巻ノ六「破滅と再生」

紅岳原鉄道と包帯学園の確執

以前にも出たが、紅岳原鉄道はある学校法人と敵対的関係にある。紅岳原鉄道のオーナー社長の須藤雅史氏はその学校法人(包帯学園高等学校)の出身だが、さまざまな問題を起こして退学となった過去がある。
須藤氏はそれからというもの、包帯学園に対し敵意を抱くようになり、なかんずく退学の直接的原因となった包帯学園鉄道管理委員会の加賀友之氏に対しては強烈な敵意を抱くようになり、須藤氏は加賀氏に対して何度となく中傷誹謗するプレスリリースを発行したりした。また、加賀氏も紅岳原鉄道に対しクレームの電話をかけるなどして応酬した。
そうした中傷誹謗合戦も、紅岳原鉄道が包帯学園に対して干渉しないということを宣言することで収まりそうになったが、紅岳原鉄道は裏で包帯学園問題BBSを立ち上げるなどして包帯学園に対する攻撃を止めなかったため、両者の関係は更に悪化した。
そして、先日のアザレ野事件のプレスリリースに包帯学園の工作員がデモ隊を煽っていたというのが掲載され、包帯学園側はそれを名誉毀損と断定した。それに対し、紅岳原鉄道側は「(包帯学園は)そんなに私の意見をことごとく潰し且つ私を不愉快にさせてそんなに面白がるようなアファどもの集まりですね。何て心の狭い連中なのか、呆れてものが言えません。」と答えたため、包帯学園は紅岳原鉄道に対して宣戦布告を行った。
これにより、紅岳原鉄道軍と包帯学園軍との全面戦争が始まったのである。

中国地方へ疎開

通常なら、裁判に持ち込んで法の下で白黒ハッキリさせるだろう。しかし、この世界は違う。いざこざが起きるとそれぞれの私設軍隊を出して戦争するという。その規模は暴力団の抗争など目じゃない。先日、アザレ野の鉄道軍VSデモ隊の戦闘を見たが、あれでさえ戦場宛らの風景だった。ましてや今回は、軍隊と軍隊の衝突である。これは大規模なものになることは間違い無い。
私は、疎開先を紅岳原鉄道沿線から離れた中国地方に確保した。そして、龍樹に連絡し、荷物をまとめて、ダークウィングと共にすぐに新線の新欧浜駅へタクシーで向かった。
新欧浜に到着し、龍樹とドラグレッダーと合流し、テロ対策のためのチェックを受け、搭乗手続きを済ませて、新線のホームへ出る。新線のホームには我々と同じように疎開する、紅岳原鉄道沿線住民と思われる人達でごった返していた。我々は指定席車を確保したので、混雑する自由席車で息苦しい思いをせずに済むだろう。そうしているうちに新線超特急「のぞみ」が入ってきた。我々は慌てる必要も無いのに慌てて飛び乗り、座席に向かった。
ここからは一路、福山へ向かう。普通、東京から中国地方辺りに向かう場合、飛行機を使うという。ただ、今回はテロ対策ということで、空港の使用停止が出たということと、とっさに思い付いた行き方が新線を利用するというものだったので、こういう行き方になった。
新線超特急電車は慌ただしく出発した。龍樹は私に、紅岳原鉄道が東京近辺だけでなく、北海道や東北地方、更には関西地方でも事業展開をしているということを話した。私は岡山へ疎開するつもりだったが、紅岳原鉄道資本の兵庫県南部に本社のあるテレビ局の支局があり、不穏な状況のため、そこより少し遠い福山に変えた。
紅岳原鉄道は全国的に事業展開をしていて、同業他社に対し、新車の押し売りなどの行為が以前から目に余っていた。そのため、この戦争をきっかけに鉄道各社は反紅岳原鉄道で結束し、自社沿線に対して紅岳原鉄道軍の進軍を阻止する対策を施しているようである。ただ、その対策はやや緩めで、危険性の大きい地域への駅員の増員程度のものが殆どだ。まあ、紅岳原鉄道みたいに私設の軍隊を持っている鉄道会社はこの世界でも少数派のようである。また、鉄道各社は反紅岳原鉄道で結束しても、決して包帯学園に味方している訳ではないということも付け加えておく。
この動きに対して、紅岳原鉄道は包帯学園による卑怯な諜報工作活動によるものと説明しているが、説得力はない。包帯学園のことしか見えていない近眼視的なものの見方といえる。
そんなことを龍樹達と話しているうちに、岡山に到着した。新線のチケットは岡山までしか買っていなかったため、ここで降りなければならないためである。

岡山から福山へ

岡山から福山へ移動するのだが、行き方はJr.酉曰夲以外にも、両備山陽急行電鉄、おたふく電鉄、仁志二本高速鉄道の路線でも移動できるようである。
我々はウルトラマンコスモスのTEAM EYESにそっくりな制服を着けた警備員が厳重に警戒している両備山陽急行電鉄に乗車することにした。
両備山陽急行電鉄の岡山駅ホームは地下4階にある。我々は福山方面の3番線ホームに来て、後楽園方面から来た快速特急福山行きに飛び乗った。紅岳原鉄道の車両とは違い、ユニークでセンスの良いデザインの車両は周りからの評判も良い。ウルトラマンコスモスコロナモードに似ている塗装も格好良いものだ。
快速特急電車は心地よい音階を奏でて地下の岡山駅を出発する。ここから倉敷まではノンストップ。最高時速130kmなので、紅岳原鉄道に比べてゆっくりであるものの、乗り心地は桁違いに良い。この路線にぴったり寄り添って走るおたふく電鉄も庶民的な雰囲気でなかなか良い。
聞くところによると、この鉄道会社は、北海道の廃止私鉄からやってきた2両の電車を除いて自社発注の車両を使うのが伝統であるという。いや、殆どの鉄道会社が自社発注車両を使っているという。まあ、この電車に一度乗ってしまうと紅岳原鉄道のようなサービス(?)の押し付けみたいな車両が異常に見えてしまう。まあ、それが普通の感覚なのかもしれないが。もっとも、紅岳原鉄道は自社ブランドの鉄道車両の押し売りなどをすること自体が大きな問題だが。
電車は途中、倉敷、玉島、笠岡に停車し、終点の福山へやってきた。福山駅は延伸工事の真っ最中らしく、工事の衝立てに臨時の広告スペースが据え付けられていた。そこに貼ってあるHearts Dalesのポスターに見とれる暇も無く、我々は改札を出て、疎開先のビジネスホテルへ向かった。

福山のホテルにて

我々はやっと落ち着ける場所を得てほっとした。真っ昼間なのにシャワーを浴び、パジャマのような室内着に着替えて寛ぐことにした。
疲れが溜まったせいもあり、ソファーで暫く昼寝し、夕方頃に目が覚め、おもむろにテレビを点けてニュースを見た。
ニュースによると、東京都内全域と川崎市と横浜市の一部が警戒地域となり、住民に自主的に避難するように呼びかけている。その後、紅岳原鉄道軍と包帯学園軍の戦争の様子が映し出された。戦線は一進一退で互角に戦っているようである。包帯学園軍は盛んに紅岳原鉄道軍を挑発しているようだが、紅岳原鉄道軍も盛んに包帯学園軍を挑発しているようである。まるで重火器を持った子供同士の喧嘩のようだ。
私の住んでいたふたば台辺りの様子はどうなのだろうかと、心配ではあるが、もう自棄になっており、いっそのこと、この福山に定住してやろうとも思った。ここの住民は非常に親切だ。我々のような余所者にも親切である。まあ、紅岳原鉄道に限らず、ニュータウン地域は結構殺伐としているのが一般的らしいが。とはいえ、福山と比べるとやはり、紅岳原鉄道沿線は異常なくらい殺伐としているように思える。
我々はホテルのレストランで食事を済ませ、部屋に戻って再びテレビを点けた。

衝撃の記者会見

テレビのニュースは相変わらず、紅岳原鉄道軍と包帯学園軍のニュースが流れている。紅岳原鉄道軍は、頼みの綱であるひろゆん氏の南蛮船が中々来ないので、窮地に立たされた模様だが、それでも尚、両者の戦線は膠着状態だ。反紅岳原鉄道連合からの支援が停止され、包帯学園軍の兵站能力も限界に達しているようだからだ。
龍樹は私に「いつになったら、こんな子供じみた戦争が終わるんですかね。」と聞いてきた。私はさあねと答えた。そんな時、衝撃的ニュースが流れた。
何と、紅岳原鉄道のオーナー社長である須藤雅史氏が、野中電鉄の本社で新路線の発表を行ったという。戦争中なのに悠長なことだ。だが、それだけではない。最も衝撃的だったのは、紅岳原鉄道の廃止ということも発表したのである。
紅岳原鉄道の廃止・・・それはまた、ある別のことをも意味していた。それは、今、我々のいる世界の終焉ということだ。実は、この奇怪な世界は紅岳原鉄道の空想(というより妄想)の産物なのだ。つまり、紅岳原鉄道の廃止というのは、この世界を終わりにするという意味でもある。
このことは全国にいる関係者達を驚愕させた。また、反紅岳原鉄道連合の中心的存在である東名電鉄及び帝都環状電鉄の社主はこの不誠実な対応に憤っているようである。
また、ある批評家は、紅岳原鉄道に対し、戦争相手でもある包帯学園や、包帯学園とは別に関わりのあった日比野高等学校に謝罪を求めるコメントを発表した。
そんなニュースが流れたが、戦争はまだ終わっていないようである。そういえば、街頭インタビューで一般市民を装った須藤氏が「紅鉄も包帯もアファですね」などと言っていた。「アファ」なんて言った時点で馬脚がばれてしまっている、須藤氏の下手糞な自作自演に呆れた。あと、いつもの倍以上に紙オムツのCMが流れていたが、あれも須藤氏の仕業なのだろうか?
一切反省しない傲慢なワンマン社長に呆れるばかりだ。私は疲れているのか、いつしかウトウトと眠りに就いた。

翌朝・・・

紅岳原鉄道の世界が終わるというのだが、世界の破滅が目前というのに、我々は何故か安心していた。あの不条理な世界が終わるからだろう。
福山のホテルに泊まっていたはずだったが、翌朝、目を覚ますと、私は横浜市の自宅にいた。ダークウィングを捜すのだが、ダークウィングは見当たらない。そう、彼(?)はあの世界で生まれた存在で、通常の人間界には存在していないのだ。
どうも、私は現実界に戻ったようである。何だか、長い眠りから覚めたような気分だ。そういえば、あの戦争の現場はどうなったのだろうか?テレビを点けてニュースを見る。
テレビのニュースは何事も無かったかのように、事件を淡々と伝えていた。更に、私はパソコンを立ち上げ、インターネットに接続した。ブックマークに「紅岳原鉄道」のページが登録されていないではないか!?慌ててサーチエンジンで検索する。しかし、無関係なページばかりがヒットする。そう、「紅岳原鉄道」の世界は終わり、「紅岳原鉄道」の存在も消えたのだ。
私は外へ出て、駅へ向かった。自宅の最寄り駅は・・・紅岳原鉄道東京田園都会線ふたば台ではなく、東急田園都市線青葉台だ。私はパスネットの残りがあったので、パスネットで改札を抜け、渋谷方面のホームに行った。
現実の鉄道路線なので、あの「紅岳原鉄道」とは違って、普通の複線である(当たり前だが)。ただ、入ってきた急行電車の混雑ぶりは変わらないが。
急行に乗って、渋谷へ向かうことにした。私は思わず、東急の路線図に目をやった。一見、普通の路線図のようだが、何かが違う。そう、「多摩急行電鉄」という見慣れない路線が書かれているではないか。まさか、これが「紅岳原鉄道」の生まれ変わった姿なのか?
それを確かめるべく、私は二子玉川で各駅停車に乗り換え、多摩急行電鉄の乗換駅である駒沢大学へ向かった。そして、駒沢大学で多摩急行電鉄の駅ホームに来た時、止まっている電車を見て、この鉄道が「紅岳原鉄道」の生まれ変わりと気付かされたのである。確かに、一見、「紅岳原鉄道」と異なるところも多いが、どこか怪しいようだ・・・。

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最終更新:2012年05月26日 17:10