二人の 第壱話

第三新東京市に到着した碇シンジは、さっそく連絡を取るために携帯電話を取り出した。

何故ここに来たのか、実のところはよく判っていない。
来た理由は一通の手紙。内容は「来て」の一言。
そして到着後に電話するようにという簡単なメモだけが書かれてあった。
そんな手紙一通でホイホイやってくるのもどうか、と普通なら考えるところだが、
しかしシンジには拒否することが出来なかった。
その差出人こそ、両親が他界してから自分の養育費を支払っている当の相手であったのだから。

電話を掛けようとした瞬間に、自分のことをジッと見ている少女の存在に気が付いた。
「ん……うわっ」

ばさばさばさっ

近くで急に沢山の鳩が飛び立ち、驚かされるシンジ。
フンなど引っかけられていないだろうかと自分の身体を点検しながら、再び自分を見つめていた少女を捜す。
が、その姿は無い。
「……?」
まあいい、とりあえず電話だ、と気持ちを切り替えて携帯を持ち直したその瞬間、
「うわぁっ!」
再びシンジは驚く。
先程の少女が、すぐ隣に急に現れたのだ。

「……電話。」
その少女はボソリと呟く。

「え?」
「電話……して。」
「え、あ、はい。」 トゥルルルルル……
ぴんぽろぱんぽろぱん……ピッ 「はい、綾波です。」
「あ、ああ、成る程。あなたが綾波さんだったんですか……って、あなたが!?」
それを聞いて少女はうなづく。

シンジの掛けた電話で少女の携帯電話が鳴った。ということは、本人証明のために掛けさせたのだ。
などと説明している場合ではない。シンジが驚くのも無理はなかった。
その目の前の、どうみても同年代の少女が自分を養っていたということになるからだ。
……いや、代理人ということも考えられないか?

シンジは尋ねる。
「あの、綾波っていうことは綾波レイさんの娘さんとか?」
「いえ、綾波レイは私。綾波は私以外に誰もいない……」

ぼそぼそと小声で説明する少女。そんな彼女を不思議そうな顔で見つめるシンジ。
しかし、そこで疑問に思っている場合ではない。
更なる(誰もが知ってる)事態の急変はすぐ間近に迫っているのだ。
最終更新:2007年12月01日 23:14
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