家には霊道が通っているらしい。
いつも誰かが部屋を通っていく。

『なっ!?ぐちゃって、むにゅって、嫌ぁぁっっ!!』
突然響いた悲鳴。慌てて部屋に戻った俺の目に映ったのは。

天井近くに浮いて憤慨している俺と同じ年ぐらいの女子。
その真下の床には、無残に踏み潰された、かわいらしい柄の包み。
憧れの先輩に、義理とは解っているが、誕生日プレゼントとして貰ったシュークリーム。
一応それでもと中身を確かめてみたが、結果は言わずもがな。

「あああぁぁぁぁ……!!」
『あ、あんたが悪いのよ、そんなとこに放り出しとくからっ…!』
がっくりと崩れ落ちた俺に、犯人が逆切れ風味に文句を垂れている。
ちゃんと机の上においていたはずでしたが。
と思ったら、机の下からのんきににゃあと顔を出す猫、かっこ幽霊かっことじ。
目を離した俺の馬鹿。馬鹿ばかバカ。
女子にみみっちいだの何だの言われているようだが、俺はそのまま力尽き不貞寝した。


翌日昼休み。先輩に呼び出された。
折角貰ったプレゼントを台無しにしたのが申し訳なくってまともに顔を見れなかったんだけど。
「はい、どうぞ」
「え、これって」
渡されたのはシュークリーム。
「な、何で…?」
「夢に女の子が出てきて、君にあげるからシュークリームの作り方教えてって。けどすごく、なんていうか、…料理音痴?っていうくらいすごかったから、私が替わりにあげるって約束したの」
夢なんだけどね、と笑いながら、それでも約束を守る先輩は、可愛くって素敵です。
また潰されては叶わないので、速攻で腹の中に納めました。美味しかったです。

幸せ気分で帰宅し、扉を開けた瞬間。
飛び出してきた猫幽霊その他通りすがりの浮幽霊。追うように漂ってきた異臭。
異臭がするときは良くないものが通っているからと経験で知っている。幽霊が逃げ出すほどの『良くないもの』、今回は――。

『これはあくまで練習作!アンタはただの毒見役!わかったらさっさと試食しなさい!!』
台風後のように荒らされた台所。食べ物とは思えない謎の物体。それを皿一杯に盛って待ち構える女子。
「いや、その、先輩にもう貰ったん」
『し・しょ・く・だって言ったでしょ別にあんたにお詫びの気持ちとかそんなつもりじゃぜんぜんないんだから第一あたしちゃんと自分の手であげるっていやそのいいからとっとと食べろっ!!』

一週間ほど入院になりました。
最終更新:2011年03月06日 09:22