「シンジ様ッ!!」
マヤに体を揺さぶられ、ようやく正気を取り戻してカヲルの首から手を離した。
ドサリ、と投げ出されるカヲルの遺体。
「あ……ああ……」
うめくシンジ。その後ろから静かで、そして恐ろしい声が彼を呼ぶ。
「シンジ。」
「あ、ああッ!!」
驚き振り返るシンジ。その顔はすでに蒼白である。
「お前は何をしたんだ、シンジ。」
そう尋ねたのは司令にしてシンジの『父』、碇ゲンドウである。
「あ……あの……」
ようやく言葉になりかけてきたシンジの声。
「あの……その……使徒……」
「使徒だと?」
「そ、そう……そうだ!使徒だ!カヲルは、カヲルは使徒だったんだ!」
「お前は……渚カヲルが使徒だと言い張るつもりなのか?」
「そうだ!使徒だったんだ!だから殺したんだ!そうしなければ、皆が死んじゃう……だから……」
あからさまな嘘を叫び、既に邪悪な形相で歪むシンジの顔。
殺人という破壊、虚偽、ずるがしさ、愚かしさなど、有りとある罪が既にシンジの体を支配し始めていた。
側に居たマヤはもう声も出せずにシンジの有様におののいていた。
(シンジ様……そんな……カヲルは人間だったのに……完全なただの人だったのに……)
(そんな見え透いた嘘を……この先、最後の使徒が現れたら……)
(ああ、助けて!お願いだから誰かシンジ様を助けて!)
「そうか……では、我々の念願は成就された訳だな。」
「え……?」
キョトンとしてゲンドウを見るマヤ。
「来い、シンジ。使徒を殲滅したからには、しなければならない仕事がある。」
「あ、あの……」
すでに引きずられるようにしてゲンドウに連れて行かれるシンジ。
その二人を、固まっていた体がようやく動き始めたマヤが追いすがる。
「あのッ!待ってください!シンジ様をどうする……」
そんな彼女を重装備の男達が立ちふさがる。
それは完全武装の戦略自衛隊の隊員だった。
リツコが引き金を引く少し前。
「じゃあね、探偵さん……」
そうして銃の狙いを定めようとしたその時、急激に絞られた視界が全て塞がれてしまった。
「す……スイカ!?」
彼女の動体視力は確かである。間違いなく飛んできたものはスイカであった。
引き金を引きスイカを見事に砕いたが、別の方角から強烈なタックルを受けて倒されてしまう。
「う……クッ……」
思わずうめき、起きあがろうとするリツコであったが、すでに加持は馬乗りで封じてしまった。
「ごめんね、リッちゃん。」
そう言いながら高々と振り上げられ、リツコの頭に振り下ろされたもの。
それもまた、当然ながらスイカであった。
気絶したリツコを縛り上げる加持。死んではいなかった。
「やーれやれ。可愛い子ちゃん達を二人も犠牲にしてしまったよ。」
そういいながら携帯電話を広げる。
「葛城?俺だよ。」
「何?……ちょっと待って。声のマスク化してくれない?傍受されるわ。」
「ああ、例の暗号でいいかな?……よし、聞こえているか?」
「OKよ……シンジ様ね?」
「いろいろなことが判ったんだが、とにかくシンジ君が危ない。とりあえず保護をして、話はそれからだ。」
「やはり……戦自が動き出したみたいね。」
「ああ、そちらに向かっている。何かをやらかすのかまでは見当も付かないが。」
「悪いけど、もう私はNERV本部じゃないの。今はシンジ邸よ。」
「なんだって……ではシンジ君は?」
「既に司令のゲンドウに連れて行かれたの。あんたの警告、今更だったわね。」
「そうか……では、助けに?勝ち目はないぞ?」
「私達に他にすることがあるとでもいうの?大丈夫、あんたに手伝えなんて言わないから。」
「……死ぬぞ?下手をすると世界中を相手にすることになるぞ。」
「上等よ。そのつもりでシンジ様に仕えてきたのだから。」
「葛城。」
「何?」
「もし、生きて再び出会えたら……8年前に言えなかった言葉を……」
「バァーカ!」
「え!?」
「もし無事だったら、シンジ様を皆でまわす祝賀会開くつもりなんだから、あんたとヨリを戻す余地は無いわよ。」
「ちょ……おい、葛城!」
パチンと携帯を閉じるミサト。側にいたメイドの一人がクスクス笑う。
「本当にそんなパーティー開くつもりなんですか?」
「あったりまえじゃない♪これまでの報酬はたっぷりノシを付けてシンジ様に払って貰うわよ。」
「ウフフ……そうですね。」
「楽しみにしてらっしゃい……ところで、今日の下着の色は?」
メイドはニヤリと笑ってスカートを引き上げた。
その下から覗かせたもの。それは、純白の愛らしくも艶めかしいパンティーとガーターベルト。
そして美麗な太ももに釣り下げられた短銃が一丁。
「なかなかセクシーじゃないの。でも、もう少しコーディネイトさせて貰うわよ。ほら!」
そう言ってミサトは自動小銃を投げつけた。
「似合わないなんて文句を言わないでね。さぁ、本部の大掃除を始めるから、全員招集!」
「さあ、来るんだ。」
そう言って、よろよろと歩くシンジを伴うゲンドウ。
連れて行かれた場所は広く薄暗い所であった。
そして、ゲンドウはどこかしらに合図を出す。一斉にライトが照らされ、映し出されたもの。
「エヴァンゲリオン初号機……」
「乗れ。おい!」
「ハッ」
自衛隊員の二人がシンジを両脇から抱えて連れて行く。
シンジはやや抵抗するそぶりを見せたが、しかし意気傷心した彼では力も入らない。
無駄に鍛えた筋肉では役に立たず、使い方もロクに知らない彼では為す術もなかった。
「う、うう……」
エントリープラグに押し込められ、慣れているはずなのにLCLにむせ返るシンジ。
そんな彼にゲンドウは容赦がない。
「シンジ……もう、判り切った嘘をつくのは止めろ。渚カヲルは使徒ではない。」
「……」
「が、それはいい。お前の言うとおりに世間に公表してやろう。辻褄は合わせてやる。」
「あ、あの……でも……」
「心配は要らん。最後の使徒は既に捉えてある。後は、ここで密かにお前が始末するだけだ。」
「あ……あれは!」
更に、ライトがあるものを照らし出す。
それは、巨大な試験管のようなカプセル。その中に一人の全裸の少女が浮かんでいた。
「綾波!」
「これが……お前に近づき、取り入ろうとしてたらしい第17使徒、タブリスだ。」
あるNERVスタッフが計器を操作する。
そしてパネルに表示される文字。
『 Blood Type Blue ・・・ 17th Angel 』
「綾波が……」
「さあ、お前の手で倒すのだ。シンジ、それでお前は救われるのだ。」
そして、スタッフが言う。
「照準は既に合わせています。では……引き金を引いてください。」
その言葉。使徒との戦いを始めて以来、何度も従ってきたシンジへの命令。
(撃てば……僕は救われる……それで……僕は……)
シンジは取り付かれたように引き金に指をかけた。
とあるNERV本部の入り口。
既にシャッターが閉じられ、戦自の陸軍隊員が一人で銃を片手に警備をしていた。
その前に、ふと現れたのは一人の女性。
「……め、メイド!?」
場違いの登場に驚く隊員。そんな彼にメイドはニッコリ微笑みかけ、そして相手の口をふさぎ、
ドスッ……と何かを突き立てた。
「う……うう……」
うめきながら血を吹き出して倒れる隊員。メイドが手にしているのは血塗れの卓上ナイフである。
彼女は遺体を冷たく見下ろし、シャッターの開閉ボタンを操作する。
開らかれるシャッター。そして、その向こう側に現れたのは、
清楚な制服の上からマシンガン、バズーカーなどを背負った、完全武装のメイド達が数十人。
その中央に立つのは隊長の葛城ミサト。
「さあ、行くわよ!シンジ様のために!」
最終更新:2007年02月21日 22:49