二人の 第弐話

「私に着いてきて。すぐ現れるから。」
「え、ど、どこへ?あの、何が?あの、君はその……」

もうシンジは何から尋ねて良いやら判らない。
が、そんな混乱し続ける彼の手を、レイと名乗る少女は無理から引っ張っていく。
「こっち。」
「あ、ああ……」

話が変わるようだが、やはり男というのはしょうがない生き物である。
こんな訳の判らない状況にあっても、シンジは自分の手を握る少女の肌の柔らかさにドキドキする。
よく見るとあんがい可愛い顔をしている。ちょっと無愛想なのがあれだけど。
同年代のようで、現地のモノらしい学校の制服姿だ。
しかし蒼い髪なんて初めて見た。しかも目の色が赤……ま、それはどうでもいいとして。

と、しょうのないシンジが人物観察を続けている内に、何やら遠くから物凄い轟音が聞こえて来た。
なんだろうと振り返る。だんだんこちらに近づいてくる様子だが。

 ずしぃぃぃん……ずしぃぃぃん……ずしぃぃぃん……

それに加えて、ワーッキャーッという悲鳴まで。
何事だ?と驚くシンジの隣で、レイはぼそり。
「あ、警報わすれた。」

そう言ったが早いか、シンジの周囲にそびえ立つビルをなぎ倒して現れたもの!

   ばきばきばきっ!!
      ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ!!!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!なんだありゃぁぁぁぁぁっ!!」
突然現れた白黒のコンストラストの巨人を見て、ひっくり返りそうになりながらシンジは叫ぶ。

それをレイは迷子になった子犬を見つけたように指をさし、説明する。
「という訳で、あれが使徒サキエル。」
「い、いや、あの、綾波さん?いきなり、という訳とか言われても。」
「とりあえず、時間を稼ぐ。(ぴっ)警報発令。第三新東京市、戦闘形態に移行。」
レイが自分の携帯を取り出してそう命じた瞬間、

 うぅぅぅぅぅぅぅぅ~っ
 ……ごごごごごごごごごごごっ!!

サイレンが鳴り出し、周囲のビルが一斉に動き出す。
その有様を見てシンジは驚愕。
「な、な、な、な……」
「この第三新東京市は、あの使徒を迎え撃つために建造したの。でも、ビルしまうの、ちょっと遅かった。」

ちょっとどころではなく十分遅すぎる。もうビルのあらかたは壊されつつある。
この状態では死傷者の数は半端ではないだろう。
ていうか、あんな怪物を迎え撃つなら都市なんて建造しなければいいのに。

レイは携帯をかけ直して更に命ずる。
「戦略自衛隊、厚木と入間の全部隊出動。」
「……は!?」
シンジはもう何が何だか判らない。
どうみても同年代の少女が国家権力たる戦自に命令しているのだ。
何者だ?とか疑問に思っている場合ではない。
いったい自分はどこの不思議の国に紛れ込んでしまったのか。そう悩むのが適切だ。

そしてシンジを見つめるレイ。
「それから、碇君にはあれを倒して貰うから。」
今度は君に命じる、というわけだ。

「あ、あの……綾波さん?う、嘘でしょ?」
「嘘じゃない。こっち。」
「え、あの」
「あ、待って。」
「はい?」

  ずしぃぃぃぃぃぃぃぃぃん……

「ひっ……!!」
シンジは腰を抜かしてへたり込む。
無理もない、目の前に巨大なビルのカケラが落下してきたのだから。

もうシンジは発狂寸前だ。
「あ、あ、あ、あ……」
「立てない?」
「い、いや、あの……」
「おんぶ。」

そういってレイはシンジの目の前で背中を向けてしゃがみこんだ。
「早く。」
そう言われて、仕方なくおずおずと手を伸ばすシンジ。
そんなシンジをレイは背負って少しよろめきながらも立ち上がる。
「あの、綾波……さん……?」
「大丈夫。しっかり掴まってて。」
そういって、レイはゆっくりと歩き出した。

シンジは、なんだか情けないような気持ちを味わいながらも、
レイの背中の暖かさのお陰で少しづつ冷静さを取り戻しつつある。

同年代の、しかも異性であるレイが肌を触れることも厭わずに、自分を背負って歩くその姿。
それは優しさというよりも、気迫のようなものをシンジには感じられて仕方がない。
自分にあの使徒を倒させる、そのためには何でもするという執念を。

その背後では大暴れする使徒サキエル。
そして彼女に命じられるままに出撃した戦自の戦闘ヘリ部隊による、死にもの狂いの戦闘が展開されていた。
未だ聞こえてくる人々の悲鳴、壊されていく建造物。

それらを目の当たりにしたシンジは賢明に心を引き締めようとした。
混乱している場合ではない。
何が何だか判らなくとも、僕は何かをやらなければならない。
そう心に言い聞かせようとシンジが身を震わせていた、その時。

そんなシンジに、レイがそっと優しく囁いた。
「着くまで寝ていて。必ず、私があなたを守るから……」
最終更新:2007年12月01日 23:16
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