3人目 第七話

朝、起きて、食事を取り、勉強をして、チェロを弾き――そして、レイのことを想う。
そんな感じで、相も変わらずシンジの囚人(?)生活の日々は続いていた。

ある日のこと。
監視員が新たな情報をシンジに告げた。

「ドイツに帰った、なんて言ったか――惣流・なんとか・ラング……?」
「ああ、アスカがどうかしたんですか?」
「回復して学校に復学しているそうだ」
「そうですか」

シンジの気のない返事に、監視員は首をひねる。
「気にならんのか? 少年」
「いや、そういう訳じゃないですけど」

――なら、手紙くらいくれたらいいのに。

アスカは既に社会復帰を遂げているのだ。
しかし、便りをよこしてこない理由はなんだろう。

様々な理由が考えられる。
社会復帰を果たしたものの、体や心の傷が癒えず過去のことには触れたくない。
あるいは、過去に触れても良いけどシンジに連絡をよこす理由はない。
そして、あるいは?

(僕が先に便りを出せばいいじゃないか)
どっちが先か。ただそれだけのこと。

そして、シンジは便せんを出してペンを握ろうとする。
しかし、過去の記憶に捕らわれて、その手は止まる。

ペンを置き、右手のひらを開いてジッと見つめた。
(最低だ、俺って)

しばらく、シンジは動けなくなった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(まさか、アスカはあの時のことを気付いてたんじゃ……)
(窮地故に、エヴァシリーズとの戦いは協力したけど、しかし)
(アスカ――思い出してしまった。僕にとって、アスカは僕にとっておぞましい記憶だということを)

更にシンジの苦悶は広がりを見せる。

(だから、綾波なの?)
(僕がこうしてせっせと綾波とコミュニケーションしているのは、綾波が何も知らない3人目だから?)

(僕のことを忘れてしまった――いや、僕を知らない綾波)
(……ショックだった。自分が3人目だと綾波がいったその時は、僕自身が失われたかと思った)
(それまで一緒に戦ってきた記憶、それは自分の証明でもあり、それが失われてしまったのだから)

(でも、それと同時に)
(忌まわしい過去の自分をも水に流して、新たな自分を見いだせる)

(もしかしたら、僕は綾波にそんなことを期待してるのかも知れない――)

その苦悶は、監視員によって不意に遮られた。
「少年、お前にエアメールが届いたぞ」

監視員のその声に、シンジは思考を中断されて顔を上げた。
エアメール? 何で僕に?

その答えは、一つ。
「アスカから!?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シンジは恐る恐る、そのエアメールの封を切る。
いったい何が書かれているのだろう。

『はぁい☆シンジ、元気してるぅ?
 いやあ、エヴァシリーズには手こずったわよねぇ。
 アタシ、病み上がりだってんのに無理から弐号機に乗せられちゃったから最悪だったわよ。
 そうなの、アタシ入院中だったのよ? 知ってた? 
 アンタ、どーして一回ぐらい見舞いに来なかったのよ――』

(アスカ、気付いてなかったんだ。僕が病室に来て――したことを気付いてないんだ)

『今、ドイツのハイスクールに通っててね。
 新しい友達も、た~くさん出来てとっても楽しい毎日を過ごしてるわ。じゃ~ね♪』

そして、添えられていた写真。
それは見知らぬ仲間と共に、見事なプロポーションでビキニを着こなすアスカの姿。
すっかり元気そうだ。

「アハハ、それじゃ僕も返事を出そうかな?」
さっそくシンジは便せんをちぎって返事を書き始める。
「えーと……アスカ、僕も元気です、綾波もこっちに居て、楽しい日々を……」

アスカが「あのこと」を知らないと判れば、現金な物である。
ついさっきまで頭を抱えていたシンジは元気いっぱいだ。

「よーし、今日はアスカで抜いて寝ちゃおう」
と、アスカから送られた写真を片手にトイレへGO!

……シンジ、それでいいのか?

(続く?)
最終更新:2009年04月05日 22:12
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