戦後も間もないというのに、東亜権の確立という名目の元世は不穏な
空気に包まれていた。
だけど、屋敷の中は隔世の感が流れ独自の時を刻む。

僕には従者がついていた。俗にいうメイドだ。
親はそれぞれに忙しい。僕に構ってなど居られないという事だろう。
姉さんに気付く者はいなかった。

「坊ちゃん。お食事の用意ができました」
「うん。ありがとう」

姉さんとの語学の授業中だったが、彼女には姉さんは当然見えない。
姉さんの、刺すような目線も。

「いきましょう」
「はい」

テーブルマナーに関しても概ねこなせるようになっていた。
姉さんも特に指摘するでもなく、ただ一挙手を見守っているだけだった。

「ごちそうさま」
「・・・おいしかった?」
「うん。とても」

食事、部屋に居るときは一人になるよう申し付けていたので、
独り言としか取れないようなこの会話も、訝しがられることはなかった。

「さぁ、部屋に戻って食休みした後勉強を再開するわよ」
「はい」

姉さんはやはり、二人になりたがった。
僕が素直に従うと、心なしか嬉しそうな顔をした。

~~♪~~・・・♪

姉さんがハミングを漏らす。機嫌がいいのだろう。
いつものあの曲だった。僕が得意とするダンスの曲だった。

「また、踊ってもらえますか?」
階段を登る途中、僕は姉さんに尋ねた。
姉さんはつ・・と振り返り
「・・・そうね。鈍っていないか確かめましょう」

口調は厳しいが、目元を彩る笑みが雄弁に何かを物語っていた。
そしてまた先を行きつつ、あのハミングを奏でる。

「ダンスは好きよ。貴方はもうすぐ舞踏会に出られる歳ね」

僕の背は姉さんを超えようとしていた。姉さんはあのときのままだったから
最終更新:2011年03月13日 14:09