第参話

しかし、シンジを嫌う者が居なかった訳ではない。

何と言ってもシンジは男子中学生である。
第三東京市にある中学校に転入され、普段はそこへ通うことになった。
「面倒なら通わなくて良いのよ」とミサトから言われたが、逃げるようにしてシンジは学校に向かう。
流石にそこではNERVの方策が届いては居なかったのだが、なんといっても有名人シンジである。
最初の朝礼で校長に紹介されて熱烈な歓迎を受け、
彼の周りには生徒達が群がるほどに大変な人気者となり、
昼休みには女子の手作り弁当が山と積み上げられた。
彼女が欲しいと思えば選り取り見取りで選べる状態で、
今の彼なら女子更衣室で着替えることも可能だろう。
そんな彼を快く思わない者が一人。そう、鈴原トウジである。
ぶん殴る算段で校舎裏までシンジを連れて行く、そんな喧嘩腰の険悪なトウジであったが、
もしかしたら殴り合いの末に友達になれるのでは?という淡い期待がシンジの胸中に沸く。
「わいは殴らなあかん。お前を殴らなあかんのや。」
実のところ、別に彼の妹は使徒との戦闘に巻き込まれた訳ではない。
当たり前だ。まるで設えられたような戦闘だったのだ。要するにシンジの人気に対するやっかみである。
で、殴ろうとしたのだが、その人気者シンジをかばうものが居ないはずはない。
かばうどころか、トウジはシンジファンの女子生徒に徹底的にボコられ、
監視していたNERV諜報部にこっそり病院送りにされてしまった。
「お兄ちゃんが独りぼっちになるから。」と見舞いに通うけなげな妹の姿があったことだけは、
余談ではあるのだが書き加えて置きたい。

学校にも逃げ場のないシンジ。節操のない女ったらしなら天国だが、
内気な彼には絶え間ない性欲地獄に落とされ、とろ火で延々と炙られている状態なのだ。
まさに人前で縛られてAVを見せられるようなもので、思春期でなくとも耐えられる男は居ない。
またしても「引き金を引くだけ」で倒せるはずの第4使徒シャムシエルの戦闘で、
もやもやした悩みを抱えたシンジがプログナイフで滅多刺しした様子から、
どうやら彼に精神汚染が始まっていることが判り始めた。


で、家出した。
書き置きを置いて街から去るシンジ。
街をさまよえる訳がない。なんといっても有名人なのだから。
ようやく人気のないところに出て変装を解き、ほっと一息をつくシンジ。
緑なす深い山々、空を赤く染める夕日を眺めながらシンジは考える。
これからどうやって生きていこう。既に自分は有名人だ。
お金の使える場所では必ずつきまとわれてちやほやされる。
もう嫌だ。あんな目に遭うのはこりごりだ。
そんな彼に声をかける者が一人。だれだろう。
それは、山ごもりまでして一人ミリタリーゲームにいそしむ同級生の相田ケンスケであった。

二人で焚き火を囲み、ケンスケの手持ちの食料を分けて貰って、ようやくシンジは心を落ち着けた。
みんなのようにちやほやしないケンスケ。どうやら彼なら良い友達に慣れそうだ。
だが、ちやほやしない理由はちゃんとある。
そう、トウジと同じく心の奥底でシンジをやっかんでいるのだ。
そして、ついそれを口に出してしまった。シンジが逃げてきた理由を聞いて、つい腹が立ったのだろう。
「俺はお前にあこがれて居るんだ。うらやましいよ、あんなにちやほや……ぐはっ」
どうやら付けてきていたNERV諜報部が手を下したらしい。
銃のグリップで殴られ倒れるケンスケの姿を見ながら、シンジは薬を嗅がされて意識を失う。

再び目を覚ますと、シンジは病院で手厚い看護を受けていた。
「ほら、スッキリしたでしょう?」と言いつつ彼の体を拭いているのは、
別の部分までスッキリさせかねない美人ぞろいの看護婦達である。
もう諦めきってうつろな目つきで看護を受けつつ、
しかし息子よ静まれと精神を集中するシンジであった。
最終更新:2007年02月21日 22:07
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