首吊りの木と呼ばれる大木があった。
実際首吊り自殺者が良く出ていた。
まるで引き寄せられるようだと誰もが噂していた。

とある自殺者の遺族の娘が、根元に花を植え始めた。
最初の頃は、花はすぐに枯れ、又は踏み荒らされたりしたのだが、懲りずに世話を続けた。
やがて大木の周りには美しい花々が常に咲き誇るようになった。
自殺者も目に見えて減った。

そんなある日若い男が首をくくろうとやってきた。
静かに佇む大木の周囲を美しく彩る花を目にし、一瞬気をそがれかけたが、それでも決意は変わらなかった。
縄をかけようと花畑に足を踏み入れた瞬間。
突然後ろに吹っ飛ばされた。
驚き慌てて起き上がる若者の目に映ったのは、花々を守るように取り囲む人々の姿。
全員半透明且つ首に縄付き。

ほうけたまま座り込んでいた若者だが、娘の声に我に返る。
娘に話しかけられ適当に答えつつ、ちらりと大木を見やるが既に人影は何処にもなかった。

若者は結局思い直し――より正確に言うならば、事ある毎に縄を首に下げた人影が現れては説得というか脅迫され――人生をやり直そうと決意した。
今では花の世話をする娘を手伝えるまで余裕を取り戻した。

いまだ縄付きの人々に背中を取られたままの若者に最近新たな悩みが増えた。
霊団のリーダーは娘に似た面差しの中年男なのだが、娘と微妙な雰囲気になると、彼に睨まれ、偶に首を絞められる。
最終更新:2011年03月06日 09:19