虐待 最終話

(ユイ、やっと会えたな。)

(フフ、よかったわ。あなたが受け入れてくれて。)

(そうだな。もしかしたら、俺はお前に会うことよりも……)

(復讐?)

(そうだな、復讐か。あるいは自分の力が及ばないための憤りか。)

(そうね……)

(しかし、ユイ。大丈夫なのか?あの二人は。)

(大丈夫よ。生きていこうとする力があるなら何処だって天国になるわ。生きていけるなら何処だって。)

(そうだな……ところで、ユイ。お前は……)

(……さあね。教えてあげない。)

(そうだな……ま、それもいいか……)



まだ、目を覚まさない……うーむ。

むにゅっ……と唇を引っ張ってみる。
鼻をつまむ。
瞼を開けてみる……うひゃ、白目が怖い。

キスで起こせ?やったわよ、それ。
こいつ、鈍感なんだもの。ホントにもう……よし、怒鳴ってみる!

「こらぁぁぁぁぁッ!!起きんかい!!バカシンジィィッ!!」

だめか……

このアタシが起こしてるっつーのに、こいつめ……
よし、最後の手。えーと、どうだったかな?

ひとつ、口を塞いで、
ふたつ、鼻を塞いで、待つこと……おいおい、これじゃ死んじゃうよ?

あ、気が付いた。




「ぐはっ……げほげほ……」
「かわいいアタシが起こしてやってるのに、ようやくお目覚め?」
「あ、あ、アスカ?あの……」
「あーあ、格好つけて膝枕なんかしてあげるんじゃなかった。足、しびれちゃったわよ。」
「えーと、ゴメン。その……ここは?」
「ここ?決まってるじゃない、地獄の3丁目よ。」

そう言っても過言じゃない世界。
全ての生けとし生けるもの全てが溶け崩れて消え果て、辺り一面はLCLの海ばかり。
近代文明は全て瓦礫と化し、生きて動いているのはアタシ達だけ。
そう……アタシ達、二人だけ。

「みんな、いっちゃったんだね。」
ボソリと言うシンジ。それも、寂しそうに。
「ミサトさんも、リツコさんも、そして……父さんも、母さんも、みんな……」
「それじゃ、シンジは帰ってきたことを後悔してるの?」
「判らない……」
「ははーん、さてはアンタ。天界の楽園でママのお膝に甘えたかった訳ね?」
「……。」

図星って訳?この野郎ォ……



すっぱーんッ!!

「痛ててっ!なにすんのさ、アスカ!」
「うるさいっ!もう、絶対に許さないから!」
「え、な、何をさ!」
「あんた……アタシを握りつぶしておいて、忘れたなんて言うんじゃないでしょうねぇ……」
「いいぃぃっ!!全てが赦されたってあの時……」

すっぱーんッ!!

「痛いっ!だからぁ、痛いって言ってんじゃんアスカぁ!」
「前言撤回っ!!そんなんだから神様から門前払い喰らったのよ!あんたとアタシは!」
「そ、そんなことって……あるの?本当に?」
「ほんっとに細かいことばっかり、男のくせにィ……ほら立ちなさいッ!」
「は、はい!」(シャキッ)
「次ッ!おんぶ!」
「はいッ!……て、なんで?」
「なんでって……膝枕してたから足しびれたって言ったでしょ?」
「そんなぁ……そんなの、アスカの勝手じゃん……」
「ほらぁっ!グズグズ言ってないで、おーんぶ!」
「まったくもう……いきなり人使いがあらいなぁ……」



やっとのことで私を背負って立ち上がるシンジ。が、よろよろと今にも倒れそう。
「なぁによォ?そんなにアタシ重い?」
「え、あ、あ゛、あ゛の、でも、どこに行く……の……?」
「うーん、そうねぇ……走れ!とりあえず!」
「いいっ!!これで走れっていうの!そんな無茶な!」
「いーの!シンジ走れ!とにかく走れ!」
「い、痛ててて!そんな、僕は馬じゃないんだから蹴らないで!」

そして走り出す、その瞬間。

軽く後ろを振り返ると、その背後に見えるもの。
それは古い古い旧式のエヴァ。
その胸元にあるのは砕け散ってしまった赤いコア。

そう、シンジのお母さんが取り込まれていた赤いコア。

(ユイさん、ありがとう。アタシに譲ってくれて。)

(アタシ、行くね?あなたのシンジを連れて。あなたがずっと見守っていたシンジを連れて。)





どういう理屈か判らないけれど、
どうしてこうなったのか判らないけれど、
シンジのお父さんが願ったこと。
シンジが要求した贖罪の代わりに、お父さんが望んだこと。
それは単なる『回帰』ではなく、『再生』を望んだのだ。

そうだ、私達は再生を託されたのだ。それは、いったい何のために?
判らない。どうだっていい。アタシは、シンジと一緒ならどんな戦いだって挑んでみせる。

(ユイさん、どんな人かも判らないけれど、私は誓います。必ず、必ず……)

「も、もう駄目だよアスカぁ……」
「これっくらいで音を上げてどうすんのよ!アタシはあんたを絶対に許さないんだから!」
「そんなこといったって……」
「ほーら、エネルギー充電120ぱーせんとぉ!!」
「ちょ、ちょっと、そんなにおっぱい押しつけないで!ああッ!」

(必ず……シンジを必ず幸せにしてみせます……だから……)

「ね?まだまだイけるイける!」
「ちょ……アスカ、それはエネルギーと違う……」



(だから……ちょっとだけ、あなたの息子さんをシゴキますね。ゴメンナサイ♪)

「えっ……ほっ……えっ……ほっ……アスカぁ……どこまで……走るのさぁ……」
「どこまでもイクのよ!アタシ達はどこまでも!」

(完)
最終更新:2007年03月19日 14:19
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