3人目 第壱話

シンジは監視員に頼み込む。
「あの、それでは伝言すら出来ないのですか?」
「駄目だ。外部との一切のコミュニケーションを禁じられている」

今の状況。
ゼーレの野望、碇ゲンドウの宿願は全て打ち破られ、後に残ったのはエヴァとそのパイロットのみ。
最後の戦いでシンジとアスカ、初号機と弐号機はエヴァシリーズを相手に大暴れの末、辛くも勝利。
しかし、ネルフは戦自の強襲を受けてほぼ全滅。しかし、国連軍の介入により事態は収束。
……まあ、そういった経緯は適当に。

で、シンジは特殊人物として軟禁中。
牢屋に収容、というほど厳しくはない。
金網で窓は塞がれてはいるものの、居心地の良い部屋が与えられている。
トイレも完備、ただし掃除は自分で。
ユニットバスもあり、好きな時にシャワーも入浴も可能。

しかし、外部の情報が一切入らない。テレビやラジオ、新聞すら見せて貰えない。
退屈をしのぐためのパソコンはあるが、もちろんネットは未接続。
本を読んだり、古いアニメや映画を見せて貰えるが、文部省推薦の古いものだけ。

シンジは情報に飢え、監視員に問いかけた。
「あの、アスカはどうなりましたか?」
「答えられない」
「……綾波は、綾波レイは」
「答えられない」
辛抱強く、答え続ける監視員。
仏教面で体格の良い制服姿のその男は、テコでも動きそうに無いようだ。

仕方なくシンジはフランダースの犬を読みながら泣き寝入りする他は無かった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ある日、監視員の方からシンジに声を掛けてきた。
「情報規制が緩和されることになった。知り合いが居るなら、伝言ならば受け付ける」

切望するシンジに折れた訳ではないらしく、状況を見ての緩和のようだ。
恐らく、シンジを孤独に追い込んでは精神的に病んでしまう、と判断されたのだろう。

シンジは目を見開いて、立ち上がった。
「そ、それなら……」
「何かあるのか」
「あ、あの――綾波レイ、綾波レイに伝言を」
「何と?」

……え? それではレイは無事ってこと?
まず、その事実にシンジの瞳が輝く。

「元気ですか、と。それだけ伝えて貰えますか?」
「待て」

しばらくして、監視員が帰ってきた。

「返答があった」
「何と?」
「こうだ―― 『誰?』 以上」
「……は?」

このとき初めて、仏教面の監視員は表情を崩してニタリと笑う。
「お前のことをよく覚えてなかったそうだ。ハハハ、めげるな少年!」

笑いながら去っていく監視員。
シンジは膝をついてがっくりと崩れ落ちる。

――そうだった。綾波は3人目だったんだよね……あはは。

綾波レイ3人目。
自分が共の過ごした2人目は既に無く、共に使徒と戦った時の記憶は彼女には無い。
まったくの別人と言っても良い存在。それが綾波レイ3人目。
その彼女とは多少の会話もした筈なのだが、それだけじゃ印象が薄かったのだろう。

しかし、あの混乱の後に無事だったことが判ったのだ。
てっきりネルフのスタッフに紛れて殲滅されたのではないかと、不安でしょうがなかったのだから。

めげるな、シンジ。
これがお前の新たなスタートラインなのだ。

(続く?)
最終更新:2009年03月28日 22:17
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