不況失業再就職困難で結果いい年して引き篭り。一日中カーテン閉めっぱの部
屋でごろごろだらだらうだうだして過ごしていた。
ある日、人の気配にふと目を覚ます。暗い部屋の入り口付近でぼそぼそと話す
声。顔を向けようとしたが身体が動かない。金縛りだ!
焦っているうちにがしゃがしゃと重い金属音を響かせながら気配が枕元に近づ
いてきた。
視界に入ってきたのは鎧兜姿の侍。手には抜き身の刀を携えている。
『南瓜ならばすぐに準備致す』
侍は入り口付近にそう声を掛けると、刀を勢い良く振り下ろした!
「ひょわあっっ!!」
人間命の危機に直面すると普段以上の力が出るというのは本当なんですね。
無我夢中で身を捻ると金縛りが解け、そのままごろごろと転がって刀を避けた

『ぬ・・・それがしの呪縛を破るとは・・・!』
ガチャリと刀を構えなおす鎧武者。何とか起き上がりどうするか必死に考えを
めぐらせてた俺の目に入ったのは。
不安げに口元に片手を添えて、おずおずと壁の影から顔をのぞかせていた華や
かな着物姿の幼い子供。お稚児さんって言うの?
銀色の髪に金の瞳、大きな耳にふさふさ尻尾なんてオプションが全く違和感を
感じさせない至上の愛らしさ。
いやもうオタクでも変態でもないが胸がきゅんとした! これが萌というものか
!!

『・・・あ、あの・・・』
『何でござるか!?』
「何でしょう!?」
意図せずハモる俺と鎧武者の声。
『かぼちゃって、その、あの・・・』
『おう、そうであった。すぐに刈り取りますゆえご心配なく』
「って待てコラオッサン!かぼちゃって俺の事か!」
『ふははは、一日中ごろごろ転がっている中身の無いものは南瓜と呼んでも問
題ない!!』
理不尽な物言いと共に刀が振り下ろされ。
人間命の(ry 何をどうやったのか、俺の両掌で刀を挟んで止めているいわゆる
真剣白刃取りではないですか!? スゲー俺!!
「そもそもなんでかぼちゃが必要なんだよ八百屋行けよスーパー行けよ」
『ぐ・・・それはいろいろと』
しどろもどろになる鎧武者。ちらりとお稚児さんのほうに視線を向ける。俺も
釣られて視線を移し。
「あの子の足元にある真っ二つに割られた物体はなんですかかぼちゃにみえま
すが誰の仕業ですか」
『それはその・・・そっそそそれがしじゃ! ああ全て、全てそれがしが悪いん
じゃぁぁぁ!!』
逆切れ半泣きいじけられた。


鎧武者のオッサンがようやく落ち着いたところで事情を確認。
オッサンはいわく俺の先祖で守護霊らしい。家の周りを巡回していた所怪しい
光が近づくのを目の当たりにし。
『――そしてすわ物の怪かと思い切り伏せてみればこちらの正一位様の西洋提
燈であったと』
俺に対して偉そうなオッサン。対して膝に横真っ二つに割られたオレンジ色の
かぼちゃを抱えたまま申し訳なさそうに縮こまっているお稚児さん。
『で、だ。りさいくるというのであろう? 使えぬものが転がっているので新た
に活用法を見出してやろうと思い至ったわけでござる』
それで守護霊に命を狙われる俺。・・・あれ、目から水が・・・。
『わ、わたくしは、まさかひとのなまくびをようだてようとなさっておられる
とはおもいもよらず・・・。そもそもむしゃどのはあなたさまをしんp』
『いやいやいや正一位様には無礼に無礼を重ねなんとお詫び申し上げてよろし
いやら面目ございませぬ!』
お稚児さんにはやたら腰の低いオッサン。土下座なんて初めて見たー。
『こうなっては仕方ない。それがしの首を』
「だからグロいって。かぼちゃあればいいんだろ? 俺今から買ってくるから」
ぱああーっと表情を明るくするお稚児さん。ああ、輝くような笑顔って本当に
存在するんだなぁ・・・(はあと)
幸せな余韻に浸りつつ財布を握りしめて外へ出る。宵の口ってところか。そう
いえば外出するのってどのくらいぶりだろう。
『それがしが割ってしまったもの以上の品を見つけるのだぞ』
「うるせーよオッサン」
『ところで正一位様はなにゆえあのような珍妙な提燈を提げておられたのか』
「あれだろ、トリックオアトリートってやつだろ。何日かしたらハロウィンだ
もんな」
意味が分からずしかめっ面になっているおっさんは放っておいて、俺は夜の街
へ歩き出した。
「・・・そういやランタン用のかぼちゃってどこで売ってるんだろう?」
『知らぬのか愚か者め』
自分も知らないくせに偉そうなオッサン。ああ腹が立つ。


その後すぐ近くのホームセンターで運良くランタン用のかぼちゃを入手。家に
戻ってお稚児さんと一緒にわいわい楽しくランタンに加工。
因みにオッサンは刀で加工を手伝おうとしたので「また真っ二つにするのか」
と脅したら大人しく後ろで指くわえて眺めてたwザマァww
『いろいろとおせわになりました』
炎を灯したランタンを釣り提げ、玄関で深々とお辞儀するお稚児さん。ああ可
愛い、可愛いよぉ。
「いやいやこちらこそうちのおっちょこちょいがご迷惑を」
『こちらの出来損ないがご迷惑を』
俺とオッサンはお稚児さんには笑顔を向けつつ互いに背後に廻した手で互いを
牽制。
『ごじつあらためておれいにまいりますね』
笑顔でもう一度お辞儀すると、お稚児さんは夜の闇に去っていった。
「・・・はあ。なんか変な日だった」
『ふん。家で腐っておる愚か者にはよい刺激となったであろうが』
「・・・そうかも」
素直に頷くと、なぜか神妙な表情を浮かべた武者。こっちも変な反応されてな
んか拍子抜け。
『・・・ふん、明日からまた腐るのであれば、今度こそその頭、花器にでも作
り直してやる・・・ってそれでは花がかわいそうか』
と思ったがやっぱりウザいこのオッサン。
「煩いさっさと消えろ幽霊」
『ふっふっふ、それがしは守護霊、貴様の後ろで無様な生き様や足掻き苦しみ
死にゆくまでを眺めるのが役割よ! ふははは!!』
「あの世へ帰れ!」
何か波長が合ってしまったらしく、以降オッサンが見えなくなることは無かっ
た・・・。


数日後。腐っていても仕方ないと再び就職活動を始めた俺。
夕暮れ時の帰り道、近所の子供達がお化けの仮装をして友達の家から家へ渡り
歩いているのに出くわした。
「ああそうか今日はハロウィンか」
ほほえましく眺めていた俺の背後から『おのれ化生め!』という怒声と共に子
供達に勘違いオッサンが飛びかかる。
そして俺には見えない子供達の守護霊辺りに張り倒されたりしているようだ。
弱。
どうせ誰にも見えてないし、胸倉つかまれて往復ビンタ食らっているっぽいオ
ッサンはほっといて帰ろうと歩き出したんだが、道の先に見覚えのあるランタ
ンが見えた。
『とりっくおあとりーと!』
魔女のコスプレしたお稚児さんが現れた! はううぅぅ、可愛いいいぃぃ!!
「あ、お菓子お菓子」
間食用に買っといた飴をカバンから取り出しお稚児さんに手渡す。
『うふふ、ありがとうございます!』
極上のその笑顔が得られるのならいくらでもお菓子準備します。
「今日はハロウィンに紛れ込んでるんですか?」
『はい、そうです。ひとのまつりはにぎやかでたのしいです。ところでむしゃ
どのは・・・その・・・』
「自業自得なんでほっといてください」
『そうですか・・・。でもでも、むしゃどのはしごとねっしんでいらっしゃい
ますね。いつもあなたさまをいっしょうけんめいしゅごしていらっしゃいます』

「・・・は?」
『わたくし、いぜんむしゃどのにあなたさまのかごをこわれました。『じぶん
ではちからがおよばず、このままではしゅごするもののみちをただすことがで
きぬ』とひどくなやんでおられました』
「あのオッサンが・・・」
『ですからきばらしにまつりにでも、とおうかがいしましたらせんじつのよう
なさわぎになってしまいましたが』
お稚児さんは楽しそうにくすくすと笑っているが、俺は恥ずかしくて顔から火
が出そうだ。
『ですから、どうか、ほんのすこしでよいので、あなたをおうえんしているも
のがいることをこころにとめておいてくださいませ。なにかのごえんですから
わたくしもびりょくながらじょりょくいたします』
お稚児さんのまっすぐな瞳を受け、道端に打ち捨てられたオッサンを眺めなが
ら。
俺も、もう少し頑張らないとな。そう思った。
『まずはむしゃどののそんざいをしっていただこうとつながりをつよめておき
ました』
ああ、あのウザいオッサンが視えて触れるようになったのはお稚児さんの能力
ですか。有難うございますはははは・・・はは・・はぁ。


あれから数年。
良縁に恵まれて、就職・結婚・出産育児と、凡庸ではあるものの平穏な生活を
得る事が出来た。
しかし、今日も早合点で何かに絡んで逆にボコられてるオッサンを眺めつつこ
の守護霊が悪い事全ての原因じゃなかろうかとたまに思う日々。
最終更新:2011年11月03日 20:43