このページでは、SFが内包する多くのサブジャンルについて軽く解説します
SFは扱うテーマがとても幅広いため、扱っている内容によって細かくジャンル分けされています
このサブジャンル・下位ジャンルをひとつずつ解説します
ここでは便宜的に、ひとつの大きなジャンルとしてSFから切り離されて扱われることもあるものをサブジャンル、要素として複数使用されることがあるものを下位ジャンルとします

サブジャンル

ハードSF

物理学・化学などの専門知識を基盤に、科学的かつ論理的にアイディアを発展させたSFのこと。
代表的な作者はアーサー・C・クラーク、グレッグ・イーガン、小松左京、小川一水など。代表的な作品はホーガン『星を継ぐもの』、レム『ソラリス』など。
多くの場合、物理学・化学・工学を駆使したSFはハードSFと認められるが、生物学や心理学、言語学などを駆使したSFをハードSFと呼ぶかについては意見が分かれるところである。

スペースオペラ

宇宙を舞台に繰り広げられる冒険活劇のこと。基本的には西部劇の舞台を宇宙に変えて、悪役を宇宙人にして、馬を宇宙船にして、拳銃をレーザー銃に持ち変えるとスペースオペラになる。
代表的な作品は『スター・ウォーズ』、田中芳樹『銀河英雄伝説』、バローズ「火星」シリーズ、「ペリー・ローダン」シリーズなど。
SF黎明期の作品に多く見られ、良質な作品が多いものの、それらに追随する表面的な作品が粗製乱造された。このため「スペースオペラ(スぺオペ)」という言葉が低俗なSFを指す蔑称として使われており、またスペースオペラ自体も低俗として見下されることが多い。
しかし、近年はアン・レッキー『叛逆航路』をきっかけに、米国を中心にスペースオペラの復権を目指す動きがみられる。

タイムトラベル

タイムマシンなどを使って、時間を自由に行き来する作品群の総称。
タイムトラベル以外にもタイムリープ(自発的なタイムトラベル)、タイムスリップ(偶然のタイムトラベル)など、時間にかかわるSFジャンルは多い。そもそもタイムトラベル系の作品が多いので、自然と作品の幅やアイディアが多くなる。
代表的な作品は筒井康隆『時をかける少女』、ハインライン『夏への扉』、藤子・F・不二雄『ドラえもん』、『君の名は。』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など。
有名かつ人気の高い作品が多いのが特徴。タイムトラベルはガジェットとして扱いやすく、かつSFらしい物語になるので、非常に人気があるジャンル。
恋愛要素やオルタナ(歴史改変SF)、ジュブナイルと相性がよく、特に日本では恋愛要素との融合がみられる。

ワイドスクリーン・バロック

ブライアン・W・オールディスが提唱した概念で、「時間と空間を手玉に取り、気の狂ったスズメバチのようにブンブン飛びまわる。機知に富み、深淵であるとともに軽薄」な作品群の総称。
代表的な作品はヴァン・ヴォークト『武器製造業者』、ベスター『虎よ、虎よ!』、ヴォネガット『タイタンの妖女』など。
基本的には軽薄でないスペースオペラという認識に近い。
ちなみに、日本以外では一般的ではないらしく、ほとんど言及されることのないジャンルである。

ニューウェーブ

「SFは、外宇宙ではなく人間の内側という内宇宙を見つめるべきである」というJ・G・バラードの主張から発展した、英米を中心とした一連のSFの近代化ムーブメントとそれに関連する作品群の総称。
代表的な作家はJ・G・バラード、ブライアン・W・オールディス、サミュエル・R・ディレイニー、ロジャー・ゼラズニイ、トマス・M・ディッシュなど。代表的な作品はディレイニー『時は準宝石の螺旋のように』、オールディス『地球の長い午後』など。
60年代当時のSFは、海外SF御三家を中心とした、宇宙を題材にとったSFが主流であった。これに反発したのが英国のバラードで、現代のSFは題材の一様化と文学性の欠如によってマンネリ化していると指摘した。結果としては、十分な魅力のある作品が生まれず失敗に終わってしまった。しかし、隆盛を極めつつも停滞していたSFに内宇宙という題材があると気付かせた点、純文学的手法を取り入れる先駆者となった点、SFの文章表現に新たな風を吹き込んだという点では、後のSFの発展に寄与したといえる。

サイバーパンク

過剰に技術が発展した近未来を舞台に、技術発展によって変容した人間や社会を描いた作品・創作活動の総称。1980年代に成立し、流行した。
代表的な作者はウィリアム・ギブスン、ブルース・スターリングなど。代表的な作品は『ブレードランナー』、ギブスン『ニューロマンサー』、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』、『マトリックス』など。
サイバーパンクの重要な要素として、機械工学・生物工学を駆使した身体改造による「人体からの疎外」、ネットワークの発展により人と人との繋がりが希薄になったことによる「社会からの疎外」、80年代の”ジャパン・アズ・ナンバーワン”を背景とした「雑多なアジア感」の3つが挙げられる。
これらの要素は身体改造やコンピュータ、ネオンなど非常に視覚的なのが特徴的で、SFと言えば宇宙人・タイムマシンだけだったSF映画に革新をもたらした。
サイバーパンク世界において、科学技術の発展により、人はもはや元々の肉体や、地域や国家などの社会的集団を必要としなくなった。(身体・社会からの疎外)その世界で発展した文明は、西洋人にとっては東洋的な異質なものである一方で、東洋人にとっても、自分たちのものでないような疎外感のある文明だった。(雑多なアジア感、文明からの疎外)これらの疎外感は世界中どの人々にも受け入れられやすく、また今現在から科学技術が順当に発達していったらこうなるだろう、という現実的な未来感があった。サイバーパンクが流行したのには、このような背景があると考えられる。
なお、サイバーパンク映画の金字塔『ブレードランナー』の原作、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は厳密にはサイバーパンクではない。しかし、サイバーパンクの重要な要素である「人体からの疎外」を含んでおり、サイバーパンクの先駆的な作品として扱われることが多い。

スチームパンク(ネオヴィクトリアン)

前述のサイバーパンクから発展したサブジャンルで、蒸気機関が過剰に発展した世界を描く作品群の総称。多くの場合、ヴィクトリア朝の雰囲気を背景とした世界観であることから、「ネオヴィクトリアン」とも呼ばれる。
代表的な作品はギブスン、スターリングの合作『ディファレンス・エンジン』や伊藤計劃、円城塔の合作『屍者の帝国』など。
スチームパンクはサイバーパンクから派生したジャンルであるに過ぎず、歯車や蒸気の配管など視覚的な強みはあるものの、SFとしては一過性のムーブメントであるという傾向が強い。しかし、科学技術の発展が蒸気機関程度で止まっているという世界観のため、後述のサイエンス・ファンタジーやオルタナ(歴史改変SF)との親和性が高く、独自の作品群を成している。
また、スチームパンクはその視覚的な浪漫風味から、ファッションやデザインなど、SFの枠組みを超えて総合的な視覚文化へと発展を続けている。日本ではまだ一般的ではないが、海外では熱狂的なファンもいるらしい。

ディストピア

一見ユートピア、しかしその実は徹底的な管理社会で自由を失った世界(=ディストピア)を描写した作品のこと。
代表的な作家はジョージ・オーウェル、オルダス・ハクスリーなど。代表的な作品は『メトロポリス』、オーウェル『1984年』、ハクスリー『すばらしい新世界』、ブラッドベリ『華氏451度』など。
ディストピア作品の名作の多くが数十年以上前に発表された作品ではあるが、現在全くその輝きを失っておらず、むしろ現代社会の問題を強く描き出す古典的名作としてさらなる評価を受けている。特に、米国のトランプ大統領登場以降は、米国を中心に『1984年』や『すばらしい新世界』の売れ行きが(いいことなのか分からないが)急上昇している。

サイエンス・ファンタジー

科学的な知識に(ある程度)基づくSFに、割と何でもありなファンタジー要素を足した作品群のこと。錬金術や魔法などが登場するSFもサイエンス・ファンタジーに含まれる。
代表的な作品はケン・リュウ『紙の動物園』、チャン『バベルの塔』、キジ・ジョンスン『霧に橋を架ける』など。
科学に基づくはずのSFに、科学を否定するファンタジーが結び付き、結果として独特な世界観の作品が多い。この矛盾をうまく設定として使えば、科学や人間を思考する思弁的な作品も作れそうなものであるが、まだそのような作品は発表されていないように感じる。今後に期待が高まるジャンルである。

ファーストコンタクト

地球外の未知の知性体と人類の初めての接触・意思疎通の場面を描いた作品群の総称。
代表的な作品はクラーク『幼年期の終り』、レム『ソラリス』、チャン『あなたの人生の物語』、『E.T.』など。
ファーストコンタクトは未知の文明との接触における手探り感や、文化の違いによる意思疎通のすれ違いによる滑稽さ、また人類のもつ知性に対しての疑念や考察などを描き出し、、手掛ける作家や扱うテーマによって十人十色の魅力をもつジャンルである。最近では、『あなたの人生の物語』が原作の映画『メッセージ』が公開され、話題となった。

オルタナ(歴史改変SF)

実際の歴史のある転換点で別の選択がなされ、その結果発展した「もうひとつの世界」を描いた作品群の総称。
代表的な作品はディック『高い城の男』、ロバーツ『パヴァーヌ』、トライアス『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』など。
多くの場合南北戦争や第二次世界大戦など、歴史上の大きな戦争の勝敗が逆転した世界が舞台となっていることが多い。このためオルタナは米国で特に人気が高く、米国が日独に占領された社会を描いた作品が人気を集めている。
また、上記のようにオルタナはタイムトラベルやスチームパンクと相性がよく、ゲームや映画、アニメなどメディアを問わず優れた作品が発表され続けている。
なお、オーウェルの『1984年』がオルタナと分類されることがあるが、これは誤りである。『1984年』は1948年に発表された作品であり、発表当時としては未来を予見したSFであるため、現在から見て「歴史改変」となっているだけに過ぎない。

下位ジャンル

SFミステリ

科学知識を基に論理的に話を進めるSFに、これまた得られた情報から論理的に話を進める推理ものの要素が加わったもの。
代表的な作品はアシモフ「ロボット」シリーズ、ホーガン『星を継ぐもの』など。
基本的に論理に従って理性的に話が展開する2ジャンルの融合なので、話に整合性があり非常に面白く読める。SFからもミステリからも接近可能なので、このSFミステリを経て双方に親しむようになった人も多い。
このサークル(東北大学SF・推理小説研究会)のOBである白井智之の『人間の顔は食べづらい』もこのSFミステリに含まれる作品なので、是非読んでいただけたら幸いである。

ロボットもの

ロボットが出てくるSFは大体これに当てはまる。
代表的な作品はアシモフ「ロボット」シリーズ、手塚治虫『鉄腕アトム』、藤子・F・不二雄『ドラえもん』など。
『鉄人28号』や『マジンガーZ』、『機動戦士ガンダム』などをロボットものに入れるか入れないかでは、SFファンの間でも意見の分かれる部分である。
なお、『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する「エヴァンゲリオン」は人造人間のため、ロボットものには入らない。

AIもの

これも、AIが出てきたらとりあえずAIものになる。
代表的な作品はクラーク『2001年宇宙の旅』、ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』、長谷敏司『あなたのための物語』など。
もともとはAIが自我を獲得したり自己矛盾に陥ったりしたときに生じる不都合に焦点を当てたり、AIと人間とのコミュニケーションなどに主眼をおいたりした作品が多かったが、近年ではAIが人類の能力を大きく凌駕した際に起こる問題に焦点をあてたもの(シンギュラリティもの)が急速に発展し、別ジャンルとして確立しつつある。

方程式もの

1954年に発表されたゴドウィン『冷たい方程式』の、あまりに悲劇的な結末に心を痛めた世界中のSF作家たちが創り上げた作品群のこと。悲劇的な結末をどうにか避けられないかと試行錯誤した作品や、『冷たい方程式』のパロディがこれに当たる。
海外の主要な作品ではクラーク『破断の限界』やジェイムズ・パトリック・ケリー『恐竜たちの方程式』など、国内の主要な作品では筒井康隆『たぬきの方程式』や石原藤夫『解けない方程式』などがある。

侵略もの

宇宙人による侵略を描いた作品のこと。
代表作はウェルズ『宇宙戦争』、ウィンダム『トリフィドの日』、吉崎観音『ケロロ軍曹』など。
宇宙人や宇宙生物による侵略の恐怖と、逃げ惑う人間の混乱を描いた作品が多く、最初期のSFに多く見られる。今となってはありがちな題材であり、駄作・凡作も多いが、有名な作品は時代を感じさせず、今呼んでも十分楽しめる作品ばかりである。

終末もの・破滅もの

宇宙人による侵略や核戦争・大災害による人類社会の終焉を描いた作品のこと。
代表的な作品はウェルズ『宇宙戦争』、シュート『渚にて』小松左京『日本沈没』、星新一『午後の恐竜』など。
上記の侵略ものと共通する要素があるが、こちらは「人類社会の崩壊」に重点を置いた作品だと言える。

ポストアポカリプス

文明の滅んだ後の世界を舞台とした作品のこと。「アポカリプス」は「終末」を意味する。
代表的な作品はオールディス『地球の長い午後』、小松左京『復活の日』、「ピクミン」シリーズ、宮崎駿『風の谷のナウシカ』など。
基本的には「文明が滅んで人類が地球上から消え去った後の世界」を明確に描写していることが多いが、『けものフレンズ』のように、作品世界に人類の痕跡を忍ばせるだけに留まる場合もある。この場合、メディアの特性上、小説よりもゲームや映像作品の方が上手くポストアポカリプスの要素を忍ばせることが出来る。

言語SF

言語を扱ったSFのこと。
代表的な作品はチャン『あなたの人生の物語』、川又千秋『幻詩狩り』、筒井康隆『残像に口紅を』など。
言語学や意識論、認識の問題やクオリア問題をテーマに、ハードSF的な考察を進めることが多い。ル=グィンや神林長平など、言語SFを得意とする作家は多く、特に日本では人気のあるジャンルである。日本SF御三家にも言語SFに分類できる作品が多く、AIや意識のハードプロブレムが話題となる中で今注目のジャンルである。

海洋SF

海を舞台にしたSFのこと。
代表的な作品はヴェルヌ『海底二万里』、クラーク『イルカの島』、小川一水『漂った男』など。
地球の7割は海であり、深海に潜った人間は宇宙に行った人間よりも少ない。地球の(認識されない)フロンティアである海を舞台とし、ロマンあふれる物語がそろっている。

宇宙SF

宇宙を舞台としたSFのこと。
代表的な作品は『スター・ウォーズ』、『スター・トレック』、クラーク『2001年宇宙の旅』、ハインライン『宇宙の戦士』など数えきれない。
これぞSFの王道といった感じで、宇宙と言ったらSF、SFと言ったら宇宙というのもうなずける名作ぞろいのジャンルである。近年宇宙もののSF映画の上映が増えてきており、SFの復権が一番感じられるジャンルかもしれない。『インターステラー』、『オデッセイ』、『ゼロ・グラビティ』と面白いものぞろいなので、ぜひどうぞ。

馬鹿SF

全宇宙をノリで突っ走るタイプのSF。
代表的な作品はアダムス「銀河ヒッチハイク・ガイド」シリーズ、柞刈湯葉『横浜駅SF』など。
基本的には舞台を大きくした『空飛ぶモンティ・パイソン』と考えれば大体当っている。舞台が宇宙などであるため、ノリ次第で星のひとつやふたつぐらい軽く吹き飛ばしてしまうスケールの大きさやくだらなさが何よりの魅力である。
細かいことは考えずにとにかく馬鹿な話を次々と展開していくだけなので、頭を空っぽにして読むべし。ハマる人はハマるであろう、秀作ぞろいのジャンルである。

ミリタリSF

戦争やスパイなど、ガンアクションや軍事要素を含んだSFのこと。
代表的な作品はハインライン『宇宙の戦士』、ホールドマン『老人と宇宙』、伊藤計劃『虐殺器官』、神林長平「戦闘妖精・雪風」シリーズなど。
SF的なガジェットと世界観の下、視覚的にも楽しめる作品が多い。SFならではのド派手な戦闘や思弁的な考察もあり、SFの様々な面白さを感じることが出来る。

ジュヴナイルSF

あまり科学的な要素を使わずに作られた、青少年向けの分かりやすく面白いSF。最近はジュヴナイルではなく、ヤングアダルトということが多い。
代表的な作品はハインライン『夏への扉』、筒井康隆『時をかける少女』、『君の名は。』、『転校生』など。
青少年向けだからと侮るなかれ、SFの本質的な面白さをしっかり備えた作品ばかりである。現在ではライトノベルに淘汰されつつあるが、良質なジュヴナイルはSFというジャンルだけではなく、小説というメディアの面白さをも伝えるきっかけとなりうるものである。日本SF御三家の書いたジュヴナイルのように、一流の作家によるジュヴナイルはSFの裾野を広げることにつながる。しかし近年はそのような作品が見当たらないので、少し心配である。ぜひ現在第一線で活躍している作家にジュヴナイルを書いてもらいたい。
最終更新:2018年06月01日 13:47