道を失った山の奥、滝の傍に佇む紅葉の木。
その赤がとても見事だったんで一枝手折ろうと伸ばした手を、突然横からがっしと掴まれた。
慌てて相手を確かめると、赤い髪、赤い着物姿の絶世の美女、但し頭から角が二本。
『何故に斯様な無体を致しまするか』
明らかに怒っていますが、美女は怒っても美しい。
「すごい綺麗だったんでついふらふらーっと。あ、お姉さんも綺麗ですよ」
『……』
慌てて弁解したけど、美女は不機嫌そうに顔をしかめた。ああその表情も美しい。
『ここはわたくしの守る場所。即刻立ち去るならば見逃しましょう』
「えーいや、なんというか迷子でして」
『……里までの道を教えて差し上げます』
深く溜息をつくその憂いた表情も(ry
『そもそも何故にこのような山奥へ踏み入りましたのか』
「ああ、去年死んだうちのじーさん生前酔っ払うとよく言ってたんです、山の中には絶世の美姫がいるって。俺も一目会いたいなーって」
『そなたあの輩の血縁か…道理で随分軽いと…』
「でまあ、じーさんの遺言で、あの美姫が寂しがるとかわいそうだから会いに行ってやってくれって」
『さ、寂しくなど無い!何度も申した!!!』
その台詞になぜか彼女はキレた。ふっと宙に滲むように姿を消す。
『二度と来るでないぞ!!』
彼女が立ってた辺りでひらひらと宙を舞う一枚の紅葉の葉。中々落ちないなーと思って付いて行ってたら山から降りられた。
じーさんの話じゃ年に一回、見事に紅葉が染まった日にしか会えないらしい。
あんな美女が山の中で一人なんて確かに寂しいだろうな。来年また会いに行ってあげよう。
最終更新:2011年03月06日 10:23