虐待 第拾弐話

カチャカチャ、ガチャ、カチャカチャ……

ああ、母さん。今、訓練中なんです。静かにしていて下さいね。
「チィッ!3分切れると思っていたのに。」
隣でぼやいたアスカはすっかり元気です。意気盛んに訓練に参加しています。
エヴァパイロットたるもの、シンクロ率さえ高ければ良いはずはありません。
つまるところ、シンクロ率はエヴァがちゃんと思い通りに動かせられるかどうかを示す数値。
戦いに必要な能力はそっから先なんです。

でもね?教官。なんで銃の組み立てなんてやらなきゃならんのですか。
「銃を愛して抱いて寝るところから全てが始まる。もう名前を付けたか?」
こんな硬い物を相手にエッチなことなんか出来ませんよ、教官。
しかし、僕達の前の席で黙々と作業を続ける綾波の手つきは慣れたもの。
「む?2分を切ったか。流石だな、綾波レイ。」
珍しい教官の褒め言葉。綾波、あんたはフォレストガンプですか。
やれやれ。エビの話でもしようよ、アスカ。

そろそろ、NERVでしごかれる生活になれてきたんじゃないか?と思うでしょうね、母さんは。
そんなことはありません。あのリツコさんの電撃やミサトさんのビンタに慣れることなんて出来ません。
ですが最近、アスカが笑顔で居ることが多くなりました。
それだけでいい。僕はそれだけでいいんです。



参号機?
エヴァの格納庫で、その話をアスカから聞かされて驚きました。
なんでもアメリカで建造されて、こちらに送られてくるとのこと。
「らしいのよ。パイロット?知らない。」
バケツ片手のアスカが僕にそう言います。ああ、まだエヴァ磨きの罰がまだ終わってないんです。
「やーれやれ、終わった終わった。ん?あんたトロいわねぇ。」
そう言わないでよアスカ。
初号機はデザインややこしくて拭くとこ多いんだってば。
「手伝って?イヤよ。自分の機体は自分でやんなさい。それじゃね~」
そんなこと言いながらも、晩ご飯は僕が帰るまで待っててくれるくせに。

そして僕が掃除を続けていると、誰かが二人やってきました。
ミサトさんとリツコさんです。
僕は高いところでクレーンに乗っていたので、二人は僕に気付かない様子。
その彼女たちの会話が聞こえてきました。

「リツコ、それじゃ稼働試験は行われていないの?」
「しょうがないじゃない。アメリカには適当なパイロットが居なかったんですって。」
「そんな物をこっちに押しつけるなんて。」
「ま、戦闘を経験しているパイロットも居ることだし、こっちでやるのがベストよ。」



書類に目を通しながら答えるリツコさんに、さらにミサトさんが問いかけます。
「それじゃ誰を乗せるの?」
これが一番気になるところ。僕は見つからないようクレーンに寝そべって聞き耳を立てました。
「もう決まっているわ。アスカよ。参号機の仕様は弐号機と酷似しているし。」
「そうね、初号機と零号機なら互換が効くけど。」
「それに、シンクロ率はともかくアスカの戦績が一番低いし……ね?」
そう言って薄く笑うリツコさん。

気になります。まさか、アスカを使い捨てのモルモットにする気じゃないでしょうか。
この後、アスカと僕は夕食のため、再び顔を合わすのです。
なんだか、このことを伝える勇気がありません。
勘の良いアスカを相手に、僕がこのことを悟られずに済ませる事なんて出来るでしょうか。

「やっぱり私なのね。そうじゃないかと思ってた。」
母さん、無理でした。
「面白いじゃない。新型のエヴァ、どんなのだか早く乗ってみたいわ。」
そう言いながら、どんぶり飯をかき込むアスカ。
この元気があれば大丈夫、かな?

そして翌日、さっそく試験が行われることになりました。



「そんじゃ、行ってくるね。」
元気よく飛び出していくアスカを僕は見送ります。
試験は松代にある第2試験場。ここで行うには様々な危険が考えられるため、とのこと。
ああ、そんな危険など起こらなければいいのですが。
しかし僕には、そんな不安な思いに沈んでいる暇はありません。
「そうか、アスカの分も頑張ると言うんだな?よし、アスカの銃も組み立てて」
いやだから教官、それがなんの意味があるんですか。

そうして、綾波とともに銃の組み立てをしていたその時です。
部屋のスピーカーから響き渡るサイレンの音。
「む、この警報。使徒か?」
そういって顔を上げ、内線で問い合わせる教官。
隣の綾波は流石に素早い。大急ぎで机の銃を片付けて指示に備えようとしています。
僕もそれにならって銃を組み上げようとしましたが、あまりの不安で手が動きません。
猛烈にイヤな予感がするのです。
「もう良い。俺が片付けておくから急げ。場所は松代、着替えてエヴァに搭乗しろ。」

ああ、母さん。何故ですか。
何故こんなイヤなことばかり予感が的中してしまうんですか。
そして、綾波と僕はエヴァに乗り込み戦闘態勢のままに空輸されていきます。
アスカがいるはずの松代へ。
最終更新:2007年03月19日 14:08
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