PSG音源は、音の波形が矩形波をしており、いわゆる電圧の0/1のパルスを
周波数で駆動したものだ。
この音色はファミコンなどで聞き覚えのある音色となる。
FM音源の発音のメカニズムはPSGとは大きく異なる。
YM2413はLSIにあらかじめ組み込まれた音色が15個ある。複雑な音色を設定ず、
組み込まれた音色データを利用し、すぐに簡単に音を発音させる事ができる。
この組み込まれた音色データ以外に、一つだけオリジナルの音色を作る事も
可能だ。
オリジナルの音色を作る場合は、複雑なFM音源理論を理解してパラメータを操作する。
しかし音色レジスタは一つだけなので、LSI全体として一つだけ独自の音色が
設定できる。
9つあるチャンネル同時利用の際、オリジナル音色はただ一つだけ利用出来る。チャンネルごとに
オリジナルの音色を個別に設定はできない。
またオリジナルの音色はLSIに組み込まれた音色と同時発音は可能だが、
設定レジスタは一つなので複数のオリジナル音色を組み合わせることはできない。
FM音源の音色はPSGのように0/1のパルスに音階をつけたものとは違い、正弦波(SIN波)を基本としている。
このSINカーブを描く波に対して、FMラジオの仕組みと同じような方法で
幾つかの音色を付け、振幅方向の時間変化もパラメータによって指定する。
FM音源の音色設定は、時間的振幅の変化と、SIN波の合成のパラメータを設定する。
式で表すと以下のようになる。
f=A sin (ct + I sin mt)
ct = Carrier ωt
mt = Modulator ωt
A = Carrier Amplitude
I = Modulator Amplitude
もし音の振幅方向の時間的変化を与えるパラメータ(アタック、
ディケイなど)が一定であれば、
式のA,Iは一定となる。ここではA,I=1と考えると式から変数が消える。
f= sin ( ct + sin mt)
ctとmtはキャリアとモジュレータと呼ばれ、FM音源では二つのSIN波形を合成して音色を作る。
これはFMラジオの無線通信方式と似ており、キャリアと呼ばれる主要な信号源と、
キャリアに対してモジュレータと呼ばれる変調器が合成され、さまざまな音色を作る。
もしモジュレータが必要なければ、式のsin mtの項はゼロだ。従って式は単純にSIN波のみとなる。
f= sin( ct )
このときの音の信号を図示すると以下となる。
Carrier
*
* *
* *
* *
-----*------*
* *
* *
* *
*
YM2413の音色設定では、アタック、ディケイなど振幅方向のパラメータを
一定にし、モジュレータパラメータをゼロとすれば、SIN波形を持つ音色を発生させる
ことができる。設定するパラメータは以下のようなものとなる。
モジュレータトータルレベル = 63
キャリアアタックレート = 15
キャリアマルチプルレベル = 4
あとは全て0と指定すれば、SIN波の発生させる音色となる。
キャリアアタックレート=15は打鍵の時、音を最大にしてあとは持続させる。
マルチプルレベル=4はF-Number指定しない時のデフォルトの音階を指定する。
トータルレベルはモジュレータの出力信号のアッティネータ。
最大値にするとモジュレータからの出力をほぼカットする。この時FM音源は
モジュレータ出力はゼロなのでキャリアのみの1オペレータとして動作する。
FM音源LSIのYM2413は二つのSIN項を持つ式として表現できる。
f= sin( ct + sin(mt) )
式が表すSINを二つ組み合わせる項を、信号の流れ図ダイアグラムで表記すると
二つのモジュールを直列に組み合わせたような図として描く事ができる。
---------- -------
|Modulator| ----->(+) |Carrier| -----> D/A OUT
---------- -------
| |
ωt ωt
YM2413FM音源は、二つのSIN波を合成するので、一般に2オペレータと呼ばれる。
YM2413のベースとなった設計はYM3812でありOPL2(Operator Type-L * 2)である。
理論的にはこのオペレータを多く組み合わせればより複雑な音色を作る事が可能となる。
パラメータのモジュレータトータルレベルを63として減衰器を最大にすると、
キャリアのみ動作となる。
モジュレータのアタックレートがゼロの時も同様だ。
このとき、FM音源は1オペレータなのでSIN波形に対して振幅の時間的変化のパラメータ
(EG,エンベロープジェネレータ)のみ機能する。
FM音源の特徴である複雑な倍音を含む音色ではなく、純粋にSIN波形の音色となる。
------
|Carrier| -----> D/A OUT
------
|
ωt
このほかにYM2413は2オペレータ動作時に、フィードバックパラメータが指定可能で、
より複雑なストリング系の音色を持つ音を発音可能である。
f= sin( ct + sin(mt) + β )
= sin( ct + βF )
この式を図で表すと下のようになる。
Feedback(β)
---------------------------------
| |
| ---------- -------- |
--->|Modulator| ----->(+) |Carrier| -----> D/A OUT
---------- --------
| |
ωt ωt
アタック、ディケイ、サスティーンレベル、リリースレートなどのパラメータは、
音のエンベロープを設定するパラメータで、振幅方向の時間的変化を指定する。
アタック、ディケイなどのパラメータは楽器の打鍵後の音のエンベロープの時間的変化を指定する。
これは打鍵後の音の強さの時間的変化の特徴を表現するものといえる。
一般にエンベロープジェネレータ(EG)と呼ばれる部分がこの処理を行なう。
Envelope
*
***
*******
-********************------
これに対してキャリアで作られるSIN波形がある。これはフェイズジェネレータ(PG)などが
クロックを基準として信号を作るものだが、鍵盤のオクターブによっても変化する。
音の音階の基礎となるものだ。
Carrier
*
* *
* *
* *
-----*------*
* *
* *
* *
*
これら両者を加算すると、打鍵後の音の時間的変化を伴うSIN波形が作られる。
D/A OUT
* **
* *
* *
-----*--*********----
**
これがFM音源の基礎となる発音のメカニズムとパラメータの与え方と動作の振舞いとなる。
FM音源はPSGと異なり、SIN波形を基礎とし、その倍音成分や振幅をパラメータを与えることで
変化させる。
音色を作る際は、これらの基礎知識を良く理解してから、適切にパラメータを設定すると
よいだろう。
最終更新:2012年05月04日 03:12