東北大学SF研読書会 伊藤計劃「虐殺器官」by ちゃあしう
2009/09/27(皆が蔵王にいる間に先行公開)

1・著者紹介

伊藤計劃(Wikipedia)
伊藤 計劃(いとう けいかく、1974年 - 2009年3月20日)、Project-Itohは、日本のSF作家。本名、伊藤聡。1974年、東京都生まれ。武蔵野美術大学映像科卒。大学時代は漫画研究会に所属。後輩に篠房六郎がいた。2009年3月20日にがんの全身転移で死去。はてなダイアリーにおける「今年も宜しくお願いいたします」 が最後の「生存報告」となった。

 ゲーム「監督」、小島秀夫作品の初期からのファンであり、監督公認の「一番俺の作品を分かってる男」(HIDECHAN RADIO)であった。それが縁で寄稿を多数書いているほか、ついに完結編MGS4ではノベライズを担当した。ゲーム本編はスネーク(監督)の物語、小説はその観察者(オタコン)目線の物語 となっている。

はてなダイアリー 伊藤計劃:第弐位相 http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/

長編作品:

『虐殺器官』
『METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS』
『ハーモニー』

短編:

『From nothing with love』
『Indifference Engine』
その他同人活動多数

web上の文章などまとめ
一斗缶 伊藤計劃Web目録
http://maturiyaitto.blog90.fc2.com/blog-entry-214.html

2・あらすじ

世界で続発する大規模虐殺。その裏にはあるアメリカ人の影があるという。特殊部隊員シェパードは男の拘束のためにプラハへと向かう。彼の過去から浮かび上がる事実とは、そして虐殺が発生するメカニズムとは。驚愕の事実が明らかになった時、世界は…

元はメタルギアの同人のネタとして温めていたもの(NGO「フィランソロピー」で活躍するスネークが世界で続発し始めた虐殺を調査する)を膨らませて独立させたもの。小松左京賞候補として期待されたが円城塔の『Self-Reference ENGINE』ともども最終選考に残ったが受賞は逃した。
まぁ、農作業するシーンはないからなぁ・・・(そっちかい)

3・登場人物

  • クラヴィス・シェパード
「ぼくは罪を背負うことにした。」
主人公 米国情報軍特殊検索群i分遣隊所属の暗殺者。文科系だがSFはからっきし
母を「言葉一つ」で死に追いやったことが大きくトラウマとなっている。
あまりにナイーブ過ぎて本作は「童貞特殊部隊小説」の異名を取るに至った。

  • ウィリアムズ
「不条理なもんは全部カフカだ」
絵にかいたようなアメリカ軍人。モンティ・パイソンとゴシップとピザを愛する。
番外編こと『Indifference Engine』でも登場。空気はあえて読まない派

  • ジョン・ポール
「じゃあお互いに残酷だと言い合おうじゃないか。」
文化情報次官 文化宣伝顧問 といった肩書を持つPRの達人。その正体はある目的のために世界に虐殺の種をまく言語学者。 いうなれば学者的才能を持ったゲッベルス(ナチスドイツ宣伝相)か
ただしその行動には彼なりの目的があった。

  • ルツィア・シュクロウプ
「そうね。わたし、手遅れなことが多いから。」
プラハでチェコ語を教える教師 という顔を持つポールの「関係者」。

  • アレックス
特殊部隊員 二章冒頭でガス自殺
  • リーランド
特殊部隊員 列車襲撃でいろんな部位を吹き飛ばされて死亡

4・各章解説

第一部

 クラヴィス・シェパード、アメリカ合衆国情報軍大尉。職業は暗殺。今日も今日とて世界とアメリカの国益のためにナノテク装備に身を包み、世界が無視する地へスニーキングインする一人の軍人。そんな彼の任務は自国民虐殺を続ける大臣と、彼を支えた謎のアメリカ人の暗殺だった。しかし、大臣のあるひとことがシェパードに疑念を抱かせる
「何故殺たし」「わたしはなぜ殺してきた」

  • 大統領令一二三三三
https://en.wikipedia.org/wiki/Executive_Order_12333
フォードレーガン大統領による暗殺禁止令 1981年に発効

ことの真相は
大統領令での暗殺禁止令は三段階あり
1976年のフォード大統領による大統領令11905
https://en.wikipedia.org/wiki/Executive_Order_11905
カーター大統領による間接的関与も含む禁止が記載された大統領令12036
https://en.wikipedia.org/wiki/Executive_Order_12036
12333はこれに倣うもの
初版本の「ハドソン研究所のハマーン様」みたいなものです
https://projectitoh.hatenadiary.org/entry/20070630/p1


それまでCIAは複数の暗殺に関与してきたといわれる(その多くが大失敗で終わっている)が、本命令発効後はアメリカ合衆国職員は「暗殺」を行うことができなくなった。イギリス政府も第二次大戦以来暗殺命令を「公式」には出していないというが… マクミラン大尉とプライス少尉が という頼もしい『昔話』は今はよそう

  • 米国情報軍特殊検索群
「特殊部隊とスパイのハイブリッド」 つまりFOXHOUND
装備のイメージとして一番近いのはゲーム『CRYSIS』のナノスーツ(通称:若本スーツ/アーマー)だと思うんだがどうか。もちろんMGSの影響+現実世界の技術発展とのリンクが一番多いはずだが。

  • IDタグ
安い認証ICタグは試験的に商品管理(POS)で使われている。が、果たしてこういう国家が使いだすかは… と言ってると既にハマスやアルカイダはgoogleマップやtwitterを利用しているそうで。
そう油断もしてられない。

第二部

 同僚が自殺するという事実を聞きながらもどうも戦地と日常、そして戦友の自殺という全ての「現実」に馴染めないでいるシェパード。そんな彼に、前回殺し損ねたアメリカ人「ジョン・ポール」捜索のため東ヨーロッパへ向かえという依頼が来る。シェパードが監視するのは「関係者」とみられる女性ルツィア。ポールはサラエボで発生した大規模核テロで親族を失っていた。それはどのような影響を与えたのか。ルツィアからヒントは得られるのか。

  • 2人が見ている映画
そのまま『プライベート・ライアン』のオマハビーチ。あんだけ死体作っておいてこんなミンチメーカーなものを喜んで飯食いながら見るとは ウィリアムズに悪趣味という言葉は無い。
スピルバーグ作品の持つ「半端ない暴力」についてはこちらをどうぞ。
→第弐位相「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/20050701

  • 「PMF private military firm」
いわゆる民間軍事会社(PMC)に相当。警備業務などを軍から委託されて行う。戦争のアウトソーシング化の先兵。本作では復興やテロ屋の尋問すら彼らの仕事の範疇。ユージーン&クルップ社などが登場する。MGS4ではメインテーマになった。

  • 『ゴドーを待ちながら』・『変身』
前者はサミュエル・ベケットの戯曲。来ない謎の人物を待つ二人の男をひたすら二部構成(前半:まだ来ない ただし余裕余裕 後半:片方は盲目になっているし、自殺を試みる)で描く不条理系劇。
後者はカフカの小説。ある日毒虫になった男とその周りを描くこれまた不条理系小説。でもカフカ本人は暗い話として書いているつもりはないらしい。

  • 「USA インテリアペディア」
情報機関向けSNS+wiki という新時代の(?)コミュニケーションツール

  • 「副現実(オルタナ)」
拡張現実(Augmented Reality)と俗に呼ばれる物(分かんない人は『電脳コイル』で分かるはず)の発展形。現実に情報とのつながり(タグ)を追加し、同時に表示する技術。
こっちはあえてAlternative Realityにひっかけてる?
(代替現実:最近流行のゲームやマーケティング手法。ゲームの世界と現実がリンクしていて、たとえば架空の組織のHPがあったり実際に営業や施設・ヒントの掲示があったりする)

  • 「サピア・ウォーフの仮説」
「いかなる言語を用いても現実は正しく認識できるのか?」 言語相対性仮説ともいう。ここなんかを読むと分かりやすい
「ことばをめぐる」カステラから脳死まで サピア=ウォーフの仮説
 http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/k020527.htm

第三部

 ルディアとの生活を続ける中でついに姿を現すジョン・ポール。ポール達<計数されざる者たち>に拘束されたシェパードはポールから、虐殺へと至るシステムを聞きだすのだが、それはにわかには信じがたいものだった。

  • 白紙の石板
赤ん坊の心の状態のこと

  • 「ケビン・ベーコン・ゲーム 」(ケヴィン・ベーコンの法則)
Oracle of Bacon
http://oracleofbacon.org/
アメリカの男優、ケビン・ベーコンと共演した俳優をNo.1、ケビン・ベーコンと共演した俳優と共演した俳優をNo.2とあらわしていくと、アメリカの俳優のほとんどはNo.3までに入る(日本人だと役所広司はNo.2、美輪明宏はNo.3 むろん繋がらない俳優もいる)

同じようなことを「友人関係」や言語ですることも可能。たとえばひとつの英単語を考える。一文字ずつ「意味のある」似た単語へ置換していくと全く違う単語に変換できる(場合によっては意味が逆になる!)。

また、知り合いを適切にたどっていけば約6人で世界中の人間と繋がることを「六次の隔たり」と呼ぶ。かのSNS:mixiでも6人で95%のつながりが出来ることが証明されている。恐るべし。
http://ja.wikipedia.org/wiki/六次の隔たり
これはネットワーク・グラフ理論で扱われる問題の一つ。

  • <計数されざる者たち>
林譲治『記憶汚染』だとIDの無い人間は政府の管理外で飯すらロクに手に入らないおぞましい地域で生きるしかなかったが、こちらは「監視社会」に異を唱え、そこをうまく「迂回する」すべを身につけている。すでにイギリスでは一般人は一日300回監視カメラに映るのだとか。流石「管理社会を描かせたら一級品」のディストピア国家だ(ぇー

第四部

 ポールは核が使用されて混乱状態にあるインドパキスタンの国境地域にいるという情報を得たアメリカ情報軍はただちに部隊を派遣。ポール拘束のための作戦を展開する。碌な装備も無いのに自殺的突撃を繰り返す少年兵たちを倒し、拘束を終えたシェパードたちは撤収を始める。しかし護送列車に向かって現れたのは自分たちと「同等」の装備を持つ武装集団だった。

  • カウンセリング
イラク戦後アメリカが抱える最大の問題。前線ではいつどんな目に逢うか分からない歩兵はもとより、衛星でアメリカ本国から操縦する無人機のオペレーターですら「午前はテロリストにミサイルを撃ちこみ、午後には家族と飯に行く」生活に不安とストレスを感じるという。そこでアメリカは多くのカウンセラーを帰還兵・傷痍兵はもとより前線でも運用している。手法も普通の相談から「サムライの瞑想」、「家庭向けのバーチャルカウンセラー」なんてものまであり、あのメタルギアでもおなじみDAPRA(国防総省高等技術開発局)が真面目に研究中。
「鬱に苦しむ退役軍人は30万人:戦場のストレスを薬で予防する研究
http://wiredvision.jp/news/200906/2009061220.html

  • 痛覚マスキング
痛みを感じないだけなら手段はほかにあるが、「痛みがあったこと自体」を感じないと危機的状況に陥る。その折衷策。無痛症の人は長生きできないと昔から言いまして。

少年兵たちはハイになって痛みをもとより感じていない。よってたとえ相手を倒しても死亡する。(ドーピングの語源も戦意高揚のためのクスリからというのは有名な話 戦後もヒロポン中毒は長く糸を引いた。)
アメリカ人が45口径大好きでガバメントを長らく愛用していた理由も、フィリピンのモロ族叛乱でハイになった現地ゲリラに38口径が全弾ぶち込んでも通用せず、弾切れしたところでバッサリやられたという事例が続出したからだという

なお本技術はDARPAが「最優先」で開発中の技術の一つとされる。言ってみれば兵士のサイボーグ化やパワードスーツ化もその方向性にある技術といえるだろう。

  • 「殺人ジョーク」
イギリスのお笑い集団「モンティ・パイソン」のスケッチ

『とある作家がジョークを発明するが、それはあまりに笑え過ぎたため、自分が笑い死にしてしまう。奥さんが彼の死を見て悲しむが、遺稿だと思ってそのジョークを見てしまいやはり笑い死にする。スコットランドヤードはジョークの回収を目指したが、その「殺人的」破壊力により犠牲者は増すばかりだった。ある警察官は葬式などの「鬱な雰囲気」を醸し出すことで対抗しようとしたがあえなく撃沈する。やがて回収に成功したイギリス政府はこれを兵器として利用することを決定。50ヤードの距離から確実に相手を笑い死にさせることのできる本ジョークをドイツ語に翻訳して西部戦線に投入することが決定した。翻訳には慎重に慎重が重ねられ、一人の翻訳者につき1語の翻訳しか許されなかった(間違って2語読んだ学者は病院送りになった)。やがて戦線に投入された殺人ジョークは次々にドイツ兵を笑いと天国にいざなっていく。ヒトラーはただちに対抗手段を取るよう命令。ドイツの技術すべてを結集してドイツ版ジョークが完成し、さっそくイギリスに向けて発信された。だが民族的にジョークの才能が無いドイツ人のジョークではだれも死なないどころか誰も笑わなかったため、作戦は失敗に終わった。第2次大戦後、ジョークを戦争に使用することは禁止された。殺人ジョークはその役割を終えてイギリス某所で眠りについているという…』

…youtubeの公式配信でもまだないんだよね

逮捕前にウィリアムズが発する「まさかの時のスペイン宗教裁判」もパイソンネタ。(『以下略』でもあった というかハッカーコミュニティではパイソンは常識だそうである)

  • SWD(Silly Walk Device)
NTTが開発中の装置(平衡器官に電気刺激を与えて動きを制御する)の発展形を用いた逃走を防ぐデバイス。使い方は『攻殻機動隊』の「ゴースト錠」(刺されると勝手に動けなくなる)。かの横浜で行われたワールドコンのセッションでも紹介された。

サイコドクターぶらり旅で、衝撃的なニュースを知る。
耳の後ろにつけた電極から弱い電流を流すことによって、前庭感覚を刺激し、歩行方向を誘導する>という
「はわわ、止めてくれ、足を。止めてくれ」
「自分で秘孔を突いて止めてみろ」
(『北斗の拳』のアミバの最期から)
このころから小説に使う気だったのだろう。名称はモンティ・パイソンの定番「バカ歩き省」から

  • ゾンビたちの戦闘
痛覚マスキングが敵味方互いに実現した場合に始まるのは文字通り「死ぬまで終わらない」猛烈なフリークス達のパーツの奪い合い。互いにヘッドショットで頭をぶち抜くか、腕二本を失うまで戦闘は終わらないことになる。ヘタなFPSよりひでぇ。

第五部

部隊の多くを失ったシェパード。だが位置は割れていた。生態系の破壊と再生が生み出した新たなる異形の場、ヴィクトリア湖半。そこで待っていたジョン・ポール。ついに明かされる虐殺の理由。それを知った時、シェパードは…

  • 2人が見ている映画
『モンティ・パイソンのホーリー・グレイル』
アーサー王伝説がベースのパロディ映画で、問題のシーンはアーサー王と黒の騎士との対決。
両手も両足もちょん切られているのに「まだ負けちゃおらん!」と威張る黒の騎士は…あんな戦闘の後でよく見られるな

  • ヴィクトリア湖
アフリカ南中央部にある巨大な淡水湖。現在は汚染が進んでいる。ここで育てられる淡水魚ナイルバーチが先進国の食卓に並ぶ一方、その儲けはAKなどの武器へと変わるという事情を描いたのがドキュメンタリー映画「ダーウィンの悪夢」。

エピローグ

「アポカリプス」 合衆国の終り
シェパードは今日も殺戮の荒野で生きている。だがそれがいつまでかは分からない。

  • シェパードが求めたものは何か?  
ヒントを伊藤氏のはてな「第弐位相」からひろってみる

「ゾディアック」

『ある物事を主人公たちに見せつけることそのものを目的とし、その見せ付ける過程が映画になってゆく、そんな悪役を「世界精神型」と呼ぶ。』
『そのわかりやすい例はというと、やはり「パトレイバー」シリーズの帆場と柘植だろう。帆場は或る「風景」を見せつけ、しかる後に別の風景を現出させる「東京に対する悪意そのもの」だ。帆場は映画における憎悪として純化された階梯へステップアップすべく、映画冒頭で自殺し、キャラクターであることすらやめてしまう。
「2」の柘植もまた、世界精神型の敵役だ。よく柘植の目的を「平和ボケした日本に『普通の国になれ』と目を覚まさせるために」なんておポンチな勘違いをしている人がいるけれども、それはぜんぜん違う(まあ、普通に映画見てればわかるようなもんだけどね)。柘植の目的は、劇中でも語られている。東京という空間に戦争という時間を現出させること。都市を舞台に戦争を演出することだ。人々の前に、日常とは異なる時間を描き出すこと。それこそが目的なのだ。それをすることで政治的にどうこう、とか国民意識を変えよう、とかヘボいレベルに柘植はコミットしない。それは演出家では無いからだ。
世界に認識の変革を迫るヴィジョンを演出することで、ある事物の本質を抉り出すことそのものを目的とし、どんな現世利益的な欲も動機や目的にはしない、そんな悪役。世界を支配するのでもなく、政治的な目標を達成するのでもなく、金をもうけるのでもなく、ただある世界観を「われわれ」の世界観に暴力的に上書きする時間を演出する、それだけを目的とした悪役たち。それが「世界精神(ヴェルト・ガイスト)型」の悪役(というか、敵役、と言ったほうがいいのかもね)だ。
この種の悪役は日本の映画やアニメにはけっこう多い。黒沢清の「CURE」なんかもそうだし、』


「ダークナイトの奇跡 」

『この映画のジョーカーは悪意そのもの、人間の心理のどぶ底を浚ってくるクズ拾いのような世界精神(ヴェルト・ガイスト)型ヴィラン、金や権力など目もくれず、ある世界に人々を誘うことそれ自体を目的とするタイプの観念型悪役、すなわち、
「パトレイバー」の帆場、
「パトレイバー2」の柘植、
「セブン」のジョン・ドウ、
最近で言うと「スプライト・シュピーゲル」のリヒャルト・トラクル、
の系譜に連なり、その中でもジョーカーは、上記の存在がどちらかといえば「社会」そのものをターゲットにしているのに比べ、心理の集合体、個の集合体としての世界を抉り、新たな世界観を観客に見せつけるどぶ底の狂言回しとして描かれている。』

はてな匿名ダイアリーにあった文章
「伊藤計劃『虐殺器官』の“大嘘”について」より抜粋
http://anond.hatelabo.jp/20090905184450

そもそもパトレイバー劇場版を知らない人も多いかな?
メタルギア全部やるのは無理でもパトレイバーは独立した作品なので
「ぜひ見ておけ!」とあえて言わせてもらおう

あと、虐殺のメカニズムが薄いという批判には、伊藤氏の映画『トゥモロー・ワールド』に関する発言がいろいろと参考になるのではないかと
「容赦ない、荒々しい存在としての映画」http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/20061119
「理由という名の病気」http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/20061127

5・感想

 自分たちが生きている世界はもはやこれまでとは同じようにはいかない。そんな当たり前のことを認識したのはいつ頃だったろうか。それはやはり、あのツインタワーが崩れ落ちたそのときだったんじゃないだろうか。そんな時代に登場した本小説。読み口は軽快、テクノロジーは新しすぎず古すぎず、アクションも知識も刺激的。ネタは… まぁこういう作品は初めてなのでそういうものということにしてあげてください。オセロットはいい感じにはまってたと思うんだがなぁ

言語の持つ魔力 は日本人の「言霊」という概念に非常に合うようで、これまでも神林長平や川又千秋がテーマとして描いてきた。それらに対し、今回の『虐殺』は非常に直感的である。それはやはり、描かれるのが「いつか分からないどこか」でも「あったかもしれない過去」でもない、自分たちの地続きの未来だからだろう。イーガン的思弁により哲学的要素が加わり、そしてパイソンをさらに悪趣味にしたような「現実」が襲う。

 生と死とがあいまいで離れてしまったように見える現代社会。だがそれはあくまでこの日本でのことのように思われている。だがそうではないのだ。日本でも「死はそこにある」のだ。そして、そのことを一番感じていたのが、常に「死にかけていた」伊藤氏だと言えるのかもしれない。それゆえに作品中で出る結論はなかなか暗いものではあるものの、今ではそこに至った経路(円城塔とのインタビューでは70年代の「終末ブーム世代」出身であることをに触れていた)を推察することしかできないというのが悲しい。でも、『ハーモニー』では別の結論と一種の救いを見せている。これでちょいと鬱というひとは是非読んでほしい。

最後に一言
早く伊藤氏の映画評論が読みたいです
いつかまた「第弐位相」が更新されるのではないかとクリックする自分がいるのです
でもそれまでは、しばしのお別れを。

chasyu


6・関連事項


備考

『ハーモニー』は本作の延長上にあるものと思われる
『Indifference Engine』はウィリアムズも登場するアフリカの一地域における番外編

小ネタ解説

細かい内容は部会のノリで頑張ってくれ

  • p28「フジワラ」「トウフ・ショップ」
漫画『頭文字D』 主人公のトレノAE86に書かれている「藤原とうふ店」から

日本の廃車の多くが第三世界で使われ、中には軍用のものもある
機関銃を載せた改造ピックアップ(テクニカルと呼ばれる)一台は一ブロックを占拠できる戦力の指標としてソマリアでは認識されてるとか
そういう車両の活躍からチャド紛争はのちに「トヨタ戦争」とあだ名された。

  • p65「蛇喰らい(スネークイーター)」
ゲーム『メタルギアソリッド3 スネークイーター』から

  • p159「好きだの嫌いだの、最初にそう言い出したのは誰なんだろうね。」
ゲーム『ときめきメモリアル』OP「ときめき」の歌詞から
あえてそこであんた(ポール)が使うか

  • p194-195「骨董品をぶら下げた銀髪の老兵」
ゲーム『メタルギアソリッド』の登場人物リボルバー・オセロットから
コルト・シングルアクションアーミーを愛するサドっけ満々のロシア人。
オセロットさんこんなところで何やってるんですか


『ハーモニー』でいつぞやの「いいボートだ」と呟くシーンを期待したのは俺だけでいい
最終更新:2009年10月07日 17:16