東北大学SF研wiki
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東北大学SF研wiki
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2024-03-27T03:41:20+09:00
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火の鳥(黎明、未来、ヤマト、異形編)
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/268.html
「火の鳥」手塚治虫
本レジュメでは20世紀を代表する漫画家である手塚のライフワークとも言われる「火の鳥」の角川版の1~3巻にあたる「黎明編」、「未来編」、「ヤマト編」、「異形編」の四つの中短編を扱う。
*著者紹介 「手塚治虫」
1928〜1989(60才没)。言わずと知れた「マンガの神様」。代表作には「鉄腕アトム」、「リボンの騎士」、「ブラックジャック」などがある。1946年のプロデビューから1989年に胃がんによって亡くなるまでに数多くの漫画、アニメ作品を残した。wikipediaによると「作品化されたのは全604作で、その内分けは少年向け341作、少女向け36作、大人向け110作、低年齢向け32作、絵本39作、4コマ漫画17作、1コマ漫画29作。」(手塚治虫の作品一覧 - Wikipedia)とのこと。これだけ作品を出しているのだから手塚によって開拓されてないジャンルは存在しないという言説があることにも納得がいく。
*黎明編
**あらすじ
3世紀の倭(日本)、ところは熊襲。主人公のナギの姉ヒナクは破傷風にかかり、生死の境をさまよう。ヒナクの夫であるウラジは妻を助けるため火の鳥の生き血を求めて火の山に入るが、火の鳥の炎に包まれ死んでしまう。そんな折、村の海岸に漂着した異国の医師グズリが現れ、最新の医学知識でヒナクを救う。やがてグズリとヒナクは恋に落ちる。ところが婚礼の夜、グズリの手引によって、多数の軍船から猿田彦率いる防人の軍団が上陸。グズリはヤマタイ国のスパイであった。村人は虐殺され、ひとり生き残ったナギは猿田彦を襲撃するも捕えられる。猿田彦はナギの勇気を称え奴隷としてヤマタイ国に連れ帰り、狩り部(猟師)に鍛え上げる。ヤマタイ国がクマソを侵略した裏には、老いた卑弥呼が火の鳥の血を欲していたという事情があった。のちにヤマタイ国も、ニニギ率いる高天原族に滅ぼされ、ナギも猿田彦も戦死する。(wikipediaより引用)
**登場人物
ナギ
クマソの少年。火の鳥に憧れている。グズリに裏切られて以降はヤマタイ国を恨むようになる。クマソ壊滅後、猿田彦に召使いとして引き取られ、そこで弓の腕を磨く。ヒミコを殺そうとしたことでヤマタイ国を発つ。
追放後、クマソに向かう。単身乗り込んだ火山で火の鳥と出会い、永遠の命は得られないと告げられる。な
2024-03-27T03:41:20+09:00
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地獄とは神の不在なり
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/267.html
『地獄とは神の不在なり』 テッド・チャン
短編集「あなたの人生の物語」に収録。
全体のレジュメ及び『理解』と表題作のレジュメはこちら→[[あなたの人生の物語(旧)]]
表題作のレジュメはこちらも→[[あなたの人生の物語]]
*著者紹介
1956年生まれ。両親はともに中国本土生まれで、第二次国共内戦中に台湾に渡ったあとアメリカに移住し、そこで出会って結婚する。両親はテッド・チャンを英語で育てたため、テッド・チャンは中国を話すことはできないし、中国系アメリカ人のコミュニティとも縁がない。高校時代から短編を投稿し始めたが採用されなかった。大学卒業後、合宿制の創作講座クラリオン・ワークショップに参加、そこで才能を見いだされ『バビロンの塔』で1990年に作家デビューする。本業はテクニカルライターであり、「書く価値のあるアイディアを思いつかない限り書き始めない」がモットーにしているため、非常に寡作。デビュー以来出した本は『あなたの人生の物語』と『息吹』の2作、18篇の中短編しか発表していない。そういうわけで、SF外ではよく知られた作家ではなかったが、2016年に「あなたの人生の物語」がドゥニ・ヴィルヌーブ監督でArrival(邦題「メッセージ」2017日本公開)として映画化。映画はアカデミー作品賞、監督賞などにノミネート、音響編集賞を受賞するなど高く評価され、原作者のテッド・チャンも一躍有名に。2019年にはオバマ前大統領が『息吹』を夏の推薦図書リストに入れている。
テッド・チャンの魅力はそのSF的ビジョンはもちろん、文体にあると思う。雑誌ニューヨーカーである書評家がチャンの文章には”ジョージ・オーウェルが理想の散文として唱導した、窓ガラスのような透明さ”があると評価している。「窓ガラスのような透明さ」とはオーウェルが『なぜ私は書くか』のなかで述べていることで、良い散文を書くには作家自身の個性を消す努力が必要だと書いている。しかし、オーウェルは政治と芸術の融合についてものべている。ただ透明なだけではなく、「窓」ガラスなのである。テッド・チャンの文章はシンプルでありながらも、私達に寓話的な世界を見せて楽しませてくれる窓なのだ。
1999年は重要な映画が公開された年だといい、その3本とは「マルコビッチの穴」、「マトリックス」、「ファイト・クラブ」。伊藤計劃いわく「
2023-06-01T13:25:14+09:00
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武装島田倉庫
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/266.html
「武装島田倉庫」椎名誠
*作品紹介
椎名誠による終末SF作品。『アド・バード』、『水域』とともに「椎名SF3部作」に数えられる。「小説新潮」に連載した後、1990年12月に新潮社から刊行される。
椎名誠がライフワーク的に執筆する「北政府もの」(後述)の第一作であり主要な作品。
*作者紹介
1944年東京都生まれ。作家、エッセイスト、写真家。79年、エッセイ『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。口語的にカタカナ混じりで書かれた昭和軽薄体という文体(例「小説」→「ショーセツ」)で書かれたスーパーエッセイが人気を博す。短編「中国の鳥人」は本木雅弘主演で映画化されている。担当者と同じ年代だと小学校の国語の教科書に掲載されていた「アイスプラネット」の作者をイメージする人も多いかもしれないが、『武装島田倉庫』、『アド・バード』、『水域』などSF小説も多数執筆している。
*作品概要
北政府との戦争が終わった世界を舞台にした連作短編集である。
&bold(){武装島田倉庫}
不安定な社会情勢の中で、可児才蔵は何とか島田倉庫に就職する。倉庫には、政府の認可が下りた物から、怪しげな品や違法なものまでが運ばれて来てはまたどこかへ運ばれていく。倉庫側もうしろめたい依頼者を利用して、品物の中身を掠め取るなどして余分な利益を得ていた。そんな島田倉庫に最初は驚く可児だったが、仕事をしていくうちに順応していく。順風満帆とまではいかないまでも、生きていくだけの利益を上げてはいた島田倉庫であったが、束の間の平穏は唐突に幕を下ろす。
&bold(){泥濘湾連絡船}
北政府との戦争が終わりしばらく経った頃、社会が上向きになってきて売り上げが落ち込んだことを理由に、漬け汁屋は看板を下ろして、定吉やアサコを誘い連絡船を運航し始める。順調と思われていた経営も、思わぬ商売敵の登場により暗礁に乗り上げる。その責任を取るようにして漬汁屋は、連絡船を定吉とアサコに任せて旅に出る。役所から営業停止を命じられえるなどがありながら、二人は地道に連絡船を経営していく。
&bold(){総崩川脱出記}
巣籠河原の群族は、それまでの住処を捨てて、総崩川へ旅立つことになる。北政府の兵士に怯えながら、死者を出すほどの危険な道を進んでいく一行は、途中で廃墟となった集合住宅を見つけ、そこに留
2022-04-30T15:45:04+09:00
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鏡石異譚
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/265.html
「鏡石異譚」 柴田勝家
*作品紹介
柴田勝家による短編小説。初出は『ILC/TOHOKU』(早川書房 2017/2)。『アメリカン・ブッダ』(ハヤカワ文庫 2020/8)にも収録されている。
*著者略歴
柴田勝家(しばた かついえ)
SF作家。1987年東京都生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年に『ニルヤの島』で第二回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞を果たし、デビュー。2018年に「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門を受賞。『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』など文化人類学や民俗学を題材にしたSF作品を他にも発表している。
*作品概要
各章には、『遠野物語』に収録されている伝承にちなんだ章題がつけられている。
&bold(){神隠し}
好奇心から親の言いつけを破って、山奥の工事現場に入り込んで竪坑を覗き込んだ鏡子は、不注意で転落してしまう。穴の中で彼女は未来の彼女の姿を認める。
&bold(){山女}
転落事故以来、鏡子は何度も未来の自分と出会うことになる。未来の彼女は、度々これから起こることとその避け方を告げてくれた。それによって彼女は、苦難をやすやすと避けることが出来たが、不思議ともし忠告に従わなかった場合の記憶も持っていた。そんな中で未来の自身との会話を母親に邪魔された鏡子は、つい母親を怒鳴りつけてしまう。翌日、彼女は拝み屋のようなことをしている親戚の家に連れていかれる。そこで彼女の「奇行」は山女に憑かれたことによると結論付けられる。
&bold(){迷い家}
高校生になった鏡子は、校外学習で地元に出来る国際リニアコライダーを訪れ、そこの職員である先生と出会う。そこで先生は、情報を負の時間の方向に送ることが可能ではないかという仮説を紹介する。彼女はそれがきっかけで理系を選択する。
&bold(){座敷わらし}
仙台の大学で宇宙物理学を専攻することになった彼女は、実家で過去の自分の姿を見かける。それ以来、たびたび過去の自分を見かけて、今度は彼女が忠告をする側となる。不思議に思った彼女は、つてを頼って以前であった先生を訪ねる。そこで先生は人の記憶が粒子によって形成されているという量子脳理論を紹介した後、人の記憶を司る素粒子が発見さ
2022-04-30T15:46:19+09:00
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時をかける少女(細田守監督版)
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/264.html
東北大SF研 映像部会
『時をかける少女』(細田守監督版)
(細田守監督版のレジュメのなのに細田守監督版の解説がほとんどないのは未見の執筆者が見たくて開いた上映会だからである。申し訳ない。気が向いたら加筆します)
*原作
原作は日本SF御三家の一人筒井康隆(他の二人は星新一、小松左京)の「中三コース」の1965年11月号から「高一コース」の1966年5月号に連載されたジュブナイル小説。原作の内容や作品が与えた影響などについて詳しくは当wikiの「時をかける少女」のページをご覧ください。一応補足すると、「筒井康隆の子供向け作品の多くには悪意が込められているが、今作には見つけられない」ということが書かれていますが、悪意とは言わないまでも、『時をかける少女』の皮肉な部分は後述する大林宣彦監督版を見るとわかるのではないかと思います。そしてそれが大林宣彦監督版の魅力であり、細田守監督版との違いなのです。
*大林宣彦監督版
『時をかける少女』はこれまで何度も映像化されてきました(Wikipediaによると9回)。そのなかでも、当時は筒井康隆作品の中でもそこまで重要とされていなかった『時をかける少女』の地位を決定的にしたのが1983年の大林宣彦監督版です。大林宣彦監督版の特徴の一つは「時をかける少女」という物語を「過去の幻影に囚われた少女」の物語としたことです。それはある種の呪いであり、それこそがこの物語の切なさなのです。もう一つの特徴はこの映画は主演の原田知世に捧げるために作られたアイドル映画であるということです。この映画の成功により「ときかけ」はアイドル映画の定番とされるようになり、この伝統は細田守監督版にも受け継がれています。
*細田守監督版
2006年公開。監督の細田守がフリーになって初めて手掛けた劇場長編作品。脚本奥寺佐渡子。主演仲里依紗。キャッチコピーは「待ってられない 未来がある。」。
*原作の設定
***時間跳躍(タイムリープ)+身体移動(テレポーテーション)
原作の主人公芳山和子が手に入れた超能力は正確に言うとタイムリープとテレポーテーションを組み合わせたものである。西暦2660年の未来では身体移動能力は刺激剤、時間移動はタイム・バリヤーによって可能になっており、原作における未来人はその2つの効能を盛り込んだ薬の作成に成
2022-04-15T03:40:48+09:00
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アド・バード
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/263.html
「アド・バード」椎名誠
*作品紹介
異常に発達した広告に支配された世界を冒険するマサルと菊丸の兄弟の物語。
人間の営みにより崩壊した世界が描かれた作品は数多くあるが、広告による終末という他に類を見ない独特の世界観が特徴的な作品である。
1987年から1989年まで「すばる」で連載され、1990年に集英社より出版される。同年、日本SF大賞を受賞し、「SFが読みたい! 1990年ベスト1」に選出される。
*作者紹介
椎名誠(しいなまこと)
1944年東京都生まれ。作家、エッセイスト、写真家。79年、エッセイ『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。口語的にカタカナ混じりで書かれた昭和軽薄体という文体(例「小説」→「ショーセツ」)で書かれたスーパーエッセイが人気を博す。短編「中国の鳥人」は本木雅弘主演で映画化されている。担当者と同じ年代だと小学校の国語の教科書に掲載されていた「アイスプラネット」の作者をイメージする人も多いかもしれないが、『アド・バード』、『水域』、『武装島田倉庫』などSF小説も多数執筆している。
*作品概要
K二十一市に住む、安東マサル、菊丸兄弟は、行方不明になった父、咲次郎が生前にメッセージを残したというマザーK市へと旅立つ。途中で出会ったキンジョーという男が一行に加わるも、ヒゾムシやワナナキといった生物に襲われる危険な旅であった。暴力的に環境保全を行う団体や、広告やアンドロイドにおびえる街の人々、砂に埋まった都市、地面に突き刺さった飛行機…。どうやら高度な文明も豊かな自然も十数年前の何かが原因で崩壊したらしい。なんとか一行はマザーK市へと通じるトンネルまでたどり着くものの、直前でキンジョーが二人を裏切る。マサルと菊丸はどうにかマザーK市へ出たが、そこは騒がしく目障りな広告が目立つばかりで、人影は見当たらなかった。果たしてキンジョーの狙いとは。そして咲次郎はどこにいるのか。
*作品解説
異常発達した広告により文明が崩壊した世界を舞台にしたロードノベル。辛うじて生き延びた人々は、危険な広告生物たちにおびえながら細々と生活を営んでいる。
ポストアポカリプスに分類される作品だが、文明崩壊の原因が広告による作品は、過去に類を見ない。
この手のポストアポカリプス作品の多くは、テクノロジーの暗い一面を表現することで、読者にセンス
2022-03-16T11:32:03+09:00
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アメリカン・ブッタ
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/262.html
「アメリカン・ブッダ」柴田勝家
*著者
柴田勝家。1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程修了。外来の民間信仰の伝播と信仰の変容を研究しており、民俗学を扱った作品に定評がある。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞しデビュー。2018年「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門を受賞。戦国武将・柴田勝家を敬愛し、本人も完全に柴田勝家である。デレマス成宮由愛P。
*ちょっとした解説
解説とは銘打っているものの、実態は仏教を適当に聞きかじった人間が元ネタを出してきているだけである(なので所々解釈が怪しいところがあるかもしれない)。詳しく知りたい方は三蔵などの仏典を参考にしてください。あるいは手塚治虫『ブッダ』なんかを読んでもいいのかも。キリスト教やインディアンの信仰に関してもこの作品に関連する話題はあるが、ここでは仏教のみにとどめておく。
&bold(){阿含}
阿含経とは、仏教の最初期に作られた経典である。明らかにアゴン族というのはここから採用している。いわば仏陀の直接の言行に一番近い経典だが、それを名乗る部族がはるか遠方の北アメリカに存在するのが面白いところである。軽く調べたところアゴン族なるものは存在しない。
&bold(){四苦・八苦}
生老病死を四苦、それに愛別離苦(愛するものと分かれる)、怨憎会苦(嫌いな人物と会う)、求不得苦(求めるものが得られない)、五蘊盛苦(五蘊が空でないことを悟れない)を含め八苦と言われる。本作では仏陀が満ち足りた生活をしていた時に、コヨーテが大地の四方にあるとしてこれを教えた。仏教では四門出遊というエピソードとして知られているが、本作もこれを踏襲している。しかし微妙にアレンジは加えられており、生老病死のある方角などは異なる。仏陀に苦しみを教えるのももともとは動物ではなく人間。これは伝承のうちに四神と混ざり合ったと考えるのが妥当だろう。おそらくこのあたりが著者の研究領域。
&bold(){六道輪廻}
仏教は輪廻転生が考えられているが、人間は人間として生まれ変わるのではなく、生前の行いによって天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道のいずれかに生まれ変わるとされる。本作では星の人々(スターピープル)、人間、戦
2021-03-06T18:15:08+09:00
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スノーピアサー
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/261.html
東北大SF研 映像部会
「スノーピアサー」と物語の舞台の空間構造
監督:ポンジュノ
2020年はコロナ禍の影響で、英語圏の新作ドラマが少ない、SFドラマは尚更のことだ。その中で、今年の春にネットフリックスによって公開された「スノーピアサー」というドラマは成功した映画版と原作漫画のおかげで、注目を集めた。しかし第一シーズンが終わった今、IMDbによる評価は6.7/10という凡庸な点数に過ぎなかった。批評家と一部の視聴者に評価されなかったとはいえ、ドラマ版の「スノーピアサー」は決して駄作とは思わない。ドラマ版の失敗は主に主役を担う俳優の力不足、そしてアメリカドラマ業界の積弊であるドラマを無理やりに長引くことにあると思う。映画版と原作漫画の成功で証明されたように、「スノーピアサー」という物語とその概念自体は非常に魅力的であり、ドラマ版が上手く調理できなかっただけのではないかと考えられる。そして原作、映画とドラマを通じて、「スノーピアサー」の共通かつ最大な魅力は、気候災難で滅んだ地球を走り回る巨大な列車という物語の舞台の空間構造にあり、ドラマ版の失敗も、列車が果たしている役割を充分理解していないのが原因だと思う。
舞台を解説する前に、「スノーピアサー」のあらすじを紹介しておこう。人工的な気候災難によって、地球は氷河期に陥った。滅ぶ寸前の人類の一部は金を払って、千両の車両と人工生態系と永久機関に近いエンジンを備える列車に乗車し、地球を一周するレールで終わりのない旅に出た。その列車のことはスノーピアサーと呼ばれた。列車に逃げ込んだ人々が、物資とともに階級社会も列車に持ち込んだ。特にチケットを買わずに最後尾の車両に乗り込んだ無賃乗車者は列車の統治者にほぼ見捨てられ、悲惨な日々を送っていた。それを耐えられなかった主人公は平等を実現する為に革命を起こし、革命の過程と結果は各バージョンの「スノーピアサー」によって変わる。
一見どこでも見られる反逆の物語のようですが、ここで、「スノーピアサー」の物語が全部スノーピアサーに進行するので、スノーピアサーという舞台は物語の進行に非常に重要な役割を果たしている。スノーピアサーは列車である。列車という空間は閉鎖的、狭い幅、一直線などの物理的な構造を持つので、乗客そして乗客視点の観客に強い圧迫感と陰鬱的な感じを与え、行動の方向も前
2020-10-22T21:08:03+09:00
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月の光 現代中国SFアンソロジー
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/260.html
東北大SF研 アンソロジー部会
「月の光 現代中国SFアンソロジー」
ケン・リュウ 編 大森望等 訳
*序論
今までは注目されていなかった中国SFは、「三体」の出版によって一気に人気を得て、今となってもはや英語圏SFに次ぐ最も注目されている海外SFと言ってもいいだろう。特に2020年には、多くの中国SF作品の和訳が出版され、大豊作の一年となっている。その中に特におすすめしたいのが「月の光 現代中国SFアンソロジー」というアンソロジーである。
本書に収録された作品の数が多く、各性別各年齢層の作者と中国SFの様々な側面やサブジャンルをカバーしている。ヒューゴー賞レベルの作品がないものの、面白くて読みやすい作品が多い。また、最後に収録された三つのエッセイでアカデミック的な視点から中国SFを知ることもできる。即ち、本書は各方面から考えると中国SFの入門書としてはちょうどいい一冊だと思う。
もちろんここに選ばれた作品はケン・リュウの好みに基づいたものであり、ベスト集というつもりでもないのが前書きに書かれている。本書は決して中国SFの全て、また中国SFの最高峰を反映しているわけではないのが注意されたい。
*編者紹介
ケン・リュウ。中国系アメリカ人作家、幼年期にアメリカへ渡り、その後、英語でSF小説を創作し始めた。アジア的な背景や自分のマイノリティ・アイデンティティを生かした作品が多い。また、中国SF翻訳者としても活躍している。特に「三体」を英訳した後、世界的な中国SFブームの先頭を切り、今までほとんど紹介されていなかった中国SFを紹介し、英訳を通じて世界に広げた。日本においてもケン・リュウの英訳を介して和訳された中国SFが数多く存在している。
功績が非常に大きいとはいえ、ケン・リュウがアメリカ人であり、彼の手を介して出された翻訳、アンソロジーが主にアメリカ市場向けであることを忘れないでほしい。即ち、ケン・リュウの翻訳、アンソロジーにはどうしてもアメリカの視点が入りがち、但し今回はそれをうまく抑止したような気がする。
最後、本作は勝手に書かれた作品ではなく、ニューヨークのグッゲンハイム美術館の展覧企画の注文を受けて書かれた作品なのである。展覧の詳細は参考資料にあるリンクを参照してください。
*作品解説
「月の光」 著者 劉慈欣
2020-10-08T23:16:40+09:00
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荒潮
https://w.atwiki.jp/tohokusf/pages/259.html
東北大SF研 長篇部会
「荒潮」
作者:陳楸帆(チェン・チュウファン)
英訳者:ケン・リュウ
和訳者:中原尚哉
*著者紹介
陳楸帆、1981年生まれ、80年代に生まれた新世代中国SF作家の代表者として認識されている。なお、今頃「三体」で大ヒットになった劉慈欣が1963年生まれということを注意されたい。1997年デビューから今までは長編「荒潮」と数十編ほどの短編が発表されており、中国星雲賞(ネビュラ賞や日本の星雲賞とは全く違うものであり、あくまで中国語の作品だけ取り扱う賞であるのを注意されたい。)をはじめとする多くの賞を受賞されたことがあり、「科幻世界」の高校生創作のコラムに掲載されたデビュー作は当年度の一等賞をとった。その時、陳楸帆はわずか16歳だった。
今のところ、和訳された作品は「荒潮」と「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」に短編三篇、「月の光 現代中国SFアンソロジー」に短編二編が収録されており、これらは全部ケンリュウを介して重訳された作品なのである。今年六月に出された「時のきざはし 現代中華SF傑作選」には中国語から直接に訳された短編一つが収録されている。作品総数と比べたら少ないというものの、中国SF作家として結構訳されている方である。また、ケンリュウをはじめとする訳者たちを介して、陳楸帆の作品はいろんな言語に訳されている。2020年のインタビューを読んでみたら、どうやら陳楸帆は2008年の時ケンリュウの作品を訳して「科幻世界」に載せたことを通じてケンリュウと知り合いになったらしい。
自分は陳楸帆の作品をそこまで読めていないので、作者を総括するのが難しいが、インタビューと書評を参考として、陳楸帆のイメージを述べたいと思う。
まず、中国以外の読者はあまり感じれないかもしれないが、実は陳楸帆は割と革新的な作家といってもいいだろう。2019年に出されたアンソロジーには自分が作ったAIを小説の創作に用いてみたらしい。文学の面においても、故郷を描くのに、主流な中国作家と割と異なる態度を取っていると思う。これについて後ほど詳しく述べる。
また、陈楸帆はリアリズム的な作家といってもいいだろう。彼自身もインタビューではSF文学のリアリズム的な側面を強調している。後書きにも書かれたように、「荒潮」は実は陈楸帆の故郷をモデルとして書かれた作品
2020-10-08T20:44:05+09:00
1602157445