──それが世界の理。肉王。我は今、肉王になっている。ジャンクフードが新たな世界樹である

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「シドリーの土産物屋の中で、グランシス産フルーツのゼリー発見。…フルーツ…だと…?
 聞いてみれば、レアな果物がめっちゃ美味い都市だったらしい。おのれグランシスッ!
 何故そんな美味いのに一切駅弁に入ってなかったのだ!くやしい、謀られた!…くやしい!
 もう一度行く気は起きん故、取り寄せてやる。それはそうと、今回もまあ…ごちそうさまでした」


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   第4章“ミストグローブ”
『厳密には都市ではなく、地域情報としての記載となる。

 深い密林と濃い霧に覆われるミストグローブ。
 広大なミストグローブの森には集落が点在し、正確な数や規模は把握しきれていない。
 未開の地まで森が続いているため、未知の魔物や幻獣が生息し極めて危険。
 さらに奥地には半獣人の王国が存在しているらしい。
 かつて森を守護していた部族「森羅五将」の隠れ里でもあった。
 現在、森羅五将は衰退し宗家である葉神家、譜神家といくつかの分家しか残っていない』 ──地方解説より抜粋

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「 魔獣 → 討伐 ≒ 骨つき肉 我が計算に 一切の狂い無し 夜王だから!」

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「──我が森に入ってから1週間。我は1人、森の中。うむ、ガイドを雇うべきであった。
 野宿そろそろ辛いのだが?世界の果てまで行ってQればいいのか?それともモンスターでハンターか?
 遺跡も此処にはあるらしい。つまり行き先はダンジョンゴハン、…嫌だ!まともに食べたい!」

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「さらに1日動く。捕獲レベルがうなぎのぼりの危険生物ばっかり寄って来るんだが?グルメ界は此処にあった。
 あれは腕利きの調理師が居て成立する話であったような…撃退はできるが食わんのに殺すのも忍びない。
 そろそろおやつにもってきた胡桃で飢えを凌ぐプレイスタイルに飽きてきた…というかお腹すいた…」

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「…大型魔獣に襲われていた半獣人の少女を助けた。この展開、我知ってる。な●う系でよくあるやつだ。
 都市部で見かける、人型に近い亜人に比べるとずいぶんとケモケモしているな。半獣人というのは。
 『動物の特性を持つ人間』ではなく、『動物が人型になった』のがこのあたりの亜人…半獣人と見える。
 言語が日本語では無かったので身振り手振りで説明。ワレ、メシ、タベタイ。ワレ、メシ、タベタイ」

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「逃げられた。何故だ。我に食べられると思ったのか。我、流石に人型のものはちょっと食べにくい。
 首元にかぶりついて血を吸うのとか無理。接吻のようなものだろう。一般吸血鬼に羞恥心は無いのか…?」

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「…仕方ないので魔獣を検分。<守護>を受けていないのが魔獣ということだが、これも例外ではないようだ。
 ゲーム的にいえば“キャラクター”に該当しないものは<守護>を受けない、という世界のプログラム。
 魔獣は敵になるべくして生み出されたのか、それとも異世界からの外来生物なのか…研究者もとむ」

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「半獣人少女が援軍つれてやってきた。ついでに槍を向けられた。なんだ貴様ら。原住民なら槍なのか。
 確かに槍はいいものだが、貴様らテンプレが過ぎると思わんのか。とりあえずワレ、メシ、タベタイ
 …威嚇された。半獣人少女は首を振っている。この状況、どうしたものかと…腹も減ったし…あっ   …」

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「──腹の虫が調停者となり、誤解が解けた。凄く大きな音がした。恥ずかしい。これは恥ずかしい。
 仕方ないだろう。1週間、胡桃だけで過ごしてみろ。ひもじくて泣けてくるぞ。実際ちょっと泣いた。
 おかげで飯にありつけたが。…半獣人の王国、にしては規模が小さいので、此処は村なのだろう。
 文化が和洋華古近中乱れ打ちのヴァースにおいて、実に密林の部族です、と主張してくる雰囲気がむしろ新しいな」

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「木彫りの食器。魔法は使えないわけではないようだが、日常生活には用いないのだろうか?宗教的価値観…?
 族長を正面に、円陣を組んで食事である。我が助けたのは族長の娘か。うん、そんな気がした。お約束よな。
 どうやら我が仕留めた魔獣を振舞ってくれるとか。ステーキか。いいな、ステーキ…腹鳴る…マジ腹鳴る…。
 フルーツなどもあるが、魔獣肉に期待。はよう!はよう!はよう!1週間ぶりの飯だぞ、とにかく腹を満たすぞ!」

+...
「どんな料理が出てくるかと思ったら、ステーキどころではなかった。いや、とにかくこれは!!おお!!
 なんと、なんとなんと骨付き肉!しかも念願の、漫画肉!!骨付きの、漫画肉!!幻想世界の漫画肉!!
 新鮮な肉を贅沢に丸焼きして骨を掴んで丸齧りするスタイルの、食環境も含めて本当の漫画肉!
 マーンガじゃない!マーンガじゃない!ほんとのこーとさー!!いただきます!!…意外と柔らかい!
 得体の知れない香辛料の香り!悪くない、なにより形状がロマン過ぎて気にならない!我が肉王だ!」

+...
「だが、我は知っている。この形の“骨付き肉”は存在しない。それ故に漫画肉と呼ぶのだ。
 この漫画肉は…骨の両端付近の肉を削ぎ、あえて形を整えて骨をつっかえ棒に乗せて焼いているのだ。
 ケバブ…いわゆるドネルケバブの積層肉や手製漫画肉のように肉を巻くのではない。豪勢である。
 周囲を見ると、チョップ…骨の片側に肉がついているモノを食べる半獣人が多い。あれも食べたい。
 族長の半獣人だけが、我と同じ漫画肉を片手で掴んで食べている。漫画肉は地位の証ということだ。
 我は来賓だからということだろう。この漫画肉は…半獣人にもロマンなのだ。…でもチョップの肉も食べたい」

+...
「漫画肉といえば、形作りの時の削いだ薄い肉は無駄にせず塩漬けにした後、干し肉にしているらしい。
 干し肉だぞ干し肉。ファンタジーなら漫画肉より、もしかすると干し肉の方がロマンがあるかもしれん。
 村を散策中、塩漬け肉を入れた壺を運んでいた半獣人にジェスチャー。ソレ、タベタイ。ソレ、タベタイ。
 …何故か物凄く拒まれた。非常食だからだろうか?3度見つめたら、仕方ないといった体で完成品をくれた。
 まず触った感じで硬い。ジャーキーみたいなものか。…なめると塩の味がする。…いや塩の味しかしなくない?」

+...
「ミストグローブは東側が海に面している故、塩は調達できるのだろう。漫画肉もそれなりに塩気があった。
 …海水を煮詰めてにがりと分離すればとれるんだったか?もっとサバイバルな料理漫画を読んでおくべきだったな。
 それはそうと噛めないことも無いので噛む。塩分濃すぎない?大丈夫か?と世話係の顔を見たらドン引きしてた」

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「どうやら通常はナイフなどで削り、薄切りにして頂くものらしい。確かにパンなどに挟めば美味そうだ。
 噛んでいくと塩気のなかに肉の旨みがある。干し肉の製法は詳しくは知らんが、ファンタジーらしいコツがありそうだ。
 そのまま族長のところに行くと大爆笑され、干し肉をたくさんくれた。気に入ったと思われたようだ」

+...
「その後、なんとか手振りで“森から出たい”“都市に行きたい”をアピールしたところ、通じた。
 半獣人達に別れを告げる。短い間だったが、いい奴等であった。王国のほうにも行ってみたいものだ。
 族長の娘が途中まで案内してくれる。指差す方向を見ると、針金や目立たない色布で印がしてある。
 確かあの印の形は……“森羅五将”のものだったか。彼らなりに、この森にも道があったということだ。
 気づかず1週間ちょっと、彷徨い続けた我は少し間抜けが過ぎたのでは…いや考えないでおこう。
 そして…さらばだ、半獣人の娘。また漫画肉が食べたくなった暁には、此処まで来させてもらうとする!」

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「お土産の干し肉を噛み噛みしながら半日歩いていたら森から出られた。距離感どうなっているんだ。
 …と思ったら、シドリー側から入ったはずが、遠くに世界樹が見える。グランシスだ…またグランシスだ…。」

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「確かに都市に行きたいといったが、グランシスとは…あまり滞在したくないが、仕方ない。
 鉄道で帰るとしよう。ついでにフルーツを仕入れてな。そういう意味では、ちょうどよかったか。
 それに結果的に骨つき肉にもありつけたし、我が計算に狂いは無かったな!──ごちそうさまでした!」


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+...
 “フォルフラント”
『南部に密林が広がり、北部にはそれに加え豪雪地帯という厳しい地域であるフルプラント山脈。
 そんなフルプラント山脈南部の中腹に存在する高原地域。そこにあるのが山都フォルフラントである。
 夏には草原すら見られる豊かな自然に囲まれる。そんな中、穏やかに立ち上る蒸気が目印である。

 温泉街を有する観光名所。麓までは比較的整備された道路があり、麓にはランドール鉄道の駅がある。
 このフォルフラントを中心にしてさらに標高の高いところには秘湯を有する村々がある。
 ただの秘湯ではなく、ものによっては解呪や治癒の力があるとかなんとか…。』 ──地方解説より抜粋

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「──温泉ネタだと思ったな?その通りだ。標高の高いところの秘湯は狙わんがな。
 行けば絶対迷う。密林の次は雪山で遭難など、我は迷子芸人では無い故!やらん!」

+...
「山都フォルフラントだ。フルプラントの中のフォルフラント。まぎらわしいな。
 我が寝ている間に作られたのか、シドリーからランドール鉄道が山の麓まで出ていた。
 今回は三色丼風の駅弁を軽くキメつつ、そこからバスで山の上まで数時間。旅行だなぁ」

+...
「バスは嫌に静かで、この時期は観光客も少ない…か…と思ったがよく考えてみれば駆動音が小さい。
 というかガソリン?ないのでは?新造世界のヴァースでは石油取れない…よな?と衝撃に1人激震。
 ヴァースもそれなりに星としては古いが、そう何千年も歴史があるわけではない。ガイドに聞いてみた。
 …魔力!ふざけるなよファンタジー!化石燃料の代わりは何でも魔力か!ふざけるなよヤナギ!!
 魔力で動かしているから音も静かだと?電気自動車みたいなこと主張しおって…これだからファンタジーは…」

+...
「…到着して散策。ドラム缶から立ち上る火で暖まってる子供達と家族を見つける。…ドラム缶…。
 正しい知識かわからぬが、ドラム缶は石油などを運ぶために作られたケースではなかったか…?
 中身は竹のような植物だった。群生地があり、すくすく生えるためこうして燃料として重宝だとか。
 見ていると、石を詰めて火勢を落とし、そこに芋を入れ始めた。…こ、これは!焼き芋か!
 形状も見た目もサツマイモに近い。薄紅色の皮。このへんで取れる作物だろうか。…う、美味そう」

+...
「分けてくれた!ありがてぇ!人の優しさが身に沁みる!ほっくほくやぞ、ほっくほく!ほろりほろほろ!
 甘い、焼き芋甘い!こういうシンプルにして大正義なのいい…特に肌寒い中では、これがいい…。
 ついでにお婆さんから、オススメの温泉宿情報も入手。夫が経営しているとか。はは、商売上手め。
 タダで頂いてしまったお礼に、そこへ行くとしよう。縁は大切にしていかなければな、特に食の縁は」

+...
「市外へ向かうと、目立つのは時計塔。日が落ちてきたせいか霧も出ていて、ほのかに幻想的だな。
 あの時計塔にも異世界入り口説があるようだが、どうせこの都市にも我のような引き篭りがいるのだろう。
 異世界から爪弾きにされたが、元の世界の文化は欲しい。そういう浅ましい奴が対界回廊を作るのだよ。
 そう、我も元居た世界に居られず…嘘だ。税金払いたくないから、払わなくていい居住地がほしかっただけだ。
 当然のこととしてサブカルに浸かりたいので無理やり回廊作っただけだ。夜王特権。夜王特権だともさ」

+...
「ところでスマートボールを知っているか?我、あれ好きなのだ。1発ずつ手打ちするのが、童心をくすぐられる。
 なんと、そういった古い遊戯を市外中心部のゲームセンターに発見。これは寄らずにはいられない。
 パチンコ台などと違い、横向きに置かれた緩やかな傾斜のあるステージ。これは5点の穴に入れば5個ボールが戻る。
 縁日などでは違うタイプもあるようだ…と遊んでいたら、持ち球があっというまになくなってしまった。無情なりや」

+...
「屋台にありそうな射的もチャレンジ。我が鍛えられたエイムはリアルには適用されず、残念賞の紙筒の玩具を貰った。
 ペーパーローリング。長くコイツの名前を我は知らなかった。振ると巻かれた紙が伸びる。こういうの振るうの楽しい!
 店内射的場は子供も多い。見れば景品も子供向けが多い。温泉街特有の遊技場の一つであるというわけだ。
 近くの子供に紙筒玩具を授けて宿へ向かう。少々遊び過ぎた。日も落ちてしまった。宿にいくとしようか」

+...
「お芋お婆さんの夫が経営者という。温泉宿である。高級旅館というわけではない、が。長年開かれてきた重みがある。
 予約は無いが大丈夫かと問えば、おや心外な、予約は済ませたじゃないかとお婆さんが奥から登場。はは、こやつめ」

+...
「料金はお手ごろ。闇都の無駄にオサンティな高級ホテルよりよっぽど安い。お客は我以外にもちらちらと。
 基本的に予約客以外も受け付けているが、日が落ちる前に入らないと宿泊のみで食事は外になるようだ。成程。
 我が来たのはどうみても日が落ちた後なのだが…お芋のお婆さんは構わん構わんと気のいい返事。ならば甘えよう」

+...
「食事の前に軽く入浴。身を清め、飯を食らい尽くし、そして寝るのだ。我は下戸故、温泉で飲んだりはせん。
 室内に身を清める場があり、屋根はあるものの、屋外に作られた露天風呂。サウナは無いようだ。
 湯に浸かり、空を見上げると月が見える。あれもまたフェイクムーン。地球の月と同じ力はあるがな」

+...
「部屋に戻り数分、仲居さんが料理の準備が出来たことを知らせてくれた。部屋に運んでくれるらしい。
 く、我1人のために、しかも飛び入り客のためにそこまでしてくれるのか…と言うと、仲居さんが微笑んだ。
 仲居さんはお婆さんのお孫さんらしく、聞けば我のようにお婆さんが急に連れてくることが多々あるらしい。
 お婆さんが声をかけると大抵、来てくれるのだとか何とか。はは、ほんとに商売上手め。天晴れであるぞ」

+...
「運ばれてくる料理は値段相応かと思いきや、流石お婆さんオススメ。色彩豊かで見るだけで腹の減る料理たち。
 山菜まとめに筍、キノコ鍋!そして身の白い魚が丸焼きだ。どこの魚か聞くと北方側から仕入れているのだとか。
 氷の下を泳ぐ凍魚と呼ばれる類いらしい。厳しい環境でその身には旨みが詰まるとかなんとか美味ぇ!箸が止まらん!
 煮物も美味いぞ!グランシスとは何だったのか。これだよこれ、こういうのでいいんだよ!味噌汁も独特の風味。
 入っている海藻も北方からのようだ。北方はレノマーサとツァラドか。飯の宝庫と見た。旅行先リストにINだ」

+...
「なんとデザート…これは…イモソフト!?ほんのり赤いのは皮の部分の色だろうか。お芋お婆さん…!
 皮ごとすり潰しアイスクリームに取り込んだというのか…いけないぞ、これは絶対に甘さがクライマックスだ。
 あ、あ、あ、…あ~~…                       ──芋と王は、字が似ている──
 すなわち、芋とは王のことであった。プリンかという柔らかな舌触りの後、しっとりとアイス感が出てくる。
 甘さの中、皮部分が食感に主張してくるにくさ。砂糖と違う、自然の甘さは何口でも食べてしまえる。ああ~~…」

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「寝た!そして朝風呂!準備万端!朝飯!!やばい、20皿ぐらい小皿で出てきた!何これ!
 それぞれに一品一口ずつ乗っていてどれからでもどうぞという構え!そして山菜炊き込みご飯!ひょぉ!!
 小皿の中には白身魚を刺身にしたもの、芋のツルの炒め煮と昨晩なかったメニューもあり飽きさせない。
 採算とれるのか心配になるが、フォルフラントは政策として宿への補助金があるんだとか。流石の観光都市。
 それを目当てに質の悪い宿や、中心区の近代的な宿もあると。世知辛いのじゃぁ…此処の宿でよかった…」 

+...
「朝からがっつりいってしまった。されどデザートは別腹。別料金でわざわざイモソフトを注文済みである!
 ああ~~王が芋になっていくんじゃぁ~~…満足──   テイクアウトは無いようだ。残念である。ほんとに」

+...
「その後、お芋お婆さんの旅館に別れを告げ、御土産屋に。木刀…時計塔の小模型…修学旅行の土産物屋か!
 売れていくのを見ると、定番はどこでも定番なのだとわかる。食べ物だと山菜関係が多め。あと、芋。
 旅館で食べると美味しくて良いが、持ち帰ってまで山菜食うかというとそれほどでも無いのが難しい。
 …と思ったら、ラーメンなどに入れやすいドライ山菜なる魅力的商品発見。これだ!いいぞ、こういうの!」

+...
「かくして我が一泊の旅行は終わった。これなら二泊三泊しても、まだまだ楽しめそうだ。
 お芋お婆さんの宿はフォルフラント南地区、バスターミナルから比較的近いところにあるぞ!
 岩盤通りを直線して突き当たりを左折!是非また行きたいものだ。それではごちそうさまでした!」


6
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   第6章“キアシス”
『リーズベルト魔法学園のある都市。魔法使い達の町といっても過言ではない。
 新たに魔法を学ぶ者、魔法を探求する者…多くの魔法関連技術が此処に集まる。
 反面、バトル気質は少なく大人しい都市ではある。そうした者は出奔していくのだ。
 なお抗魔金属が大嫌いであり、所持が確認されるとすごい勢いで魔導警察が動く。

 また、この都市の外れにある天空エレベーターで空へ行くことができる。
 空にはスカイロードという天空都市が存在し、キアシスはその入り口でもあるのだ。』 ──地方解説より抜粋

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「我、ナリカ17歳☆ リーズベルト魔法学園の転校生☆ みなさんヤオー☆ きゃはっ☆」

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「やめよう。普通にいくぞ。制服は久しぶりだ。我は身長が180とかあるせいでその…似合わないかもしれんが。
 何故制服か。そして何故、入学しているのか。何故、リースズベルト魔法学園なのか。真実はいつも一つだもんげ」

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「──リーズベルトの学食。食べてみたい。学食、食べてみたい。美少女潜入調査員ナリカ、任務開始。
 ああ、吸血鬼は偽名はアナグラムしか名乗れないらしい。なので並べ替えてみた。別にそんなことは無いんだがな…。
 それと制服だが、別に私服でも全く問題ない。学生だとわかるようにワッペンやら腕章があればいいんだとか。
 授業料は入学時、寮生活ならは入寮時、授業選択時に都度発生する。闇都の貴族校よりも安いな、授業料…!」

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「魔導都市キアシス。リーズベルト魔法学園のためだけに作られた、魔法学園のためだけの都市として始まった。
 今現在は立地もあり、ランドール鉄道も繋がって人の出入りも多い。セントラに近いのも影響してそうだな。
 さて我は闇都からの転入生という設定だ。闇都にも学校ぐらいある。高慢チキな貴族校だが、今回は不問としよう」

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「…やばい!此処思ったよりやばい!教師に都市代表クラスの奴が平然と混じってて怖いぞ此処!
 抗魔金属嫌いの都市らしいのに、抗魔の吸収率の上から殴り殺せそうなのが居て恐怖しかない。やだ何この魔境。
 我の正体に気づかれると、飯にありつけなくてまずいのでただの無害な羊を装う。“牧羊の季節”。隠蔽である」

+...
「授業にも参加。形式としては単位制のため、いきなり我のような輩が増えても特に気にはされない。
 実技のある授業と、座学の授業があるのだが今回は座学のみで通す。我は魔法は苦手だからな、うん。
 年間を通して特定の属性を学ぶもの、<守護>の使い方…え、なんだって…?…<守護>の使い方を学ぶもの。
 召喚術や錬金術など、他分野の混じるもの、鉱石学や魔器学など講座は多岐に渡るようであった」

+...
「講座一つは二~三ヶ月ごとのサイクルらしく、我が入ったのはちょうどその中期。内容はなかなか高度だ。
 要は最終的に戦闘者になりうるか、都市経営可能な魔導師か、など何かしらになりうる魔法使いの育成だ。
 この世界は魔法無しに成り立たない。物理法則でさえ魔法無しに語れない。だからキアシスは栄えるのだろうな」

+...
「こうした学園を見ると魔導物語を思い出すな。ぷよ●よ、好き。わからんか?わからんかもしれんな。
 ところで我が何故、わざわざ授業に出ているか?けっこう学ぶところがあるので中途でもメモとっているのは?
 それは、学食とは授業後に食うものであるからだ!様式美!様式美!学生だから学食!我は学徒なので、学食!
 学園は広く、学食もいくつか存在する。今回は我が参加していた鉱石学の教室から近い、西側の食堂に行くぞ」

+...
「ッ、く…人が、多い。席が空いてない。いや、1席の間隔をあけなければ座れるのだが、それは、いけない!
 1人飯にはなぁ!距離ってもんが必要なんだ!セルフサービスの水のコップを手に、席を見渡す。この緊迫感。
 無い!安全地帯が、無い。手に持ったコップが震える。落ち着け、落ち着いて探…く、無い…ちくしょう…。
 ──敗北感と共に、学食の外に出ていたパン屋で焼きそばパンとコッペパン、コーラを購入。今日は外で食べるもん…」

+...
「良いスポット発見。草原に生える一本の木の元に、サッとハンカチを敷き。空を眺めつつパンを頂く。 
 見上げればよく見ると細い一本の柱が見える。都市の外れの天空エレベーター。スカイロードへの道だ。
 スカイロードは闇都の対とも言われているらしいな。天使とか有翼人の都市とか。まあ人種は問わん。
 問題は飯が美味いかどうかだけだ。…コッペパンが意外と香ばしいな。もう一個ほしい。コッペパンを要求する!」

+...
「翌日。秘策、『昼前に授業を入れずそこで学食にいき人が少ない中で飯を食う』を実行。うまくいった。
 ちらちらとしか生徒はいない。じっくり学食のメニューを見て、思うことはまずは安い。相場の半額程度か。
 良心的過ぎる値段に対して、メニューの豊富さ。ハンバーグ、カレー、ラーメン、焼肉系、丼もの、定食系。
 特定のチェーン店よりも豊富だ。日替わりでステーキ定食なんてのもある。今回は…ずばり、カレーでいこう」

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「定番、カレーライス。学食カレーライスはらっきょと福神漬けが別カウンターにあり、乗せ放題だ。いやっほぅ。
 ビーフカレーのようだな。お値段は地球日本単価に照らすと350円。大盛り券無料。もちろん大盛りにした。
 飾り程度にホワイトソースがかけられており、その下にはごろっごろの肉が!いただきます!…うむ!カレーだな!
 奇を衒わぬ王道の味。中辛ぐらいか。とろみが強く、ご飯と共に口へ運ぶとしっかりとした馴染みの味が広がる」

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「とてつもなく美味い、というわけではない、が…欲しい味が口の中に入ってくる。この幸せ…わかるだろう。
 カレーを食べたい、という時にカレーがしっかり味わえる。これほど嬉しいことは無い。いいなぁ学食!
 何せ明日にはラーメン、明後日には炒飯餃子セット、明々後日にはハンバーグ定食、選びたい放題。
 旅行先で食べる料理とは勿論、趣きが異なるものだが、こういう生活も悪くない。安いし永住できる」

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「…学徒で居られる時間は短い。教師にでもならない限り、いずれはどこかへ旅立つものだ。
 だからこそ価値がある。潜入調査してる我が言っても、全く何も含蓄も無いけどな!短期転入中は満喫するぞ!」

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「翌日も鉱石学の授業。鉱石魔術、あるいは宝石魔術。ただの占い、お守り程度から実戦魔法まで幅広い。
 鉱石学の初歩は、鉱石の持つ基本的な特性、加工難度、概念、属性相性などを理解し、手に取っていくこと。
 基本講座が終われば、既存の鉱石を用いて魔力付与するものと、自らの魔力で魔法石を作るものと系統は分かれていく。
 同時に加工学、採掘学の講座も加わり、鉱石学だけで一大ジャンルを築いている。奥が深いな、鉱石学は」

+...
「術者本人でなくとも、その作成物を用いることができる。これは将来設計上、一つの道を作り出す。
 直接的な“商品”として、己の魔法を売り出す道だ。これは他の魔術系統、特に属性魔術には乏しいものだ。
 属性魔術は生活魔術と戦闘魔術。どちらにせよ、基本的に術者がその場にて始めて働くものだからな。
 うーむ、このまま学園に入り浸りたくなってきたぞ。勉強が楽しい。この機に鉱石学を究めるか…?」

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「しっかり頭を使ったので学食。昼休みを午前中の復習と鉱石学の前半部分の習得に費やし、昼過ぎだ。
 授業の進みめっちゃ早い。鉱石学も二ヶ月で初級が終わる。しかも週1ではなく、週に何回かある。
 年間カリキュラムのものもあるようだが、ガンガン学びたい意欲ある者にとってはこの方がいいのだろうか。
 兎も角、昼後に今日は授業が無い。ピーク時を外すことにより、学食での安全地帯を確保する時間差の技である」

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「メニューの半分が売り切れになっている!まったく予想していなかったなぁ!我の予想をこえるとはなぁ!
 学食は無限に飯が出てくるわけではないようだ。まだあるメニューのうち食指が動くのは…カレーか、炒飯餃子セット。
 ラーメンと定食は打ち止めか。確かに玉数が限られてそうだ。うーむ、学園の他の学食に向かうのもだるい。
 カレーは昨日。二日連続も悪くはないが、ここは炒飯餃子セットでいこう。小ライス無料?オッケー良心的!」

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「餃子は野菜餃子。炒飯にはなんと焼肉が5枚も乗っかって出てくる。もはや焼肉丼である。すごい!
 さらにスープも無料ときたもんだ。中華スープでなく、今日はわかめの味噌汁だったがな!贅沢は言うまい。
 ただの炒飯と餃子だと思っていた我が浅はかだった。育ち盛りの学生の腹を満たすボリュームなのだ。
 学徒は成年した者も勿論いるが、やはり半数以上は若い。これからの魔法世界を担うエース達の活力源だ」

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「その後1週間ほど学生ライフ。朝飯、昼飯、晩飯と全て学食で西側食堂はだいたいメニューを網羅。
 学食のおばちゃん、おじちゃんとすっかり仲良くなってしまった。学業、学食ともに名残惜しい。
 我は偽者の学徒に過ぎん。いつまでも居座るわけにはいかん。が、鉱石学はキチンとこの後も学ぼう。
 オススメの学術書を鉱石学初級の先生に聞くと、中級以降のものもいくつか教えてくれた。ありがたい」

+...
「学園には、別にいつ戻ってきてもいいとも言われた。一度入学すれば、追放されない限り再度授業を受けられる。
 年間の授業料ではなく、授業選択時に授業料が発生するのはそうした理由か。我は、正しく魔法学園の生徒になった。
 先生にお礼を言い、学園を去る。また鉱石学で躓くことがあれば、来るとしよう。あと、ご飯のためにな!
 今回はとても有意義だった。ヴァースの魔法は広く、深い。学食もまた同じであった。では、ごちそうさまでした!」


7
+...
   第7章“ツァラド”
『北海からの寒気により、その気候は極めて厳しいものとなっている。
 陸路はフォルフラント山脈、海路は流氷に遮られているため、転移ゲートが無い時代は移動が困難を極めた。
 かつては人口が極わずかだったが、現在は転移ゲートによって移動が容易となったため、ある程度増加してきている。

 領域内には幾つかの街が点在するが、それぞれの街の代表者達は話し合いの結果、より良い環境を得るために都市を連合

することを決定した。
 こうしてツァラドに、ヴァースでは珍しい都市連合が発足することとなった。』 ──地方解説より抜粋

+...
「この温度計、マイナス50度まで計れるんだがメモリが消えた。マイナス50度を下回ったということだ。
 今は雪も止み、風が吹くのみ。満天の星空。あの星々一つ一つが遠き異世界。美しいことだ。あー… 寒い…」

+...
「凍都ツァラドを離れ、北へ2日。気候そのものは穏やかで、雪は確かに積もるが、吹雪いてはいない。
 西側レノマーサと東側ツァラドはともに山より北方だが、大きな違いは気候の激しさと土地の気温にある。
 レノマーサ側は森等もあるが年中猛吹雪であり、空が見えないことの方が多い激しい土地。だが気温としてはマシ。
 それに対しツァラドは単純に気温が低い。常にマイナス30~マイナス50度。氷の気質が強いのだろうな」

+...
「そんなツァラド側に我が来ている理由。それは、この降り積もる雪の下に用事があるのだ。
 ツァラドには“湖”が点在している。穏やかに降り積もる雪のせいでその所在はわかりにくい。
 地下で淡水と、海からの海水が交じり合った静かな世界。そこでしか生きられない魚、凍魚。
 温泉宿で頂いたあいつを、今回は!釣って食おうというわけだ!現地で焼き魚にしてくれるわ!」

+...
「が、寒い!寒いというか痛い!死なない代わりに永久に凍結してしまう。考えるのを止めるハメになる。
 まず個人用のこじんまりとしたテントを設置。荷物を放り込み、スコップを取り出す。今回の必需品だ。
 凍都での教えに従い、かまくら作りといくわけだ。本当は寒さがマシな昼間に着手したかったのだがな。
 湖の氷は厚いため、スコップがうっかり氷面に刺さっても問題なし。むしろあとのために氷面まで掘っておこう」

+...
「雪をどんどん積み、ばんばん固めていく。ちょっと楽しい!土台を作って踏み固めたら、次は真ん中に積む。
 あとでこの真ん中は掘り返すので緩めに、壁側は固め。一人でこの作業はなかなか骨だが、仕方あるまいな。
 今回は高さより広さが欲しいため、2mほどまで積んだところで屋根を作り固める。そして一晩待つというわけだ」

+...
「徒歩で来たため、荷物はそこまで多く持ち込めない。個人用テントも本当に狭い。布が分厚いせいだな。
 ただの風除けのようなものだが、無いより万倍まし。もってきた固形の保存食で今日は我慢。
 寝袋の中に毛布も突っ込み、懐炉も入れて寝る。けっこうこれは温かい。寝袋の口まで閉め、おやすみ…」

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「翌朝だ!晴れてるし、気温もかなりマシだ。かまくらも頃合、固まってるのを確認し中を掘り進める。
 内側からも固め、完成。うむ、個人用テントよりも広い。中にテント布を畳んで敷いて床代わりにする。
 荷物を放り、冷凍ご飯セットをランプの側で解凍開始。いざ、凍魚釣り。専用器具、アイスドリルさんの出番である」

+...
「折り畳みされていたアイスドリルを展開。昨日のうちに雪をのけておいた場所に、突き立てる。
 手動ドリルなのでゴリゴリと…いやシャカシャカだなこれは。穴をあけていくと、下に突き抜けた手ごたえ。
 ドリルを上下に動かし、穴を確保すると出番は終わり。ここからは折り畳み椅子と、“てぐす”の出番だ」

+...
「釣竿は無し。てぐすの先に針と、持ってきたオキアミの幼体をエサとしてつけ投下。…なんでも伝統なんだとか。
 大型魚がかかったら指切れるんじゃないか。一応、手袋してい…うおっとかかる!早いな!我の幸運の賜物か!?
 引き上げると、ボール状の胴体と尻尾しかない生物。…ヒレがないんだがなんだこれは。魔獣の一種か。フグ?
 少なくと凍魚ではないな。凍魚は体長10cmほど。プランクトン類や小型のオキアミを食べて育つとのことだが…」

+...
「またボール生物が釣れた。ギリギリ、掘った穴を抜けてくるのだがほんとなんだこいつ。顔は愛らしい。
 手で掴むとぶにぶにしている。持ってきた北方生物図鑑で調べると油魚というものらしい。油か。このぶよぶよは。
 これもオキアミを食べるらしく、このボール油魚がいるところには凍魚もいるということだ。そしてこいつは食えん。
 油魚の体成分は消化できない。もし食べれば、美味と引き換えに尻から油を垂れ流すことになるらしい。何それ怖い」

+...
「燃料にはなりそうだ。オイルも有限、代わりになるなら2、3匹確保しておこう。気を取り直して釣り再開。
 ボール。ボール。ザリガニっぽいやつ。リリース。ボール。要らん、リリース。ボール、帰れ。ボール、…。
 油魚多すぎない…?ほんとに凍魚いるの…?いや、信じねば。ここで糸を垂らすのをやめれば確率は0になるのだ」

+...
「…ッ!きた!ボールと違う、引く手ごたえ!ザリガニは強かったが、これはサイズ的にザリガニ以下!
 吊り上げてみれば、白い鱗の綺麗な魚。確実にこれは凍魚!氷下でしか生存しない、色無き魚である!!」

+...
「続けて3匹ほど釣り上げ。おそらく群れが氷下に来た。できれば凍都に持ち帰るために1ダースは確保したい。
 次々に釣っていく。こんなに釣れていいのかな…と思っていたら急に危険な引き方。凍魚では無い、大型の気配。
 糸を離すか迷ったが、先に針のほうが千切られたようで引きがなくなる。糸だけ回収。群れを追ってきた大型魚か。
 こうなるともう期待できん。が、全部で20匹。持ち帰る分も含めて、大漁といえる。お楽しみタイムを始めよう」

+...
「いきなり焼くわけにはいかないので、湖水と共にバケツに入れ放置。酸欠死を防ぐため、ために取り替える。
 これで内蔵を洗う。内蔵の処理はせず、今回は丸焼きコース。しばらく放置した凍魚を掴み、串刺しである。
 残酷!残酷!我こそはツェペシュなり!串刺し公であるぞ!凍魚相手だがな!すまんな凍魚、食べたいんだ。
 貴様の頭から尻尾まで全て我が血肉にしてくれよう。5匹ほど同じ手順で串刺し。持参した小さな七輪へ…」

+...
「炭火に直接、串を刺してミニ焚き火状態。七輪の形が微妙にかさ張ったが、もってきてよかった。
 焼けたら頭から頂く。…柔らかい…魚特有の、丸ごとかじったときの苦味が少なく、むしろ甘さすら感じる。
 これが凍魚か。環境として養殖も困難なレア魚。旅館で頂いたものも美味だったが、これは…別格感があるな」

+...
「焼けた分を七輪からのけ、冷凍ご飯セットを本格的に解凍。この時のために固形保存食だけで食い繋いだのだ。
 マジカルほっかほかご飯!魔法すげぇ!ファンタジーはこういうところだけは誉め称えたい、全くもってよいぞ!」

+...
「冷めないうちにご飯と共に焼き凍魚を食らう。んん~~!和っ…和だが、それを超えた魚と米の融合感!
 塩も振っていないのに、ここまで自然の味だけで勝負できるというのか、凍魚は!っかー!苦労したかいがあった!
 かまくらの中で七輪の前で食うご飯。風情と、新鮮な魚を贅沢に焼いて食うこの達成感。よーし、満足した」

+...
「それから一晩寝て、かまくらを崩し、荷物を纏める。もちろんゴミは持ち帰りだ。環境保全大事。
 ボール魚だが、結局こいつらの油は燃え過ぎて使えなかった。もっと豪快に火勢が要る時だな…。
 かといって捨てていくのも悪いので凍魚と一緒に持ち帰り。どこかでボール魚、引き取ってくれればいいが」

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「道中、すれ違った現地民が引き取ってくれた。むしろめっちゃ感謝された。お金を差し出してきたが丁重に断る。
 …なるほどボール魚は此処だと貴重よな。燃料として。まさか食べないとは思うが…うむ、よかったよかった」

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「あらかじめ話を通しておいた店に凍魚を持ち込む。解凍は流水で行うということで、調理は1時間程とな。
 店内で待たせてもらうことにする。先にちょっとずつ料理を頼んでおくか。何を隠そう、此処は…天ぷらの店!
 そう、凍魚を大胆にも天ぷらにして食おうということだ。丸5日かけて天ぷら一食分。それが道楽というやつだ。
 割高な店だが、今回はここ1択といえよう。油も南からの取り寄せたもの。ツァラドに一件しかない天ぷら屋だ」

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「フルプラント側からの山菜揚げ。梅塩少々で頂くとこれが山菜の甘み、苦味にスッキリして食べやすい。
 次はコオリナキのつくねである。コオリナキはツァラド近辺の鶏といえばだいたいあってる。トサカは無いが。
 このつくね、薄切りのものを海苔挟んで揚げてある。海苔のサクっと感が残ったまま、つくねの旨み…いいぞ…。
 飯が欲しい…まだだ…まだ米は…メインは凍魚、あくまでそれまでの繋ぎ…我慢、我慢…ふっふっ…」

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「ふと白米なのかどうか気になって聞いたところ、ちゃんと白米もあるが高いそうだ。基本は麦飯や雑穀。
 白米、つまり日本米の産出地はシーナ地方が大部分を占める。転移ゲートもタダでは無い。それは高くなろう。
 そういえば温泉宿の飯と、キアシスのカレーは白米だった。一方でサンガルは現地の穀物だったな。
 …半ライスが無料でついてきたキアシス、すごいな。おっと、勿論今回は高くても白米でいくぞ。ほかほかで!」

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「各地の主食事情といえば、ポウフェナが大規模な麦産地なせいか、世界的にパン食が多い感じがする。
 米というと一般的には、インディカ米だったか?タイ米とか。パサパサしててピラフや炒飯向きのやつ。
 白米を好んで食べるのは、実は少ないのだろうか?もっと各地で飯を食わねばな、うむ、食わねばわからんな」

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「来たぞ、凍魚の天ぷら!ほのかに香る、これはごま油…!菜種油に少量ブレンドした専用の油だと!
 こんなもの…美味しいに決まってるだろう!どうする、そのままいくか?塩か?天つゆはあるのか?
 差し出されたのは…だ、大根おろしかぁ~!ただの大根ではなく、現地で取れる雪下大根というものらしい。
 水分が多く、後味を整える瑞々しさ、卸しの辛さ。油ものをより美味く頂けると。反則的…ッ反則的取り合わせ!」

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「いただきます!──サクッ…とした歯ごたえに続き、パァッ…と広がる魚の風味。一口なのに口全体に。
 永久凍湖という環境の中で育った凍魚の旨みの全てが此処に!続けて、油を大根おろしが洗い流していく。
 かーっ!美味い!下戸な我でも、ここで酒をきめたくなる!が、酒のかわりに白米ってやつが我の友よ!
 今度は大根おろし無し、天ぷらを天つゆにつけてかっくらい…白米をかきこむ!…この組み合わせもレッドカード!」

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「白米が無くなったが、まだ天ぷらはちょっとある。…おおっと調理長からお酒すすめられちゃったぞぉ。
 下戸だからして、我は飲まな…度数5?なに、米酒?ジャポニ・サケ!?日本酒だこれ!下戸だが日本酒は別だ!
 我はビールとか、特にワインがどうも悪酔いするのだが、日本酒はいけるのだ。そんな多くは無理だがな!」

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「日本酒は確か平均15度程度、これはかなり低いほうだ。調理長のオススメ。流石、北国で天ぷらしてるだけある。
 く、いっちゃう?いっちゃう?ヒャァ我慢できねぇ!おやっさん、一合お願い!いっちゃおう、久々のお酒だよ!
 再び凍魚を大根おろしと頂く。苦味っていうものが一切なくて、噛むほどに魚の味が広がり続ける。そこに大根。
 其処におちょこで一口ぐいっと…んんっ、フルーティ…これは、いい…白米よ、我は新たな友に出会ってしまった」

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「そのまま残りと、あと海苔つくね天が美味かったのでもう一回注文して平らげ、終了!
 あー、度数低いけどまわるまわる。凍魚の持ち込みを承諾してくれた調理長に礼を言い、店をあとにする。
 夢見心地のまま、寒い街道を抜けて目当てのホテルに…いん。宿泊のみの安宿…暖はしっかりとれそうだね…。
 荷物は投げ捨てごめん…ふかふかベッドに身を投げ…おああ…気持ちいい…お腹いっぱい…着替えないでいい…?」

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「最後の気力で身を整える。…夜王のぷらいど…っふー…これで憂い無し…明日には中央に帰ろう…。
 ああー…魚釣り、苦労したけど良かったなぁ……ごちそうさまでしたぁ…おやすみ…なさぁい…」


8
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   第8章“レクロマクシス”

『大陸西部からの寒気による、年中無休の猛吹雪が特徴のレノマーサ地方。
 そんなレノマーサの中でフォルフラント地方との境界にある都市がレクロマクシスである。
 レノマーサ地方は厳しすぎる環境故か、レクロマクシスより北に大都市は確認できていない。
 故に唯一の都市といって過言では無い。敢えて北へ挑む者の拠点である。』 ──地方解説より抜粋

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「いや、我流石に吹雪はちょっと。死ぬから。死なないけど吹雪は勘弁。それに今回は街は出ない。
 毎回毎回、ミストグローブやツァラドのようなパワープレイはしていられん。手軽に食おうではないか!
 何せ狙いの店は一件。レクロマクシスの中で此処だというところを見繕った。時に、レクロマクシス北東だが…
 意外と内湾が近い。それにツァラド方面なせいで吹雪も厳しくない。港もある。勿論、寒さは強くなるがな」

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「北。海。すなわち、今回は蟹だ。集いし蟹が新たな地平へ我を誘う!光差す道となれ!『蟹殿堂』!!

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「日本には蟹●楽という店があるのだが、此処にも似たような名前の店があった。ここ一件オンリー。
 値段はこれまででもトップクラス。お一人様食べ放題で何故か万いくぞ。1万Gで食べ放題、んふ…ふ…」

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「…なんでギルなんだろうな。ヤナギ。変なところでファンタジーにしおって。物価1円=1Gじゃないか。
 ちなみに紙幣はセントラではなくシドリーで刷っている。そのせいか万札の柄はランドール市長。伊達男だな。
 大半の都市で使える。紙幣にはスパイダーシルクが織り込まれており、偽造が困難なのは地球とのちょっとした差異だ。
 そうそう、地方用の、つまり地域紙幣もあるぞ。キットルなんかが代表だ。カジノ兼用の現地紙幣があるんだ、あそこは」

+...
「一方で市民には紙幣は縁がなく、銅貨、銀貨、金貨。金貨は大判で万札と等価と思えばいいだろう。柄は色々。
 基本的にはサイズと重さ、例えば100G銀貨、5000G金貨といった形で管理されている。
 故に店には天秤か魔導秤が置いてある。魔導秤はジャラっと置けば自動計算してくれるすごい道具だ。
 同時に、紙幣に比べれば偽造しやすい通貨の見破りも兼ねている。熟練の店員は手に持てば本物かわかるというがな」

+...
「一応、貨幣も持ってきていたのだが此処では紙幣が使えた。さすが蟹殿堂。話がわかる。
 …前払いで会計カウンターの前に居る間にも、濃密な蟹臭さが漂ってくる。なんだこれ。蟹ってこんな臭うか。
 ムゥーッ!!あれは蟹の甲羅…!甲羅を、炭火で焼いて香り出してる!個室に行くまでに腹が減るぅ!」

+...
「お一人、我様ご案内。個室!我一人!…ここで寂しい、と思うのは勿体無いことだ。ベストを尽くせ。
 誰かと食う飯は確かに美味いが、1人で無秩序に食う飯もまた、美味いんだ。1人焼肉とか…な!!
 蟹殿堂のメニューは豊富。特記すべきは、茹でてない生蟹の刺身や、カニミソなども頂けることだ。
 というのはだな、オクターンは確かに蟹は食えるんだが割る!食う!ぐらいしかないんだ。あそこは」

+...
「我のターン!我はカニしゃぶを選択!殻がほぼ外れており、身の端に持ち手となる殻がある。
 これを、これまた北でとれた海草…多分昆布っぽいやつ…の、出汁で頂く!サッと通して、咥えて…引き抜く!
 ッンふ、カニだよぉ、カニ!開幕からいけないよぉこれ…身がね、ぷるぷるしてるの…カニ美味しい…」

+...
「続けて七輪をセット!暴食意思表示でカニを網に!七輪の効果でカニが!美味しく!パチパチと!
 カニ好きに朗報だ、なんとヴァースの北の海にほぼタラバとズワイの両勇がいるぞ!ただしズワイはとれにくい。
 これはタラバだな。ズワイに相当する蟹の捕獲が北海で難しいんだそうだ。ちゃんとメニューにあるからご安心。
 お、焼けた。鋏でバチバチ切り、ふふ、行儀悪く素手で頂いてしまうぞ。…ああ~…蟹は何して食べて美味いぞぉ…」

+...
「メニューから毛ガニを召喚!えらいハリキリケガニがやってきたじゃないか!スリーキルしてやるぞ!
 ヴァースの海産物の多くは地球から海ごと掻っ攫ってきたんじゃないかというほど、地球のものと酷似している。
 故に!毛ガニは!!カニミソが美味い!!暴食意思表示で甲羅つきカニミソを網に!少しばかり待ちの構え。
 くく、一度禁を破ってしまうとな、何度でもいける。日本酒の登場である。禁断の魔法カード、融合を使う」

+...
「飲むにしては少ない。おちょこ2杯ぐらいだ。何をするつもりかと!我はカニミソ焼きと日本酒を融合!!
 ジャポニ・サケやら米酒で通っているが、北国はやたら日本酒好きがいるな!この店にも取り揃えてある。
 おお、煮え立つ、煮え立つぞ、カニミソとカニ身と日本酒が!ちょっとずつ金串で混ぜて待つ。ぐりぐりと」

+...
「ここで伏せていた日本酒本体の登場!くく、蟹殿堂はな、裏に宿泊施設が併設されてるんだよぉ!!
 いくら潰れようが本日はダイレクトフトンインできるように既に浴衣!外は吹雪なのにな!贅沢の極み!
 …浴衣なのはいいんだが、取り置いてある浴衣の柄がハート柄とかスペード柄とか、微妙に文化融合失敗を感じるな。
 おちょこで頂く。ん~、辛い。度数高いなぁ、でも我もう怖いものないから!ごくごくしちゃうよぉ!」

+...
「それはそうとカニミソ甲羅酒の完成。我にダイレクトアタック!あ゛~~!!たまらん!たまらんよ!
 今日は行儀の悪さは気にしないぞぉ、あつあつの甲羅に触れつつ、ズズッ…と甲羅酒を頂く!おぁぁぁ…!
 アルコールはとんでいるが、風味は残る。危険だ、危険な出会い!ズズッ…おあああ…ご飯ほしくなってきた」

+...
「蟹の炊き込みご飯、茶碗一杯!お醤油一刺し!カニの生寿司をさらに追加召喚!こっちはカニ酢で頂く!
 これだけ蟹が続いてもまるで飽きない。カニ寿司にあわせて日本酒!っかー!刺身と日本酒は!あうよぉ!
 まだまだ、われのKP(カニポイント)は残っているぅ!どんどん食べるよぉ!何たのもっかなぁ!」

+...
「日本酒!ごくごく!日本酒!ごくごく!おいしい!おいしい!カニミソおかわり!
 っは…!カニの天ぷらがあるじゃないか!いこう、これも食べりゅ!おいしい!ああ!」

+...
「貨幣のぉ、お話!あれねぇ、実はわれがモチーフの金貨がぁ、古年代に6枚だけあるんだよぉ。
 もちろんわれも一枚持ってるしぃ、いまあるよぉ、もってきたしぃ…5000G金貨ぐらいかなぁっふふ…
 こうしてぇ、空のおちょこに金貨を入れて眺めるとぉ、なんかきぞくぅって感じしてぇ…えへへ…。
 古い年代の吸血鬼に確かぁ…1枚ずつ渡してぇ…どうしたっけぇ…えへへ、きぞくきぞくぅ… …」

+...
「携帯からか?それとも偶然気づいたか?運がいいな。我も夢の中故に、酔いの中故に、少し語るとしよう」
 女王は夢の中 カニたちの歌う子守唄 すやすや すやすや 心地よく
「我はカーミラであり、ツェペシュであり、あるいは神祖である。それは全て真実、されど変わりうるもの」
 女王は夜の中 カニたちの奏でる子守唄 しあわせ ぐっすり おやすみなさい
「“未来にある空想が過去に現実となる”。多くの幻想生命体は、不可逆である時空を容易く超越し生まれた」
 かーにかにかに かーにかにかに かーにかにかに らららら~
「故に我は純正の吸血鬼とはいえない。原典は未来にあり、我は過去でしかありえない存在。上書きされ続けるもの」
 かーにかにかに かーにかにかに かーにかにかに らららら~
「過去へと向かう空想は増え続ける。否、増えすぎたといえる。歯止めの利かないそれは、地球に収まらなくなった」
 蟹が来ちゃう蟹が来ちゃうおかわりが来ちゃう、たべなきゃ、たべなきゃ
「地球の生む空想はやがてあるはずがない世界を生む。数多異世界を。そしてヴァースへと至ることになる」
 かーにかにかに かーにかにかに かーにかにかに らららら~
「現在から観測される過去の事象は、未来によって変化していく。故にヴァースの成り立ちすら変転しうる それが空想」
 かーにかにかに かーにかにかに かーにかにかにらっらららっらっら~
「だが、どうか忘れないでほしい。如何に未来によって書き換わろうと、我は1人。“夜王”は常にただ1人であると──」
 うあ~ もうたべられない~ ゆるしてかにかに~ かにかに~ かに~

+...
「っしゃ意識無かったァ!!フトンで何故か真っ裸だったんだが我どうしたの!?裸で出歩いてた!?
 いや、浴衣はフトンの側に落ちてるからそれは無かったか。セーフセーフ。…うむ、調子に乗りすぎたな。
 こうなるとわかっていたからこその蟹殿堂。きっとスタッフが運んでくれたのだ。いいぞスタッフ。
 ふふ、我は二日酔いしないという体質なのだよ。記憶はキッチリとんだがな!カニミソまでは覚えてるぞ」

+...
「酒を一緒に飲まない理由を思い出してきた。そう、記憶がとぶのだ。酒を飲むとぶっとんでしまう。
 ついつい、蟹が美味くて調子に乗ってしまった。節度が必要だな…カニリストとして反省しなければ…
 シャワーを浴び、北国の伝統的な厚手の衣服を纏う。まずは、昨晩についてはごちそうさまでした。だが…!!」

+...
「我がカニタベルフェイズは、終了していない!さあ、朝のメニューに挑むぞ!いっただっきまーす!!」


9
+...
   第9章“フォーデン”

『セントラ地方に属する街。
 ヴァース中最大の戦闘都市-フォーデン。
 高い防壁で囲まれたこの街には闘技場を始めとするいくつもの戦闘施設がある。
 ある人はそこで戦い、ある人はその戦いを作り、ある人はその戦いを見守る。
 ヴァース中のバトルマニアが集まる街。
 戦闘都市フォーデン。』  ──地方解説より抜粋

+...
「ウィナー!!我!!ふははは、謎の女剣士マスクド・ナリカ、本日は絶好調!!」

+...
「いや、その…闘技場でバトル見てたら我もちょっと参加したくなって…うん。
 ベネチアンマスク…仮面つけて飛び入りで…なーに、細剣しか使ってないからセーフ。
 我だとわかる要素はまるで無い。マスクをつけていれば別人だ。マスクはそういうものだ。
 それにこのマスクは試合会場でルール上つけているものだからして、全く以ってセーフしか無い!」

+...
「ゴホン。剣といえば、ヴァースは機械文明も発展してはいるがまだまだ武器として現役だ。
 このへんはファンタジーだな。魔法使いにも、氣使いにも、能力者にも“普遍的な武器”は人気だ。
 魔法使いなら単純に魔力を使い、氣使いなら放氣まで使えれば十分に高火力の近接武器として扱える。
 “基本的に”火器に制限がかかることが多いフォーデンでは使い手もいる。試合で銃ダメ、なんとなくわかる」

+...
「比較的平和に思えるヴァースも、農村部は<守護>の力も弱く、魔獣の被害に悩まされることがある。
 そんな時に戦う手段として、火器は狩猟銃レベルでの普及だ。近代武器は保守性が悪いわけではないはずだがな。
 文明が進んでいるのに受け入れられないのは、ヴァースでは非常によくあることだ。鉄道はがんばってるな!
 そんなわけで剣や、槍なども世界的に見れば数が多く、使い手も多い。小さい町でも剣術道場などは探せばある」

+...
「控え室に戻る。我が参加しているのは武器専門の小試合場。大闘技場以外にもいくつか小試合場がある。
 専用武器の持ち込み禁止、用意された武器で戦うルールだ。魔法、能力も禁止。つまり旧世代的なものだな。
 大闘技場の魔人能力やら何でもアリのルールに比べれば人気は無い。が、下積みや腕試しで戦う者が一定数居る。
 華は無くとも、スカウトマンが訪れたり、物好きな爺さん達が集まったりとこれまた観客も居る」

+...
「小試合場ではなくミドル級会場で行われる、ルール別の試合もある。魔人格闘部門などだな。
 つまり人気次第では大きな会場、という。魔人能力はだいたい試合で派手だからな。そりゃ人気も出る。
 では小試合場は需要がないかといえば、あるんだな。いきなり皆が皆、本格的な試合ができるわけではないしな」

+...
「そうそう、ミドル級会場は一部の人気部門以外では、中級な選手達による戦いが繰り広げられる。
 これまでルール別だった戦闘者が無差別試合になり、本当の戦いが始まるのがミドル級会場。
 予選会場とも言う。フォーデンの試合者を指し示す言葉、“ファイター”は此処の段階からだろう。
 最終的に“プロファイター”は栄光の“大闘技場”にて試合だ。我も見たが、いいものだなぁ、あれは」

+...
「戦闘者なり襲撃者なり、戦う者は居るがそれらは主に勝ち方を選ばないものが多い。特に襲撃者はな。
 一方で“ファイター”は勝ち方を選ばねばならない。しょっぱい勝ち方が許されない、厳しい世界である。
 いわば見せ物、スポーツなわけだからな。だからといって普通に戦えないわけではない。否、なんというか…。
 その“普通に戦う”だけで魅せているんだ。強くてかっこいい、それがプロファイターってやつだな」

+...
「バトルマニアの都市、なのは昔の話。此処は華やかなるバトルエンターテイメント都市だ。
 もちろん、いわゆる野良の戦闘者も会場で戦うこともあるが、“大闘技場”はプロの世界というのが通例。
 通常そこで戦うことは許されない。例外は勿論ある。年に何回かある総合トーナメントと、イベント試合だ。
 実力で勝ち抜くか、運良くイベントに呼ばれればそういう機会も出てくる。名のある戦闘者なら呼ばれるかもな」

+...
「次の試合を待っていたのだが、午後から『鳳凰決会』が数人、試合に出ることになったため、今日は閉会だそうだ。
 小コロシアムは中央のあおりを受けてこうして試合が一部時間帯になることが多い。人を集めたいのだろうな。
 昨晩も夜の部だけだったな。3戦して1戦負けた。同じ細剣使いの、銀髪仮面男。明らかに達人だった。同武器で負けるの悔しい!
 おそらく上位ファイターのお忍び。能力抜きで武器の腕を試すには、ちょうどいい場所でもあるしな…悔しい!」

+...
「忘れよう。フォーデンにはいわゆる選手食堂のようなものがあり、そこでスタミナつきそうな飯を安めに食える。
 選手登録さえされていればいい。“ファイター”はこんなところには現れないだろうが、物好きは来るんだろうか?
 さって飯だ。最近、肉ゥッという肉を食っていないため今回は肉だ。というわけで牛!ビーフ!ローストビーフ!」

+...
「どデカいどんぶりに、ローストビーフが花弁のように乗ったローストビーフ丼。ううん、この肉々しさ…。
 生卵が食える都市なので、遠慮なく卵も入れて…いただきます。んぐ、いい…ドン!ドカン!といった雑な味。
 ほんとに体力さえつけばいいぐらいの気の大雑把感。求められるものはそれだ。我が求めていたのもそれである」

+...
「腹も満ちたので、更衣室でマスクを取り普通の格好に衣裳変え。さて、観戦にいくかぁ。
 一般人枠で午後の観戦チケット…とれねぇ!売り切れ早すぎだろう!…飯食ってる間に売り切れたのか!不覚!」

+...
「『鳳凰決会』は今のフォーデンの人気プロファイター集団。10席で構成されてる。10はいいぞ。いい数字だ。
 もちろんプロファイターはこの10席以外にもいる。が、今のフォーデンを牛耳ってるのは此処で間違いないな。
 正確にはファイティングクラブ『T3』か。他のクラブからは嫌われてるようだな。引き抜きとかあるらしいしな」

+...
「一方で、フォーデンは試合会場だけの都市ではない。中央に大小含めた会場はあるが、外周近くは別だ。
 そのへんには各ファイトクラブの拠点や、道場がある。ファイターはそうしたクラブや道場の出身であることが多い。
 …うーむ、生で観戦できないとなれば、次の手だ。繁華街にレッツゴー!中継契約のある飯屋を探すのだ!
 中継契約、つまりモニターで生放送してくれるレストランなどがある。それを探せばいいってわけだ。走れ、我!」

+...
「目当ての店、どこも満席!!」

+...
「さらに二、三軒走り回った末、やけに古臭い食堂の前で“中継やってます”の看板発見!フォーデン食堂…?
 フォーデンの食堂…まんまの名前だな…でも人が少ない!…モニター小さい!ブラウン管テレビだこれ!!
 けれど贅沢は言ってられない。テレビに近い席に集まってるお爺ちゃんお婆ちゃんに混じり、着席。
 店員がおしぼりをもってくる。どうやら食品カウンターで好きなものを取り、会計する仕組みのようだ」

+...
「お、お?トレーを手に並んでみると意外と…面白いなこの形式。バイキングではないので食べ放題では無い。
 自分で食べたいものを組み合わせて食べるわけだ。昼に肉丼は食べたが、走り回ったせいかまだ食えるぞ。
 鯖の味噌煮、ゆかりご飯、ハーフ野菜炒め、味噌汁…そして海老天2本!安いし、700Gぐらいで満足いくぞこれは」

+...
「試合開始だ。大闘技場での戦闘はほぼほぼ何でもありだ。何試合か見たことがあるが、バーリトゥードだ。
 過去にはドラゴンの召喚などもあったということで、火器ぐらいなんぼのもんじゃい感が強い。エンタメだなぁ。
 ブラウン管が白くなる勢いで大爆発と波動砲が激突している。派手過ぎてわからんが、爺さん婆さん盛り上がってる!」

+...
「あれだけの高火力で激突すれば死人も出そうなものだが、大闘技場はシステム上ほぼ死人は出ない。出せない。
 フォーデンは<守護>のレイライン上の都市。さらに、<守護>は人の多い場所に集まる。そう、大闘技場に、だな。
 大勢の観客がいる限り、選手は傷つくことはあれどまず死なない。他都市ではありえない密度になる<守護>の賜物だ」

+...
「夕方までかわるがわる試合は続き、追加でつついていたレンコンの天ぷらもおしまい。観戦はいいなぁ。
 我は漫画やアニメが大好きだ。戦闘描写も大好きだ。それが現実に、試合として見られるのは素晴らしいな…。
 あと数日は滞在し、試合もしつつ試合も見てから闇都に帰るとしよう。それでは、ごちそうさまでした」


10
+...
   第10章“ラプレーン”

──地域概要情報、無し。

+...
「降水確率99%。年中雨が降っている。…というぐらいしか知られていない、不思議な都市だ。
 エルメキア地方の北方にあるが、鉄道も通っていない、転移ゲートも無い、道路はかろうじて通っている。
 そんな僻地も僻地、ラプレーンに今回は行ってみる。観光と、美味い物調査というわけだな」

+...
「まずラプレーンに行く手段は陸上交通しか無い。キアシスからバスが週に一本だけ出ている。
 朝6時に出るそのバスを逃すと、あとは自動車か竜車などで移動するしかない。しっかり早起きして待機。
 所要時間は驚きの…14時間!高速バスが時速80kmで常に動くとしても1000km以上もの長旅になる。
 途中に休憩所など無いため、洗面所などもついた旅客バスだ。このバスは貴族塔から出資されているらしい。
 採算が取れてるとは言い難い…が、確かラプレーンにも貴族が居たな。その関係かもしれん」

+...
「問題はそこでは無い。14時間だぞ14時間。しかも車内食はほぼ無い。持ちこみ可だ。
 洗面所はあるため、飲み食いを抑える必要は無い。が、朝飯は食って出るとしても、どうしても昼飯は要る。
 一応、保存食クラスのレトルトや乾パンぐらいは買えるが高い。あらかじめ用意を推奨されているな。
 あまり匂いの出るものもまずい。そこで今回はサンドイッチにお茶とシンプル、軽食気味にした。
 たまごサンド、チキンといったものから、梅きゅーサンドなど取り揃えたミックスサンドイッチだ。
 それからおやつ。ポップコーン、コーラ…ふふ、何のためかはあとでわかる。わかるともさ。
 肝心の腹は減りそうだが、ホテルを予約してあるので現地に着いたら晩飯を頂いて取り戻すとしよう」

+...
「これだけ時間かかるなら夜行バス?夜行は魔物がなぁ…夜は田舎は怖いからなぁ…。
 魔物は雑魚と思うなかれ。勿論雑魚も多いが、守護の少ない地域のボスぐらいになると概念操作してくる。
 ちょっと腕に覚えがある程度だと存在ごと消されかねん。ファンタジーは世知辛いのじゃぁ。
 幸いにして、昼間にそういうヤバイやつは活動しないことが多い。恐らく擬似太陽の影響だろう。
 …それはそうと旅客バス内はほぼ個室。二階部分は貴族スペースとなっている。
 我は貴族では無い一般旅行客なので一階部分。個室なのでストレスは無さそうだ。
 何人か乗り込んでくるが、貴族らしい気配は無し。そうこうしているうちに、出発である」

+...
「しばらくはキアシス周辺の農耕地帯などが見えるが、昼頃には未開発の野っ原になってきた。
 ヴァースの中央部を除き、こうした未開発の土地は珍しくは無い。先の通り、魔物の影響などもあるしな。
 地球に比べて土地単位あたりの生産力が高く、豊富に食糧生産が可能という事情もあるだろう。
 逆に痩せた土地で暮らさざるをえない者もいる。いわゆる<守護>格差、ヴァース特有の事情よな」

+...
「サンドイッチを片手に観光ガイドを読み解く。件の予約したホテルだが、此処も貴族塔の運営のようだ。
 あとは現地の宿屋などになるが、いくつかの観光名所を除きそうしたレストランや宿屋の情報が載っていない。
 現地住民にしかわからないタイプの都市。うーん、謎が深まるな。ミストグローブみたいなものか。
 まあだからこそ、足を運んでみようという気になったのだが。楽しみだなぁ、何が美味しいんだろうなぁ」

+...
「時に、この旅は暇になる可能性があったので我もI★PADを持ってきた。これ便利だな!
 地球からの配信映画は古いものから新しいものまでだが、歯抜けしているシリーズもある。
 ヴァースは頻繁に地球の影響を受け、カルチャーを流し込まれているが、本や映画などはその際たるものだ。
 我でも解析不能な、ヤナギ渾身の印税システムでちゃんと売り上げが作者や企業に還元されているらしい。
 入るのは容易く、出るのは難しいヴァースのはずだがどういう理屈なのだろうな。神の考えることはわからん。
 ま、我は独自のルートで地球産サブカルチャーを取り揃えているがな!皇帝特権!皇族じゃないがな!
 …いや、ツェペシュって皇族だったか?国王だっけ?…まぁいい、ポップコーン片手に視聴開始である」

+...
「──バーフ・バリ!!バーフ・バリ!!バーフ・バリ!!バーフ・バリ!!バーフ・バリ!!バー───」

+...
「あっすみません、静かにします…バーフバリ…バーフバリ…」

+...
「ッフー… おっと、3週目を見ていたら夕方が近いな。窓のブラインドを上げ、外を見れば緑の大地が広がっている。
 これは…ラプレーン方面の農作地帯か。遠くに町並みも見える。なんだ、意外と発展しているじゃないか。
 ガイドを見てみると、ラプレーンの直下は日照0、湿気過多、土も流れて岩だらけ、植物が育たないんだとか。
 逆にその周辺部は用水路が整備され、豊富な水源を元に生活基盤が確立されている。なるほどなぁ」

+...
「高速で移動しているバスに、パラパラと窓に雨粒があたるようになってくる。雨都が近くなってきた証拠か。
 ある場所を境に、急に町並みや農作地帯が消える。代わりに湿地帯が見えてくる。…湿地帯広くない?
 いわゆる抽水草原、年中地上部が水没しているタイプだ。道路はその上に、浮いた状態で作られている。
 地平線まで続くこれは、なんとも…絶景だが、少し恐怖感も沸き立つ。1人で放り出されたら泣きそうだ」

+...
「いよいよ日も落ち、真っ暗な中をバスが走る。道路に等間隔についた灯りだけが頼り。
 冥府へ進んでいくかのようだが、遠くには街の明かりが見えてきた。雨都ラプレーンである!」

+...
「バスは屋内ターミナルに停車。此処から、ホテルなどへは全て屋内通路で移動できるとのことだ。
 凝った体を、ちょっと体操してほぐしたら…さてまずホテルか。予約はしてあるので、さっさとチェックイン。
 時刻は8時前。ご飯がちゃんと出るぞ!といっても貴族塔管轄、一般旅客者向けなので普通の美味しいご飯だ。
 …が、デザートになにやら皿に盛り付けられたシャボン玉っぽいものが出てきた。中身が無い…?」

+...
「つついてみると、ゼリーではなく硬度がある。二つに切ってみても、やはり形を保ったままだ。薄い膜が見える。
 すくって口に入れてみると…甘い。ライチのような味と、虚無の食感。…すぐ溶けて消えるのだ。なんだこれ。
 聞いてみれば、これは作られた菓子ではなく、ラプレーンで採れる水中作物の一つ、インビジブル・エッグ。
 薄い皮膜を剥がすと、この状態になり食べられるのだとか。時期を逃すと、中身がみっしりと硬くなる。
 そうなると今度は食べようと思っても食べられない、インビンシブル・エッグになるとか。ダジャレか。
 しかしこれは食べても食べても、喉を通っている気はしない。甘みは良いが。シャーベットと一緒とか美味そう。
 …と思ったら出てきた。うむ…これは練乳シャーベット…無糖練乳とは。ミルクの味に、ライチの甘さが、いいなぁ…」

+...
「翌朝。おはよう!雨だ!!雨だよ!どうみても雨。きっと明日も明後日も雨!!
 …この都市では当たり前かもしれないが、毎朝外は雨なんだな。憂鬱すぎない?
 除湿された室内は快適だったが。わざわざお高いホテルなだけある。いよいよ散策といくか」

+...
「この都市おかしくない…?ドシャ降りなんだけど?傘とかすぐ折れないこれ?風は無いけど…。
 ホテルの人に聞いたところ、年中雨だが、雨が強い時と弱い時があるんだとか。雨からは逃れられない。
 なんでこんなに雨が降ってるのかといえば、元々そういう都市だったのがスカイロードが絡んだとか。
 スカイロードは割と年中晴れているが、それは雨雲の発生を阻害するシステムがあるからだと。
 発生しない分、途中で降ればいいものを元々降ってたラプレーンに統合されてこの有様と。
 天使はろくなことしないな!と思ったら、雨量の増加で周辺農作地を大きく賄えるようになったとか…。
 さらには、都市の住民からは喜ばれているらしい。なんでだ。どんな都市なの此処…?」

+...
「町並みは、中心に向けて小高くなっていき、外周へ雨水が流れ湿地帯へ向かうようになっている。
 全体的に北東へ町が伸びているのは、北東に大きな湖…ラプラス湖があるからだという。
 ラプラス湖もスカイロードの影響を大きく受けているようだし、湖底には神殿があるとかなんとか。
 いやそれはあとで行ってみるとして、まずホテルからどう出たものか考えねばならない…うーむ…」

+...
「──V8!!V8!!V8!! …Oh what a day!! What a lovely day!! イエー!!!!!」

+...
「諦めて映画鑑賞で一日潰してやった。翌日には雨の勢いも収まると!言われていたが故!!
 この爆音上映シリーズ詰め合わせセット、なかなか楽しめるではないか。…爆音はいいぞ?ガルパンもいいぞ。
 さあ旅先で引き篭もっていても仕方ない。今日こそは出る。ゆくぞ、我こそは夜王!雨がなんぼのもんじゃい!」

+...
「髪を纏め上げ、前に流す。レインコート装備。コートの下は耐水性のサイハイブーツにあわせてショートパンツだ。
 雨は降ってはいるのだが、気温自体はそこまで低くない。季節柄というのもあるのかもしれんが。
 大きめの黒白傘も装備。本日の天気はパラパラといったところで、昨日の滝に比べれば雲泥の差というやつだ。
 それにしても水のありがたみが何故か身に染み渡るな。どうしてだろうな?ちょっと浴びたくなるな…」

+...
「時刻は8時台。意外と明るい。雨の量に応じて雲の厚さも変化するらしい。どういう原理なんだろうな。
 すれ違う住民は、我のようにレインコートスタイルの者、水着のようなもので歩く者。雨を直に浴びる者。
 雨を直に浴びているのは、異形タイプの亜人だ。頭が…サンショウウオ?などだ。乾燥が苦手な連中。
 魚頭タイプの亜人も見える。きっと淡水魚だ。そういえば海底で都市が発見されたとか新聞に載ってたな。
 海底に居る亜人も魚頭なんだろうか。ぷよぷよのすけとうだらか、パプワ君のタンノくんのような…うん。
 …すけとうだらは海から出てきていたが、タンノくんは…淡水魚か?海水魚か?そもそもアレ魚だったかな…?」

+...
「そんなことを思っていたら、雨を流すための水路から魚亜人が出てきて路地に入っていった。
 こうした光景は、セントラルとかでは見られないな。水棲系が此処に住みたがるわけだ。天国だな」

+...
「さて、飯を探すのが目的なのだが…実はポウフェナばりに豊かな土地である可能性が浮上中。
 もっとも、ラプレーン周辺の局地的な範囲に限るようだが。水が多すぎるとカビや病気が蔓延するんじゃなかったか?
 ファンタジー作物はそういうことないのか?…と思ったら巫女がカビや病を払うらしい。ファンタジー!!
 そんなこんな、穀物類は豊富。ただしラプレーン、雲の直下は農作などほぼ無いに等しい。この雨ではなぁ」

+...
「穀物…普通だ。普通なのだ。我としては、こう、ラプレェェェンという感じの…魚とか欲しいな。
 やはりラプラス湖。淡水魚介類の宝庫と聞く。なんか水生魔物も大量らしいが、なんとかなるだろう。
 なぜならば我は夜王、そのへんの魔物風情に負けるはずがない!フラグ?はは、へし折ってくれよう!」

+...
「立入禁止看板は折れなかったよ…」

+...
「増水、でな。わかる。滝みたいだったもんな。わかる。わかるだけになんで予測できなかったか…。
 湖底神殿への地下道も、漏水が激しいとかで現在修理中でこちらも通行禁止。憂鬱が加速する。
 そんな我に対し、観光ガイドらしいナマズ顔の亜人が、ラプレーン北西の牧場がオススメと教えてくれた。
 はは、そうかぁ、ラプレーンの外に行かないとダメかぁ。ラプレーンの北西に、 …牧場だとォ!?」

+...
「いやいや、膨大な降水量で周辺、水没気味の湿地帯だろうと聞くと、湿地帯は南東に広がっているとか。
 ギド山脈の間には豊かな草原地帯、定期的にラプレーンから流れてくる雨雲などで酪農地帯があるという。
 卵や乳製品、あるいは肉は他所に出荷はしておらず、周辺の農村やラプレーンだけで消化されていくとか…。
 …あっ、練乳シャーベット!あれか!あれの原材料、近くなのか!…ともすれば、いってみるか、未知なる世界!」

+...
「ナマズ顔の亜人に礼を言い、ホテルに急いで戻り交通の確認。……タクシー無いのか!!
 代わりに、魚面車なる怪しい現地交通があった。…せっかくなので使ってみよう。まだ昼前だ。
 なにせ目的地に速攻でいき、速攻で折れたからな。いざ、北西部へ!ゴー魚面車!あっこれ人力車じゃん!」

+...
「陸上も水上もおかまいなしに爆走する魚面車…ちょっと酔った…だ、だが道無き道を行くためかもう到着だ。
 12時、北西部。ラプレーン南西よりも寂れた感のある道路を、マッチョ魚人が車を引いて走る。走る。
 と思ったら雨の切れ目で止まった。…何?ここから先は日が照ってて辛い?…わかるけどさぁ…。
 帰りもお願いすることになるため、18時に待ち合わせして帰ってもらう。うっぷ…帰りもこれか…。
 此処からどうするのかと見渡すと、レンタル自転車があった。レインコートを脱ぎ捨てカゴに入れる」

+...
「かくして、我は未知なる北西部へ挑むことになった。チャリンコ漕いで30分。道はちょっと荒い。
 何かを載せたトラックとすれ違いつつ、実に草原といった地形に塗られた砂色の車道を進んでいく。
 ギド山脈が近いが、魔物とか平気なんだろうか…そんな我が疑問は、横手に現れた灰色の塊によって解消された」

+...
「牛って“体高”で3mとか無いよね?これもう魔物だよね?というか魔物だよこれ。そりゃ平気だわ!!
 いや、厳密には魔物の血が混ざったというグレーキャトルという牛らしい。これでいて乳牛である。
 そんなのがうろうろと放し飼いされている。酪農家の1人、蛇頭の亜人おじさんから詳しい話を聞けた。
 聞いてる間に、興奮したグレーキャトルから地属性魔法弾が飛んできた。やめなさい!けっこう痛いから!」

+...
「魔法撃って自衛する家畜は流石にポウフェナあたりでは聞かない。あっちのは普通に牛だ牛。
 蛇おじさん曰く、元々もっと凶暴だったが、交配が進み現在のグレーキャトルに落ち着いたという。
 大きな図体と食べる量から、この草原以外では害獣一直線。ただしミルクは芳醇で美味いと。
 こ、これはラプレーン特産なのでは?しかも数も少なく、安定して交易に出せるほどは無いとのこと。
 此処と、この周辺の小都市でしか味わえない…ミルク!牛乳馬鹿にすんなよ、憧れのおっかぁの味だぞ!」

+...
「なお、普通に鶏小屋などもあった。ラプレーンを迂回するように道があり、そこから南東の穀物を。
 南東にはグレーキャトル産のミルクや、卵を出しているとか。たまに肉も。うーん、肉…肉か…じゅるり。
 …やめなさい地属性魔法撃つのは!食わないから!今回は食わないから!蛇さん助けて!痛い!痛いから!」

+...
「どうもグレーキャトルは人の感情に敏感らしい。これも、ポウフェナ付近で飼えない理由か…。
 蛇おじさんは種族特性で顔に出にくいんだとか。それ種族の特性っていうか顔の…うん、なんでもないです。
 ともかく特産みたいなものを発見。搾り立てを頂きたいと言ったら、飲めないからやめとけと言われた。
 なんでも、加工しないとお腹を壊すとか。…ファンタジーの生乳だろう!?殺菌処理とかそういうのないだろう!?」

+...
「あるってさ!どう見てもファンタジー牛のくせに…そういうところだけ現実的なのよくないぞヤナギ…。
 というか作物のカビや病気は巫女が払うのに生乳は処理場あるのか…そういうのよくないぞヤナギ…。
 うーむ、別にホテルで牛乳出してもらえば此処の牛乳が飲める…だがそうじゃぁないんだよ。我の求めるのは。
 こう、現地で搾りたてうめぇー!とか、そういうのやりたいんだよ。せっかくこう…来ているわけだからな?
 が、聞いてみるとそもそも乳搾りは朝夕の2回で、昼にはやっていないんだとか。かつてなくうまくいかんなぁ…」

+...
「そうこうしてると、蛇おじさんがもう少し北西に行くと市場があると教えてくれた。集積場隣接らしい。
 市場…こっち側に旅行客は滅多にこないだろうから、地元民向けのものだろうか。蛇おじさんに別れを告げ移動。
 スカートでなくてよかった。自転車を遠慮なく漕げるぞ!いざ、市場へ!そろそろなんか食べたい!」

+...
「市場はあたりの街や、近隣の村からも車で来ているのか意外にも賑わいを見せていた。
 こう、田舎のマーケット的だ。色とりどりの旗も立っている。此処も変則的な亜人が多いな。
 物色してみると、例のグレー牛乳もあった。それからソーセージ、パン、野菜…うむ、市場だな。
 市場のところどころには椅子とテーブルも置いてある。この自然の中で、食事ができるということか」

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「我慢できず、ソーセージを挟んだ焼きたてパン…ホットドッグを片手へ。んぎゅ、作りたて肉汁すごい…。
 …おお!ピザだ!!ピザあるぞ!!丸々一枚ではなく、切り分けて売るタイプだ。もちろん購入。
 チーズの濃厚さが違う。いっそ臭いぐらいチーズ。そこに主張してくる辛めのトマトソース…。
 思わず3種類ぐらい追加で買ってしまった。飲み物はグレーキャトルっぽいマークがある、瓶詰めの牛乳!」

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「木製の椅子に座って眺めると、遠くには雲に覆われた岩山のようなものが見える。あれがラプレーンか。
 反対側にはギド山脈。あの山を越えた場所は我にも未知の世界だ。北にはフォルフラント山が見える。
 この大自然に囲まれた中での食事…ラプレーンの雨の中で何か食うよりは、よっぽど…満足感がある。
 此処もラプレーンといえばラプレーンなのだろうけれどな。気分の問題だ。湖行けなかったしな」

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「さて、デザートが欲しいな…と思っていたら、声をかけられた。蛇おじさん!昼食にきたのか。
 …ではなく、鶏用の飼料の買い付けに寄ったらしい。それはそうとオススメがあるとかなんとか。
 オススメがあるのなら先に言ってくれればいいのだが。蛇おじさんのテンポがよくわからん」

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「こ、こ、こ、こ、これはパイ!!…ヨーグルトパイ!?こんな自然の真っ只中で!?
 彩り豊かな木の実、フルーツ…ギド山脈の麓で取れたものを載せたと!これ都市で食べたらお値段すごいぞ!。
 このへんでは有名なパイ職人が売りに来るんだとか。ラプレーンのホテルには、これ無かったな。
 兎も角頂きます。…サッサクなところに、ふわりとしたヨーグルト、そしてフルーツの甘み…。
 貴族塔のパティシエでも、いっそエンデのやつでも敵わぬレベルの極上のスイーツではないか…。
 素材そのものの新鮮さと、焼き加減から生み出される脅威的な出来栄えだぁ…これ此処でしか食べれないのかぁ…」

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「…御土産に1台まるごと買ってしまった。賞味期限が短いので、ホテルでこっそり頂くとしよう。
 採算取れてるように見えないのだが、パイ職人大丈夫だろうか…と思ったら集積場のオーナーだとか。
 集積・加工場はこの近場の酪農家なら皆使う。なるほどなぁ、そして自分はその加工品でパイを…羨ましい。
 おっと、チーズやサラミもあったので購入。うむうむ、なんか予定と大きく違ったがいい観光かもしれんぞ。
 しかも、まだ滞在期間はある。あと数日はラプレーンに留まるつもりだ。湖底神殿行ってないしな」

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「市場の人に防水シートでくるんで貰い、蛇おじさんにお礼を言い、自転車を漕いで田舎道を走る。
 吹き抜ける風はどことなく、ルーマニアの高原を思い出す。田舎繋がりかな。日は傾き、草原が色づく。
 望郷、されど決してもう帰れぬ地に思いを馳せる我を待っているのは、マッチョ魚人である。風情ないのぜ…」

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「──その後のことだ。雨が降っていること自体は特異だったが、過ごしにくい観光地といった感じであった。
 もしかすると街中にもっと面白いところがあるのかもしれないが…雨の中探し回るのがどうにも億劫でな…。
 それよりも、降雨による豊かな自然、恵みは守護は薄いとはいえ中央に匹敵するものであると思う。
 規模は小さいし、地理上も気候上も中央から離れたこの地は、今後も主役になることは無いだろう。
 …いや、主役になってほしくないな。下手に事件などに巻き込まれるよりかは、こんな平和がずっと続いて欲しい」

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「あと、湖底神殿に行き、信仰対象の水龍神も確認した。騙りかと思っていたのだが、マジもんだった。
 龍神はヤナギ配下の亜神といったところ。たしか8匹か9匹居たと思うが、全部生きているわけではない。
 しかも現状はどこにいるかもわからん。グランシスに行けば場所がわかるらしいが我、あそこ行きたくない。
 水龍神は現状、確定で位置を確認できる唯一の龍神だ。が、もはや世界に関わる気はさらさらないらしいな。
 そうよな。こんな中央から離れて安全で、信仰もされて、お供えもの美味しい場所あったらそうよな…」

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「帰りはホテルでサービスされるお持ち帰り弁当。うむ、焼き魚とか、魚肉つくねなどが入っている。
 またI★PADで何か映画でも見つつだ。ふふ、もう一度市場にいっておやつ用のパイを買ってきてしまったぞ。
 此処から14時間、また長旅だが耐えられる。…夕方にキアシスかぁ…学園の食堂は夜までやってたかなぁ…。
 ま、着いてから考えるとしよう。それではだいぶ長かったが、ごちそうさまでした!…ガルパンはいいぞ」