巻ノ四「車掌と昆虫」

たまには遠出も悪くない

ダークウィングは相変わらず、ネット上で他人に迷惑をかけている。何でかくもコミュニケーションが出来ないのか不思議に思う。謹慎中なのに「西大阪高速鉄道掲示板」を開いてより一層反感を買ってしまっているようである。薮から蛇とはまさにこのことだろう。やがて、ダークウィングは不満を爆発させたのか、掲示板をJR東北本線の駅名アナウンス(?)の書込みで埋め尽くし始めた。相変わらず毎正時に書き込むという習慣はこんな時でさえ守っている。しかも、「もとい」とかいって同じ駅のアナウンスをやり直していることもある。もう見てらんない。
私はそんなダークウィングを連れて、長野県にある鍬形虫ノ町へ出掛けることにした。
鍬形虫ノ町は長野県にある。長野行き新線*1は以前わざわざラッシュ時間帯に出掛けた箱崎から出ている。そこで、私は私とダークウィングの分の切符を券売機で買い、改札を抜けて渋井・箱崎方面ホームに出た。
ラッシュ時間帯でもないのに、相変わらず転換クロスシートの急行電車は混雑している。一方の各駅停車は空気輸送ともいえるくらいに空いている。この差は一体何だろうか?まあ、そんな私も無意識のうちに急行電車の方に乗っているが。
急行電車の車内では、沿線住民と思われる2人組みがアザレ野急行停車の是非について口論している。この世界は鉄道マニアの人口比率が異常に高いせいなのか、やたらと鉄道に詳しい人間が多い。かくいう私も鉄道マニアなのだが・・・。

箱崎で新線に乗り換え

急行電車は1時間ほどで終点の箱崎に到着した。A団恨・憎悪線の箱崎駅ホームは地下二階にあるのだが、新線のホームは地上六階にある。新線のホームまで、エレベーターで移動する。
新線乗り場の中間改札の手前にある窓口で私は新線の乗車券と特急券を購入した。勿論、私とダークウィング二人分だ。
ホームで電車を待っていると、小気味良いインバータ音と共に長野行き新線の電車が入ってきた。カモノハシの嘴をデザインしたような特徴ある電車だ。
私は自分の席に近い車両の入口付近のドアから新線電車に乗り込んだ。電車に乗り込み、指定の席に着くと、反対側から龍樹がやってきた。どうやら同じ目的地へ向かう様子だ。
「内藤さ〜ん!」相変わらずの調子だ。ドラグレッダーも一緒にいる。龍樹とドラグレッダーは私の前のシートを回転させて着席したが、どう考えてもドラグレッダーは指定の席以外にも四つの席を占領してしまっている。これでは他の客が迷惑ではと思った束の間、龍樹は「ドラグレッダーは体が長いので五つ分の座席の指定をとっているんですよ。」と怪訝な顔の私に説明した。
そう、何度も繰り返すようだが、この世界ではどんな種類の動物にも「人権」がある。例えば、龍がラッシュアワーの電車に乗っても迷惑なくらい騒がなければ誰も文句を言う権利はない。また、鉄道各社は挙って、動物達の乗車に差し支えの無いように様々なバリアフリーを施している。先日寂れた遊園地前のファミレスの話に出てきたICブレスレットがその実例である。だから、龍のような体長の長い動物が新線などの特急列車に乗車する際は体長に応じて複数の座席指定を取る必要がある。複数の座席指定を取ったからといって料金が倍以上かかるということはないようだ。こんな変な世界だから、他にも色々と人間界では考えられないような不可思議なサービスが多い。
そんな会話をしている間に新線の超特急は一路長野へ向かっていた。

長野から鍬形虫ノ町へ

新線の超特急「あさま」は1時間弱で長野に到着した。最高時速500kmで走るため案外呆気ないものである。
新線長野駅を降り、我々は目的地である鍬形虫ノ町へ向かうため長野博電鉄の地下ホームに向かった。
長野博電鉄の長野駅ホームには雨蛙にそっくりな顔立ちの、かつて東京田園都会線で使われた旧型車が待っていた。この古めかしくも暖かみのある車両に我々は乗ることにした。
鍬形虫ノ町はこの鉄道線の途中駅にある。その先には来月に廃止となる雉馬線の分岐駅心中州野や終点の湯中田氏温泉の最寄り駅湯中田氏などもあるが、こちらへはまた別の機会にすることにする。
やがて発車ベルがなり、地下区間をゆっくりとしたスピードでこのローカル私鉄電車は走るのであった。

鍬形虫ノ町の遺跡

そもそも、何故、我々は鍬形虫ノ町へ向かったのか。それは、鍬形虫ノ町には神秘的な古代遺跡があり、そこで発掘されて空我博物館で展示されているクワガタ虫型の謎のオブジェや古代文字の刻まれた悪と戦った勇者の棺を見に行くためである。
そうしている間に、電車は鍬形虫ノ町に到着した。八代方面に分岐する支線に乗り換えられるが、この駅が目的地なので、ここで降りることにした。
鍬形虫ノ町という地名はその名の通り、鍬形虫が多く住んでいるからである。しかし、最近は遺跡から発掘された謎の石「尼駄無」による影響で、鍬形虫達は進化し、その多くは2年ほど前にテレビのニュース番組で見た未確認生命体4号にそっくりな感じになっている。そういえば、警察の機動隊ではこの未確認生命体 4号をモチーフにタレントの上原さくらに似た科学者が第3世代強化装甲を開発したという。
私は空我博物館に入り、忍者装束の鍬形虫の男の案内で館内を一回りした。

鍬形虫ノ町の隣には甲虫ノ町

我々は古代文字の刻まれた勇者の棺や、謎の鍬形虫型の乗り物といわれているオブジェ、更に、古代遺跡とは無縁の警察が開発した次世代のモトクロスバイクタイプの白バイも見てきた。
我々を案内した雷を操る忍者を自称する男は、このすぐ隣に甲虫ノ町があると説明した。
旅行好きの我々はそんな話を聞いてじっとしていられない。鍬形虫の忍者に別れを告げて、バスに乗って甲虫ノ町へ向かった。
甲虫ノ町も鉄道の駅がないということ以外は鍬形虫ノ町とさほど変わらない様子である。ただ、こちらは電撃を使った蹴り技を使う天道虫の電波人間の彼女のいる男にそっくりなのが多い。
こちらの町にはエネルギー博物館がある。この土地出身の石油王、城茂氏が建てたものだ。鍬形虫が古代遺跡なら、甲虫は最新のテクノロジーか。対照的でなかなか面白い。
早速、そのエネルギー博物館に入ると、先ほど空我博物館を案内した忍者の色違いのような甲虫の忍者が我々をガイドした。

長野を後に

我々はその後、長野博電鉄沿線の町をブラリブラリと寄りまくった。お陰で、予定を大幅に超してしまった。そのため、今日は飛蝗の町松台で泊まることにした。
松台は飛蝗人間の人口の多い町であるが、長野市内にある善光寺のため、観光資源に恵まれながらも冷遇されているようである。
松台の町内会会長の本郷猛氏が経営する老舗旅館で、一風呂浴びて、美味しいご飯を食べ、明日に向けてもう一風呂入って、寝ることにした。
そして、翌朝、長野博電鉄で八代に出て、しんのう鉄道の小室から箱崎行きの新線超特急「あさま」に乗車して、帰るのであった。


最終更新:2012年05月26日 17:08

*1 現実における新幹線のことを指す。この「紅岳原鉄道」の世界では「新幹線」ではなく「新線」ということになっている。