こうして地上に降り立った弐号機は、間髪入れずに使徒との戦いに加わった。
そして、手にした戦斧を振るい、
ズガッ!!ズズゥゥゥゥン……
初号機に迫っていた使徒サキエルをはじき飛ばす。
見事な操縦。かなり手慣れているらしいことは新参のシンジでも見て取れる。
そして初号機を助け起こしながら、弐号機のパイロットは尋ねた。
『あんた、名前は?』
通信モニタが表示されて、弐号機のパイロットと思われる姿が映し出される。
それは弐号機の機体と同様に、赤いプラグスーツに身を包んだ一人の少女であった。
「えっと……僕はシンジ。碇シンジ。」
『お聞きの通り、私が惣流アスカ・ラングレーよ。あんたがサードチルドレンね?』
「さ、サード?」
『そうよ。私がセカンド。あの零号機のパイロットがファーストって訳』
「そうなんだ」
『それじゃ、私はあのデカイのをやるわ。こんなのチャッチャと倒しなさいよ。バカシンジ!』
「なっ……!」
いきなりのバカ呼ばわりで面食らうシンジ。
なんだコイツは?いきなり登場して仕切りまわして、人をバカ呼ばわりするなんて。
そんなシンジの不満げな表情を、新参の勝ち気な少女は構ってやしない。
『ほら、モタモタするんじゃないの!更にこいつらの、その次が来るわよ。このペースならね!』
「え?」
弐号機の到着によって活気づくNERV司令部。
活気どころか、零号機とそのパイロットの治療にも忙しく天手古舞いの状況だ。
「ファーストチルドレンの状態は?医務班、聞こえているか!」
「予備のバッテリーの準備を急げ!初号機、弐号機ともに同じ仕様で良い筈だ!」
「ライフルや装備の予備もだ!技術部、増産を急げ!」
そんな中。
使徒との戦闘中の最中ではあったのだが、顔を寄せ合い議論する首脳陣。
赤木博士に尋ねるゲンドウ。
「赤木君。参号機の建造は?」
「既に完了していますが、稼働試験は行われていないと……まさか」
「そのまさかだ。すぐに空輸するように米国政府に打診しろ」
それに対してミサトが尋ねる。
「しかし、パイロットが居ません」
「他のエヴァが大破した時の予備としても役に立つ。急がせろ」
「……判りました。ん?青葉君、どうしたの?」
「はい。それが、浅間山が噴火したとのことで」
「浅間山?死火山という訳でも無いけれど、まさか!」
背後から冬月副司令が呟く。
「最後に噴火したのは江戸の中頃だ。自然に、とも考えられるがこの情況だ。タイミングが良すぎやしないかね?」
それを聞いたミサトは命ずる。
「今すぐ調査隊を派遣するよう、政府に連絡!」
そして尚もエヴァ各機の戦いは続く。
ようやくプログナイフの装備を終えて突進するシンジ。しかし、
パキーンッ
「な、なんだよこれ!バリア?」
何かに阻まれて初号機は使徒サキエルに近づくことが出来ない。
『ATフィールドよ。それが在る限り、我々は使徒を倒すことも近づくことも出来ない』
赤木博士が答えた。
「そんな、それじゃどうやって?」
『エヴァンゲリオンは使徒と同じ力を持つ筈よ。同様にATフィールドを展開することも、そして突破することも』
「筈って、そんなことを言われても!皆さんが作ったんでしょ?」
『あんたの気合いがたんないのよっ!!』
そう言って割り込んできたのはさっきのアスカだ。
『男でしょ!?そんなフィールド、気合いでぶっ飛ばしなさいよ!』
「……くっそぉぉぉッ!!」
もう破れかぶれだ。
なんとシンジはナイフを収納して、両手でフィールドに掴みかかったのだ。
『シンジ君!?お願い、無茶は止めて!』
モニタの向こうで叫ぶミサト。が、どうやら頭に来たらしいシンジの耳には聞こえていない。
しかし、その初号機の爪が徐々にATフィールドに喰い込みはじめているではないか。
「まさか……」
驚くミサト。
フィールドに食い込んだ爪が、布でも破ろうと言うかのようにATフィールドを引き裂き始めたのだ。
「アスカの言うことも間違いじゃないわね。あの子が煽り立てたお陰で、初号機の実力が引き出され始めている」
ミサトの傍らで解説するリツコ。
そして遂にフィールドが完全に引き裂かれ、使徒に掴みかかる初号機。
「うおおおあああッ!!」
もう無茶苦茶に殴りつけるシンジ。まるで虐められて切れたいじめられっ子の様だ。
『ナイフを使って!コアを破壊するのよ!』
シンジはハッとなって己を取り戻し、初号機にナイフを装備させる。
しかし、その瞬間に使徒先エルはこの世の物とは思えない奇声を上げながら様態を一変させた。
なんとゴムのように体が伸びて初号機を完全に包み込んだではないか。
「まさか!自爆する気!?」
ピガッ!! ズズゥゥゥゥン……
「クッ……情況は!初号機は!」
自分の嫌な予測通りに使徒が自爆したのを見て、報告をせかすミサト。
「初号機大破!……いや、待ってください!損害は装甲板のみ!パイロットも健在です!」
「あ、ああ……」
モニタに映し出される裸身の初号機。その悪魔のような姿にNERVスタッフ達はうめく。
が、そうもしていられない。損壊をすぐにでも修理しなければ。
「シンジ君、すぐにさっきの収容口へ!」
その時、アスカは苦戦していた。
「うぉぉぉおぉぉおおおッ!!」
雄叫びを上げながら戦斧を突き立てようとするアスカ。しかし先程のATフィールドの力か、なかなか傷つけられない様子だ。
「こん畜生ッ!!コアってどこよ!ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッッ!!」
半ば強引に地面に戦斧を突き立て、テコの要領で使徒ガギエルをひっくり返す。
見事な手並みだ。が、その使徒の腹はまったくの無地。
『アスカ!無理なら後退して!バッテリーがもう持たないわよ!』
そのミサトの指示に怒鳴り返すアスカ。
「うっさいわねぇッ!となると……嘘よ、嘘よね?アスカ。嘘だといってよ」
どうやら自分の考えに戸惑っているらしい。しかし勇者アスカは心に決めた。
「ええぃッ!虎穴に入らずんばッ!いくわよアスカッ!!」
『アスカッ!!』
絶叫するミサト。アスカはなんと、使徒ガギエルの巨大な口に飛び込んでしまったのだ。
「ああ……」
微かなうめき声と共に静まりかえる司令部。
使徒シャムシエルとの戦闘以来、彼らはもはや躁鬱状態だ。
が、すぐに事態は展望する。
グキッ……バキッ……バキバキッ……
使徒ガギエルから突き出た戦斧。更に弐号機がその巨体を食い破って姿を見せる。
歓声を上げる司令部。そして戦斧を掲げて勝ち鬨を上げる勇者アスカのガッツポーズが夕陽に輝く。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
使徒は完全に活動を停止。司令部は拍手喝采だ。
「スカイウォーカー親子の言う通りね。デカイ奴は内部から。それともルーカスに感謝すべきかしら?」
そんな陽気なアスカにミサトの愚痴が聞こえてくる。
『まったく……さすが14歳ね、子供はみんな無鉄砲なんだから。アスカ?』
「勇敢、と言って欲しいわね。何?ミサト」
『数分しか時間は取れないけど、休息と補給を受けたら噴火した浅間山に向かって。』
「アサマヤマ?日本の地理なんて知らないわよ。」
『輸送機が運ぶわ。使徒サンダルフォンが姿を現した。今、動けるのは弐号機だけなのよ』
「判ったわ……なんで、いちいち名前を付けるのかしら?ナンバリングでいいじゃない」
そういうアスカと弐号機の周りに、NERV技術部のトラックが群がる。
そしてLCLを撒き散らながら弐号機から降り立ったアスカは、遠くに見える噴火の煙を見て意気込む。
既に廃墟と化した第三新東京市の瓦礫の中で。
「待っていなさい。あんただけじゃなく、残りの使徒は私が全て倒してやる」
最終更新:2007年06月25日 21:02