二人の 第拾四話

 スカァァッッ!!!

「ああ……ッ!!」
零号機が投げた「ロンギヌスの槍」、
それは使徒レリエルの球体が幻であったかのように、ものの見事にすり抜けていった。

「しまった……では、あの球体は影なの?そして地上の闇がむしろ本体……」
狭いビルの残骸の上であったため、零号機は投擲した時の勢いで地上へドサリと転落する。
そしてレイの心もまた失意に陥るが、しかしそんな暇などある筈もない。
零号機の元に、使徒ゼルエルの巨体が迫りつつあるのだ。

「……クッ!!」
零号機は必死で立ち上がり、使徒ゼルエルの攻撃を避ける。
禍々しい口中から放たれる閃光、そして二の腕の鋭い刃先を二転、三転して零号機は必死で逃れる。
だが、ATフィールドを再び展開する暇も無く、避けきれずに左腕がバッサリと切り落とされた。
「アアッ!!」
神経接続により伝わった激痛で、思わず悲鳴を上げて腕を押さえるレイ。
もはやこれまでだ。パイロット自身もダメージを受けすぎて、もう次の攻撃は避けられないだろう。

だが切羽詰まった情況のためか、レイはすぐ目の前のことに気が付いていない。
地上の影が既に無くなっていることに。

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シンジは精神を研ぎ澄ます。
ジェットアローンことバルタザールから託されたポジトロンライフルの一撃。
その一撃で、全てが決まる。全てが、終わってしまう。

だが、シンジは冷静だった。これまでになく冷静だった。
信じることだ、全ての雑念を捨て、自分なら出来る、自分なら可能だと、真に自分に言い聞かせ続けていた。
バルタザールが「信じてくれた」自分の力、自分がまだ見ぬ不確定要素。
それが情況を打開する唯一の力だと、それ以外に方法はないと、バルタザールは覚悟を決めたのだ。
そして、レイもきっと信じているだろう。自分が生きていることを、そして自分が生還することを。

時は成った。
シンジはライフルを構えて、発射に備える。
そして待つ。

……何を?

その時だった。

『碇君ッ!!』

「そこッ!!」

シンジはまっすぐ頭上へとライフルを掲げ、そして引き金を引いた。
そして、放たれた陽電子の閃光はまっすぐに貫く。

レイの「槍」が生み出した空間のひずみを。

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ピシッ……ペキッ……パキッ……

使徒レリエルの「影」、中空に浮かんだ不気味な月が身震いを始め、更にはヒビが入り始める。
そこから輝かしい閃光が漏れてくる。間違いなく、それこそがポジトロンライフルの放った光であった。

レイはそれに気が付き、あわやこれまでという状況であるにも関わらず、ハッとなって振り返った。
何故なら、真っ先に使徒ゼルエルがその様子に驚いているからだ。
まさか、とでも思っているのか。その成り行きが予想外であったのか。

そして、レリエルの月から何かが突き出す!

   ドカァッッ!!

               ギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ……

それこそは、紛れもなく初号機の二の腕であった。
しかも、である。
その腕がレリエルの球体の裂け目を押し広げ、そこからおびただしい鮮血が吹き出し、
その苦痛に耐えかねたのか、凄まじい悲鳴が辺り一帯に響き渡ったではないか。

そして、更に残酷にもグイグイと裂け目を押し広げ、遂に姿を現した初号機の顔、
それを固定されている筈の、顎の拘束具がバキリとはじけ飛び、すさまじい雄叫びを騰げて吠え猛る!

  ウォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!!

「しょ、初号機が……」
絶句するレイ。
使徒レリエルから生還した奇跡を喜ぶ暇もなく、その初号機の有様に驚愕している。
「ま、まさか……暴走……初号機が……」

初号機は更に両腕を押し広げて使徒レリエルを粉々に砕き、
そして遂に奇跡の生還を遂げて、凄まじい轟音と猛々しい咆哮と共に地上に降り立つ!

  ズシィィィィィィイイイイインンッ!!!

   ウォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!

そして初号機はギロリと使徒ゼルエルを睨みつける。
「あ……綾波!無事か、綾波ッ!!」
シンジの叫び声。だが、レイには容易に返答できない。
彼の生還に感激しているから?いや、実はそうではなかった。

(碇君が意識を保ったまま?ありえない。あの初号機、間違いなく暴走状態に陥っている。
 あの使徒レリエルの内部で何が起こったの?これは、もしや……)

「綾波ッ!……う、う、うう……うおおおおおあああああああああああッッ!!」
シンジがレイを呼びかける声が、次第に絶叫へ、そして狂気へとと変わりつつある。

(暴走しているのは初号機ではない。初号機は共振しているだけ。
 ……そう、碇君そのものが暴走、いや……覚醒している!?)

神の如き鋭さを見せて、見事な狙撃で生還を遂げたシンジの様子が何故これほどまでに?
だがよく見れば、腕を切り飛ばされて倒れている零号機と、トドメを刺そうとする使徒ゼルエル。
まさに今の現状、まるで最愛の彼女が暴行を加えられようとしている所に、彼氏が通りかかったかのような。
例え話がおかしい?しかし、実際そうなのだ。
なんと使徒ゼルエルはカタカタを震え上がっている。もし彼に話すことができるなら、こんな一言を発しただろう。
(や、やばい……)

確かにヤバイ。非常にマズイ。逃げろ、ゼルエル。
最終更新:2007年12月01日 23:41
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