総司令 第拾八話

管制塔。

「リツコ、それじゃ行ってくる」
「はいはい、シンジ君のお守りは任せておいて」
「アハハ。ミルクの時間、欠かしちゃダメよ?」
そういって、ミサトさんは出向いていく。

行き先は浅間山。
なんと使徒が発生する兆候を掴んだらしく、その調査へと赴くという。
ここに至って、初めてこちらが先手を打てるかも知れない、というのだ。
だからこそミサトさんは張り切っている。

「どうしたの、シンジ君。怖い顔して」

相変わらずの鋭さでリツコさんは僕に尋ねる。
いや、流石だ。女の人って、なんでこうも鋭いのかな。
そうだ。僕はリツコさんに聞きたいことがあったんだ。

「あの、リツコさん。弐号機って……弐号機のコアは誰なんですか」
「アスカのクローンよ。決まってるじゃない」
「え? ああ……」

なんだか思いっきり話をスカされた感じ。
いや、それだけでも怖い話だ。
エヴァに乗るために、人一人が犠牲になってる。
例え、クローンだとしても。
でも、待てよ?

「それじゃ、アスカのシンクロ値ってなんでレイより低いんです?確かDNAの対比が影響されるじゃ……」
「シンジ君」
「え?」
「弐号機のコアは、アスカのクローンとアスカの母親、どちらにしたほうが良いかしら」
「……」
「好きな方に決めなさい。それが、あなたにとってふさわしい事実になるわ」

なんて言い方をするんだ、この人。
それじゃ、アスカの母親がコアだってこと、認めたようなものじゃないか。
でも、その通りだ。真実を確かめて何になる。
肝心なことは、これからそれをどう使うかだ。
「とりあえず、関係者には口止めしてあるわ。もちろん、あなたにもね」

はいはい。それが僕に対する口止めって訳ですね。
言われなくてもこんなこと、アスカに言えるわけが無いじゃないですか。
ん? 誰か来た。

「マヤさん、なんです?」
「司令、冬月副司令がお呼びです。執務室においでになるようにと」
「はい、判りました」

ちょっと、嫌な予感。
いや、その前に。

「リツコさん」
「なあに?」
「まさか、その」
「ん?」

やっぱり、聞くの止めた。
聞いたところで何か役に立つ訳じゃないし。
いやね?

まさかとは思うけど、ここに居るアスカがクローンで、弐号機の中にいるのが本物のアスカ、などということは……。

もう止めておこう。こんな怖い話ばかり考えるのは。
もし、そんなことをアスカが考えてしまったら、気が触れてしまうだろう。
自分がクローンで本物が別に居るだなんて。
そういえば、ドッペルゲンガーってドイツ神話だったよな。

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ゼーレ審議会議の、その暗い空間の中で。

「あの、僕を呼び出す意味ってあるんですか」
僕は正面に座っているキール議長に問いかけた。
しかし、何故かゼーレの連中は彼しか出席していない。
この電子会議室には僕と冬月さん、そして議長の三人だけ。

『聞いているだろう。君をNERV総司令とすることに同意した。君にその責任を果たして貰わなければ困る』
「でも、僕には何も出来ませんよ。ところで他の人は?僕では相手にならないと、怒って欠席しちゃったんですか?」
『そうではない。君が我々を恐れて、縮こまってしまっては困るからだ』

でも、居残っているこの人だって十分怖そうなんだけど。
まあ、とりあえず。

「で、何を話せば良いんですか」
『君の部下に命じたまえ。今回発見された第八使徒を捕獲せよ、と』
「ええ!?」

なんてこというんだ、この人。
今まで使徒を倒すのがやっとだったのに。

「そんなの、どうやって?」
『君の部下に任せたまえ。君達の仕事は使徒を扱うことだ。その末に開発されたのがエヴァンゲリオン』
「……」
『捕獲の方法は既に存在するはずだ。理論的にな』
「でも、捕まえてどうするんですか。殲滅しなくちゃサードインパクトが起きるんでしょ?」
『敵が如何なるものか、それを知ることも勝利のためには欠かせない仕事だ』

ああ、あれね。なんていったっけ。
敵を知り、己を知れば、百戦危うからず、か。

「……はい、判りました」
『今日は、これだけだ。また話をしよう。碇シンジ君』

そして、キール議長はスッと姿を消す。
そして執務室は元の状態に戻る。
でも暗い部屋であることには変わりないけど。

「あの、冬月さん。あの人の命令を僕達は聞かなくちゃいけないんですか?」
「その通りだ。このNERVを設立したのは彼らだと言っても過言ではない。
 その推進は君のお父さんではあるのだがな」
「父さんが……」

なんか、引っかかる。
父さんは世界平和と人類存亡のために粉骨砕身でNERVを設立した?
ずいぶんと、父さんって善人というか……なんというかな、判らない。

「シンジ君。葛城作戦部長が既に調査に向かっているのだ。早々に赤木博士に命じてはどうかな?」
「あ、はい。それじゃ行ってき」
「ここに呼べばいい。そこのボタンを押してみなさい」

うわ、そんな偉そうなことしちゃって良いのかな。
ボタンをぽちっ。

『はい、司令。いますぐ、そちらに伺います』
「え? いや、このまま伝え」
「全てここで命ずる癖を付けたまえ、シンジ君。ここは機密保持の為にはうってつけの部屋だ。」
「はあ……」

冬月さん、そんなことを言われても。相手は大の大人ですよ?
内線の向こうから、なんかクスクスとリツコさんの笑い声が聞こえてくる。

やがて、せり上がってくるリツコさん。
そして今までの態度を一変させて馬鹿丁寧な一礼。

「司令、ご用は?」
「う~、あの~」

もう止めようよ、こんな司令ごっこ。

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「捕獲ぅ? 使徒を? ちょっと、それは無茶じゃないの?」
と、ミサトさんが素っ頓狂な声を上げるが、リツコさんはたしなめる。
「司令のご命令よ。星を動かしてでも実現させるのが私達の仕事でしょ?」
「あら、そうなの。それじゃ天地ひっくり返してでも……て、あのねぇリツコ」

そんな、ボケとツッコミしてる場合じゃないでしょ。
でも、僕が命じたことになってるし、それなら責任を持って僕が言わなきゃしょうがない。

「いや、もし可能なら、です。捕まえて調べてみれば有益なんじゃないかな、と……言ってました。ゼーレの人が」
うう、なんか責任転嫁したような言い方になっちゃった。
しかし、リツコさんがフォローしてくれる。
「以前に収集した使徒の亡きがらでは不足している情報があるの。捕獲できれば、そのパズルのピースが埋まるはず」

それを聞いたミサトさんは少し眉をしかめていう。
「ふーん? そのパズル、いったい何が出来上がるのかしら」
「出来てからのお楽しみ」
と、ケロリと答えるリツコさん、その辺りは流石。
今のが大人の会話って奴だろうな。
でも、本当に何が出来上がるんだろう。

「何でも良いわ。やるわよ、アタシ」
と、名乗りを上げたのはアスカだった。
「ファーストにそんな任務は無理でしょ。良いわよ、シンジ。アタシがアンタのケツ拭いたげる」
「け、ケツって」
「辛いわねぇ、中間管理職。アハハ」
中間管理職か。成る程、結局はゼーレに使われてるんだもんな。

「でもね、アスカ」
と、ミサトさん。
「使徒の居場所は浅間山の火口。マグマの海に沈んで貰うことになるんだけど」
「……え?」

流石のアスカも絶句。
しかし。
「い、いいわよ! やるわ、やってみせるわよ! アタシしか出来る人、居ないでしょ? やるわよ!」
そして、更にこう付け加える。
「アタシはエヴァに乗るしかない。道具として、やることやって突き進まなきゃ、私達には未来が無いのよ」

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果たして、それはなんだろう。
エヴァで使徒を殲滅することで得られる未来って。

そう考えながら、司令塔の最上段、司令のデスクでモニタを見ながら待機する。
隣にレイを座らせて。
出張組は、アスカ、ミサトさん、リツコさん、マヤさん、日向さん。
加えてその他大勢。

僕の居る所の階下のフロアで、冬月さんと青葉さんが待機組。
何かあればレイを初号機に載せて出動するという手筈。
使徒が同時に複数出現した前例があるから、ということで取られた編成だ。
しかし、こういうことが出来るようになったのも弐号機到着のおかげだ。

「始まるぞ」
という冬月さんの声に、青葉さんはもて遊んでいたギターを机の下に下ろす。
ずいぶんくだけた態度だけど、長時間の待機作業が強いられるのがNERVのオペレーター。
こうしたことも大目に見られている。
でも、父さんが居た頃はとても許されるものじゃなかったらしい。

やがて作戦開始。
弐号機は局地戦用の装備を身につけてマグマの中へ。

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『あっつぅ~い』
潜水具のような特殊な装備を着ている弐号機、それに加えてアスカ自身も耐熱スーツを着込んでいる。
しかし、それも完全ではないようだ。大丈夫かな?

冬月さんは言う。
「もし問題が発生したら即座に作戦中断。使徒殲滅の作戦に切り替える。それでも駄目なら……」
ん、上空にいるのは航空隊?

「もし、使徒が火口から飛び出してくるようなことがあれば、N2爆雷の投下で片を付ける」
「でも、それじゃアスカは」
「止むを得ん。しかし、それは弐号機が敗れ去った後の話だ。なにせ、世界の破滅がかかっているからな」
「……」

そうか。それが現実なんだ。

そして弐号機は沈降を続け、作戦は進む。
アスカとミサトさんのやり取りがこちらに届き、その様子が判る。

『使徒補足。距離500』
『アスカ、これを逃したら後がないわよ』
『オーケイ、上手くやるわよ。電磁柵、開きます』

マグマの対流で流れてくる使徒。
その姿が次第にあらわになってくる。
「あれは……」
僕は思わず身を乗り出した。
それはまるで胎児の姿。
そう。この間、加持さんが持ってきた使徒アダムのレプリカとそっくりじゃないか。

「冬月さん……」
「うむ。使徒は全て、もともとは同じ姿なのかもしれんな」

ということは、なぜ使徒は様々な姿形で現れてくるのか。
リツコさんは言っていた。使徒は我々のやり口を見て対応策を取っている可能性がある、と。
恐らく間違いない。使徒は僕達に対して作戦を立て、その上でどのように成長するかを決めているのだ。

そのことを言うと冬月さんは重く頷く。
「だとすると、これからは生半可なやり方で使徒を倒すことは無理だな」

そして漂う得体の知れない不安。
いや、それでも。

(突き進まなきゃ、未来はない)

アスカのその言葉こそ、僕達にとって唯一とるべき道だ。
使徒に、勝たなきゃいけない。

『使徒、捕獲しました』

そのアスカの一言に、司令塔はホッと溜息。
現地の人達は尚更だろう。

『よくやったわ、アスカ』
『ホントよう。もうスーツは汗でべったべた。早く帰ってシャワー浴びたい』
『近くに良い温泉があるわ。後で行きましょ』

そんなミサトさんとアスカがやり取りをしていた、その時だった。

『きゃああああああっ』

アスカの悲鳴に騒然とするスタッフ達。

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『どうしたの?』
『使徒の状態が変化、急激に成長を始めました!』
『電磁柵、破られます!』

あの電磁柵、万全じゃなかったのか。
あるいは予想より遙かに使徒が強大だったのか。
そして、あるいは。

「原因はパイロットの油断か?」
と呟く冬月さん。

青葉さんは反論する。
「いや、そんな。アスカは確かに電磁柵に……」
「そうかもしれない。だが、会話のレコーダーだけで判断すれば、そう取られても仕方がないぞ」
「はい、では」
「消去したまえ。早急にだ」

いや、情報の隠蔽とかしてる場合じゃないでしょう?
弐号機の目の前で使徒が活動し始めたんだし、これは緊急事態じゃないか。

ミサトさんは即座に反応し、アスカに命じる。
『アスカ、作戦を変更。使徒殲滅を最優先!』
『まってました!』

アスカは意気盛んに、プログナイフを装備する。
しかし、あのマグマの中で戦えるの?

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そして、戦闘開始。

マグマの灼熱地獄と重苦しい対流の中、流石の弐号機は苦戦している。
そんな中を、使徒は猛スピードで駆けめぐり、弐号機に迫り来る。

『クッ、ブラスト放出!』

アスカは、マグマの中の沈降するための重しを捨て去り、浮力で使徒の攻撃をかわす。
凄い。とっさにあんな行動が出来るなんて。

しかし、何度も同じ手は使えない。
執拗に迫り来る使徒は、ついに弐号機に食らいつく。
弐号機は負けじとプログナイフを振りかざす。
だが、ナイフの刃は使徒の体を貫けない。
ATフィールドの中和は行っている筈なのに。

そして通信を通して伝わってくる、現地スタッフの混乱と戸惑い。
『駄目だ。いったん引き上げよう』
『いや、このまま地上にこいつが放たれては!』
『しかし、マグマの中での戦闘は無理だ!』
『とりあえず弐号機を引き上げて、初号機の増援を……』

それを聞いた僕は思わず腰を浮かせる。
そして隣の冬月さんも頷いた。
「初号機の出撃準備だ。シンジ君」
「はい!」

しかし。

『待ちなさい! アタシが倒すわ!』

戦闘中のアスカがみんなをシャットアウト。
アスカは、意地でも使徒を単独で殲滅するつもりだ。
駄目だ、そんな無茶をしちゃ!

僕は思わず、直接アスカに交信。

「アスカ! いったん引き上げて!」
『うるさい! 黙って見てなさいよ! えーい!』
「アスカ!」
『に、2番のバルブに冷気を全部まわして! 早く!』

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「成る程、熱膨張か」
戦闘が終わった後、冬月さんは納得した様子で胸をなで下ろしている。
なんだかよく判らないけど、ようするに弐号機に送られていた冷気で使徒を倒したらしい。
マグマの熱と、その温度差によって使徒を破裂させてしまったのだ。
あれ? 本当にいったいどういうことなんだろう。

『ちょっとは勉強しておきなさいよ。中学で習ってるはずよ』
マグマから引き上げられた弐号機。そこから出てきたアスカは得意げにそう言った。

『どう? シンジ。参ったか?』
「……うん、参ったよ」
『アハハ、アタシの勝ちね』

そして、汗びっしょりでVサインするアスカの笑顔が、司令塔の巨大なモニタ画面一杯に映し出されていた。
いや、本当にお疲れ様。
居残り組のスタッフ達からも拍手喝采。

やっぱりアスカは凄い。
どれほど知識があっても、混乱した戦闘中で瞬時に活用できる者はそう居る筈もない。
やはりレイでは、太刀打ち出来ないな。
それに付いているサポーターが僕では、ね。

『シンちゃーん』
今度はミサトさんだ。

『超特急のヘリ出して、こっちにいらっしゃいよ。皆で温泉に行こ!』
「ええ!?」
『レイも連れていらっしゃいな。ほら早く!』

僕は思わず冬月さんの方を見た。
確か、作戦終了の後は会議が……。

「行ってきたまえ、シンジ君。君にも休暇が必要のようだ」
「でも、その」
「キール議長には私が報告しておく。不可抗力だったとね。なに、上手くやるさ」

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近江屋。
浅間山付近の温泉旅館。

「あー、シンジ来たわね! さあさ、おっふろ、おっふろ!」
「え、あの、ちょっと」

アスカ、戦闘の疲れも知らずに元気一杯……いや、ちょっと待って!
元気すぎるって!

「あの、アスカ! そっちは女湯だってば!」
「いいからいらっしゃい! ファーストを一人にするなんて可愛そうなことするんじゃないわよ!」
「いや、ちょっと待って! 服、脱がさないで! ああっ!」
「アタシに勝てると思ってるの! 格闘技オールAプラスのこのアタシに!」
「いや、でも!」
「ほら、アンタが服脱いでるのを見てファーストも納得して服脱いでるじゃないの!」
「ええ!? なんで……ああ!」

がらがらっ!
うわあ! みんな勢揃いで入ってるじゃないか!

「え! シンジ君ここに入るの!? ちょっと待って! きゃあ!」
慌ててタオルで肌を隠すマヤさん。いやちゃんと隠して! 見えてる、見えてる!

「あらぁ、シンちゃんいらっしゃーい」
いや、ミサトさんこそ、お願いだから隠してください! 温泉の縁に堂々と丸出しで座ってないで!

「あっはっは、やっぱり日本の温泉は混浴よね♪」
って後から脱いで入ってきたアスカが仁王立ち……って、この前見ちゃったけど。

あれ、そう言えばリツコさんは居ないな。

「こら! シンちゃん、今どのおっぱいが大きいか見比べてたな?」
「ええ!? ちょっと、シンジ君見ないでってば」
「シンジぃ、アタシ達がこんだけ見せてるんだから、股間の手ぇどけなさいって!」
「ちょっと、アスカいい加減にしてよ! うわ、なにを」


えーっと。

もうこれ以上は恥ずかしくて言えません。
とほほ……。

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「こらー! シンちゃんも飲めって言ってるでしょーが!」
「いや、だから僕は未成年ですってば!」
「なによぉ! アタシの酌が、ヒック! 受けられないってゆぅーのぉ?」
「ちょっと、誰なんですか! アスカに酒なんか飲ませたの!」

はい、後の宴会まで大騒ぎが続いております。
みんな、よほどストレスが溜まっていたのかな。
で、宴が果ててそのままみんなで雑魚寝。
お疲れ様。

って、レイだけでも布団で寝かせようかな。
風邪でも引いたら大変だし。

「レイ、起きてよ。ちゃんと布団で寝よう」
「……ん」
「しょうがないな、よいしょ……あ」

両脇に手を入れて抱き上げようとして、うっかり胸の端に手が触れる。
思わず声が出てしまい、手を離してしまう。
ダラリと崩れて倒れるレイ。けど、それで目が覚めたのか。
ムクリと起きあがって僕の方を見た。

思わず僕は謝ってしまった。
「あ、あの、ごめん」
「……?」

判ってるのか、いないのか。
判ってないんだろうな。それとも体を触れられても、手を握られたぐらいにしか感じていないのか。
でも、どうして女の人は胸を触られるのを嫌がるんだろう。
そして、レイにはそういう感性があるのか、それとも無いのか。

「……?」
「いや、レイ。何でもないよ。ほら、布団で寝よう」
「はい」
そう言って、素直に僕に着いてくるレイ。

「アハハ、何やってんだか」
後ろから、アスカの声。

「おっぱいぐらい触ったって、その子は怒ったりしないでしょ?」
「い、いや、えーと、起きてたの?」
「うん、それほど飲んでなかったし」

って、14歳でそのほど飲んでないとか言わないでよ。
なんだかな。

「ねえ、シンジ。聞きたいけどさ」
「なに?」
「どうして男って女の胸を触りたがるの?」
「そ、そんなこと聞かれても」
「ママが恋しいから?」
「……からかわないでよ、でもさ」

今はすっかり夜が更けていた。
客間に差し込む月の光が、浴衣を着乱れたアスカの肌を照らしている。
こうして見てると、アスカは。

「アスカは、男が嫌いじゃなかったっけ。僕、男だよ?」
「うーんと、そうねぇ」
少し考えてから、アスカは答える。

「アンタ、女々しいからさ。なんか男に見えないのよ」
「ちょっと、アスカ」
「アハハ……ほら、ファーストが待ってるわよ」
「ん、ああ……」

なんだか、心地良い。
これが僕の人生の中で一番楽しいひとときだろう。
これが最後だろうか。それとも最初だろうか。

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「赤木博士、戻ってきたのか。君も温泉で休暇を楽しんで来ればよかったのに」
冬月副司令は、リツコとすれ違い様にそう言った。

「いえ、副司令。私には雑務が山程」
「そうか。残念だったな。使徒の捕獲が出来ずに」
「ゼーレはなんと?」
「何も。仕方ない、としか言ってはいない。キール議長以外は、無理だと主張していたからな」
「あら、そうでしたの」
「しかし、これでS2機関の開発に遅れると残念がっては居るのだがな」

そして、途中の休憩所で並んで腰を下ろす。
冬月は缶コーヒーを手に、リツコはタバコに火をカチリ。

「ところで」
と、リツコは切り出す。

「何かね」
「弐号機のコアの中身が誰なのか。アスカには内緒にして欲しいのですけど」
「ああ、無論だ。彼女にどんな影響を与えるのか、想像もつかんからな」
「それともう一つ」
「ああ、そうだな」

意味ありげに、目配せをする二人。

「碇ユイの情報は全て抹消済みです。写真など、もってのほか」
「確かに、うり二つだからな」
「クローンですもの。もし、これが知れたら」
「知れたら?」

リツコは薄く微笑みを浮かべる。

「シンジ君、自分が初号機に乗ると言い出しかねませんから」
「ふむ……」

そのリツコの言葉に、冬月は慎重に頷いた。

「判った。それも、悟られないようにすべきだろうな」










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最終更新:2009年02月06日 01:10
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