それは春休みの出来事だった。
とても不思議で…絶対に忘れてはいけない出来事。

俺は高校生ならほとんどの奴らが挑むであろう受験戦争に敗れ、それなりの失意の下、浪人を決めた。
クラスの友人達も各々進路が決まりみんな一喜一憂しながら卒業式を迎え、俺の浪人生活スタート。
のはずだったのだが、俺は端から見たら相当疲れているように見えたらしく
春休み入ってすぐに母親の提案で俺のリフレッシュのため母の実家に泊まりに行くことになった
何故リフレッシュがいわゆるお婆ちゃんの家なのかというと俺が好きだったから
お婆ちゃんはもちろん、家、場所、気候全てが小さな頃から好きだったのだ

父の運転する車にそれなりの時間揺られ、懐かしい景色が見えてくる
「何年ぶりだっけ?」
窓の外を眺めながら俺は母に聞いた
「んー、爽太が最後に来たのは中学三年の時だから三年ぶりくらいかな」
母は昔を思い出す素振りをしながら答えた
三年か…ここは何にも変わらないな
そんなことを思っていると、いつのまにか車が大きな木がある道を走っていた
この大きな木は地元の人からとても大事にされていて何か意味のある木だった、はずその意味が思い出せない。
まあ、とにかくこの木が近づいてきたということは婆ちゃんの家までもうすぐということ
だんだんと大きくなってくる木を眺めていたら木の下の人影に気づいた。


「地元の人かな…?」
しかしその考えは違った
その人影は女性だった。自分と同じ年くらい…?
でもその子は普通の子と明らかに違う箇所があった、服装だ
袴だった、とても綺麗な紅色の女性袴を着ている
そして、人間じゃない。
気配というかオーラというかそれが明らかに普通と違っていた
車がその女に近づく、女は車に気づいたのかゆっくりとこちらを振り向く
その顔立ちはとても凛として美しかった、少し吊り目で鼻筋が通っている
正直見蕩れた。
女と目が合う。
車が女の横を通り過ぎる瞬間、その女は俺を見ながら口を動かした
車はあっという間にそこ通り過ぎ走る
今の女、すれ違う瞬間何かを言った
何かというか、女の口の動きをしっかり見ていたので何を言ったのかは大体わかっていた。
しかし信じられなかった、初対面、いやまったくの他人にいきなりあんな事を言う奴がいるのか?
女の口の動き、あれは確かにこう言っていた。

「ヘ ン タ イ」
最終更新:2011年03月06日 09:55