教授にはこっぴどく怒られ実験が失敗したブルーな日。
本日のI中川駅発終電の乗客はまばらだ。途中のH青山駅を出ると2両編成の後ろの車両には自分1人しか乗っていない。
電車は長いトンネルに入る。今日もいつも通…あれ?向かいにさっきまで居なかった人がいる。やばい、目が合った。

「私のことが見えるの?」「えっ?」
「やっぱり私のことが見えるんだ」「え~と貴方は?」
「幽霊だよ」「幽霊?」
ププッと思わず笑い出してしまった。今時幽霊って何ですか、いくら何でもねぇ。
よくよく見ればその幽霊は見た目10代後半で美人、というよりはやや可愛い感じである。
どうせ幻覚の類だろうが他に乗客居ないしあえて話しかけてみることにする。傍から見たら危ない人だろうなぁ、俺。
「何で笑ってるのよ?」「いやいや余りに可笑しかったもんで。」
「ああそうよ、どうせ幽霊ですよ。」「で、その幽霊様が俺に何の用?」
「アンタ暗そうな顔してるから、自殺でもしないかってね。」「どうしてそんないきなり?」
「死ぬ時ってね、怖いんだよ。」突然真顔でそんなこと言われましても。

「かつてこの辺りで大きい事故があったの知ってる?」「??」

頭の中で考えてみる。今はH青山~N青山間の長いトンネル内。ふと何かを思い出した。
「何か思いついたようね。」「もしかしてあの事故に…」


かつて大学の教養の授業でこの事故が話題に取り上げられたことがある。
確か列車同士が正面衝突したとかなんとかでかなりの犠牲者が出たとか言ってたような気がするが…。
よく思い出せたな俺。「そう、私あの事故に遭ったの。」
その後、その幽霊とやらに当時の様子をやけに生々しく語られた。正直ちょっとグロい描写もあったが。
そうこうしてる間に列車はトンネルから抜けN青山駅に着く。

最近人間関係が上手くいかずに研究室でずっとぼっちの生活していた俺。確かにこの世から消えたいと思ったこともある。
なかなか観察力が鋭い幽霊さんだと思った。

「で、どう?考えは変わった?」「う~ん、どうだろう?っていうか俺死にたいなんて言ってない件について。」
「煮えきらないねぇ…そうだ!アンタが自殺できないように私がずっと取りついてあげればいいんだ!」
「なん…だと?ていうか話を聞(ry」「何よ?」
「どうして俺なんかに?」「べ、別に良いでしょ、アンタ彼女いなさそうだし。それに会話できたのアンタが初めてだし。」
最後のほうは声が小さくよく聞こえなかったがまぁ話してみて悪い気は感じないし可愛いおにゃのこなら…。

「誰もいないときに話すくらいなら良いよ。」

その時の笑顔は今も忘れられないぐらい明るいもので久々に女性と話した俺は即座にノックダウン。
こうして俺は幽霊に憑りつかれましたとさ。

終点に着く前、ふと思った。あの事故って大体40年ぐらい前だったはずだから当時から年齢が変わっていないとして
今の実年齢は…考えないでおこう。可愛いは正義なのだ。

20分後、終点N張駅ではいつも見る乗客に髪の長い可愛い人が寄り添いながら降りてきたのを駅員が見たという。
最終更新:2012年02月05日 06:55