二人の 第拾七話

新参のレイは、ゆっくりと歩きながらオリジナルのレイに近づいていく。
胸元に「02」と刻印された「弐人目」、もとい「二人目」のレイは、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言う。
「ほー?アンタ、ずいぶんと怖い顔するようになったじゃない?
 あのボソボソッとしか喋らないネクラなアンタが。あの碇シンジを守るために、それだけ必死な訳かしら?」

オリジナルのレイは問いただす。
「これまで、どこをほっつき歩いていたかと思えば……それで?私に復讐しに来たのか。
 自分のアイデンティティを確立するため?」
「ま、そんなところね。カレシの目の前でアンタを八つ裂きにするのも面白いかなァって。」
そう言いながら「二人目」はカチカチとカッターナイフの刃を伸ばす。

「だから、その表現は……まあいい。」
そう言って、パキンとオリジナルが指を鳴らすと、コピー達は4人掛かりでシンジを担ぎ上げて、その場から駆け出した。
「ちょ、ちょっと!降ろしてよ!綾波!?綾波ッ!!」

シンジは叫ぶが、コピー達は今度ばかりはそれに逆らい、安全な場所へ待避するために走り続ける。
そしてオリジナルは無言で別のコピーから俗に言う「バールのようなもの」を受け取りながら「二人目」を睨む。
「私を倒すのは簡単ではないぞ?」

だが、「二人目」は余裕の表情でカッターナイフをプラプラさせながらニヤリと笑う。
「さて、どうかしら……シュッ!」
と、身を転じて凄まじい鋭さでオリジナルに襲いかかる!

「クッ……!」
どうにか紙一重で鋭い刃先をかわしたオリジナル。だが、シュパッと着ていた制服が切り裂かれる。
しかし、負けてはいられない。バールを「二人目」に向けて振り回すが、しかし相手もさる者。
まともに受け止めようとはせずスルスルとかわし切る。余裕の笑みを浮かべながら。
だが、攻勢に転じたオリジナルのバールの間合いには、容易には近づけない。
しかし。

「せいっ!!」
あり得ない方向から蹴りを繰り出す「二人目」。まるでカポエラのような器用な足技がオリジナルを襲う。

  バキッ……

流石のオリジナルも一撃を喰らってよろめいた。
「や、やるな……しかし!」
すぐさま、身を立て直してバールを繰り出すが、
だが「二人目」は軽やかな体術で真後ろに飛び跳ね、間合いから逃れてしまう。

だが、そうと見てオリジナルがカチャリと取り出した物。それは黒光りする拳銃だった。
「なッ!?」
驚く「二人目」だが、オリジナルは遠慮はしない。容赦なく引き金を引こうとしたのだが……

「させないっ!」

そう言ったが早いか、「二人目」のカッターナイフが銃を持っていた手を切りつけた。
思わず銃を取り落とすオリジナル。
(馬鹿な、この間合いで?)

そして気付く。「二人目」の本性を。
「貴様、使徒だな……バルディエル?」

それを聞いた「二人目」、もとい、レイに取り憑いた「バルディエル」はヘラヘラと笑った。
「あらァ?ばれちゃったのね。察しの良いこと。」
もう隠す必要もないと言うように、保っていた自らの身体を一気に崩し始める。
なんと両腕、両脚がニュルニュルとタコのそれのように伸び始めたではないか。
つまり、その自在に伸びる身体を繰り出して相手の攻撃を封じたのだ。

オリジナルのレイは思わず眉をしかめた。
「気色の悪い……海賊王にでもなる気?」
「なに、よく判らないネタを言ってんのよ。」
「つまり、不用意に作った最初のクローン体にこれ幸いと取り付いたと言う訳か。」
「そーいうこと。知っていたからね……あんたの身体なら使徒のレーダーに引っかからないことを。
 ねぇ、使徒リリスちゃん?」

ここでオリジナルは疑問に思い、尋ねる。
「ならば何故、地上で碇シンジに出会ったときに手を出さなかったのか。」

「冗談じゃないわよ。あの使徒アダムを本気で相手できると思う?」
バルディエルたる「二人目」は、フラフラと漂うように手足を伸ばしながら答える。

「この前、ゼルエル相手に目覚めちゃったし。取りあえず、アンタの息の根を止めておこうと思ってね。
 こうしてタイマン勝負をしたがると思ってたわ。アンタを殺して、アンタに成りすまして隙をうかがう。」
「成る程……良い作戦だが言ったはず。私を倒すのは簡単ではない、と……」
そう言いながら、オリジナルのレイはチラリを後ろを向いて目測する。
零号機までの順路と、その距離を。

そして、身を翻してダッシュを開始。
むろん、バルディエルはそれを追いかける。
「させないわよ!」
そう言いながら壁や天井に飛びついてカサカサと駆け回る。
その姿、もはや人間では無い。まるで獣や虫か何かのようだ。
その勢いでオリジナルのレイに追いつくのも時間の問題か?と思いきや。

「ふんっ!!」
オリジナルは気合い一発、どんっ!!という凄まじい力の放出とともに、目の前の壁を破壊した!

  ズドドドーンッッ!!

せっかく直したばかりの壁に巨大な穴が開かれ、オリジナルはそこから大きく跳躍して広い空間へと踊り出す。

そこは巨大なエヴァの倉庫。そして零号機は目前である。
オリジナルのレイも、バルディエルに呼応するかのように人間離れした能力を見せ始めていた。
その広大な空間へと一気に跳躍して、ヒラリと零号機の足下へと降り立つ。

しかし、「二人目」の足の方が一枚上手だった。
「はい、ご愁傷様。」
そう言ってバルディエルもまた蚤のような跳躍力で、オリジナルと零号機の間に着地する。
「このでくの坊に乗り込まれては堪らないからね。覚悟を決めて、アタシと勝負なさい!」

そう言うバルディエルに対して、オリジナルが何かを言おうとした、その時。
「……綾波!……綾波っ!!」
後ろの遙かに高い所から声がする。
シンジだ。コピー達の制止を振り切って、追いついて来たのだ。
倉庫の高い壁の足場に出てきたシンジは手すりから身を乗り出して叫んでいる。

オリジナルはチラリと振り返って見上げた。
が、次の瞬間。目を閉じてバッ!と手を広げて念を凝らす。

「ああッ!!」
目の前に展開された事象に、シンジは思わず声を上げた。
オリジナルのレイから輝かしい閃光が放たれ、それが消えたその場には、
巨大な球状のドームのようなものが発生し、完全にそこに居た彼女達を包み込んでしまったのだ。

そして、そのドームの中。

「結界?やるわね。でも、どういう意味があるのかしら。
 アタシの増援の可能性?このアタシを逃がさないため?碇シンジの介入を止めるため?」
バルディエルはプラプラとカッターナイフをぶらつかせながら、そう言った。

オリジナルは、そんなバルディエルを睨み付ける。
そして彼女の身体の周囲にも又、もう一つの球体が現れ始める。
それこそ正しく、ATフィールドの輝き。

「言ったはず。私を倒すのは簡単ではないと……このガード、破ってみるか?」
「そんなこと造作もないわよ。アンタこそ、そんな防壁だけでどうやってアタシを倒すのかしら。」
「心配は要らない。ちゃんと決め手は用意してある。」
「あらそ?それは楽しみだけど、もはや見ることは無さそうね。」

バルディエルは改めてカッターナイフを構え直す。
そして、なんとそのナイフが光を放ち、みるみると形を変え始めたではないか。

驚くオリジナル。
「それは、ロンギヌスの……!?」
「そうよ!アンタが放り投げたこれを拝借させて貰ったわ。」

ナイフはグングンとその形を変じて、毒々しい悪魔の槍へと変化する!
「これが突破できないものが何もないことぐらい、アンタが一番よく知ってるはずよ!
 アンタの防壁がどれほど硬かろうとね!」
そして、『槍』を構え直して、一気にオリジナルに向かって突進する。

   ズカァァァァァッ!!!

オリジナルのATフィールド、それを一気に突破して彼女の腹部を真っ直ぐに貫いた!

見事に命中、と言うべきだったが……
しかし、バルディエルは顔を歪める。
「ワザと受け止めた!?バカな……」

バルディエルが驚いている隙に、オリジナルはグイグイと『槍』を自らの手で食い込ませ、
そして相手の身体を両腕で捉える。
「捕まえた。」
「クッ……なんのつもり?!」
「馬鹿はあなた。ここを刺したって私は死なない。
 それに結界の意味を尋ねていたが、それは……」

その時だった。
               ガシッ!!

「ああっ……馬鹿な!なぜ、このでくの坊が……」
実は、零号機は結界の中に居た。
それが動き出して「オリジナル」と「バルディエル」の身体をまとめて握りしめたのだ。

「ちょッと!……アンタが乗ってないのに動くわけ……」
「私がこれに乗って動かしたことなど一度も無い。もっと私達をよく観察すべきだったな。
 私は、あなたを生み出したオリジナルではない。多分、私はあなたの次に作られた三人目。」
「アンタ……アンタは……」

ワナワナと震える「バルディエル」。
それを見た、これまで「オリジナル」を名乗っていた「三人目」のレイ。
今度は彼女がニヤリと笑う。
「結界の意味。それは、碇シンジにこの戦いを見せないため。
 この戦いの末に残るもの。それは私とあなたの肉塊が一つと、零号機に乗ったオリジナルの綾波レイ只一人。
 全てはアダムとリリス、その二人のために。その二人がその他全ての使徒に完全なる勝利を遂げるため。」
「アンタ……タブリスね?この裏切り者め、わざわざ犠牲になってまで我らが父に背くつもりなの?」

「ようやく気付いたか。しかし、この策略はお前を騙すためではない。
 私は初めから消えなければならなかった。貴様同様、殲滅されなければならない運命にあったのだ。
 ならば、初めから居ない方が良い。だからこそ、こうしてリリスと同じ肉体に潜り込んだという訳だ。
 そうでもしなければ、あの碇シンジは私が消えることに納得しないだろうからね。
 これまでの苦労も、ついに華開く時が来たというものだ。さあ、やるのだリリス!我々を消してしまってくれ!」
最終更新:2007年12月01日 23:46
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