LASではない第弐話

(一週間後)

「行ってきたよアスカ!」
「だーから、主語が無いって言ってんでしょーが!このバカシンジ!」

というわけで、ここはミサトマンションの台所。言わばアスカの相談室である。

こぽこぽこぽ……
「アスカ。はい、お茶。」
「……言わずにおこうと思ったけど、お茶菓子ぐらい用意する気遣いはないの?」
「あ……ごめん。」
「まったく。ああ、良いわよ。で?あのロボット連れて映画に行ってきたんでしょ?」
「あいかわらず酷いよアスカ。ロボットだなんて。」
「ふん。報告してみなさいよ。聞いてあげるから。」

そして、どんっと両足をテーブルに乗せるアスカ。ずいぶん行儀の悪い荒々しい態度である。
しかし、その組み合わされた美麗な両脚のお陰で、それほど粗雑に見えないのが幸いしている。

(注)あくまでもLRSです。

「で、なに見てきたのよ。」
「今、絶賛上映中の『実録セカンド・インパクト』。あれ、前から見たくってさ。」


「ああ?なんでデートでそんな映画みるのよ。アンタの趣味なんかどーでもいいでしょーが!」
「い、いや、凄く面白かったんだってば。僕、感動しちゃって……」
「デートが本意で、映画は単なるネタなんでしょ?ったく……
 しかも、ウチの広報部がばらまいた嘘っぱちをわざわざ見に行くなんてどういう神経してんのよ。」
「い、いや、綾波も別に嫌がらなかったし。」
「そりゃあの人形女にゃどーでもよかったんじゃないの?だからさぁ……デートなんでしょ?
 良いムードになれるような恋愛物とか、そういうの選びなさいよ。アンタ、あの子と先に進みたいんじゃないの?」
「あ、ああ、そういうもんなんだ。」
「そういうものなの。しかも、そんな嘘っぱち映画で感動したぁ?ホントにもう……嫌われるわよ、あの子に。」
「そ、そんなぁ……」

そして、しばし無言で互いにお茶をすすり合う。
アスカはしかめっ面、シンジはしょぼくれた顔をして。
アスカがそうしている以上は別に話を聞きたくないわけでも無さそうだし、お茶の味も悪くないようだ。
やがて、仕方なさそうにアスカはシンジに問いかける。

「それで?今度は話ぐらいしてきたんでしょーね?」
「いや、まあ……少しだけ。えーとね……
 『ごめんね、待った?』『別に。』
 『それじゃ行こうか』『うん。』……」
「アンタ……ぜんぶ覚えてる訳?」
「もちろんだよアスカ。僕が綾波の言うこと忘れるわけ無いじゃない。」


などと、自慢げにそういうシンジはやっと明るい顔をする。

「で、次。
 『綾波、この映画館だよ。』『そう。』
 『ああ、時間に間に合わなかったね。途中から見るのも何だから待っていようか。』『うん。』
 『あ、終わったみたいだね。はいろうか綾波。』『うん。』 ……」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!ていうことは何?あの子をほとんど映画一本分の時間を待たせた訳?
 しかも、そのあいだ終始無言で過ごした訳?」
「え、えーと……そういうことになる、かな?アハハ……」
「アタシなら絶対に途中で帰るわ。で、次は?」

「うん……
 『ああ、面白かったね綾波。』『そう、良かったわね。』
 『それじゃ、帰ろうか綾波。』『さよなら。』
 ……で、終わり。」

「……」
「あの、アスカ?」

アスカは乗せていた足を下ろし、拳を固めてテーブルにドンッ!!



「アンタねぇ!それだけで会話したって言い張るつもり!?
 『うん』『そう』『さよなら』とか、あの子はそんなことしか言ってないじゃない!
 それを、ぜんぶ覚えてる、などと、この男は……」
「い、いや、それでも進歩したんだよ。『よかったわね』なんて言うのは初めて……」
「アンタを馬鹿にしてんのよ、それ。」
「そんな……」
そしてシンジは再びしょぼくれる。
しかし、その復活は意外にも早かった。

「で、でもさ。聞いてよ、次のプランは自分で考えたんだ!」
「普通は自分で考えることなの。なに自慢げに言ってんのよ……で、何よ?」
「あ、あのさ。これなんだけど。」

そう言いながらシンジはパンフレットを一枚取り出す。
それを見たアスカは即時に激怒。

「ああ!?温泉だぁ!?」
「そ、そうなんだ。ほら、この前に僕達だけで使徒殲滅のついでにいってきたじゃない?
 綾波は置いてけぼりだったし、可哀想だと……」
「話も弾んでない男と2回目のデートで温泉に行く馬鹿女がどこに居るっていうのよ!」
「い、いや、アスカ。3回目だってば。」
「あのお昼休憩をデートって言うなぁ!!」


アスカはテーブルを力一杯ドンドンッ!
もう怒りたい放題である。が、シンジはめげてはいない。

「そ、それならもう一つプランがあるんだ。
 あのさ、ケンスケがキャンプ道具貸してくれるって言ってるから、一緒に星を見に……
 あの、アスカ?」

アスカは拳を固めたままワナワナと震えている。
何を怒鳴り出すのか、と思われたが、やがて絞り出すような声で一言。
「……遊園地。」
「え?」
「遊園地に行ってきなさい!乗る物はあの子に選ばせなさい!
 『うん』『そう』だけでもいいから、あの子に意思表示をさせるの!
 最後に何がよかったのか言わせて、『うん』『そう』以外の単語を喋らせるの。わかった?」
「え、あ……そうだね。アスカの言うとおりにするよ……えーと。」

(ぴっぽっぱっ) ああ、綾波?今度の休みに……などとシンジはさっそく電話をかける。

行動は早いのは良いけれど、とでも言うようにアスカは溜息をつく。
何か不満げというか、どうにも気がかりだ、というような顔をして。

(注)あくまでも、これはLRSです。
最終更新:2007年12月02日 00:16
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