総司令 第拾九話

「でも、使徒はちゃんと倒したじゃない」
そう言ってアスカは口をとがらせる。

ここは会議室。
前回の浅間山での使徒戦について、言ってみれば反省会と言う訳だ。
「私語が多い? アタシはちゃんと仕事はしたわよ。
 しっかり使徒を柵に納めたし、それを突破されたのは使徒がそんだけ強かっただけだし、後始末はちゃんとしたわ」

アスカの言うことももっともだ。
今回の使徒殲滅でアスカは見事な手並みで使徒を殲滅した。しかも危険なマグマの中で。
だからこそ、私語がどうの、と粗探しをされてはたまったものではないだろう。

しかし、冬月さんは言う。
「あえて反省点は、と聞かれればそれだけだ。それについては葛城作戦部長にも言えることだ」
「げ」
と、矛先を向けられたミサトさんも仏教面。

「立場上、何も言わない訳にはいかないのでね。結論的には私は高い評価を……」
と、冬月さんは言葉を和らげてはいるのだが、
「あ、あれ? ちょっと、アスカ!」
アスカは席を立ち、ぷいっと会議室を出て行ってしまった。

会議室の一同、溜息。
「仕方ないわよ。何においてもまだ子供。ミサトもね」
と、リツコさんは冷たく呟いた。

まだ子供で悪かったわね! というミサトさんの憤慨で会議は閉幕。
お疲れ様。

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「なァによ。アタシ、機嫌が悪いの」
と追いかけてきた僕に悪態を付く。

「冗談じゃないわ。あんだけ使徒を苦労して倒したって言うのに」
「しょうがないよ。大人って、みんなああだから」
「アンタもアンタよ。アタシ、知ってるんだからね」
「え?」

アスカはくるりと僕に振り向いた。
「アンタ達、アタシが失敗したらN2爆雷落とすつもりだったんですって?」

……なんだよ。
作戦終了した時とか、旅館ではそんなこと言わなかったのに。
今更、虫が好かないからって当たり散らされても。

「アスカ。この戦いには……」
「はいはい! 人類の存亡が掛かってるんでしょ!」

アスカは更に憤慨して、身をひるがえす。
「ちょっと、アスカ。どこに行くのさ」
「街でうさを晴らしてくる。ついてこないで」
「え、ちょっと。この後、接続試験が」
「アンタがやってなさいよ!」

何言ってんだよ。ったく……。

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そのことを聞いたマヤさんは困り顔。
それ見たことか。

「えー? 困ったな。こなさなきゃならない接続試験のスケジュールが山程あるのに」
「仕方ないわよ。やる気のない子は放っておくしかないわ」
そう言いながら現れたリツコさんは出張の身支度を済ませていた。

「あれ、リツコさん。どこに行くんです?」
「南極」
「ええ!?」
「今後の作戦において強力な武器となるものが採掘されているの。楽しみに待っていて」
「そうですか……あれ? 冬月さんもですか」

振り返れば、今の日本では着ることのない分厚いコートを片手で立っていた。
「副司令。それを着るのは気が早すぎるんじゃありません?」
「ハハ、寒さは老いた体には堪えるから恐ろしくてね」
そう言って笑いあう冬月さんとリツコさん。
遠足気分みたいで楽しそう。

そうはいっても、居残りの僕は不安がいろいろ。
「でも、冬月さん。ゼーレの人が何か言っていたら」
「君が答えたまえ。私が居ないから判りません、とね。素直に対応すればいい」
「素直……」
「無理なら私が通信で答えるよ。それじゃ、後を頼む」

そしてリツコさんも後に続く。
「ミサトや他の皆が居るんだし大丈夫。イザとなったら連絡はとれるから、ね」
そう言って軽くウインクして去っていった。
やれやれ、それじゃ接続試験でも始めますか。

「試しにシンジ君、乗ってみる? アハハ」
アスカと同じこと言わないでよ、マヤさん。

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とりあえず試験作業開始。
その指揮はマヤさんが執る。
「んーと、今日はシンジ君以外は男子禁制で」
え、なんで?

って、尋ねたらレイには全裸で試験作業を行うという。
「これまでのプラグスーツによる神経接続ではなく、新しく考案された接続方法のテストを行うの。これはそのため」
「今のままでは十分じゃないんですか?」
「確かにレイは高いレベルでエヴァとの接続を可能としてるけど、まだまだ課題や改善の余地は沢山あるの。
 ほらほら、男子職員は早くオペレーター室から出てください。さあ、シンジ君はレイを殺菌ルームに」
「はい、判りました。それにしても、こんな実験じゃアスカは嫌がるでしょうね」
「そうね……あ、シンジ君も脱いでレイを誘導してくれる?」
「ええ!?」
「大丈夫。そのルーム内にはカメラは無いから」

ならいいけど。
レイと一緒に全裸で歩く所なんて、恥ずかしくて人には見せられないって。
とにかく、レイの殺菌作業は終了して実験機体に押し込み準備完了。
あれ、今日はエヴァを使うんじゃないんだ。

「そう、あれは実験用に作られた特殊機体……といっても、ほとんどエヴァと同じなんだけど」
「では、あれにも?」
「ええ、レイの素体がコアとなって入っているわ」
「それでは、ますますアスカではこの試験は無理ですね」
「……そう、その通りなの」

今のやり取り。
普通の会話のようで、その裏には無言のやり取りが含まれている。
そう、弐号機のコアはアスカの母親が取り込められていて、だからこそアスカ向けの実験機体など用意できないこと。
更に、そのことをマヤさんが知っていることを闇に確認してしまったことになる。

「マヤさん、その……」
「ん?」
「どう、思いますか」
「私には……そうね。考える余地すら無いってところかな」
「……」

いや、止めよう。
こんな話は。

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その実験機体は巨大なプールに特殊な溶液の中に沈められていて、
それをオペレータールームから見た光景は何だか芸術品を見ているかのよう。
その機体は肉体美を誇る人間そのもの。それは四肢が備わっておらず、まるで彫刻のオブジェのようだ。
別のモニタに映る裸身のレイの姿もまた、それに彩りを添えていた。
そして、いつもながら平然とした様子で試験作業に応じる、その様子。
マヤさんと作業の合間に言葉を交わしながら、そんなレイの様子を見守っていた。

「これはレイ限定の試験なんですか」
「そうね。アスカはどっかに行っちゃったし、せっかくだからと思って。良い結果が出れば弐号機にも反映される。
 もともと、弐号機は初号機からのフィードバックを受けて完成した機体なんだから」
「でも、マヤさん。気になっていたことがあるんですが」
「ん?」

やっぱりこんな話ばっかりしてるな、僕は。
マヤさんに聞いても仕方ないのかとは思うけど。

「アスカは僕と同い年の14歳。そしてセカンドインパクトは15年前です」
「ええ……そうね」
「使徒が襲来して、セカンドインパクトが起きて、そのわずか1年後にアスカが生まれました。
 アスカは言ってました。自分がエヴァパイロットになるために生み出された人間だって」
「……」
「使徒を殲滅するエヴァの計画は、セカンドインパクトが発生する以前に立てられたんですか?」

マヤさんのキーボードを叩く指がピタリと止まる。
知っているのか、知らないのか。
でも、マヤさんから出る答えはどちらの場合でも同じだろう。

「シンジ君、ごめんなさい。私にはよく判らないわ」
「いえ、いいんです。ただ、なんとなくそう考えただけで」

深く考えようとすると、なんだか怖い話になってしまいそうな気がする。
いや、判らないけどそんな気がするだけ。
それに、その話が何の役に立つのだろう。

「エヴァのオペレーションってね」
まるで無理にでも話を変えようとするかのように、マヤさんは口を開く。

「一口に神経接続で操作すると言っても、その設計は簡単じゃないの。
 操作のイメージを伝えるとは言っても、通常の操縦席のようにレバーやスイッチの操作も必要になる」
「では、パイロットがレバーを引っ張ると、エヴァも何もないところを引っ張ろうとしたり?」
「ウフフ、そうなっちゃうわね」

話の流れが変わり、二人で少しだけ笑い会う。

「だから、神経接続とオペレーションの設計はとても複雑。別のプランも検討中なの。
 パイロットの感覚全てを入れ替える、とか」
「それって……触覚だけじゃなく、ですか?」
「触覚、痛覚、視覚、聴覚。つまり、パイロット自身がエヴァになったかのように、ね」
「それじゃ、味覚も?」
「フフ、味覚は流石に必要ないわね」

そう言いながらマヤさんは缶ジュースを一口。
作業は一段落したようで、後はスーパーコンピュータMAGIが流すログをただ見ているだけ。

「使徒って、何も食べないのかな」
「S2機関を持ってるんですもの。必要ないでしょうね」
「使徒って……子供、産んだりするのかな」
「神話では、使徒リリスがもともと使徒アダムの妻となる筈だったとか……。
 でも、そうね。永遠の命を持つ生物が、子供を生む理由ってないかもしれないわね」
「食べたり恋をしたりすることがないなら、使徒の楽しみって何だろう」
「楽しみ……」

しばらくマヤさんは腕組みをして考えるが、何も答えない。
僕はそのまま思ったことを話し続けた。
聞きかじった知識を交えながら。

「楽しいこととか、嬉しいことって何だろうと思うんです。痛いとか苦しいとかの反対かな、とか。
 でも、結局は脳内で麻薬が分泌されたりして喜びを感じたりしてるんですよね。生き物って」
「……」
「じゃ、クスリで中毒になることと結局は同じなのかなって。
 自分の親しい人が失われることを感じると、脳内麻薬が切れて禁断症状に似た状態になるって」
「まあ、そうらしいわね」
「それが苦しさの、寂しさの正体なら」

思わず僕は実験機体で目を閉じるレイを見上げた。

「レイを一人になると体調を崩すとか、僕の言うことしか聞かないとか、そういうことの正体って単なる」
「シンジ君」
「え?」
「悩んでる?」

マヤさんは、僕をまっすぐに見つめながら問いかけた。
そう真っ正面から尋ねられると、言い詰まってしまう。

「悩んでいるというか、その……」
「判ってしまえば、人間の喜びや悲しみなんてそんなものかもしれない。神様の正体がバレてしまったみたいに。
 突き詰めれば、この世の出来事は原子や微粒子のぶつかり合い。私達のやってることは、ただそれだけのこと」
「……」
「でも、自分の脳から麻薬が出ていると感じることがある? 電子の流れだなんて私は感じたことはないな。
 でもシンジ君は自分の感情が、あるいは肉体そのものが無機物に感じてしまい、空しさを感じている訳ね」
「そ、そうかもしれないけど……」

マヤさんは改めて僕に笑いかけた。
「シンジ君、恋してる?」
「え、いや、あの」

周りにいる他のオペレーター達が、聞き耳を立ててくすくす笑う。
ああ、マヤさんと二人っきりじゃないことに今更気が付いた。
ちょっと、恥ずかしい。

「レイのこと、可愛いと思う?」
「……まあ、そうですね」
「今、麻薬が分泌してるの、判る?」
「いえ」
「フフ、そういうこと。ただ自分自身が感じられるのは、自分の心が……」

その時、突如にピピッと鳴り出した警告音。
マヤさんと、そこにいる全員が顔色を変える。
どうしたんだろう。

「電圧不足? 大変、システムがダウンするわ。えーと、そこの二人? パイロットを」
マヤさんの指示を受けて二人が立ち上がる。
え、僕も?

「ほら、レイといえばシンジ君でしょ? 一緒に行って潜水具付けて潜ってきて。
 もうすぐ何も動かなくなるから、プールに潜ってレイを手動で助けて来ないと。大至急!」
とマヤさんが言い終わるのが早いか、二人の女性オペレーターが僕の両腕を引っ張っていく。
口々に文句を言い合いながら。

「ほらほら、司令もぐずぐずしてないで!」
「ホントにもう! きっとアレよ。最近の工事がずさんだから。ほら、あの壁のシミ」
「仕方ないわよ。みんな疲れてるし、私だって休暇取ったのなんていつのことだか」
「でも、電気工事までミスられちゃたまったもんじゃないわよ!」

うう、僕に愚痴られても困るんだけど。
女の人ってリツコさんだけじゃなく、みんな怖いんだよな。

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「ん、あれ……冷たいっ!」
急にシャワーのお湯が水に変わり、その冷たさに飛び上がる。
まあ、ここは常夏の日本。水浴びでも構わないので慣れれば大丈夫なんだけど。
でも、いったいどうしたんだろう。

シャワーから上がると別のボックスから僕を覗き見している。僕の声が聞こえたのかな。
「レイ、大丈夫? 水しかで無くなっちゃったけどちゃんと洗ってね。そのままだと薬品が匂うから」
レイは素直にシャワーに戻る。

エントリープラグの中は神経接続のための特殊な溶液で満たされるから、エヴァ搭乗の後のシャワーは欠かせない。
しかも実験機体を浸していた薬剤入りのプールから泳ぎ出た後だから尚更だ。
でもレイの体が体だし、水シャワーで大丈夫かな。

あ、あれ? 電灯が……消えちゃった。
うわ、真っ暗。

本当にどうなっちゃってるんだろう。仕方ないな。
「レイ、洗ったら上がっておいで。寒くない?」
手探りでタオルを取り、これまた手探りでレイを捕まえてタオルをかぶせた。
お、館内放送。

『緊急事態、緊急事態、本部内の一部で停電が……プツン』

あらら。

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「停電って、本部全てがですか?」
「徐々に広まっていったみたいね。電力システムのトラブルみたいなの。今、整備担当が調査中」
と、マヤさんが教えてくれた。

見れば懐中電灯のスタッフ達が右往左往している。
「でも、変だな。本部の電力供給は主電源に加えて、副、予備の三系統が備わっている。その全てが落ちるだなんて」
「現に落ちてるんだ。今更、そんなこと言ってもしょうがない」
「早急に調べますよ、司令」
そう口々に言い合うスタッフ達。

僕は傍らのマヤさんに尋ねる。
「そう言えば、ミサトさんは?」
「確か本部内に居る筈なんだけど、館内放送すらままならないし」
「うーん……」

そしてスタッフ達の押し問答は続く。
「電力は完全に死んでいるのか?」
「いや、全てというわけじゃない。8番のルートはまだ生きているようだ」
「それMAGIに全部回せ。MAGIの走行を止めるわけにはいかん」
「しかし、本部内の内線すら使えなくなるぞ」
「拡声器持って走り回ればいいだろ」
「何いってるんだ。おい、検査機は何処にある。早く障害箇所を特定しないと」
「それ言う前に自分で動けよ。ほら、俺も行くから」
「おい、食堂の厨房からどうなってるんだって怒鳴り込んできたぞ。このままじゃ冷凍食品が溶けてしまうって」
「仕方ないだろ。動いてないのは冷凍庫だけじゃないんだ」

なんだか、みんなまとまりないな。
自分の持ち場が困ってることを口々に言い合い、なかなか復旧に進まない様子。
無理もない。トップが二人も居ないのだ。
それにしてもミサトさん、いったい何をやってるのかな。
ああ、僕もそのトップの一人?
そう言われてもね。

そんな様子を眺めていたら、
「シンジ君、レイを休ませてきたら」
と、マヤさんが懐中電灯を手渡してくれた。

そうだな。とりあえず僕自身の持ち場をなんとかしなくちゃ。
そう考えて、僕はレイの手を引いて……いや、待てよ。

「マヤさん、まさか管制システムも?」
「ああ、そうね。これじゃ、使徒が現れても判らないわ」
「そんな、それじゃ使徒が来たらエヴァの発進も出来ない?」
「ああ、それって大変だわ!」

そうだよ。それが一番大変じゃないか。

「あのー、みなさーん!」

僕は思わず叫んでいた。
その僕の一声に、口々に叫んでいたスタッフ達がシンと静まりかえる。
い、いや、そんなに注目されたら……って注目してくれなきゃ意味が無いじゃないか。
しっかりしろ、僕。

「あ、あの、エヴァの発進準備、お願いします」

カラン、と誰かの懐中電灯が手から滑り落ちる音が聞こえてきた。

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僕達が更に階下のエヴァ格納庫に降りて発進準備の要請を告げると、皆から悲鳴にも似た声が上がる。
「無理っすよ、動力が全部ストップしてるんですよ?」
「停電を何とかする方が先じゃないっすか?」
そんなふうに愚痴る若手の整備士達。

しかし、背後から年配の整備士が。
「こら、マニュアルを読んでないのか。非常用のディーゼルと人力のクレーンが用意されている筈だ」
「じんりきぃ? 無茶いわないでくださいよ。マジで言ってんですか?」
「どんな非常事態でもエヴァは発進できなければならない。今がその時だ。そうでしょう、司令」
えーと、この人の名前、なんていったかな。
整備士長であることは間違いないけど。

「助かります。お願いできますか」
「無論です。司令の指示は星を動かしてでも、でしょう?」
そう言って僕にニヤリと笑いかけた。
頼りになるなあ、こういう人が居てくれると。

「よーし、全員で引っ張るぞ。声、出していけ」
「お、重てぇ! なんだこれ?」
「別に使徒が来た訳でもないだろうに……」
「バカもん! 今、本当に来たらどうする!」

汗だくでロープを引っ張り、エントリープラグやバッテリーを接続する整備士達。
なんか大変なことをさせちゃってるな。
僕も参加した方がいいのかな……いや。
もっと、やるべき事が有るはずだ。

僕は携帯を開いて呼び出した。
「諜報部?」
『は、何か』
「本部の管制システムが動いてないんです。これでは使徒が来ても判りません」
『では、人手を使って見張りましょうか』
「お願いできますか」
『了解です』

やれやれ。
こういう指示を一つ出すだけでも緊張するなあ。

僕が電話を終えたのを見て、さっきの整備士長が近づいてきた。
「発進準備完了です。出撃の場合はハシゴを登って。エヴァの拘束器具は実力で破ってください」
「壊していいの?」
「もし、出撃となればです。非常時ですから、止むを得ませんよ」
「ありがとう。お疲れ様です」
「いやなに、若いもんには丁度良い非常訓練になりましたよ。ハハ」
本当に非常訓練で済めばいいけど。

(ぴぴぴぴ……)
う、なんか連絡が入った。諜報部か。

「な、なんです?」
『東京市全域まで停電が広まっています。現在、警察が総動員で交通の整備に当たっている模様』
「そうですか」
『ついでに、何か異常が有ればこちらの耳に入れるよう言ってあります』

びっくりしたあ。
使徒が本当に来たかと思ったよ。
つまり、人手のレーダーが強化されたという訳か。
しかし、上の街まで停電が広まってるっていうのも凄いな。
あ、そうだ。

「あの、アスカは」
『現在、街を出て山間部を散策中。連れ戻しましょうか』
「そんなとこまで行っちゃったのか。いや、ちょっと待ってよ。僕から話してからにして欲しいな」
『了解』

そして、ぷつっと電話が切れる。
社交辞令抜きで簡素な対応、流石と言うべきか。
とりあえず、アスカだ。
まだ機嫌が悪いのかな。でも、非常時なんだし……え?

『シンジ!』

アスカの方から掛かってきた。
ああ、耳が痛い。何もそんなでっかい声で……。

『シンジ! なんかでっかい蜘蛛みたいなのが、こっちに近づいてるわ! 使徒でしょ? 使徒が来たんでしょ?
 どうしてアタシに連絡くれないのよ! ヘリでも車でも良いから迎えに来て!』








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最終更新:2009年02月11日 22:20
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