「少年! 喜べえええええっ!」
「ちょ、ちょっとぉ! いきなり大声出さないでくださいよ、監視員さん」
「お前の外出許可が下りたぞ!」
「外出って、散歩ならさせて貰えてる……いや、それじゃまさか?」
監視員はシンジにニンマリと頷く。
そう、その外出とは塀の外、つまり街に出られるということだ。
「さあ、喜べ少年! 制限時間30分で何処へでも行けるぞ!」
「ちょっ……! たった30分で何処に行ってこいと言うんですか!」
そんなに怒ることは無いと思うが。
それに、行くべきところはレイの所と決まっているではないか。
そんな訳で、監視員はシンジを車に乗せて、望み通りにレイの居る収容所へ。
監視員は語る。
「しかし、面会はまだ禁じられている。しかも車で往復20分」
「それじゃ、顔を見ることも出来ないですね……」
「まあ建物だけ見て拝んで帰れば良いではないか」
「あの、綾波は神社仏閣じゃないんですから」
彼女はお前の女神様だろう?
などと、監視員がベタな切り返しをしたかどうかは、さておいて。
とりあえず、レイが居るという収容所に到着。
そして車を降りて見上げて見れば。
「おい見ろ、少年!」
「あ、綾波……」
綾波レイのトレードマーク、青い頭髪が窓辺に浮かんで居るではないか。
しかし、どうやら見えているのは後頭部。
何をしているのかは判らないが、窓辺に立って後ろ向き。
シンジは尋ねる。
「ここで大声出しちゃ……まずいですよね?」
「いや待て、少年。こういう時はな? 小石を窓ガラスに当てて気付かせるのだ」
「えー!? もっとまずくないですか?」
「ばれなきゃ問題ない。俺が見張ってやるから、早くやれ」
「は、はい」
この監視員、かなり砕けた人格のようだ。
そして、シンジもこのまま手ぶらじゃ帰りたくない。
手頃な小石を拾って――。
「えいっ」
ひゅんっ……ぽこん。
はい、小石は見事にレイの頭に命中。
シンジ? お見事。
やばい、とシンジは思わず凍り付く。
見れば、レイは頭を押さえて痛そうにうなだれている。
「ま、まずいぞ少年! 逃げろ!」
「え、いやちょっと」
「このままでは俺まで収容されてしまう! いいから逃げるのだ!」
と、監視員はシンジを脇に抱えて車に舞い戻り、エンジン吹かせて即疾走。
この監視員、本当に大丈夫なのか?
「ワハハハハハ! 危ないところだったな、少年!」
「わ、笑い事ですかっ!」
「いいじゃないか。これも青春よ! ウハハハハハハハ!」
自分ばかり楽しそうですね、とシンジは睨む。
しかし思い返して、ふっと溜息。
(綾波、本当に無事だったんだね――よかった。本当に、よかった)
シンジは別に疑ってた訳じゃないのだが、今にして初めて実感することが出来たのだ。
話に聞くのと、直に見るのとでは訳が違う。
「ハハハ! 彼女に会えて良かったな、少年! ほら、もっと喜べ!」
「あんなの、会ったうちに入らないですよ!」
シンジはそんな剣幕で言い返しながらも、囚人生活の中で本当に嬉しそうな顔で笑っていた。
(続く?)
最終更新:2009年03月29日 10:42