寂れた公園のトイレを使ったんだが、そのときふと鏡を見たんだ。
そこには俺の姿を後ろから見下ろし睨みつける男の幽霊が…。

その日から、鏡を見るたびにその幽霊が見えるようになったんだ。
それだけじゃない。
俺の写真は全て首から上が消えている。
急に気分が悪くなったり変な事故が起きたりして俺の後ろに人が立てなくなった。
枕や風呂には明らかに俺のものじゃない髪の毛がもっさりと大量に落ちている。
伝手を頼って霊能者を紹介してもらったがどこでも『手に負えない』と言われた。
そうして半年、憔悴した俺がたどり着いたのは小さな寺だった。
そこの住職は、俺と俺の後ろに視線を交互に向けた後、黙って俺を招き入れてくれた。

「後ろの彼を納得させるには、ここで暫く修行をしてもらうしかない」
住職の言葉に迷ったものの身の安全には変えられない。俺はその寺で修行する事を承諾した。
先ずは心構えからという事で、髪を落とし、服を着替えた。
それから住職と共に本堂に移動し、お経に耳を傾け、共に一心に唱えた。

3日目の夜、すぅっと背中が軽くなったのがわかった。
感動した俺は本物の僧侶になろうと決心した。


後日談。
めでたく僧侶になった俺だが、恩人の住職に再会したとき真実を知った。
曰く「あの幽霊は、歳若い君の頭頂部の砂漠化進行に心を痛めていたんだよ。
うちの宗派は皆髪を落とすから心配する必要がなくなって離れたんだね」
今の人生を後悔はしていない。むしろあの頃より満たされている。
でもだったら違う方法でも…発毛とか育毛とか人工毛とか…あんなの優しさじゃない…。
最終更新:2011年03月06日 09:27