住宅地の真ん中に空き地がある。
そこは呪われていると噂され、誰一人として踏み入らぬ為常に背の高い草で覆われていた。

幼い頃おてんばだった私は、男友達にけしかけられ、空き地に石を投げ込んだ事がある。
結果その晩から悪夢を見るようになった。
ぼろを纏い、髪と髭を伸ばし放題の背の高い恐ろしい顔の男に、引き摺る様にして連れ去られ、空き地の中にある暗い神社風の建物に監禁されるというもの。
ある日夢の中で、泣きながら何故か持っていた花の首飾りを男に渡し、許しを請うた。
結局いつもどおり拉致監禁されたのだが、そのときの男の明らかに困惑した顔に、やや恐怖が薄れた。
だからか翌朝、謝罪を兼ねて花の種を空き地の片隅に蒔いてみた。

それ以降も夢の男は現れ、相変わらず空き地に強引に連れ去られていたのだが。
数日後、何故か社ではなく私が花の種を蒔いた辺りに連れて来られた。
翌朝急いで向かってみると、小さな芽が顔を覗かせていた。

その日以来、男の中では私の役割は花の世話係りになったらしい。そうしろと無言で指示された。
空き地の片隅だけだった花畑は、数年経った今では空き地全体に広がった。
空き地開墾の中見つけた小さなぼろぼろの祠も、手直ししてそれなりに見栄えするものになっている。
尤も今も毎日現れる夢の男は渋面に表情を作って悪人風に装ったままだ。
すっかり男に恐怖を感じなくなっている私は、最近は時々笑顔を見せて欲しいとお願いしてみるのだが、毎回男は表情を更に強張らせ且つ何故か真っ赤になって逃げるように去っていく。
中々心を開いてもらえないようだ。今度夢の男が好きそうな食べ物でも作ってみよう。
最終更新:2011年03月06日 09:18