携帯が鳴った。ディスプレーに元カノの名前が表示された。
今頃なぜと混乱しつつ、電話に出た。

「もしもし、私よ」と女の声。「よ、洋子か・・・本当に洋子なのか」と、うろたえる俺。
「なっ・・・なによ、うろたえちゃって。
 べつに声が聞きたくて電話したわけじゃないからね。
 ただ・・・ 」 女の声は口ごもった。

「ただ・・・ なんだい」と聞き返す俺。女は言った。
「ちょっと事故起こしちゃったのよ。それで示談にしたいのに
 持ち合わせがないの。だから・・・」 女の声は、また口ごもった。

「お金を届けに行けばいいのかい」と聞くと、女は取り乱して言った。
「ちっ、違うわよ。それじゃあまるで、あんたに会いたくなって電話したみたいじゃない。
 今から言う口座に振り込んでくれればいいのよ。勘違いしないでよね」

俺は答えた。
「洋子、もう事故の事は気にしなくていいんだよ。事故の事は忘れて成仏しておくれ。」
最終更新:2007年03月19日 04:09