巻ノ三「蝙蝠と自動改札機」

引き篭もりの相棒を久しぶりに外へ連れ出す

私の相棒であるダークウィングという蝙蝠はどうしようもないほどの引き篭もりだ。通常、真っ昼間は寝ているが、夜中になると私が使っていた中古のPCに向かって自分の管理する掲示板や鉄道関連の掲示板に自らの主張を書き殴り、周囲からのツッコミと批判を受けているようである。しかも、必ず毎正時に漢字2文字のタイトルで書き込むという異常な拘りを持つようである。
そんなダークウィングに先日学校見学してきた天空島の学校について話したところ、非常に興味を持ったようである。久しぶりに私と一緒に出かけるということなので、まるで初めて外国にでも行くかのような喜びようである。
ダークウィングの笑顔を見るのは何年ぶりなんだろうか・・・と感慨に耽っていた直後、ダークウィングは日本の特定の地域を「外国」と表現した書込みをしてしまったようである。もう見てらんない。
翌朝、眠っているダークウィングを叩き起こして、身支度を整えて、天空島の学校へ向かうことにした。

自動改札機の怪

私はダークウィングをマントの如く纏ってふたば台駅に向かった。小春日和なので、流石に黒っぽい色の「マント」を纏っていると少々汗ばむ。
私はいつも通り、切符を買って改札を抜けようとした。しかし、改札はけたたましいチャイムを鳴らして、出口の扉を閉ざした。私は怪訝に思い、駅係員に原因を尋ねようとした。私が何故折れたり曲がったりしていない買ったばかりの切符で改札を通れないのか小一時間ほど問い詰めようとしたが、逆に同伴者の切符を買いましたかと問い詰められてしまった。
そう、改札を通る事が出来なかったのは、ダークウィングの分の切符を買っていなかったためである。この世界は動物と人間が仲良く暮らすという世界のため、動物も人間と同じ権利と義務を持つものとされているようだ。そのため、動物も鉄道を利用する際に所定の運賃を支払わなければならないのだ。私はこの世界に移り住んでからそれほど経っていなく、また、ダークウィングを連れて外出した事は殆ど無かったため、このことに気が付かなかった。そのため、券売機でもう一枚、切符を買う羽目になったのである。
改札機は2枚同時投入の出来る最新型で、私は自分の分とダークウィングの分の切符を改札に通して、改札を抜け、渋井方面ホームに出た。

天空島の学校からの帰り

ダークウィングと共に天空島の学校の2次面接に行き、2002年度入学の手続きを済ませた帰りに、双子玉川上水で龍樹とドラグレッダーに出くわした。
「内藤さ〜ん!」龍樹はいつもの調子で声をかけた。私が「おう!」と答えると、「これから、大供(おおども)の国に行くのですけど、内藤さんも一緒に行きませんか?」と龍樹は私を「大供の国」という遊園地に誘った。
「大供の国」という遊園地は東京田園都会線の長津田沼から出ている欧浜高速鉄道の路線の終点にあるアスレチックパークのような遊園地のことである。この遊園地は遊戯施設の殆どが子供向けっぽいが大人サイズに造られているという奇怪な特徴がある遊園地であるという。
我々一行は、2番線ホームに入ってきた急行電車に乗り込み、一路長津田沼へ向かった。
下りの急行も結構混んでいるようだ。が、一方、1番ホームに停車中の各駅停車は空気輸送ともいえるくらいに空いている。この世界の住民はそんなに急行電車が好きなのか?

いざ、大供の国へ

我々を乗せた急行中央林間田園都市行きの最新鋭転換クロスシート電車Sc5000系は時速160kmでビュンビュン走っている。普段使っているふたば台を出ると、田中を通過して、長津田沼に到着する。
長津田沼ではJr.欧浜線と欧浜高速鉄道の大供の国線が乗り換えだ。我々は7番線に停車中の欧浜高速鉄道大供の国線電車に乗り換えた。
大供の国線電車は18m級の2両編成というもので、大井松田線よりも更に小規模で、また、長閑な雰囲気の電車である。発車ベルを鳴らし、ワンマン運転のため運転手がドアを閉めると、電車はゆっくりと走り出した。
途中、恩仇に停車し、列車交換を行う。恩仇駅は紅岳原鉄道の長津田沼工場の脇に作られた交換駅で、単線である大供の国線電車はここで擦れ違うことになる。沿線風景は長閑であるが、電車はATC搭載の最新型のScY001系である。形式番号にアルファベットが使われているのは、やたらと新車をリリースするため、数字が足りなくなったかららしい。何故、桁を増やして対応しないのか不思議に思える。そのアルファベットも「Y」まで使われているようなので、もうすぐ足りなくなるみたいだが・・・。因みに、形式番号の「Sc」というのは「Scissors(鋏)」の頭文字二文字のようである。要するに他社と形式番号が被らないようにする、相互乗り入れ第一主義の紅岳原鉄道らしいやり方である。
そういえば、長津田沼工場では新車が製造中のようで、工場構内線に先に完成した先頭車が留置されている。形式番号を確認すると「Tc-ScAM’Z- 0001」と書かれている。何だ何だ?アルファベットまで足りなくなって遂に記号まで導入したか。もう見てらんない。因みに龍樹の説明によると、この電車は「ScAM’Z系」という電車でJr.束曰夲のヨ231系ベースの緩行線用の新型車両のようである。確かに正面以外はヨ231系そっくりだ。種別幕がある以外は。もっとも、「普通」以外必要になさそうだが。それとも、他社に押し売りするために敢えて、種別幕を付けたのか?いずれにしても謎の多い車両である。
工場構内線の新車について龍樹と語るうち、終点の大供の国に着いた。1面1線のシンプルな駅だが、自動改札が備わっているなど、かなり設備が良いローカル線の駅である。我々は近くにあるファミリーレストランで昼食をとることにした。

大胆なデザインのウェイトレスの制服

我々は紅岳原鉄道グループのファミリーレストラン「アンヌ・ミラーワールド大供の国駅前店」に入った。エプロンにミニスカートという大胆ないでたちの華奢な女性店員が我々を迎えた。女性店員は何名ですかと尋ねると、私は4名ですと答え、女性店員は我々を奥のボックスに案内した。
奥のボックスの席に着き、メニューを見ている束の間、女性店員がやってきて「ご注文は?」と聞いた。私はハンバーガーセットを、龍樹は松井牛のステーキを、ダークウィングはブラッドジュースを、ドラグレッダーは老酒をそれぞれ注文した。女性店員はオーダーの確認をとり、厨房へ我々のオーダーを伝えに行った。
料理が来るまでの間、我々は雑談をすることにした。その中で龍樹は、昆虫や蛇など自動券売機を利用するに困難な動物向けのICチップ内蔵の腕輪があることを教えてくれた。申し込み手続きは些かややこしいが、いわゆるデビットカードと同じく指定の銀行口座から旅客運賃を引き落とすシステムを使っており、人間にも適用されれば便利になりそうなシステムである。現在は特定のモニターによるテスト段階で、龍樹の相棒であるドラグレッダーがそのモニターに参加しているという。モニターの応募は月1回程度で行われているので、私は4月中旬頃にダークウィングをモニターに申し込むつもりだ。
そんな便利なシステムについて語っているうちに、我々の注文した料理が運ばれてきた。我々は食事を済ませ、レジで私が三井住友鉄道バイザーカードで代金を支払って、店を後にした。

斜陽の遊園地

大供の国の開園は今から30年ほど前と非常に古い。遊園地を巡回する休止中のモノレールの桁が寂れかけている遊園地の哀愁を語っているようだ。このモノレールは軌道と支柱に罅(ひび)が入っていることが判明し、開通から1年余りで運行休止に追い込まれ、以後30年にもわたって運転されていないようである。そのせいなのか、遊園地の入場者数は年々減少傾向にあるようだ。同じ遊園地でも、東洋デズニ・リゾットのような魅力的なアトラクションが無いので無理も無い。
我々は色々なアトラクションを回ったが、30年以上昔から変わらないアトラクションは非常につまらないものである。経営に行き詰まり、この遊園地も紅岳原鉄道資本の傘下に収まったようだが、それでも経営が改善されず、2002年3月31日を以って閉園となるようである。
子供の頃は親に遊園地に連れて行って貰うのが非常に楽しみだったが、この遊園地にいる人達は老若男女問わず、非常につまらなさそうな顔をしているようである。
以前ビジネス誌でこの遊園地の経営者のインタビュー記事を見たことがあるのだが、余りの不誠実な経営方針に呆れ返ったことがある。普通だったら、魅力的な施設を導入するとかして経営改善を図るところを、この遊園地の経営者は「レジャーの多様化で客が来なくなった」などという逃げ口上で自らの怠慢を覆い隠しているような気がしてならない。私は、そんな不満話を龍樹に語っていた。
やがて、夕方になり、我々は夕日を受けてより淋しさを醸し出す斜陽の遊園地を後にした。


最終更新:2012年05月26日 17:07