シンジは監視員に頼み込む。
「あの、それでは伝言すら出来ないのですか?」
「駄目だ。外部との一切のコミュニケーションを禁じられている」
今の状況。
ゼーレの野望、碇ゲンドウの宿願は全て打ち破られ、後に残ったのはエヴァとそのパイロットのみ。
最後の戦いでシンジとアスカ、初号機と弐号機はエヴァシリーズを相手に大暴れの末、辛くも勝利。
しかし、ネルフは戦自の強襲を受けてほぼ全滅。しかし、国連軍の介入により事態は収束。
……まあ、そういった経緯は適当に。
で、シンジは特殊人物として軟禁中。
牢屋に収容、というほど厳しくはない。
金網で窓は塞がれてはいるものの、居心地の良い部屋が与えられている。
トイレも完備、ただし掃除は自分で。
ユニットバスもあり、好きな時にシャワーも入浴も可能。
しかし、外部の情報が一切入らない。テレビやラジオ、新聞すら見せて貰えない。
退屈をしのぐためのパソコンはあるが、もちろんネットは未接続。
本を読んだり、古いアニメや映画を見せて貰えるが、文部省推薦の古いものだけ。
シンジは情報に飢え、監視員に問いかけた。
「あの、アスカはどうなりましたか?」
「答えられない」
「……綾波は、綾波レイは」
「答えられない」
辛抱強く、答え続ける監視員。
仏教面で体格の良い制服姿のその男は、テコでも動きそうに無いようだ。
仕方なくシンジはフランダースの犬を読みながら泣き寝入りする他は無かった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ある日、監視員の方からシンジに声を掛けてきた。
「情報規制が緩和されることになった。知り合いが居るなら、伝言ならば受け付ける」
切望するシンジに折れた訳ではないらしく、状況を見ての緩和のようだ。
恐らく、シンジを孤独に追い込んでは精神的に病んでしまう、と判断されたのだろう。
シンジは目を見開いて、立ち上がった。
「そ、それなら……」
「何かあるのか」
「あ、あの――綾波レイ、綾波レイに伝言を」
「何と?」
……え? それではレイは無事ってこと?
まず、その事実にシンジの瞳が輝く。
「元気ですか、と。それだけ伝えて貰えますか?」
「待て」
しばらくして、監視員が帰ってきた。
「返答があった」
「何と?」
「こうだ―― 『誰?』 以上」
「……は?」
このとき初めて、仏教面の監視員は表情を崩してニタリと笑う。
「お前のことをよく覚えてなかったそうだ。ハハハ、めげるな少年!」
笑いながら去っていく監視員。
シンジは膝をついてがっくりと崩れ落ちる。
――そうだった。綾波は3人目だったんだよね……あはは。
綾波レイ3人目。
自分が共の過ごした2人目は既に無く、共に使徒と戦った時の記憶は彼女には無い。
まったくの別人と言っても良い存在。それが綾波レイ3人目。
その彼女とは多少の会話もした筈なのだが、それだけじゃ印象が薄かったのだろう。
しかし、あの混乱の後に無事だったことが判ったのだ。
てっきりネルフのスタッフに紛れて殲滅されたのではないかと、不安でしょうがなかったのだから。
めげるな、シンジ。
これがお前の新たなスタートラインなのだ。
(続く?)
最終更新:2009年03月28日 22:17