中古の家に引っ越して来てから、どうもおかしいとは感じていた。
照明や家電製品の不調、足音や視線と言った何者かの気配。
だがほんの些細な事なので、大して気にもしていなかった。

その日、いつもの通りネットゲームを始めようと座り込む。
だが何故か起動ボタンが反応しない。
いらいらしながらふとニターに視線を移した時、気が付いた。
鏡状になった黒いモニターに、人影が映っていた。

モニターに映し出されたのは若い女だ。
お姉系ファッションの美女、ただし全身ずぶぬれ模様。
あたふたしている俺を見て笑っているようだ。
今までのささやかな霊障はコイツの仕業か。
頭に来ていた俺はさりげなく台所から一掴みの塩を取ってくると、
女が立っている辺り目掛けて思いっきりぶち撒けた。

その日から、霊障は仁義なき抗争に発展した。
遠慮していたのかそれとも怒りに火がつきパワーアップしたのか、
ポルターガイストや金縛り首絞めなど明らかな直接攻撃を始めた幽霊女。
こちらも負けじと、あっちこっちのお札やお守り、通販グッズや、
ファブリーズや全裸尻叩き等の民間法を片っ端から試してみたり。
トイレと風呂だけは休戦協定を結んでみたり。
幽霊女が鏡にはぼんやり映るので家中に鏡を設置してみたり。
そうこうしているうちに数ヶ月が経過した。


その日もゲームをしたかったのだが、幽霊はゲーム機体を押さえ込む。
対霊グッズの効果(通販の聖水とか塩とか怪しげな札)で既に4代目を数えた機体を押さえれば、
迂闊に手を出せないのを知っているのだ。くそう。
仕方なく、ビデオを見ることにしたのだが、そうはさせじと邪魔をする幽霊。
最終的にはTVリモコン片手にチャンネル争い。
そんな中、ふと気が付いた。
見たいアニメの時間も過ぎてしまったので適当に回している俺に対し、
幽霊は特定局に固定しようとしている。
何をやっているのかと思ったら可愛い動物特集。
なんだか和んでしまった俺。
負けたよとか言いながら、気が付くと一緒に見入ってしまっていた。
翌日、TVと可愛い系のクッションや椅子、それから菓子を買い。
設置しながら「全部お前専用だ」と説明してやると、
不審そうに様子を伺っていた幽霊はぱあっと表情を明るくした。
目が合うと慌てて「こんな物で釣られないんだから」という顔をしていたが。
それ以降、抗争は日に日に収まっていった。

すっかり平穏を取り戻した中で、理解できないことが一つ。
どうやらTVを消せてもつけることは出来ないらしい幽霊。
見たい番組があると、ゲーム中の俺の邪魔をし、自分の場所に誘導してくる。
幽霊用のTVをつけてやった後俺はさっさとゲームに戻りたいのだが、
幽霊としては俺も一緒にその番組を見ていないといけないらしい。
その前にTVを消すなと何度も言っているのだが、見たい番組の前になると何故必ず消している?
最終更新:2011年03月06日 10:03