電車の扉が開くとともに人をかき分けるようにしてホームに降りる。
帰宅ラッシュの時間帯に電車に乗ったところ、見事にもみくしゃにされて帰る
ハメになった。
「まったく、もう少し時間をずらすべきだったな」
自分の行動を後悔しつつ、カバンから携帯電話を取り出して電源を入れる。
『優先席付近では携帯電話の電源をお切りください』
おそらく守っている人はほとんどいないであろうこの注意書きを守っている数
少ない人種のぼくは、乗り込んだ車両のそばが優先席だったので今まで電源を
切っていた。
大した理由ではないが、なんとなくよいことをしているという気持ちになれる
のでこれを続けている。
「ん?不在着信がある。だれだろう?」
電源を入れると不在着信が一件入っていた。
留守電が記録されているようなので再生をする。
『もしもし、私メリーさん。いまあなたの後ろに……むぎゅう』
音声はここで切れていた。
……振り返ると女の子がホームに降りようと人をかき分けているのが見えた
が、無情にも扉が閉まる。
電車はそのまま発車した。


……その後、
『ひっく、もしもし、うぅ、私、メリーしゃん。いまね、○○駅に、いるの』
○○駅、ああ、あのまま終着駅まで行っちゃったんだ。
満員電車が怖かったのか、迷子状態になって不安なのか知らないけれど電話越
しに聞こえる声は涙声だ。
「ええっと、大丈夫?迎えに行ってあげようか?」
『大丈夫だもん!一人であなたのところにいけるもん!』
心配して声をかけたら見事に断られた。
「いや、でも電車怖いんじゃない?」
『怖くなんかないもん!!』
電話が切れる。
……大丈夫かなぁ。
不安になったので最寄駅まで迎えに行きました。
『迎えに来てなんて言ってないんだからね』
そういって袖を話そうとしない彼女でした。
最終更新:2011年05月22日 06:50