夕暮れが迫る一時、晩餐にもまだ間がある
この時間帯は、姉は独り書庫に向かっていた。
 僕を教えるため、姉は学んでいるのだろう。
 一度、すべて自分で理解し咀嚼しないと気がすまない。
でなければ教える事はできない。生前そういっていた。

僕はこの一人の時間、木剣を用いる剣術から派生した
竹刀という竹を編み、防具をつけて行う剣道を始めていた。
 実戦的な剣術を学ぼうかと思ったのだが、時代にそぐわない
し、危険だからと姉は断固反対したからだ。
 精神修養ならば剣道でも学べる。剣道にも剣術と同様に型が
あり、僕はそれを今は学んでいる。

「・・・つ」
肉刺ができ、思うようにいかない。竹刀は柄に革が巻いてあり、
比較的持ちやすいはずなのだが・・・

「・・・握り方が固いわ」
「あっ・・・」

振り向くと、壁にもたれて姉が立っていた。


「姉さん・・・」
一人素振りをしていたのを見られたのは、何か
気恥ずかしいものがあった。

「続けて。いつもしているようにしてごらんなさい」
「はい」

正眼に構え、振り抜く。足の運びと腕の振りは力を入れすぎず
「・・・もう一度。私を意識しないで。いつもしているように」
「・・・はい」
正直、肉刺が痛くて握りきれなかったがもう一振りした。
黙って見ていたままの姉が、ついと近寄り手を取った。

「駄目よ。そんなに強く握ったら痛いでしょう?ほら・・・手が」
「はい・・・」
「もっと柔らかく掴まないと。手首にも頼りすぎているわ。肩の力と腕は
よく抜けているわね。腰はまだまだ」

姉は薙刀の有段者だった。僕は生前見たことはなかったが、舞うように
振るったという。
「いい?こう握ってごらんなさい」
「あ・・・ぅ」
「力を抜いて。掌から包むように。そうよ」

夕暮れが辺りを赤く染め上げていた。
最終更新:2011年03月13日 14:10