ここはジオフロント。
植林された人口の自然の中で、そびえ立つNERV本部の巨大なピラミッド。
風一つ無く、穏やかな空気が深くその地に染み渡る。
シンジは、その本部を見上げていた。
その彼の胸中には、いったい何があるのか。
シンジは僅かに目をしかめる。
それは嫌悪の苛立ちか、あるいは戸惑い、そして単なる迷いであるのか。
ふと、誰かがそこに居ることに気付く。
加持であった。
じょうろを片手に水を蒔いている。
そこは畑のようだ。
シンジは尋ねた。
「なにやってんですか? こんなときに」
「こんなとき?」
加持はシンジの方を振り返ることなく返答する。
「こんなときとは、どんなときだ。俺には判らんが?」
「……」
シンジはそれに応じずに、加持の方に歩み寄る。
そして彼が水を蒔いていた畑を眺めた。
「加持さん。これは?」
「スイカだよ」
「スイカって……どこに? もう、畑は枯れてるじゃないですか」
「もう誰も水を蒔く奴が居なかったからな。ここでは雨が降らないし」
シンジは再び本部を見上げて、ふっと息を吹いた。
「水を蒔いて蘇るんですか? そのスイカ」
「さあな。しかし俺が出来ることと言えば、これだけだ」
初めて、加持はシンジの方を見た。
シンジは目を閉じている。
「シンジ君、何が見える?」
「……さあ」
「シンジ君、君には何が出来る?」
「判りませんよ。そんなこと」
そんな気のない返事をしながらも、相反してシンジは歩き出す。
本部に向かって。
その背に向かって加持は問う。
「シンジ君、何をするつもりだ」
「水を蒔きに行くんです」
「そうか」
加持はひとしきり水を巻き終えて、じょうろをカラリと放り出す。
そのじょうろは地面に届くことなくフッと消えた。
枯れた畑は乾いたままだ。
加持は呟く。
「なら急げ。言うなれば――あそこは君が再び生まれた場所だからな」
その言葉が、シンジの耳に届いたかどうか。
歩いていたシンジはやがて、走り出す。
「行こう、レイ」
そして差し出した手を、しっかりと握り返すレイの右手が――。
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最終更新:2009年03月28日 22:53