第九話

「キーッ!なんなのこの配置!ミサトは私を殺ス気デスカー!?」
「これが最良の布陣よ。シンジ様に危ない橋を渡れと言うつもり?」
確かに死ねというような配置だ。
大気圏外に現れた巨大な使徒サハクィエルの推定落下位置には弐号機。
初号機と零号機は、そこから幾らか離れた場所に配置されている。
「……じゃあ、なぜファーストは初号機の側なんデスカァー?」
「シンジ様の追加バッテリーを持たせるからしょうがないの。それ以上の仕事は零号機には無理。」
「ぶぅー……」
むくれっつらのアスカ。そんな彼女を一応なだめようとシンジは口を出す。
「あのぅ……やっぱり、その役は僕が……」
「失礼ながら、シンジ様には囮ではなく、使徒をしとめる役に着いていただかないと。」
「でも……」
そんなふうにシンジとミサトがやりとりしていると、アスカは業を煮やして、
「アーッ!もういいデース。その代わりにシンジには私と食事して頂きマース!」
「え、あの……食事?」
「そうデース!とびきりぶ厚いステーキ奢ってもらいマース!いいですネ!」
シンジの返事を禄に聞かずに、アスカはものすごい音を立ててドアを閉めて去っていった。
「僕は……魚のほうがいいなぁ……」
「あたし、お肉嫌い……」
「まったく、ドイツ育ちのくせに考えがアメリカンなんだから……」


で、作戦開始。
「ミサトさん!使徒が地面に着弾してしまいますよ!発射の合図はまだ出さないんですか!」
絶叫するマヤ。しかし、もはや目を血走らせているミサトには通じない。
「そうよ!着弾してからじゃないと正確な狙いが付けられないわ!」
「で、でも、それではアスカさんが!アスカさんを殺す気ですか!」
「そう簡単に弐号機は壊れやしないわ。ダメならアスカには死んで貰うしかないわね。」
「そ、そんな……ミサトさーんッ!」
「シンジ様に、二度打ちの手間なんてさせるもんですか!」
この日、極限に達したアスカの恐怖により初めてのATフィールドが展開されたという。
むろんシンジが見事に使徒を打ち抜き、使徒殲滅を達成したことは言うまでもない。

で、シンジはアスカを伴い市内のレストランへと向かう。
ミサトはすっぽかせば良い、アスカの約束を承認したわけではない、と引き留めたのだが、
よせばいいのに、酷い仕打ちを受けているアスカが流石に気の毒になったらしい。
そのおかげか、あと一歩で死ぬところだったはずのアスカは上機嫌だ。
「美味しいですゥー!シンジがおごってくれたお肉は最高ですゥー!」
「そ、そう……よかったね……」
リクエスト通りにアスカに特大のステーキを注文し、
自分はといえば、お相伴程度に野菜のソテーとパンを頼んでつつき回した。
アスカも有る程度はNERVの予算を使い込める立場にある。
食べたいなら幾らでも食べれるはずなのだが、とにかくシンジから何かをして貰いたかったのだろう。


何故かは判らないが、いつもの破廉恥なノリは今日のアスカからは見られない。
せっかくのデートだから、とシンジが逃げ出さないよう押さえているのだろうか。
デートとはいえ、店の出入り口付近では怖い顔をしたミサトが見張っているのだが。

ある時、尚も肉を頬張りながらアスカはシンジに訪ねる。
「シンジ……」
「え?」
「シンジは……私のこと、スキですカ?」
「……あ、あの。」
「じゃ、キライですカ?」
「うーん、その……キライじゃないよ。うん。その……」
「スキなんですネ?それじゃワタシとセックスしまショウ!」
「いいぃ!何でそうなるんだよ!?」
「ダメですカ?オトコはスキじゃない女でもチンチンは立つって聞いてマース。」
「あのねぇ……」
「じゃ、良いデース。お別れにキスしてくれたら今日は勘弁してあげマース。」
「……」
「舌を入れろなんて言いまセーン。」
「……」
「……シンジ?」


「アスカ。僕は特別な相手とじゃなければ、そういうことは出来ない。好きとかいうレベルではなく。」
「……」
「男は確かに女を見て、そ、その、チンチンは立つけど、僕はだからといってそういうことはしない。」
「……」
アスカはナイフとフォークをテーブルに置いて、シンジに向き直った。
「じゃ、ワタシはシンジにとって特別な相手じゃナイ?」
「……悪いけど。」
「……」
「……あの。」
「ナンデスカ?」
「この次に使徒が来たら、僕が先行して戦う。約束する。」
「借りは返すって訳デスカ?」
「そんなんじゃない。その次も僕が前に出る。もうアスカには危ない目には遭わせない。」
「でも、特別ジャナイ?」
「……そう。」
「……」
「……」
「……Danke」
そう言ってアスカは席を立ち、シンジと食べかけの肉を残して去っていった。


「へぇ~、そんなやりとりがあったんですか。」
ここはNERV本部での実験作業中、せっせとMAGIの端末を操作するマヤは、
ミサトからデートの結果報告を受けていた。
「ええ……シンジ様、潔癖性かもね。それでは、あれだけ奮い立ってるチンチンが可哀想。」
「ま、まあ……大人しい14歳の男の子じゃ仕方ないですよ。」
「……それにしても、あんたのその格好なに?まるでレースクィーンじゃないの。」
「仕方ないですよ。なんか、どんどん制服が過激になって行くんです。」
「一体、衣替えにどれほどお金をかけてるのかしら。この間はチャイナドレスだったし。」
「なんか、あっちの方が恥ずかしかったです。腰までスリットが入ってて常に下着が見えそうで。」
「あれはまだシンジ様の股間には好評だったけど……」
「そ、そんなことまで判るんですか?」
「シンジ邸じゃ常識よ。あんたも好い加減ウチにいらっしゃいな。」
「え……シンジ様のお宅に、ですか?」
「そ。あんたのメイド服姿ならシンジ様よろこぶかもよ?」
「で、でも……オペレーターが手不足になっちゃうし。」
「そういえば、管制塔でMAGIを操作してるのあんたとリツコだけね。」
「最初は男性の方が二人いたんですけど、男子禁制になってから首になっちゃって。」
「ありゃま。」
「パターン青のアナウンスとか、エアギターなんて訳分かんないことまで私に引き継いで去っていきました。」
「あ、あはは……」


そんな会話をしていたミサトは、ふと何かに気付く。
「あれ何?ほら、あの風呂のカビみたいなの。」
「ああ、あの変質している壁ですか?。なんか使徒が浸食してるみたいです。」
「いいぃっ!ちょっと、警報ぐらいならしなさいよ。」
「いや、作業員がこそぎ落とそうとしたけど、どうにもならなくて。もしやと思ってセンサー向けたら……」
「パターン青だったって?」
「はい。恐らくシンジ様じゃなきゃ無理だろうってことになって、この次に来られたついでに落として頂こうかと。」
「ついでにって……ほっといて良いの?MAGIをハッキングして本部を破壊しようとしたりとか……」
「まさかそんなぁ……変な映画やアニメでも見過ぎですか?ミサトさん。」
「そんな言い方しなくても……それにしても、使徒って一体何しに来てるのかしら。」
「さぁ……私も最近よく判りません。本当にサードインパクトなんて起こるんでしょうか?」
「このハーレムの存在意義もね。シンジ様、可哀想。こっちが手出しして良いなら幾らでもお慰めするんだけど。」
「そ、そうですねぇ……でも、こちらからの働きかけは絶対禁止だし。」
「奥手の14歳にゃ無理よ。一言でも『したい』って言ってくれりゃあ、その場で押し倒してガッツンガッツン……」
「ミサトさん、こんなところで変なこと言わないでくださいよ……それにシンジ様の好みに合わなきゃ……」
「だからウチにおいでって。だいぶ、シンジ様の好みが判ってきたし。」
「え、あの、でも……」
「メイドやれなんて言わないわよ。むしろ、うちのメイドに世話させてあげる。」
「はぁ……考えておきます。」
「……あんた。」


「え?なんです?」
「本当はシンジ様としたくないんじゃないでしょうねぇ……?」
「そ、そんなことないですよ。シンジ様がお求めなら私だって幾らでも……」
「命令だから?」
「何いってんですか!シンジ様のためなら私は肉便器にでもなってみせますッ!」
「……そ、そんなことを大声で言わないでよ。ほら、みんな引いちゃってるわよ。」
「え、あ、ごめんなさい……でも、NERVで伊達にシンジ様にお仕えしている訳では……」
「判ったわよ。ごめんね……」
(かといって、どこまで本気かしらね……)

実のところ、マヤはもちろん本気だろう。
彼女を含むNERV職員に課せられた教育は完全だ。ミサト自身もそうなのだ。
NERVに対し疑問視するミサトは、もしかしたらその教育が行き過ぎた結果、と言えなくもない。
しかし、本当に使徒との対戦を目的とした組織なのだろうか。
自らもこのエロゲのような世界を構成する因子でありながら、それらを否定的に捉え始めているミサトであった。
最終更新:2007年02月21日 22:38
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