3人目 第四話

「少年! 喜べえええええっ!」
「ちょ、ちょっとぉ! いきなり大声出さないでくださいよ、監視員さん」
「お前の外出許可が下りたぞ!」
「外出って、散歩ならさせて貰えてる……いや、それじゃまさか?」

監視員はシンジにニンマリと頷く。
そう、その外出とは塀の外、つまり街に出られるということだ。

「さあ、喜べ少年! 制限時間30分で何処へでも行けるぞ!」
「ちょっ……! たった30分で何処に行ってこいと言うんですか!」

そんなに怒ることは無いと思うが。
それに、行くべきところはレイの所と決まっているではないか。

そんな訳で、監視員はシンジを車に乗せて、望み通りにレイの居る収容所へ。

監視員は語る。
「しかし、面会はまだ禁じられている。しかも車で往復20分」
「それじゃ、顔を見ることも出来ないですね……」
「まあ建物だけ見て拝んで帰れば良いではないか」
「あの、綾波は神社仏閣じゃないんですから」

彼女はお前の女神様だろう?
などと、監視員がベタな切り返しをしたかどうかは、さておいて。

とりあえず、レイが居るという収容所に到着。
そして車を降りて見上げて見れば。

「おい見ろ、少年!」
「あ、綾波……」

綾波レイのトレードマーク、青い頭髪が窓辺に浮かんで居るではないか。

しかし、どうやら見えているのは後頭部。
何をしているのかは判らないが、窓辺に立って後ろ向き。

シンジは尋ねる。
「ここで大声出しちゃ……まずいですよね?」
「いや待て、少年。こういう時はな? 小石を窓ガラスに当てて気付かせるのだ」
「えー!? もっとまずくないですか?」
「ばれなきゃ問題ない。俺が見張ってやるから、早くやれ」
「は、はい」

この監視員、かなり砕けた人格のようだ。
そして、シンジもこのまま手ぶらじゃ帰りたくない。
手頃な小石を拾って――。

「えいっ」
ひゅんっ……ぽこん。

はい、小石は見事にレイの頭に命中。
シンジ? お見事。

やばい、とシンジは思わず凍り付く。
見れば、レイは頭を押さえて痛そうにうなだれている。

「ま、まずいぞ少年! 逃げろ!」
「え、いやちょっと」
「このままでは俺まで収容されてしまう! いいから逃げるのだ!」

と、監視員はシンジを脇に抱えて車に舞い戻り、エンジン吹かせて即疾走。
この監視員、本当に大丈夫なのか?

「ワハハハハハ! 危ないところだったな、少年!」
「わ、笑い事ですかっ!」
「いいじゃないか。これも青春よ! ウハハハハハハハ!」

自分ばかり楽しそうですね、とシンジは睨む。
しかし思い返して、ふっと溜息。

(綾波、本当に無事だったんだね――よかった。本当に、よかった)

シンジは別に疑ってた訳じゃないのだが、今にして初めて実感することが出来たのだ。
話に聞くのと、直に見るのとでは訳が違う。

「ハハハ! 彼女に会えて良かったな、少年! ほら、もっと喜べ!」
「あんなの、会ったうちに入らないですよ!」

シンジはそんな剣幕で言い返しながらも、囚人生活の中で本当に嬉しそうな顔で笑っていた。

(続く?)
最終更新:2009年03月29日 10:42
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