第五話

エヴァ弐号機とセカンドチルドレンの引き渡しのため、国連軍の空母艦隊へと訪れたシンジ一行は、
艦橋に訪れ書類諸々の手続きを受けて、いよいよ引き渡し物品とのご対面へと手筈は進む。
そして彼らを待ち受けていたのは、パンチラも眩しいサマードレスに身を包んだ一人の少女。
彼女こそドイツ支部からやってきた惣流アスカ・ラングレーその人である。

「はーい♪私を歓迎してくれるのですネ!きゃー、その凛々しいお顔にアスカ惚れちゃいそうデース!」
この第一声に共に熱烈な抱擁、これではどっちが歓迎してるのか判らない。それに加えて、
「こら!相手と舌をからめなければキスとは言えませんよ!もう少し口を開けなサーイ!」
いや、お嬢さん。キスをするには話が早すぎるのだが。
「あー、今わたしのパンツ見ましたネ?他の所も見せますので、こっちに着てクダサーイ!」
いったい、ドイツでどんな教育を受けてきたのか。
どう考えても情熱の南国でしかあり得ないラテン系のノリだ。いや、それを通り越してお下劣だ。
こんな直球どころか核弾頭の剛速球を喰らったシンジは、欲情するどころか嫌悪感すら抱いたようだ。
「あ、どこに行くのですか!シンジ、待ちなサーイ!」
逃げ場のない空母の中で、もはや駆け足で逃げるシンジ。それを必死で追いかけるアスカ。
搭乗している海軍兵士達はそれを笑って眺めていたが、ミサトは眉をしかめて何やら考え込んでいる。
シンジ自身が望まない限り直接行動を禁じられているミサトにとって正直うらやましい光景なのだが、
そんな思いとは別に何やら疑問を抱いて頭を悩ませているようだ。
シンジに対する優遇ぶりが何もかも強烈すぎる。
彼のために用意されたシンジ・ハーレムと言うべき豪邸とネルフ本部。それに加えてアスカのこの有様。
それがシンジに対して悪影響を及ぼしているのではないかと、今更ながらに感づき始めたのである。
しかしミサトにはどうして良いか判らない。彼女もまた、シンジに与えられた手駒の一つなのだから。

さて、二人の追っかけっこが一段落したその折りに、お待ちかねの使徒の登場である。
シンジは九死に一生を得た思いで、この緊急事態の状況を把握しようと甲板へと躍り出た。


現れた使徒は、魚類の風貌をした第6使徒ガギエルである。
それほど破壊活動を行ってはいないのだが、イルカのようにピチピチと元気に跳ね回り、
国連軍艦隊は引っかき回され右往左往している状態だ。
これまでの経緯からしてほったらかしても構わないと思われたが、
しかしアスカによる訳の分からない危険から身を(貞操を)守らねばならない情況だ。
彼は率先して弐号機に向かい起動しようとする。が、それをアスカが呼び止める。
「使徒を退治するのですネ?流石はサードチルドレン!使命遂行に燃える姿が格好いいデス!」
「あー、私も一緒に乗りたいデース!シンジと一緒にLCLに浸かりたいデース!」
「シィット!プラグスーツがありませーん!こうなったら裸で乗るしかないですネー!」
一体どこの国から来たのか。ドイツ育ちならドイツ語使えと言いたいのだが、そんなことはどうでもいい。
もうシンジはアスカを蹴っ飛ばすようにして陰に隠したプラグスーツを奪い取り、
着替えようとしたその時、事件が起こった。

使徒が大きく跳ねて空母が揺らぎ、シンジがフラフラとよろめいたその時である。
ガシッと力強い腕がシンジを支えて、そして鋭い声が彼を叱りつけたのだ。
「ヘイ、ボーイ!この程度でフラついてどうするのだ!しっかりしないか!」
ひさしくNERVで甘やかされて聞くことがなかった、鋭く、そして嫌みのない神仏の鼓のような叱責。
彼の腕を掴んだのは一人の男性、サングラスが渋い光を放つ長身の海軍将校であったのだ。
シンジは面食らった。
これまで女性ばかりに囲まれてきた彼には、久方ぶりの同性とのコミュニケーションだったのだから。
「あ……」
「ほう?意外と鍛えているな。しかし筋肉だけでは男は成り立たんぞ。男は仕事で上げるものだ!」
「あ……あ……」
「そうか、貴様がエヴァパイロットだな。しっかりやれよ。貴様は世界を守れる唯一の人材なのだからな!」
「……はいッ!」


そういうのが早いか、颯爽と弐号機に飛び乗るシンジ。もうアスカなんぞは遠くに置き去りである。
プログナイフを片手に艦隊を足がかりにして飛び回る弐号機の勇ましい姿は、
これまでの戦闘から考えられない光景だ。
アスカに調整されているはずの弐号機にも関わらず、この日のシンクロ値は最高記録をマークした。

そして、今回の戦闘もまた、これまでとは違うものとなった。
近接戦闘にして、水中でもみあう大混戦となったのだ。
必死の思いで使徒に食らいつく弐号機。
それを逆手に巨大な口を開けて弐号機を飲み込もうとする使徒。
あわや飲み込まれたかに見えた末に、シンジは内部から使徒の息の根を止めることに成功したのだ。
実に危機一髪のエキサイティングな戦闘に、ミサトやシンジの取り巻き達は失神寸前まで陥り、
生還した彼の姿を見ては大粒の涙を流して天地に感謝し、シンジの勝利に狂喜した。

……が、それは実のところは見せかけだけと言えなくもない。
実は使徒の弱点である赤いコアは口の内部にあり、
「さあ、これがコアです。宜しくお願いします。」と言わんばかりに、あえて弐号機を飲み込んだ、
というのが正しい見方かもしれないのだが。

さて、何のために来たのかすっかり忘れてしまい、戦闘結果に大満足したシンジ一行は、
アスカをほとんど置き去りにして帰途についたことは良いとして、
シンジに新たな不安要素が芽生えていることに、ミサトは未だ気付いていないようであった。
最終更新:2007年02月21日 22:33
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