二人の 第拾五話

「あの……碇君、落ち着いて、ね?今の初号機なら確実にゼルエルなんて倒せ……」
ゼルエルだけでなくレイも怖がっている。何かにおびえて、慌ててシンジをなだめようとする。
ここは思い切って好きなだけ暴れさせればいいものを。

そして使徒ゼルエルもまたカタカタと震えている。
あのジェットアローン最新型三機を瞬殺したゼルエルが。

「き、きさ、貴様……貴様は……」
シンジは怒りで震えながら呻き声を上げ、レイはなだめようと必死である。
「だ、だめよ……いけない、これ以上は……」
『貴様……貴様は…………キサマァァァァァァアアアアッッ!!』

なんと、初号機はシンジと共振しているのか、言葉を発して叫んだではないか。

その一喝に思わずビクリとするゼルエル。そして、ぴゅーっと空高く逃げようとする。
だが、
『痴れ者ッ!同じ手が通用すると思うかッ!!』
なんと初号機はゼルエルより遙かに高く跳躍して、強烈なかかと落としを喰らわせる!

 バシィィィッ!!

             ズドドドドドッ!!

ゼルエルは地面に叩き付けられ、その側にヒラリと着地する初号機。
だが、ゼルエルはボヤボヤしていない。口を開いて例の閃光を初号機に向けて発するが、
『ハッ!そんなもの!』
初号機は右腕の一振りでバシッとそれを弾き飛ばす。
いや、「そんなもの」どころではない。
弾かれて遙か彼方に着弾した閃光は、山一つを軽く吹き飛ばす程の威力があったのだ。

使徒ゼルエルの渾身の一撃を軽くいなした初号機は、さあ使徒に襲いかかるか、と思いきや。
初号機はゆっくりと後ろを振り返り、彼の背に接続されたケーブルと一緒にぶら下がって来ていたジェットアローンを見た。
可哀想に、ジェットアローンは跳んだり跳ねたりの初号機に振り回されて、もはやボロボロに成りつつあった。
初号機は背中に腕を回してケーブルを引き抜き、更に使徒に向かって言い放つ。

『5分……俺の攻撃を5分のあいだ耐え凌いだら貴様の勝ちだ。立てッ!!』
もはやレイは言葉を失う。あそこに居るのは誰?
(ええ!?碇君とのシンクロ率は下がっていく?……89%……74%……64%……あれは初号機の人格?)
もしや、初号機の暴走によりシンジが取り込まれようとしているのか。

もはや逃げ場はないと覚悟を決めて立ち上がる使徒ゼルエル。
自ら5分のタイムリミットを宣告したにもかかわらず、初号機はそれを静かにゆったりと見守っている。

その挙げ句に、初号機はニヤリと笑ってこう言った。
『……喰ってやる。』

ヒッ……という悲鳴が聞こえてきそうなほどに、ビクリと震え上がる使徒ゼルエル。
だから、もういいから逃げろゼルエル。

そして遂に初号機の拳が、唸り声を上げてゼルエルに殺到する!!

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………

  ッ……おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらァッ!!!!!』

 ベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキベキバキボキバキッ!!

使徒ゼルエルはボコボコに叩きのめされる。
ゼルエルは力の象徴?いったいその伝承は何の意味があったのか。ふがいもなく初号機にされるがまま。
なんだか、使徒ゼルエルがATフィールドを巡らせて守ろうとしたかに見えたが、どうやらそれは気のせいだったらしい。
初号機の連打をまともに食らい、いったいどんな姿であったか忘れてしまうほどに形まで歪み始めている。

さんざん殴りつけて気が済んだか、初号機は連打を止めた。
まさに完全なる初号機の勝利。いや勝利というか、虐待、虐殺である。
が、使徒の反応は消えては居なかった。完全にボロボロにされた身体をピクピクと振るわせている。
初号機に絶命するギリギリのところで寸止めされたのか?いや、これが使徒が持ちうるS2機関の効力だろう。
いっそのこと即死できれば良かったのに。

そんな使徒をグワシと掴んでゆっくりと持ち上げ、初号機はニタァ……と嫌らしいまでの笑みを浮かべる。
ああ、なんということだろう。初号機は、まだ息のある使徒ゼルエルを生きながら喰うつもりなのだ。
もう使徒ゼルエルが可哀想で仕方がない。
涙が流せるものなら、ゼルエルは泣いて「まず殺してくれ」と懇願するだろうに。

 がぶりっ……
             ガツッ……ガツガツッ……ガツガツッ……

「あ、あ、あ、あ……」
その初号機のおぞましい有様に、レイはもはや思考停止の状態である。
レイも気の毒だ。こんな光景を見た後では、もはやどれほど心を込めて作ったカレーでも、彼女は口にすることはないだろう。
その傍らでシンジと初号機のシンクロ率を示すメーターがカタカタと上がり続ける。
……いや、下がり続けている?

 マイナス120%……マイナス180%……マイナス260%……

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その一方で。

地下に居るレイ達もまた、モニタを通してその情況を見ていた。
(シンクロ値がマイナス?ありえない。もはや暴走状態の初号機は計測不能と言うことか。)

そう考えながら、レイ達の一人が髪をかき上げる仕草をする。
そしてチラリと見えた耳には、小さなピアスが光っていた。

(いや……もしこれが正しい数値だとすれば、次に起こることは何だ?)

そして、シンクロ値がマイナス400%を示した、その時。

『うぉぉおおおおぉおおおぉおぉぉおおおおおおおおあああああああああああっっ!!』

雄叫びを上げ、使徒を喰らい尽くした激情のままに叫ぶ初号機。
そして次の瞬間、ありえない光景が展開された。

 がしゃん……がしゃんがしゃん……

「こ、拘束具が……」
地下のレイも、零号機に搭乗しているレイも驚愕した。
突然に甲冑を着ていた中身の騎士が消えてしまったかのように、固定されていた初号機の装甲が崩れ落ちたのだ。

そして、中空に浮かび、残っているもの。
赤くぼんやりと輝く赤い球。使徒の持つ赤いコアと全く同じそれ。
それこそが初号機の持っていたコアそのものであった。

「使徒ゼルエルの持つS2機関……それを捕食によって取り込んだ初号機。
 あれこそ、過去に砕かれたアダムのコア。それが復活した今……そして、あの球体こそまさしく……」

そうつぶやく地下のオリジナルのレイ。
だが、零号機のレイはあまりの展開に言葉を失ったままだ。

その球体はゆっくりと降下を始めて地面にほど近いところまで来た時に、すうっと姿を消し始める。
そして、その後に残されたもの。

そこから、ぽてり、と地面に落ちたのは全裸のシンジであった。

オリジナルのレイは考察する。
(行き過ぎたシンクロ値のマイナス、それが巻き起こす現象……エヴァとパイロットの逆転現象。
 碇君は初号機を自らの内に取り込んでしまった、という訳か……成る程。)

そして、彼女は零号機に向かって指示を下した。
「機体の外に出て、碇君を回収。そして速やかに地下に帰投。
 大丈夫、ジェットアローンの崩壊による炉心融解やメルトダウンのような事象は起こっていない。」
最終更新:2007年12月01日 23:43
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