クロミとチェロキー第1話

ここは世界3大砂漠の一つ・・・ボルゴ砂漠・・・。
その砂漠のど真ん中には、非常に大きく裂けた地割れがある。
地割れの中はドーム状となっており、ドーム内は中規模の都市になっている。
それが、私の住む小さな国、地底国である。

「ふぅ、あついねぇー・・・」

地底にあるとはいえ砂漠のど真ん中のこの町、気温は高い。
しかし、大体は日陰になっているので日焼けはしない。
お陰で私は色白だ。
今日も私の愛機、パイパー・チェロキーの整備である。
よくわからないがこの軽飛空機は発掘された古代の機器であり、飛空石無しで空を飛べる。
古代アーリア時代のものであるが性能自体は今でも現役である。
それになにより、飛空石を使った機体と違ってスピードと風に乗る気持ちよさがあるのだ。

「クロちーん!一服しよー!」

神代ミヤさん、私のお姉さん的存在の人。
このチェロキーも元は彼女の物であり、私が譲ってもらったのだ。

「クロちーん?」
「あーい!いまいくー!」

そんでもって、私の名前は木原クロミ、日系地底人二世だ。
地底国に住むジパング人はあまりいないので、ここだとすこし目だってしまうのが私の小さい悩み。

「いやー、暑い日はサイダーに限るねぇー」
「んだね、炭酸物ってなんでこうもうまいんだかねー」
「ねー、・・・あ、そうだった、クロちんクロちん、お仕事の依頼きてるよぉ」
「お、きたかー、どれどれ?」

私の仕事は空路での輸送、書類から食べ物までなんでもござれだ。

「食用ボルゴサボテン30キロと業務用コーラのシロップ3本だねぇ」
「あー、コーラのシロップかー・・・ここを経由させるってことはスカイベースかー」
「あははははは、がんばれー、指定時刻は無いけど今日中だって」
「あそこいっつも堅苦しくて慣れないんだよねー・・・。」
「仕方ないよー、最新鋭のステーションなんだから」
「何を言っても始まらないね、調整も丁度終わったところだし・・・んじゃま、行って来る!」
「気をつけてねぇ」
「っと、積み込みぐらい手伝ってよ!」
「ちぇー」

飲食店でアルバイトしたことがある人ならわかるだろう、コーラのシロップ缶はこれでいて重いのだ。
女手にはすこし苦労してしまう。
以前は男の人もいたのだが今は別の運送屋で働いている。
なので現在この会社は私とミヤさんしか居ない。

「おめーなーっと、詰み終わったぁ」
「よし、それじゃあ行って来るね」
「堕ちないでよー、気をつけてねぇ」

行って来る・・・っと言ってもここから飛び立つわけではない。
一旦チェロキーをリフトに乗せて地上の飛空場まで運ばないといけない。
狭いんだよね、このドーム。
降りるのは問題ないんだけどさ。

キャリキャリキャリキャリ・・・

歯車と鎖が擦れる音が聞こえる。
いろいろ発展しているくせにこういう所は意外とローテクである。

「風向きは良好ね」

エンジンを点火させる、私はこのエンジン音がわりと好きだ。
チェロキーは少しずつ加速し、バララララっという音と共に飛び立った。

「スカイベース・・・今日は高いところにあるなぁー、高度限界ギリギリかもなー」

スカイベースは地底国のちょうど真上辺りにある。
もしも何かあったとき、落ちる先が砂漠なら被害は少ない・・・っという事だそうだ。
ちなみにこのスカイベースなのだが浮いている理論は不明らしい。
チェロキーと同じでロストテクノロジーが使われているのだ。
たしか重力素子を制御するなんとかデバイスがどーのこーの・・・。
あまり良く覚えては居ない・・・。

「うわっと・・・上空は風がつよいなぁ・・・よし、ここは乗ってみるか!」

ミヤさんが得意する急上昇、風に乗って一気に舞い上がるのだ。

「一旦急降下して・・・いよ!」

ぶわっと舞い上がるようにチェロキーは上昇した。

「う~ん、やっぱりうまくいかないなぁ・・・こうスィーって感じには行かないのかね」

そう、ミヤさんがやるともっとレールに乗ったかの如く滑らかにそして、非常に高く上昇するのだ。
しかし、下手な乗りかたとはいえスカイベースの進入経路に乗ることは出来た。

「ようこそ、スカイベースへ」

独特の合成音声の通信が入る。
もう聞き慣れた、このあともお決まりの台詞を言うのだ。

「速度を落とし、緩やかにラインに沿って着陸してください。」

スカイベースの入り口から光のラインが伸びる。
このラインに沿って着陸すれば楽なのだが私はちょっと気に入らない。
かといって変に反れて他の飛空機と接触するわけにも行かず、渋々ラインにそって着陸する。

「こんな堅っ苦しいばしょよりもっとのどかな場所に配達したいよ」

スカイベースは名前の通り空の拠点で私のような運送屋はモチロン、大きな客船や戦闘機までなんでもある。
それでもって出入りが激しいから停止位置までずっとガイドの指示を受けなければならない。

「ふぃー・・・ほんとうに堅苦しい」

飛空機から降りてお手洗いに行く、スカイベースは広い、なので受け渡しの係員がくるまで多少なり時間がかかる。

「お、あんただろ?さっきの・・・たしかチェロキーの」

お手洗いから出たところで40代ぐらいのおっさんに話しかけられた。

「はい、そうですけど・・・あ、そこ邪魔でしたか?」
「んなこたぁーねぇよー、ガイドに沿ってきたんだろう?
 いやさ、今時あんなん乗ってんなんて珍しくてよー!」
「ん、そりゃあ確かに骨董品だけど・・・」
「あ?あぁ、気ぃ悪くしたか、すまねぇな!んだけどよ、なんかうれしいんだわ!
 ちょっとあっちだ、見ろ見ろ」
「あ、軽飛空機!」
「俺のコルト108だ!」
「へぇ、あれがコルトですかー」

カブ、私のチェロキーより古い機種である。
同じパイパー社によって作られた機体らしい。

「んだぁ、ちったぁいい反応しろよ」
「だってあれレプリカでしょ?」
「んな、ばれてたかーっはっはっは」
「普通コルトじゃ運送につかわないでしょー」
「そりゃそうだ!もったいねぇしな!っといけね、受け渡しきてら!
 また会ったらよろしくな!」

そういってオッサンは去っていった。

「あ、名前聞くのわすれたなー・・・まぁ、いっか」

チェロキーの元に戻ると既に係員が着ていた。

「遅いぞ、何をやっていたんだ」
「す、すいません!」

彼の名はリー・セイロン、イカーヨ人である。
イカーヨはジパングと海を挟んで隣接している国。
だから私と同じ人種でどこか馴染みある顔立ちだ。
また彼自身大らかな性格なので嫌いではない。
そんな彼はここの受け渡し係員の食糧課。
だから会う機会が多いのだ。

「食用ボルゴサボテン30キロと、コーラシロップ三本・・・ハイ、サインはこれでいいね」
「はい、どうも・・・・これ控えで、と、30キロねぇ・・・やっぱアレかなぁ、この前テレビでやってた」
「そうそう、健康にいいだの栄養がどうだの・・・お陰ですぐに売り切れて簡便してほしいよ」

セイロンは心底うんざりしているようだ。
それもそうだ、何しろボルゴサボテンの刺身は彼の大好物なのだ。

「あはははは、それは残念としかいいようがないねー」
「あぁ、長期休暇がとれれば地底国にいって現地で食べるのになぁ・・・」

スカイベースの乗組員は基本的ハードスケジュールらしい。
住み込みだし外出はそんなに出来ないしで、とにかく人気の無い職業って事。
だから人手が足りないそうだ。

「それじゃあ僕はこれで」
「はい、ありがとうございましたぁー!」

荷物の受け渡しは無事に完了、これであとは帰るだけだ。

「そのまえに・・・ちょっとね」


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「おせーなぁー・・・・お、きたきた」

バロロロロロっというプロペラ音が鳴り響く。
ドームの裂け目から一機のチェロキーが降りて来た。
チェロキーはぐるりと旋回してから飛空場に降り立った。

「ふぅ、もどったよー」
「お疲れ様ー」

ミヤさんはじっと私の事を見ている。
やっぱりね、と内心思いつつ私は飛空機から袋を取り出した。

「はい、スカイベース名物薄サーターアンダギー」
「あー、まってましたー」

スカイベースにある居住デッキのリングを模して作られたお菓子だ。
食感的にはクッキーとドーナツの間だろうか。

「うんー、うめぇなー」
「うまいねぇ」

裂け目から見える空は既に赤い。
もうじき日が落ち冷え込む。

「さて、チェロキーをガレージにもどさなくちゃ」
「そうだねー、私は夕飯のしたくしてくるねー」
「はいよ」

外に止めておくと風が強くなった時、砂まみれになってしまうのだ。
伊達に砂漠のど真ん中ではない。
そんなことよりも早くお風呂に入りたいのでちゃちゃっと移動を済ませる。

「さて、今日の業務もおしまいっ」

体を伸ばしてから自宅に向かう。
向かう先から漂ってくるカレーの香りや家の明かりが私をプライベートに戻してくれる。
とはいっても特に何が変わるわけでもないけどね。

「あー、なんだか気分的につかれたー」

ガチャッ・・・バタンッ・・・


第一話-完-




あとがき

とりあえず我慢できずにつくったこの広い世界のどこかで、サイドストーリーでございます。
この世界では飛行機を飛空機といいます。
飛空石を使った飛空艇のほうが先に空を飛び始めたからという理由がここにあります。
チェロキーは発掘品とありましたが・・・それが何を意味するのか、
これからの発展に期待しなくても良いけどしてくださいまし!
あ、BBS等で感想をいただけると非常にうれしい限りです。

by蜂
最終更新:2011年03月07日 20:39